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穢れた国
興国の神器
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どうやって採石坑の黒砂を水に沈めるか?
その答えをブラン神官は既に考えていた。
「そこにあるじゃないですか。広大な湖を生み出せるほどの力を備えたものが。」
…広大な湖を生み出したもの…?
「神器か。」
レオが答えると、はい、とブラン神官は微笑んだ。
「元々は小さな池に落とした器が水を出し続けてしまって取り出せなくなった、というのが伝説です。
採石坑の中に地下水が溜まっているような場所があれば、そこに器を入れたら良いのです。
もちろん長い年月は必要でしょうが、それは神の時間の中ではあっという間だと私は思いますよ。」
…そんな事が出来るのだろう…か?
そんなおとぎ話のような出来事が?
一方で、そんなおとぎ話のような事を実際に体験してきている私もいた。
神によってこの世界に連れて来られて、よくわからない感覚で、禍を感じているのだし。
「やってみよう、俺はそう思う。」
レオが力強く頷くから、不安は口には出さなかった。
そうね、ダメ元だ。
「うん、やってみましょう。」
私とレオはミアさんと坑道を使って収容所に向かう。なるべく多くの人を外に連れ出さなくてはならない。
そして、禍を受け取って、出来るなら結晶させて、出来ないなら放出させる。
そしてブラン神官と教授が地下水の泉を探して、金の器を浸してみる。
ダメだったら、捨てた禍を拾い集めてセブール湖に運ぶしかないだろう。
それはきっと皇妃が捨てるよりもはるかに手間と時間が掛かる、一大事業のようになるかもしれない。
「あ、あのー。」
リマが口を挟んだ。リマにしては珍しい事だった。
「どうした?」
「本物のパジェット司祭を探したいのです。彼はおそらくハマに選ばれたお人です。」
リマがミレペダ公爵邸の近くにあった教会の神父さんから聞いたという話をしてくれた。
「托鉢の鉢ですか…。将来の神殿長かもしれないお方ですね。」
ブラン神官が頷く。
「そんなに凄い事なの?」
「はい、ハマ神に選ばれた証です。」
前の世界でもそうだったけれど、この世界でも神に仕える道を選ぶ人の人生は様々。
比較的多いのが、貧して…だそうだ。
リマもそうだけれど、教会や神殿に身を寄せる事で、衣食住を得る手段にする。場合によったら教育も受けられるから。
他には後を継げない貴族の弟妹、結婚や婚約に齟齬が起きた人…。
ザックリまとめると「訳アリ」の人が多い。
一方で、崇高な思いを持って神職を目指す人も一定数いる。
「まず儀式で下賜を受けるという事そのものが誉れです。神職にあるべき人だとハマに認められた証です。
…そうですね、なんとしてでも助けたいですね。
…わかりました。私がお迎えに上がりましょう。」
ブラン神官はそう言って、ミアさんとリマと共にパジェットさんを探す事にした。
教授にはファッジが同行する事になった。
アレンさんとサミーさんは城に戻って、各国の使者たちに事情を説明してくれる。
「可能ならば、ミレペダとラウールの身柄を抑えたい。」
「2人で大丈夫か?」
「ルキアに兵が待機している。争い事は避けたかったけれど、念のために控えさせていた。
ラグー王の説得が出来なければ、兵を入れるしかないだろう。」
…戦争か。出来ればそれは避けたい。
「セドリックを上手く使えないでしょうか?」
教授が静かに提案した。
「セドリックを?」
なんだか嫌そうなレオを見て教授が苦笑いをした。
「はい、セドリックです。サキカが言ったじゃないですか、セドリックは敵の敵だと。
こちらに引き込みたいですね。
別れ際の様子だと十分に勝算は見込めます。
確かにセドリックは愚かな事をしました。
しかしサキカが禍の浄化に失敗した時、動揺していたのもまたセドリックです。」
「神父様は神子様のお身体の様子をご存じでした。その神父様は牢にいます。おそらくセドリック殿下も近くにいるはずです。」
ミアの言葉に皆が納得した。
少なくてもサキカの腕の事を神父に告げた誰かがいる。
ミレペダ公爵の可能性より、確かにセドリックの方が自然だと思われた。
「セドリックが、サキカの願いでコールを諦めろと言えば、ラグー王は納得してくれるかもしれません。」
レオはしばらく考え込んで、
「…仕方ない」
と呟いた。
「自由と引き換えに神子の伴侶になる事を諦めてくれるなら。」
「説得します。」
と決意に満ちた顔つきで教授が言って、
「そりゃ大丈夫だろう、サキカは望んでないんだから。」
とアレンさんが呆れたように言う。
「大丈夫、私はレオしか要らない。」
そう伝えると、レオが嬉しそうに微笑んでくれた。
「うん、わかってる。」
レオの頬が少し赤い…のは気のせいね。
「では坑道に行こう。」
レオの言葉に、皆が頷いた。
その答えをブラン神官は既に考えていた。
「そこにあるじゃないですか。広大な湖を生み出せるほどの力を備えたものが。」
…広大な湖を生み出したもの…?
