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双子の兄弟・礼斗と空斗

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 駅から車で15分ほどの場所にある金奈保育園。
 隣に中学校があり、広々とした住宅地の中にある広い敷地に建っている保育園で、園児たちはのびのびとしてとても元気である。

 暖かくなり、お迎えを待つ園児達が外で遊んでいる姿も多く見られる。
 元気よくジャングルジムで遊んでいる園児や、運動場で鬼ごっこをして保育士と遊んでいる園児もいる。
 
 教室の中では、お絵かきをしたり、おもちゃで遊んでいる園児もいてとても楽しそう。
 

 
「ねぇ、礼斗(れいと)君と空斗(くうと)君」

 おもちゃで遊んでいる、可愛い丸顔でそっくりな顔をしている2人の男の子に、ちょっと大人びた顔つきをした目つきの鋭い男の子、宗田一也(そうだ・かずや)と名札に平仮名で書いている男の子が声をかけた。
 
 声をかけられた2人の男の子は、名札に久東礼斗(くとう・れいと)と久東空斗(くとう・くうと)と平仮名で書いてある。
 似ている2人ではあるが、礼斗は目がぱっちりしていて切れ長で綺麗系な顔立ちをしているが、空斗は綺麗と言うより上品な顔立ちで切れ長の目をしていてもどちらかと言うとクールなタイプである。
 髪型は2人共同じで短髪にしているが、前髪はちょっと長くして眉毛にかかるくらいだ。

 一也とは水色の園服に、名札の色は同じ緑色である事から同じ歳のようである。


「礼斗君、空斗君。今日は誰が迎えに来るの? 」

 一也が尋ねると、礼斗と空斗は顔を見合わせた。

「うーんとね、今日はお母さんが来るよ」

 礼斗がキョンとした目をして答えた。 

「早く帰れるって、朝に言っていたからね」

 ニコッと笑って空斗が答えた。

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、今日は礼斗君と空斗君のお母さんに会えるね」


 礼斗と空斗はまだ顔を見合わせた。

「いいな~礼斗君と空斗君は、双子だからいつも一緒で。僕は、1人っ子だから家に帰ると誰も遊び相手がいないもん」

「でも、一也君の家にはお爺ちゃんとおばあちゃんがいるだろう? 」
「そうだよ、お父さんだっているでしょう? 」

「うん。でもね、うちにはお母さんがいないから。礼斗君と空斗君は、お母さんがいるからいいなぁって思ったんだ」

 礼斗はキョンとした目をして一也を見た。


「礼斗君、空斗君。お母さんがお迎えに来たわよ」

 保育士が礼斗と空斗を呼びに来た。

 その声に、礼斗と空斗は急いでバッグをとりに行き帰り支度をはじめた。



 教室の外には、礼斗と空斗を迎えに来た楓子がいた。 
 
 一也は教室の窓越しに楓子を見つめた。

 スーツ姿の楓子はカッコいいキャリアウーマンのように見えるが、とても優しいお母さんの顔をしている。
 見ている感じでは空斗とよく似ているように思える。
 背が高くスタイルもいい楓子を見ていると、一也は自分にもあんなに綺麗なお母さんがいたらいいのにと思った。


 保育士に帰りの挨拶をして、礼斗と空斗が楓子の下へ駆けてゆく姿を一也はじっと見ていた。


 礼斗と空斗が帰ってから暫くすると、一也の迎えに愛斗がやって来た。


 帰り支度をして愛斗の下へやって来た一也は、どこか怒っているような顔をしていた。

「一也、遅くなってごめんな」

 愛斗は来るのが遅くなった事で、一也が怒っていると思った。
 謝る愛斗に何も答えることなく、一也はそのまま歩き出した。


 いつもの様子を違う一也に、愛斗はちょっと戸惑っていた。


 そのまま車に乗って家に向かった愛斗と一也だが、いつもなら保育園であった事を話してくれる一也だが今日は一言も喋ろうとしない。
 ずっと俯いて顔を上げてくれない一也を見て、何かあったのかと愛斗は心配していた。



