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歴史のない国
ダイ
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洗濯をしていた女性はザリさんで、息子はダイくんというまだ10歳の男の子だった。
ダイくんは恐々と馬車の中に乗り込んできた。
道案内してもらうために御者台に乗って貰おうと思ったのだけど、初めて乗る馬車の視線の高さに怖がってしまい、中に乗って貰う事になった。
ダイくんの家はこの辺りではやはり裕福な方らしい。
「粉挽きが出来るからね。」
とダイくんは誇らしげに胸を張った。
畑で取れた野菜と鶏が産んだ卵を持って、違う家に行くと小麦が貰える。
ダイくんの家はその小麦を家にある粉挽きで小麦粉を作る。
ダイくんのお父さんは自家製小麦粉で家を建てる材料を手に入れるらしい。
「んで、兄ちゃん達が家を建ててやったり直したりするんだ。」
主食となる小麦粉、住処となる家が作れるから、ダイくんの家は周りの家よりも裕福なのだそうだ。
ただ。衣食住のうち、衣服だけはダイ君の家では貴重品。だからザリさんはボタンを欲しがったらしい。
「物々交換なのね。」
「金なんか使えないよ。金で物を分けてくれるところなんかない。」
たまにどうしても手に入らない物が欲しくて市場に行くこともあるけれど、市場だって小麦粉でなんでも手に入れられる。
話しながらもダイくんの目線は外を向いている。
「あ、あれ!」
ダイくんの指の先には赤い大きな石。
「カエル石…。」
どう見てもカエルにしか見えない大きな赤い石。ザリさんが言っていた、他の場所に住む人はきっとあの石の向こうを「カエル石村」と呼んでいるんだろうと思った。
「カエルは不吉なんだ。だから僕達の村はカエル石じゃない。」
不貞腐れたようにダイくんは唇を尖らせた。
「結局カエル石じゃないと外の人には伝わらない。
だから僕達の住む辺りには名前がないんだ。」
ランドマークとしてあの石はうってつけに思える。
「赤い石」「大きな石」色々呼んではみたけれど、誰がどう見たって「カエル石」には勝てそうもない。それほどまでにあの石はカエルそっくりだった。
「そっか…。早く良い名前が付くと良いね。」
私はそう言ってあげることしか出来なかった。
不浄の方向というのは、北の事だった。
日陰になりがちな北側はこの辺りの人にとっては忌むべき方角なんだって。
ちなみに南は清浄、東は陽、西は陰、この辺りはなんとなく理解出来そうだ。
「ほら、あれが三本ヤシだよ。」
砂利道の脇に大きな三本のヤシが見えた。
「ナツメヤシですね。」
教授が補足を入れてくれた。
ココナッツを想像してたけど、違うらしい…。
ダイくんは恐々と馬車の中に乗り込んできた。
道案内してもらうために御者台に乗って貰おうと思ったのだけど、初めて乗る馬車の視線の高さに怖がってしまい、中に乗って貰う事になった。
ダイくんの家はこの辺りではやはり裕福な方らしい。
「粉挽きが出来るからね。」
とダイくんは誇らしげに胸を張った。
畑で取れた野菜と鶏が産んだ卵を持って、違う家に行くと小麦が貰える。
ダイくんの家はその小麦を家にある粉挽きで小麦粉を作る。
ダイくんのお父さんは自家製小麦粉で家を建てる材料を手に入れるらしい。
「んで、兄ちゃん達が家を建ててやったり直したりするんだ。」
主食となる小麦粉、住処となる家が作れるから、ダイくんの家は周りの家よりも裕福なのだそうだ。
ただ。衣食住のうち、衣服だけはダイ君の家では貴重品。だからザリさんはボタンを欲しがったらしい。
「物々交換なのね。」
「金なんか使えないよ。金で物を分けてくれるところなんかない。」
たまにどうしても手に入らない物が欲しくて市場に行くこともあるけれど、市場だって小麦粉でなんでも手に入れられる。
話しながらもダイくんの目線は外を向いている。
「あ、あれ!」
ダイくんの指の先には赤い大きな石。
「カエル石…。」
どう見てもカエルにしか見えない大きな赤い石。ザリさんが言っていた、他の場所に住む人はきっとあの石の向こうを「カエル石村」と呼んでいるんだろうと思った。
「カエルは不吉なんだ。だから僕達の村はカエル石じゃない。」
不貞腐れたようにダイくんは唇を尖らせた。
「結局カエル石じゃないと外の人には伝わらない。
だから僕達の住む辺りには名前がないんだ。」
ランドマークとしてあの石はうってつけに思える。
「赤い石」「大きな石」色々呼んではみたけれど、誰がどう見たって「カエル石」には勝てそうもない。それほどまでにあの石はカエルそっくりだった。
「そっか…。早く良い名前が付くと良いね。」
私はそう言ってあげることしか出来なかった。
不浄の方向というのは、北の事だった。
日陰になりがちな北側はこの辺りの人にとっては忌むべき方角なんだって。
ちなみに南は清浄、東は陽、西は陰、この辺りはなんとなく理解出来そうだ。
「ほら、あれが三本ヤシだよ。」
砂利道の脇に大きな三本のヤシが見えた。
「ナツメヤシですね。」
教授が補足を入れてくれた。
ココナッツを想像してたけど、違うらしい…。
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