亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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歴史のない国

ロンバルディア

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翌朝、サキカと2人で話した「人の記憶」を辿る旅をしたいと告げると、イヤルは旧市街へ行く事を勧めてきた。

ロンバルディア公爵の存在が少し心配ではあるが…と前置きをしつつも、旧市街にある職人町はプランディールの時代から続く家がいくつかあるらしい。
「師匠から弟子へ、受け継ぐのは主に技術や心構えのようなものだけれど、内弟子として共に暮らしている中に少しは過去に繋がるものがあるんじゃないか?」
とイヤルは言う。

サキカに確認するとそれで良いと言ってくれたので、そうすることに決めたのだった。
ダイは要らないと言ったけれど、いつか必要になるかもしれないからと無理やり銀貨を1枚握らせた。
「じゃあ、レオボルト様とサキカ様との思い出に。」
と腰に下げた袋に仕舞い込んだ。
あの袋の中には干した木の実が入っている。
長時間歩くための携帯食だそうだ。

どこまで欲のない子なのだろうか。
…思うことがない訳じゃないけれど、それは今口には出したくは無かった。

「じゃあイヤル、元気で。」
「ああ、ベネットも。」

しばしの友との別れを惜しむ教授を気長に待った。
アカデミーで教鞭を取っていたイヤルにとって、この村は刺激に乏しいのかもしれない。

最後にこれだけはさせて欲しい、とサキカは2人を浄化し、馬車へと乗り込んだ。



旧市街へと向かう道のりは驚くほど変わらない。手入れのされてない草原、踏み歩いて出来た土の道、ちいさな繭の家がポツンポツンと建っていて…。

いくつの村を通り過ぎのかもわからなかった。
村の境目は木や石やそんなものばかりだから。

「見えましたよ、きっとアレです。」
御者台に座るマティの声でサキカは窓から身を乗り出した。
「危ないよ。」
「…大丈夫、だってレオが捕まえていてくれるでしょう?」
と返されたら笑うしかなかった。

目の前に見えたのは、白い石で作られた壁に囲まれた要塞のような建物だ。
何もない場所にぬくっといきなり現れたような感じがする。

「…デカイな。」
「どうやら街全体を壁で囲っているようですね。」

巨大な建物吸い込まれるように馬車は旧市街へと向かって走った。

門のところで一旦止められた。
「通行証を見せろ。」
門番の男に聞かれ、通行証?そんなものは…ないと言い掛けたところでリマが書簡を見せた。

「…ハマ神殿…の?」
男の顔色がサッと変わるのがわかる。

「リマ、あれは何?」
隣でサキカが聞いている。いつの間に通行証を用意したの?という問いにリマは簡潔に答えた。
「ナモン大神官長が発行した全ての街に入る事が出来る通行証です。」

…そんなものを持っていたのか?
知らなかったぞ、おい!

「求められる事はないとは思うが、とも言っていましたけれど、一応貰っておいて良かったです。」

「この街は受け入れる者がいないと入る事が出来ません。申し訳ないですが、しばらくお待ち頂きたいのですが。」
と門番達は謙った態度を見せた。
初めは「見せろ。」なんて横柄さを醸し出していたのにそれが全くない。
リマは一体どんな通行証を見せたのだろうか。
それでも馬車が動く許可はなかなか出ない。
半刻程は待たされたと思う。

「お待たせしました。」
と慌ててやってきたのは神官服を着た壮年だった。
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