君の右手に誓う永遠…

紫メガネ

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婚約者は殺人犯だった?

空白の半年に隠されていた事…

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 金奈市。

 ごく普通のちょっと都会のような田舎。

 駅前は高層ビルが立ち並び賑わっているが、少し奥に入ると田畑が広がるのどかな場所もあれば、住宅が密集している住宅地もある。

 
 春が終わりを告げる4月下旬。

 金奈市にある高級ホテルのレストラン。


 結婚を前提とした親同士交えた顔合わせが行われている。

「光栄ですね、宗田ホールディングのご子息と娘が結婚できるとは」
「本当にご縁を頂いて、感謝しています」

 ニコニコ顔で話しているのは、園田祐樹と妻の博美。

 その横に娘の未希が綺麗に髪をセットして、綺麗なスーツを着て座っている。

 きつい目をした丸顔で、綺麗に髪をセットしていてもどこか暗い影を感じさせる女性。

 メイクも濃くて派手な感じがする。



「いえ、こちらこそ感謝しています。息子が大怪我をして大変な時に、助けて頂いて」
 
 と、答えたのは宗田ホールディングの現社長の宗田秋斗(そうだ・あきと)。

 紺色のスーツがとてもきまって、落ち着いた雰囲気で優しいお父さん。

 隣には、白系のワンピースにブルー系のカーティガンを羽織った妻の茜(あかね)がいる。

 そして、その隣にはブルー系のスーツを着た息子の北斗(ほくと)が座っている。

 母の茜に似ている感じで、シャープな面長の顔にスッと高い鼻。

 目はパッチリしていて、タイプ的には可愛いイケメン。

 サラサラの茶色い髪が、爽やかさを感じさせてくれる。
 
 向かい側には婚約者である未希が座っているが、北斗はあまり未希を見ようとせず、悲しげな目をして視線を落としている。

 母の茜も、あまり未希を見て良い顔はしていない。
 
 父の秋斗も心から喜んでいるような目はしていない。



 喜んで浮足立っているのは、園田家だけのようだ。


「結婚式は来月にと思っていますが、如何でしょう? 」

「未希も一日も早く、北斗さんと一緒になりたいと言っていますので」


「そうですね、お互いが納得しているなら早い方が良いでしょうね」



 両家が話しで盛り上がっていると。

 バタバタと足音が近づいてきた。



 両家の顔合わせの席に、複数のスーツ姿の男性が入って来た。


 ん? と、驚いて見ると・・・


 スーツ姿の男性達の後ろから、2人の警察官が現れた。

「園田未希さんですね? 」

 男性たちの後ろから現れたのは、紺色のスーツに身を包んだ一人の女性。

 軽やかな栗色の髪をショートにして、分厚い黒ぶちの眼鏡をかけている。

 優しそうで厳しそうな目をしている女性は、男性に交じっていても同じくらいの背丈で、わりとガッチリしている。
 

 未希は誰? と見た。


 女性は内ポケットから一枚の紙を取り出して、未希に見せた。


「園田未希さん、殺人の容疑で逮捕します」

「はぁ? なんの事? 」

 
 驚く未希。

 だが、2人の警察官が傍に来て手錠をかけた。

「何なの? どうゆう事? 」
 
「詳しくは署でお聞きします。これは任意ではありません、強制です」

 手錠をかけた警察官が未希を連れて行く。
 

「未希? 」

「なんだ? 何かの間違いだろう? 」

 祐樹と博美は驚き茫然としている。


 驚きのまま未希は連れて行かれた。


「あの・・・これは、どうゆう事でしょうか? 」