「神器か。」
レオが答えると、はい、とブラン神官は微笑んだ。
「元々は小さな池に落とした器が水を出し続けてしまって取り出せなくなった、というのが伝説です。
採石坑の中に地下水が溜まっているような場所があれば、そこに器を入れたら良いのです。
もちろん長い年月は必要でしょうが、それは神の時間の中ではあっという間だと私は思いますよ。」
…そんな事が出来るのだろう…か?
そんなおとぎ話のような出来事が?
一方で、そんなおとぎ話のような事を実際に体験してきている私もいた。
神によってこの世界に連れて来られて、よくわからない感覚で、禍を感じているのだし。
「やってみよう、俺はそう思う。」
レオが力強く頷くから、不安は口には出さなかった。
そうね、ダメ元だ。
「うん、やってみましょう。」
私とレオはミアさんと坑道を使って収容所に向かう。なるべく多くの人を外に連れ出さなくてはならない。
そして、禍を受け取って、出来るなら結晶させて、出来ないなら放出させる。
そしてブラン神官と教授が地下水の泉を探して、金の器を浸してみる。
ダメだったら、捨てた禍を拾い集めてセブール湖に運ぶしかないだろう。
それはきっと皇妃が捨てるよりもはるかに手間と時間が掛かる、一大事業のようになるかもしれない。
「あ、あのー。」
リマが口を挟んだ。リマにしては珍しい事だった。
「どうした?」
「本物のパジェット司祭を探したいのです。彼はおそらくハマに選ばれたお人です。」
リマがミレペダ公爵邸の近くにあった教会の神父さんから聞いたという話をしてくれた。
「托鉢の鉢ですか…。将来の神殿長かもしれないお方ですね。」
ブラン神官が頷く。
「そんなに凄い事なの?」
「はい、ハマ神に選ばれた証です。」
前の世界でもそうだったけれど、この世界でも神に仕える道を選ぶ人の人生は様々。
比較的多いのが、貧して…だそうだ。
リマもそうだけれど、教会や神殿に身を寄せる事で、衣食住を得る手段にする。場合によったら教育も受けられるから。
他には後を継げない貴族の弟妹、結婚や婚約に齟齬が起きた人…。
ザックリまとめると「訳アリ」の人が多い。
一方で、崇高な思いを持って神職を目指す人も一定数いる。
「まず儀式で下賜を受けるという事そのものが誉れです。神職にあるべき人だとハマに認められた証です。
…そうですね、なんとしてでも助けたいですね。
…わかりました。私がお迎えに上がりましょう。」
ブラン神官はそう言って、ミアさんとリマと共にパジェットさんを探す事にした。
教授にはファッジが同行する事になった。
アレンさんとサミーさんは城に戻って、各国の使者たちに事情を説明してくれる。
「可能ならば、ミレペダとラウールの身柄を抑えたい。」
「2人で大丈夫か?」
「ルキアに兵が待機している。争い事は避けたかったけれど、念のために控えさせていた。
ラグー王の説得が出来なければ、兵を入れるしかないだろう。」
…戦争か。出来ればそれは避けたい。
「セドリックを上手く使えないでしょうか?」
教授が静かに提案した。
「セドリックを?」
なんだか嫌そうなレオを見て教授が苦笑いをした。
「はい、セドリックです。サキカが言ったじゃないですか、セドリックは敵の敵だと。
こちらに引き込みたいですね。
別れ際の様子だと十分に勝算は見込めます。
確かにセドリックは愚かな事をしました。
しかしサキカが禍の浄化に失敗した時、動揺していたのもまたセドリックです。」
「神父様は神子様のお身体の様子をご存じでした。その神父様は牢にいます。おそらくセドリック殿下も近くにいるはずです。」
ミアの言葉に皆が納得した。
少なくてもサキカの腕の事を神父に告げた誰かがいる。
ミレペダ公爵の可能性より、確かにセドリックの方が自然だと思われた。
「セドリックが、サキカの願いでコールを諦めろと言えば、ラグー王は納得してくれるかもしれません。」
レオはしばらく考え込んで、
「…仕方ない」
と呟いた。
「自由と引き換えに神子の伴侶になる事を諦めてくれるなら。」
「説得します。」
と決意に満ちた顔つきで教授が言って、
「そりゃ大丈夫だろう、サキカは望んでないんだから。」
とアレンさんが呆れたように言う。
「大丈夫、私はレオしか要らない。」
そう伝えると、レオが嬉しそうに微笑んでくれた。
「うん、わかってる。」
レオの頬が少し赤い…のは気のせいね。
「では坑道に行こう。」
レオの言葉に、皆が頷いた。
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