 保育園から宗田家までは車で10分程の距離。

 立派な門構えの、大きくて広い二階建ての洋館のような建て具合の家で、庭にの花壇には奇麗なバラの花が蕾をつけ始めている様子がうかがえる。
 洗濯物は室内に干せるように、一室用意されているようで外には干していない。
 
 子供用の小さな遊具と、サッカーボールが転がっている。

 門から玄関までは歩いて5分くらい距離がある。
 玄関はしっかりした茶色い厚手の扉で、玄関わきには植木鉢が置いてある。


「ただいま」

 愛斗が玄関を開けて中へ入ると、一也は黙ったまま入って来た。


「お帰りなさい」

 長い通路を歩いて出てきたのは、昭夫の妻である砂羽。
 昭夫と同じ年齢だが、とても若く見えてシワ一つもない綺麗な肌をしている。
 愛斗と似ている輪郭と目元で、綺麗でもちょっとクールな感じのタイプ。
 ラフな茶色いセーターに黒い膝丈スカート姿は、上品な奥様に見える。


「あら? どうしたの? 一也ったら何だか、元気がないわね」

 砂羽が声をかけても一也はそのまま通り過ぎて、2階に上がる階段へと向かって行った。


「どうかしたの? 一也」
「良く判らないんだ。迎えに行った時から、ずっと機嫌が悪そうで何も喋らないから」
「お友達と喧嘩でもしたのかしら? 」
「そうかもしれないけど、迎えに行くのがちょっと遅かったからかな? と思ったけど」
「少し様子を見ましょう。そのうち話してくれると思うわ」


 
 2階へ行った一也は着替えを済ませてリビングへとやって来た。


 1階のリビングは広々として、どこかのサロンのような空間。
 キッチンも広くて、カウンターのようになっていて作った料理を置いておける場所がある。
 冷蔵庫も大きくて、食器棚には高級な食器が沢山入っている。


 食卓はしっかりした木材で作られていて、椅子もフカフカのクッションがついている。


「お帰り一也」

 先に食卓に座っていた昭夫が声をかけると、一也は小さく頷いた。

「ん? どうした? 元気がないな」

 昭夫が声をかけると、一也はそのまま昭夫の傍に歩み寄って行った。

「ねぇお爺ちゃん。どうして、僕にはお母さんがいないの? 」
「え? 」

「お友達の、礼斗君と空斗君には綺麗なお母さんがいるのに。僕にはどうしていないの? 」

 
 泣きそうな目をして昭夫を見てくる一也。
 そんな一也を昭夫はそっと抱きかかえて膝の上に座らせた。

「礼斗君と空斗君は、保育園の友達? 」
「うん。双子の兄弟なんだって」
「双子? 」
「いつも一緒で、時々おじちゃんが迎えに来るって言っているけど。いつもお母さんが来てくれて、そのお母さんがとっても綺麗な人なんだ」
「そうなんだ」

「僕はずっとお母さんがいないから、どうしてなの? 」

 悲しそうな目をしている一也を、昭夫はギュッと抱きしめた。

「お母さんは…忙しいようだね。でも、一也にこんなにも悲しい思いをさせているから。そろそろ、きちんと話をするね」
「うん…。僕ね、ずっと一緒にいてくれるお母さんが欲しいから。帰って来てくれないお母さんなら、いらないよ」
「そうだね。分かったよ」

 ヨシヨシと一也の頭を撫でた昭夫。
 昭夫に頭を撫でられると、一也はちょっとだけ機嫌がよくなった。

「あのねお爺ちゃん。僕の大好きなお友達になんだけど。その子達は双子なんだって」
「双子? 」
「うん。同じ日に一緒に産まれてきたって、言っていたんだけどね。男の子同士で、すごく仲良しで。とっても綺麗なお母さんがお迎えに来てくれるんだよ」
「そうなんだ。…男の子同士の双子か…」

 双子と聞いて、昭夫は楓子の話を思い出した。
 楓子の子供も双子で、確か男の子と話していた。
 年中さんと言っていた事から、一也と同じ歳だと思っていたが。

 まさか…同じ保育園?