 秋斗が訪ねると女性が振り向いた。


「お騒がして申し訳ございません」

 そう言って手帳を見せる女性。

 手帳には 早杉トワと名前が書かれていて、刑事課となっていた。

「刑事さんでしたか」

 秋斗は女性を見て何かしら感じていた。
 

「どうゆう事なんだ? 娘が殺人だなんて」

「何かの間違いよ! 」

 祐樹と博美は未希の逮捕は間違えだと言っている。


「詳しい事は、今後の取り調べの後、ご報告いたします。では」

 去ってゆく警察官達。



「痛い・・・」

 北斗が突然痛みを訴え頭を押さえた。


「どうしたんだ? 北斗」

 秋斗が声をかけると真っ青な顔をしている北斗がいた。

「頭が割れそうに・・・痛くて・・・」

「とりあえず病院い行こう」


 秋斗と茜は北斗を病院に連れ行く事にした。





金奈総合病院。


 北斗は脳神経外科に連れて来られた。

「特に異常はありません。何か前に、頭を強く打ったり怪我をされたことはありますか? 」

「はい、半年前に事故にあった時に額と後頭部を怪我しています」

「そうでしたか。その時、記憶障害などはありませんでしたか? 」

「確かに、記憶を失っていた事はありましたが。もう、記憶は戻っていると本人は言っています」

「なるほど。痛みの訴えから見て、もしかして記憶が戻る現象かと思われましたので。とりあえず痛みは治まってきていますから、様子を見て下さい。また何かありましたら、明日にでも来て下さい」

「わかりました」



 北斗は頭の痛みは治まり、少し落ち着いたようだ。

 だが少し様子がおかしかった。





「北斗、どうかしたのか? 」

 帰りの車の中で秋斗が訪ねた。


 尋ねられると、北斗は後部座席から秋斗を見て、ちょっと涙ぐんだ目をしていた。


「…俺、父さんと母さんに嘘ついていた」

「え? 」

 ミラー越しに秋斗は北斗を見た。


「事故の後、記憶を無くしたけど。実はまだ、思い出せていない事があったんだ」

 隣に乗っていた茜がそっと北斗を見た。

「あの事故の時。俺の事を、庇ってくれた人が居たんだけど。その人、確か右手を車に引かれてしまって…その後、何故かいなくなってしまっていたんだ」

「庇ってくれたって、誰なの? 」

 茜が訪ねると、北斗は辛そうに目を伏せた。

「まだ話していなかったけど、俺が…心から好きになった人だったよ…」


 それだけ言うと、北斗は押し黙ってしまった。


 これ以上は何も聞けないと思い、秋斗も茜も家に着くまで特に何も聞かなかった。



 家に着くと北斗はしばらく横になると言って、部屋に行った。


 茜と秋斗は一息つきリビングのソファーに座った。


「まさか、婚約者が殺人犯だったなんて驚いたね」

「そうね。でも私、なんだか未希さんの事、あまり好感持てなかったの」

「僕もそうだったけど。北斗が選んだ人だからって思っていた」

「秋斗は知らなかった? 北斗が、ずっと好きな人が居たこと」

「ああ、その事なら、なんとなく感じていたけど。北斗が何も言わないから、知らないふりをしていたよ」

「私、北斗の部屋を掃除していて見てしまったの。北斗と、とっても可愛い女の子が仲良く写っている写真を。その人ね、なんだか今日の刑事さんに似ていたの」

「刑事さんに? 」

「うん、あの早杉…トワって女性の人。髪が短く眼鏡かけていたけど、あの目は間違いないと思って」


「そっか。まぁ、北斗もショックを受けていると思う。少しそっとしてあげよう。北斗から話してくれると思うから、それまで待っていよう」

「そうね」



 
 部屋に戻った北斗は、ゴロンとベッドに寝転んで天井を見ていた。

 
 
