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穢れた国
別邸2
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寝台で横たわる神子に侍る為に身体を清めて…。
ほんの少し前の事なのに、なんだかとても遠い日のような気がする。
備え付けの浴室を見つけて、濡れた服を脱ぎ捨てた。
あまり時間は掛けたくはなく、湯を用意する時間も惜しく水で体を清める。そしてサッサと浴室を出て、単衣だけを身につけサキカが眠る寝台に滑り込んだ。
リマのヤツ…。
初めの頃は真っ赤になっていたのに、今は顔色ひとつ変えずにサキカを見ぐるみ剥がして、新たな下着を着せ付けていた。
もう心得ているのだろう、おそらく最低限の拵えで済まし、部屋を静かに出て行った。
「済まない、神の導きに従わせてもらう。」
いつもいつもサキカを抱きしめる時、つい言葉にしてしまう謝罪。
サキカが神子でなければ、きっとありふれた生活の中で、自分の意思で伴侶を求めるだろうに、このような形で身体を明け渡さなければならない事を、不憫にも思ってしまう。
それでも。
セドリックがそれを願い出たと聞いた時、サキカにこうして触れられるのは自分だけだ!と思うことがどうしても止められなかった。
上から覗き込むようにサキカの寝顔を見て、その身体に自分の腕を巻き付けた。
…頼む。起きてくれ。
そして、いつものように照れた顔で笑って欲しい。
願わくは、いつかサキカ自身の想いで、俺を選んでくれ。
あさましいかもしれない、願いを込めて、サキカの細い首筋に何回も何回も唇を落とした。
湖の水に晒されて冷えていた身体にほんのりと温かみが戻った時、ピクリとサキカの瞼が動いた。
「サキカ。サキカ。」
起き出す気配に安堵し、何回も何回もその名前を呼び続け、ユサユサと揺さぶる。
不意に、
「もう教授!もっと優しく起こしてくれたっていいじゃない!!」
まるで寝坊したサキカを教授が起こしに掛かったような、いつもの口調の物言いに少しばかりムッとした。
「サキカ。サキカを起こすのは俺だけじゃないの?」
つい出てしまった言葉。愚かな男の嫉妬以外の何者でもない。
その時、サキカはパッと瞼を開けた。
真っ直ぐに俺をしばらく見つめて、
「レオ!!」
とその腕を伸ばしてくれる。
「良かった、目が覚めた。」
レオ、レオ!と俺の名前を呼び続けながら、しっかりと俺をその腕の中に迎え入れてくれた。
「良かった!見つけてくれた!!」
いつもなら、恥ずかしそうに俯くのに、今はとても嬉しそうな弾ける笑顔を見せてくれた。
「身体は?どこか悪い所はない?」
サキカは少し左手を見て、左足を見て、
「もう大丈夫みたい。」
と微笑んだ。
その言葉に足下が崩れそうなほど安堵する。
「ここ…別邸よね?」
こっちの期も知らず、サキカはキョロキョロと周りを見渡した。
逃げ出した部屋に戻されて戸惑っているようだ。
「教授は!?」
「…ずっと部屋に入って籠もっていたから、ちょっとわからない。
リマかファッジを呼ぶ。何か口に入れよう。」
目覚めて最初に心配するのが教授…。
仕方ないのかもしれない。ずっと側にいたのは教授だ。
一緒にいたはずなのに、サキカだけが湖のど真ん中に流されていた。
するとサキカは驚く事を言い始める。
「あの、あのね。フィンに会ったの。」
「フィン…?」
風の神のフィンのことか?
セブール湖の下にはフィンが眠ると言われている。
ハマの儀式の時にハマの姿を見たものがいるように、サキカもフィンの姿を見たらしい。
サキカの話はどんどんと続いていく。
フィンのイタズラが原因で、神様達が眠りにつくことになった事。
ハマの代わりにハマの友達という人がフィンを探していたけれど、蓋をして見つけられなくなっちゃったこと。
…子供っぽい言い回しだ。
夢でも見たのかもしれない、そう思った。
「蓋?」
「あれ?私持ってなかった?金の花瓶。」
「ああ、持ってたよ。」
サキカが大切に抱えていた金の器はリマが枕元のテーブルに置いてある。
「これね、ずっと水を出し続けてたんですって。
ねぇ、これってもしかして…。」
水を出し続ける器…壺。それは、
「セブール湖に沈んだ、水を出し続ける壺なら、ラグーの興国の神器だと思う。ハマが使徒に渡したものだ。」
「このせいでフィンは閉じ込められたままだったんですって。」
それからね。世界の秩序のヒントを貰ったの。
「ハマの力で纏めた禍は水に、ペレスの力で纏めた禍は火に、ユレの力で纏めた禍は土に。
そうすれば、フィンが風に乗せてくれるんですって。
禍はね、そうやってこの世界をグルグルと巡っていくものみたい。
それでいいの、って。
あっ、違う。間違えちゃダメって。」
「ダメ?何がダメ?」
「ハマの力で纏めた禍を燃やしたり埋めたりしちゃダメだよって。」