「あのねお爺ちゃん。お友達の名前は、礼斗君と空斗君って言って、苗字は久東って言うんだよ」
「久東? 」
「うん。僕ね、礼斗君と空斗君を初めて会った時からすごく楽しくて。ずっと一緒に遊んでいるよ」

 やはりそうだったのか。
 昭夫はとても納得した。


「さぁ、ご飯できたわよ」

 砂羽が持って来たのは、とっても美味しそうな唐揚げ。

「わーい、唐揚げだ」

 一也は悲しそうな顔から笑顔になった。


 愛斗も着替えを済ませてリビングへやって来た。


「お父さん、ご飯できているよ」

 ニコッと満面の笑みで愛斗を見た一也。
 機嫌が直った一也に、愛斗はホッとした。


 4人で囲む夕食で、一也は保育園であった事を話し始めた。
 礼斗と空斗と一緒に遊んだことや、礼斗と空斗のお母さんがとっても綺麗な人である事を、繰り返し話していた。

 昭夫も砂羽も一也の話を楽しそうに聞いていたが、愛斗は礼斗と空斗の名前を聞くと胸がキュンとなりどこか愛しさを感じた。
 そして礼斗と空とのお母さんが、とっても綺麗な人だと聞くと胸の奥から熱いものが込みあがって来る。

 双子の男の子のお母さん…どんな人なのだろうか?

 なんとなく気になり始めている自分がいる事に、愛斗はちょっと戸惑っていた。



 

 その夜。
 愛斗は一也を寝かしつけてから、あのメールを繰り返し読み直しながらずっと閉まってある結婚指輪を見ていた。

 シンプルなプラチナリングに、 小さめの輝くダイヤがついている指輪を見て、楓子が左手の薬指にはめていた指輪と比べていた。
 結婚指輪と比べると、ちょっと派手なような気がする指輪。
 ダイヤも大きめでオシャレな感じだった。
 人それぞれの形があるのかもしれないが、どこかちょっと違うような気がすると愛斗は思っていた。


 パソコンに向かいメールチェックをすると、加絵からのメールが複数届いていた。
 内容はお金の要求ばかりで、カードが利用額オーバーになり現金が必要とか、病気になり医療費が膨大にかかる為お金を送金して欲しいなど。
 一也を気遣う内容は全くなく、愛斗の事も案ずることもない。
 お金の要求だけをメールしてくる。

 会社にかかってきた電話もお金の要求だった。
 加絵が現在、海外で病気になり医療費が膨大にかかる為、至急お金を送ってほしいと海外の口座を教えてきた。
 
 電話を受けてから愛斗は何故かお金を送る気になれず、そのまま放置している。


 
 愛斗は部屋を見渡した。

 シンプルな洋室で、南向きの日当たりが良い窓に白いカーテンがしいてあり清楚な感じが漂う中、窓際に机と椅子が置いてあり、西側の壁に沿って広いベッドが置いてある。
 中央にカーペットが敷いてあり、白いテーブルと青いクッションが置いてある。
 東側の壁には本棚と、小さな棚に中型のテレビが置いてある。

 
 本棚に歩み寄っていた愛斗は、奥に閉まってある写真建てを手に取った。

 その写真たてには加絵と結婚式を挙げた時の写真がしまってある。


 
 5年前。
 怪我をして記憶を失った愛斗に、加絵は自分が助けたと言い出した。
 そして婚約者で、既に妊娠していると話してきた。
 自分の名前以外の事が全く分からない愛斗は、自分の事を良く知っているのはこの人しかいないのだろうと思い、加絵の言うことを信じるしかないと思い込んでしまった。
 昭夫と砂羽が駆けつけてくると、ぼんやりと自分の両親である事を思い出した。