 半年前。

 北斗は留学から帰って、宗田ホールディングで働くようになった。


 営業も担当する北斗は外回りに行っていた。

 その時、後ろから来た車に引かれそうになった北斗。


 寸前の所で誰かが北斗を庇ってくれた。


 庇ってくれてた人は、右手を車に引かれて悲鳴を上げていた。


 額を強く打っていた北斗は、ぼんやりとした目で庇ってくれた人を見た。


 黒いスーツを着た髪の長い女性だった。


「あ…」

 北斗はその女性が知っている女性だったため、手を伸ばしたがそこで意識を失った。



 遠くで救急車のサイレンが聞こえた・・。

 その先の記憶はなかった。

 
 気づいたら病院に運ばれていて、何も覚えたいなかった。

 ただ自分の名前が宗田北斗とだけは分かった。


 何も判らない北斗の傍に未希がいた。


 事故にあって助けたのは自分だと未希は北斗に言った。


「良かった大したことなくて。私、貴方の婚約者よ。分かる? まだ親には話していないけど」

 何も判らない北斗は、ただ未希の言葉を信じるしかなかった。



 その後に秋斗と茜が駆けつけてきたが、顔を見れば自分の両親だとは思い出せた。



 
 その後、退院した北斗は怪我も順調に回復して仕事にも復帰した。


 未希は取引先の社長の娘だった。

 北斗が入院している間に、未希は話を進めてしまい北斗と結婚すると、秋斗と茜に両親を連れて話に来ていた。


 社内にはちらほらと北斗が結婚する話が噂になっていた。


 何も判らない北斗は、まるで言いなりになるままに結婚の話を進められていた。






 事故から半年。

 頭に走った激痛で、北斗は忘れていた記憶が戻ってきていた。


 営業で外回りをしていた時に事故にあったと思っていたが、そうではなく。


 仕事の合間に大切な人と会っていた時に事故にあった。


 一緒に歩いていると後ろから車が突っ込んできた。

「危ない! 」

 突っ込んでくる車から、北斗を庇ってくれた人が居た。



 閉じていた目を開いてまた天井を見つめる北斗。
 

 起き上がり、北斗はずっと開けなかった本棚の鍵のかかった引き出しを開けた。



引き出しを開けると、そこには写真が入っていた。

 北斗と、とても可愛い髪の長い女性が一緒に仲良く写っている写真。

 そして、写真の横には指輪のケースが置いてあった。


 ケースを手に取り開く北斗。


 中には輝くダイヤの指輪が入っている。

 そして指輪の内側には(北斗より永遠の愛を…トワへ…)と刻まれていた。


「トワ…」

 写真を見つめて北斗の目が潤んだ。


「この人がトワだよね。あの時、俺を庇ってくれた…。なんで忘れていたんだ? 俺は…」


 悔しさが込みあがって北斗は涙が溢れてきた。




 コンコン。

 ノックの音に北斗は涙を拭いて引き出しを閉じた。


「兄貴、入るよ」


 やって来たのは北斗の弟、羽弥斗(はやと)。

 北斗とよく似た顔立ちで背の高いスラッとタイプ。

 現在22歳で大学を卒業して警察官になった。


「具合どう? 」

 羽弥斗が訪ねると北斗はそっと微笑んだ。


「大丈夫だ。心配かけて、悪かったな」

「別にいいけど。兄貴、ちょっと表情が軽くなったね」

「え? 」

「未希さんと結婚しなくて正解だよ」

 と言って、羽弥斗は封筒を北斗に差し出した。


「これ、兄貴には悪いけど。未希さんの事調べさせてもらっていたんだ。どうしても、納得できなくてね。兄貴が急に、あの人と結婚するなんて言い出して。僕はてっきり、兄貴がこっそり付き合っていたあの女の人と、結婚するって思っていたから」

「お前…知っていたのか? 」


「偶然見ちゃっただけだよ、兄貴が可愛い人とデートしているの。いつも、家の傍まで連れてきていたでしょう? でも、なぜかいつも逃げられてたじゃん」

「そこまで見られていたのか? 」


「多分、父さんも母さんも気づいていたと思うよ。生真面目そうな人だったから、遠慮していたんだね」

「ああ…そうだな、きっと」


「その資料は、幸弥兄さんが調べてくれたから間違いないよ。兄貴は、すごく守られているんだね。まだ正式な婚約してなくて良かったじゃん。しばらくは騒がれるかもしれないけど、そのうち収まるって」

 北斗は封筒を見つめた。

「兄貴。本当の幸せを手に入れなよ、父さんも母さんも、すごく遠回りしたけど。本当の幸せ手に入れたって言っていたよ。僕はいつでも、兄貴の味方。もちろん、幸弥兄さんも同じだよ」