だから、レオ。
「私たち行かなくちゃ。坑道の中に埋められている黒砂を石にして水に入れないとダメなのよ。」
寝台で横たわる神子に侍る為に身体を清めて…。
ほんの少し前の事なのに、なんだかとても遠い日のような気がする。
備え付けの浴室を見つけて、濡れた服を脱ぎ捨てた。
あまり時間は掛けたくはなく、湯を用意する時間も惜しく水で体を清める。そしてサッサと浴室を出て、単衣だけを身につけサキカが眠る寝台に滑り込んだ。
リマのヤツ…。
初めの頃は真っ赤になっていたのに、今は顔色ひとつ変えずにサキカを見ぐるみ剥がして、新たな下着を着せ付けていた。
もう心得ているのだろう、おそらく最低限の拵えで済まし、部屋を静かに出て行った。
「済まない、神の導きに従わせてもらう。」
いつもいつもサキカを抱きしめる時、つい言葉にしてしまう謝罪。
サキカが神子でなければ、きっとありふれた生活の中で、自分の意思で伴侶を求めるだろうに、このような形で身体を明け渡さなければならない事を、不憫にも思ってしまう。
それでも。
セドリックがそれを願い出たと聞いた時、サキカにこうして触れられるのは自分だけだ!と思うことがどうしても止められなかった。
上から覗き込むようにサキカの寝顔を見て、その身体に自分の腕を巻き付けた。
…頼む。起きてくれ。
そして、いつものように照れた顔で笑って欲しい。
願わくは、いつかサキカ自身の想いで、俺を選んでくれ。
あさましいかもしれない、願いを込めて、サキカの細い首筋に何回も何回も唇を落とした。
湖の水に晒されて冷えていた身体にほんのりと温かみが戻った時、ピクリとサキカの瞼が動いた。
「サキカ。サキカ。」
起き出す気配に安堵し、何回も何回もその名前を呼び続け、ユサユサと揺さぶる。
不意に、
「もう教授!もっと優しく起こしてくれたっていいじゃない!!」
まるで寝坊したサキカを教授が起こしに掛かったような、いつもの口調の物言いに少しばかりムッとした。
「サキカ。サキカを起こすのは俺だけじゃないの?」
つい出てしまった言葉。愚かな男の嫉妬以外の何者でもない。
その時、サキカはパッと瞼を開けた。
真っ直ぐに俺をしばらく見つめて、
「レオ!!」
とその腕を伸ばしてくれる。
「良かった、目が覚めた。」
レオ、レオ!と俺の名前を呼び続けながら、しっかりと俺をその腕の中に迎え入れてくれた。
「良かった!見つけてくれた!!」
いつもなら、恥ずかしそうに俯くのに、今はとても嬉しそうな弾ける笑顔を見せてくれた。
「身体は?どこか悪い所はない?」
サキカは少し左手を見て、左足を見て、
「もう大丈夫みたい。」
と微笑んだ。
その言葉に足下が崩れそうなほど安堵する。
「ここ…別邸よね?」
こっちの期も知らず、サキカはキョロキョロと周りを見渡した。
逃げ出した部屋に戻されて戸惑っているようだ。
「教授は!?」
「…ずっと部屋に入って籠もっていたから、ちょっとわからない。
リマかファッジを呼ぶ。何か口に入れよう。」
目覚めて最初に心配するのが教授…。
仕方ないのかもしれない。ずっと側にいたのは教授だ。
一緒にいたはずなのに、サキカだけが湖のど真ん中に流されていた。
するとサキカは驚く事を言い始める。
「あの、あのね。フィンに会ったの。」
「フィン…?」
風の神のフィンのことか?
セブール湖の下にはフィンが眠ると言われている。
ハマの儀式の時にハマの姿を見たものがいるように、サキカもフィンの姿を見たらしい。
サキカの話はどんどんと続いていく。
フィンのイタズラが原因で、神様達が眠りにつくことになった事。
ハマの代わりにハマの友達という人がフィンを探していたけれど、蓋をして見つけられなくなっちゃったこと。
…子供っぽい言い回しだ。
夢でも見たのかもしれない、そう思った。
「蓋?」
「あれ?私持ってなかった?金の花瓶。」
「ああ、持ってたよ。」
サキカが大切に抱えていた金の器はリマが枕元のテーブルに置いてある。
「これね、ずっと水を出し続けてたんですって。
ねぇ、これってもしかして…。」
水を出し続ける器…壺。それは、
「セブール湖に沈んだ、水を出し続ける壺なら、ラグーの興国の神器だと思う。ハマが使徒に渡したものだ。」
「このせいでフィンは閉じ込められたままだったんですって。」
それからね。世界の秩序のヒントを貰ったの。
「ハマの力で纏めた禍は水に、ペレスの力で纏めた禍は火に、ユレの力で纏めた禍は土に。
そうすれば、フィンが風に乗せてくれるんですって。
禍はね、そうやってこの世界をグルグルと巡っていくものみたい。
それでいいの、って。
あっ、違う。間違えちゃダメって。」
「ダメ?何がダメ?」
「ハマの力で纏めた禍を燃やしたり埋めたりしちゃダメだよって。」
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