 加絵の話をすると、昭夫も砂羽も唖然と驚いてしまい言葉を失ていたようだが、加絵が妊娠していると知ると早めに入籍を済ませなくてはと言っていた。

 加絵は同じ宗田ホールディングに勤務していて、庶務課に所属している愛斗よりも6歳年上の女性。
 見た目は暗い表情で、どこか病んでいるのではないかと周りからは見られていて、話しかけても常識がないのか無礼な事ばかり言われて普通の話が通じないと社員達は言っていた。
 両親を早く亡くして、大学には自分の力で進学して卒業と同時に金奈市にやって来て宗田ホールディングに入社した。
 途中、病気で休職していた期間が2年あったが職場復帰してきて庶務課に配属された。
 それからも病欠が多く、ほとんど出社する事がない日もあったが、愛斗が入社してきた頃から休む日が減っていた。

 加絵は愛斗に出会えたことで元気になれたと話しているが、真相は分からない。

 
 愛斗とは交際して1年が過ぎ、そろそろ結婚しないと加絵が高齢になっている事から子供に恵まれないかもしれないと話していた時に妊娠が判ったと加絵が話していた。
 
 実感がない愛斗だが、空白のままその言葉を信じざる負えなかった。

 加絵に引っ張られるまま結婚した愛斗。
 
 結婚式の写真を見ていても、笑っているのは加絵だけ。
 顔を隠すような髪型で、前髪は目にかかるくらい長く下ろしていて、横髪も顔を覆うくらい降ろして後ろ髪だけアップにしている加絵は、見ているだけでも不細工だとわかる程の顔立ち。
 笑う表情も口角を下げて笑っていて、笑っていない顔はキツネ目のように怖い目をしている。
 ほうれい線も目立ちどこから見ても「おばさん」の顔立ちをしている加絵と愛斗は、並んでいてもとても不釣り合いにしか見えない。
 一緒に並んで写っている愛斗は、全く笑っていなく遠い目をしている。
 何も見えない、何も感じない…そんな遠い目をしている愛斗。

 
 写真を本棚にしまうと、愛斗はクッションに座った。

 一也は「お母さんがほしい。いつも一緒にいないお母さんは、いらない」と昭夫に話していた事を聞いた。

 結婚式を終えてから加絵は海外にばかり行って帰ってこない日々ばかり。
 妊娠しているのに、海外ばかりに行って大丈夫かと砂羽が心配していても仕事があると言っていた。
 結婚を機に宗田ホールディングを辞めて、別の会社に就職した加絵は仕事の事は教えてくれず愛斗名義のカードを使って海外にばかり言っている。
 現在はイギリスにいるとだけ知らされているが、詳しい場所は不明のまま。

 一也の出産もアメリカで一人で出産したと言って、産まれてから既に3ヶ月経過した頃に連れて帰って来た。
 しかし、愛斗は赤ちゃんの一也を見ても何も感じなかった。
 昭夫も砂羽もちょっと違和感を感じていた。

 一也が産まれたと連れて来て3日も経たないうちに、加絵はまだ海外へ行ってしまった。
 
 それから加絵が戻て来たのは、一也が保育園に入園するときに、昭夫が入園式くらい一緒にいてもらわないと怖ると話した事から嫌々な気分で一緒に入園式に行ってくれた。
  だが、入園式が終わるとすぐにまた海外へいてしまった加絵。

 それからは1年に一度帰ってくることがあっても、3日も家にいない加絵。
 子育てはずっと砂羽が中心になってしてくれている。

 昭夫と砂羽は何度も愛斗に、このままでいいのか? と聞いているが、愛斗は考えると頭に激痛が走る事から考える事から逃げていた。

 だが一也が表情に出すまで思いつめていたことを知ると、このままではいけないと思いはじめたのだ。


 フーッと深いため息を愛斗がついた時。

 
 カタンと、大きめの音がした。


 ん?? と音がした方を見ると、クローゼットの方から聞こえた事が判った。

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