 しばらくして。

 北斗は封筒の中身を見た。

 それは未希の身辺調査だった。


 未希は取引先の社長の娘。

 普段は両親の会社を手伝っているが、ほとんど仕事もしないで遊んでばかりいる。

 会社の経費でタクシーを使って駅前まで買い物に行ったり、私物を買っている。

 学生時代からわがままで身勝手な未希はかなり嫌われている。

 交際していた男性は、未希のお金に釣られていた。


 
 北斗が事故にあった日。

 未希の車が修理に出され、塗装もやり直している。

 タイヤには血痕が付いていた。

 未希は動物でも引いたと言っていた。

 
 北斗が事故にあった同時刻に、事故現場付近で未希が運転する車が近くのコンビニや飲食店の防犯カメラに写っている。

 そして北斗が救急車で運ばれる時、近くのコンビニに未希の車が止まっていた。


 未希は偶然通りかかったように装って、北斗の付き添いとして救急車に乗って行った。


 その後、未希から頼まれた修理店の店員がコンビニに車を取りに来ている。


 
 そこまで読むと、北斗は頭を押さえた。


 病院で気づいた時未希が居た。

 誰だろうと思っていると

「私は婚約者よ」

 と言い出した未希。

 思い返せばあの顔は嘘をついている顔だ。


 だとしたらあの時庇ってくれた人は…。


 北斗は本棚の引き出しから写真を取り出した。


 そして羽弥斗の部屋に向かった。



「羽弥斗。すまないが、幸弥兄さんに連絡してもらえないか? 」

 顔色を変えてやって来た北斗に、羽弥斗はびっくりした。


「どうしても調べて欲しい人が居る」

「わかったよ兄貴。ちょっと落ち着いて」


 羽弥斗は幸弥に電話をかけた。


 電話をかけると、幸弥はすぐに来てくれると言った。



 
 それから幸弥が来たのは20時を回る頃だった。

 幸弥は今は秋斗の本家に養子となり、京坂幸弥になっている。

 そして職業は弁護士をやっている。

 茜の影響を受けた幸弥が弁護士の道を目指した。

 ストレートに進んで23歳で弁護士として合格し、暫くは事務所に所属して修行していた。

 27歳で独立して結婚した幸弥。

 その時は既に京坂家に養子に入っていた幸弥。

 秋斗の母アキ江は今でも施設で過ごしているが、幸弥がどうしても秋斗の両親を見てゆきたいと言い出し養子になってくれて、アキ江も大喜びしている。


 結婚して1年たつが、現在もうすぐ1歳になる女の子がいる。


 親子ではないが、幸弥は茜に似ている顔立ちである。



 幸弥は事情を聞いて、全面協力してくれると言ってくれた。

「幸弥兄さん、ごめんね」

「何謝っているんだ北斗。お前が辛いのに、力を貸さないわけがないじゃないか。それより、この人は名前は? 」

「野山トワって言うよ。職業は普通のOLって聞いていたけど、詳しくは分からないんだ。家は同じ市内だけど、家の場所は判らないよ」

「わかった。写真と名前が判れば、調べる事はできるから大丈夫」

 幸弥は写真を見て軽く微笑んだ。


「北斗って、趣味良いんだね。とっても可愛い人じゃん」

「あ…。外回りの時に、偶然出会って。俺が追いかけてしまったんだ」

「へぇー。でも判るよ、なんか惹かれるからこの人」

「結婚しようって話していた。なかなか承諾してくれなくて、理由を聞いても答えてくれなかったんだ。何度か、家にも連れて来ようとしたんだけど。いつもすごく拒否されて…」

「なるほど。何か言えない事があるのかも知れないな。とりあえず、調べてみるよ」

 離れていた半年に何が起こったのか。
 それを知りたい気持ちもあるが、知るのが怖い気持ちもある北斗。

 取りあえず幸弥に任せる事にした。
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