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年末
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12月は野村の家は忙しい。特にクリスマス前くらいからは、新年に向けて髪を切ったり染めたりに訪れる人がひっきりない。
父と母とフル稼働で予約を捌く毎日だ。
そして岸野の家も忘年会シーズンであるので言わずもがな、だ。
記事が出てカフェのバイトを休んでいる身、モデルとしては中途半端で、暇といえば暇な身の私である。
実家を手伝いたいという私のお願いを野上さんは渋々だけれど、許してくれた。
といっても、美容師免許を持っていない私が出来ることはあまりない。
電話の応対、会計、掃除、備品の整理…それくらい。
それでも父や母は施術の途中で手を止める事がなくなると私が店に入る事を喜んでくれる。
「あら?優希ちゃん、元気?」
と入ってきたのは同級生トモちゃんのお母さんだ。
「お久しぶりです、トモちゃん元気?」
「元気よー!年末でなんだか忙しそうよ。」
2人して声が揃ってキャッキャっと笑い合った。
カラーリングをして少しサッパリと切りたいというトモちゃんのお母さんに、ヘアカタログを渡して空いているスタイリングチェアに座って待っていてもらう。
母は先客の髪をドライヤーでブローに入った。間もなく終わるだろう。
父はやはり常連のお客様のカーラーを撒き終わったところでパーマとカラー染めが始まる。
先客の会計が終われば少し暇になるかな?と思ったけれど、甘かった。
「ユウちゃん、ここはもう良いから隣手伝ってきて。なんか今日大変みたいって、みよちゃんが。」
「はーい。」
母の頭の中にもきしののタイムスケジュールがしっかりと詰まってるいる。
今頃きしのは焼き鳥の準備に家族総出で取り組んでいる頃だ。
手だけはしっかりと洗ってから勝手口から外へ出る。建物と建物の狭い隙間を渡って、きしのの勝手口から中に入った。
突き出し用なのか煮物の甘い匂いが漂っている。
「手伝いに来ました。」
と声をかけると、岸野のおばさんが作業の手を休めて視線を上げた。
「あら、ユウちゃん、お店は?」
「今ちょっと時間が空いたの、それにあと少ししたらアコ姉も来るし。」
「いやーん、助かるぅ。」
ビニール手袋をサッと箱から取り出してアルコール消毒をして、特に誰に何を聞くわけでもなく、バットに山盛りになっていたアスパラにベーコンを巻き始める。
野菜の串は終わったらしい。野菜、野菜と肉、肉と、きしのの焼き鳥の串打ちのルーティンは進んでいくのだ。
今日は大人数の予約が2件もあってねぇ、と岸野のおばさんが大まかな事を教え出す。
大人数予約が2件、18時からと21時からだ。そんなに広くないきしのは座敷はひと間しかない。3時間開ける宴会の予約は普通なら一件しか入れられない。
21時からというのは宴会の予約としては珍しいし、だからこそ岸野のおばちゃんは母に大変だと伝えたに違いない。
「おじさんは?」
「逃げられちゃった。」
芳ニイが独り立ちするためなのか、少し前に岸野のおじさんは駅の反対側に小さな立ち飲み屋を出した。こっちには余程のことがないと入らない。
大人数予約が2件、余程だと思うんだけど…?
ラストオーダーは23時半、閉店は24時を回る。きっとそれからじゃないと片付けには入れないだろう。
これは実家に泊まるコース確定だ。
父と母とフル稼働で予約を捌く毎日だ。
そして岸野の家も忘年会シーズンであるので言わずもがな、だ。
記事が出てカフェのバイトを休んでいる身、モデルとしては中途半端で、暇といえば暇な身の私である。
実家を手伝いたいという私のお願いを野上さんは渋々だけれど、許してくれた。
といっても、美容師免許を持っていない私が出来ることはあまりない。
電話の応対、会計、掃除、備品の整理…それくらい。
それでも父や母は施術の途中で手を止める事がなくなると私が店に入る事を喜んでくれる。
「あら?優希ちゃん、元気?」
と入ってきたのは同級生トモちゃんのお母さんだ。
「お久しぶりです、トモちゃん元気?」
「元気よー!年末でなんだか忙しそうよ。」
2人して声が揃ってキャッキャっと笑い合った。
カラーリングをして少しサッパリと切りたいというトモちゃんのお母さんに、ヘアカタログを渡して空いているスタイリングチェアに座って待っていてもらう。
母は先客の髪をドライヤーでブローに入った。間もなく終わるだろう。
父はやはり常連のお客様のカーラーを撒き終わったところでパーマとカラー染めが始まる。
先客の会計が終われば少し暇になるかな?と思ったけれど、甘かった。
「ユウちゃん、ここはもう良いから隣手伝ってきて。なんか今日大変みたいって、みよちゃんが。」
「はーい。」
母の頭の中にもきしののタイムスケジュールがしっかりと詰まってるいる。
今頃きしのは焼き鳥の準備に家族総出で取り組んでいる頃だ。
手だけはしっかりと洗ってから勝手口から外へ出る。建物と建物の狭い隙間を渡って、きしのの勝手口から中に入った。
突き出し用なのか煮物の甘い匂いが漂っている。
「手伝いに来ました。」
と声をかけると、岸野のおばさんが作業の手を休めて視線を上げた。
「あら、ユウちゃん、お店は?」
「今ちょっと時間が空いたの、それにあと少ししたらアコ姉も来るし。」
「いやーん、助かるぅ。」
ビニール手袋をサッと箱から取り出してアルコール消毒をして、特に誰に何を聞くわけでもなく、バットに山盛りになっていたアスパラにベーコンを巻き始める。
野菜の串は終わったらしい。野菜、野菜と肉、肉と、きしのの焼き鳥の串打ちのルーティンは進んでいくのだ。
今日は大人数の予約が2件もあってねぇ、と岸野のおばさんが大まかな事を教え出す。
大人数予約が2件、18時からと21時からだ。そんなに広くないきしのは座敷はひと間しかない。3時間開ける宴会の予約は普通なら一件しか入れられない。
21時からというのは宴会の予約としては珍しいし、だからこそ岸野のおばちゃんは母に大変だと伝えたに違いない。
「おじさんは?」
「逃げられちゃった。」
芳ニイが独り立ちするためなのか、少し前に岸野のおじさんは駅の反対側に小さな立ち飲み屋を出した。こっちには余程のことがないと入らない。
大人数予約が2件、余程だと思うんだけど…?
ラストオーダーは23時半、閉店は24時を回る。きっとそれからじゃないと片付けには入れないだろう。
これは実家に泊まるコース確定だ。
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