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嫉妬

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あんな状態のユキをひとりマンションに残して向かったキャンプ…。

行きたくない…こんなに思いになったのは野球人生の中で初めてだった。
もちろんわかっている。それが許される事じゃない事も、それをしてしまえばユキは本当に俺から離れてしまうって事も。

空港に着いて、飛行機搭乗までの間にメッセージを送った。

…既読付かないか。

なんでこんな時に。
あの恵美っていう彼女、無意識なんだろうか…。
俺と離れなければならない直前に、ユキのメンタルを打ち砕くかのように、拓郎くんに逃げ出されないように新しい楔を再度打ち込んだ。

沖縄に着いてからもまだ未読。
宿に入っても…。

初日だから、軽い筋トレとキャッチボールくらいのアップをして、素振りでバッティングフォームを確認して。

夜になってもまだ未読のまま。
…もしかして。
不安に駆られて、ブロックされていないかを確認してしまう。
ったく俺らしくない。なんでこんなに…弱っちくなってしまったのか…。

その時いきなり全てのメッセージに既読が着いた。
ユキ!!

気付いたら通話ボタンをタップしていた。

5回、6回…10回…。
拓郎君からの連絡にはワンギリでも即座に対応するのに…。些細な違いが気になって気になって仕方がない。

ようやく画面の向こうにユキの顔が現れた。
背景は俺達のマンション。良かった…いてくれた。

なるべく不安を出さない事だけを心がけて、
「…どうしてたの?」
と聞いた。責めるつもりはない、ただ心配だった。

「あー、すみません。少し寝てました。」
「…少し?…らしくないね。」

ユキはスッピンのまま、部屋着のまま。
1日何をしていたんだろうか。
寝てた…。それはユキの冴えない表情で嘘じゃないとわかるから。
無気力のまま1日を過ごした、ってわかる。

「…飯食った?」
「食べ…ました。」
「そう。なら…、いや良い。大丈夫か?」
「…大丈夫。」

…嘘つき。
俺に心配掛けたくないのだろうか。心配掛けてくれても…それくらい甘えてくれても…。

フッと思った。それが出来ない子だからきっと好きになれた。
甘えてくれない子だから…きっと。

「あの、野上さん。お願いがあるんですけど。」
「お願い?」
「アルバイト、再開したいんです。」
「カフェの?」
ええ、と頷いたユキ。

家にひとりで閉じ込めておきたい訳じゃない…。ただあの辺りは…。
実家が近い、だから拓郎くんの実家も近く。
素直に良いよ、って言わなきゃならないのに。
俺を待ってて欲しい…なんて口に出せないのに。

「ひとりで家にいるの…多分ムリなので。…お願いします。」

その時気付いた。あの恵美っていう人の気持ち…。同じじゃないか。
嫌だ!これを口に出したら俺彼女と同じ場所に堕ちてしまう。
ムリをさせたい訳じゃない。

「…ユキのお願いは断れない。」

行って欲しくないという気持ちを無理やり押し込めてそう答えた。
同じになっちゃいけない。

「沖縄ね、思ったより暖かくない。」
「そうなんですか?」
「うん、なんなんだろうな。」

取り止めのない話しをいくつかした。

「ユキの作った飯の方が好き…。」
と言ったら、
「じゃあ、戻ってきたらたくさん作ります。何が食べたいか考えておいてくださいね。」
と笑ってくれた。

そうか、わかった。
やってもらうよりやってあげる方がきっとユキは…喜ぶんだ。頼るより頼られる方が嬉しいんだ。
忙しくしている方が良いのかもしれない…。
カフェバイト再開もきっとそうなんだ、と漸く思うことが出来た。

「…やっと笑顔になった。」
そう言った時、ようやく俺の不安は少し消えた…と思っていた。
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