亡国の王子に下賜された神子

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穢れた国

リマの手柄3

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部屋を出たリマが、てくてくと歩いて向かったのは、炊事場だ。
「何かお手伝いさせてくださいませんか?」と見かけた女性に声を掛けた。

「あんた、客人だろ?ララが付いてただろ?ララはどした?」
小さい椅子に腰掛けてじゃがいもの皮を剥いていた年配の女性がジロリとリマを睨む。

「元々私は仕える方なんですよね。だからなんだか落ち着かなくて。何か仕事していた方が気持ちが楽なんです。
お願いします、何かお手伝いさせてもらえませんか?」

そうか、そういうことなら、と女性はリマにナイフを手渡してくれた。
「悪いね、助かるよ。急に離宮の方に人手を取られちまったんだ、目が回る忙しさでさぁ。」
「離宮に、ですか?
こんなに大きなお屋敷があるのに離宮もあるだなんて、ミレペダ様って凄いお金持ちのお人なんですね。」
「まあ、公爵様はこの国で王族の次に偉いし、確かに裕福なお人だね。離宮はさぁ、普段は公爵様が管理してるんだよ。んで、ヨーシャーの皇妃様しか使わせてなかったのに、急にそこに客人を入れるってさぁ。いつもは助っ人を頼むのに、今回は急すぎて間に合ってなくてさぁー。」

客人、それもヨーシャーの王族にも匹敵する重要な。
これはサキカ様じゃないだろうか?としか思えない。

…顔に出しちゃいけない、悟られちゃいけない。
客人の素性に心当たりがあるなんて。
心臓がバケバクと動くのをフーッと息を吐いてやり過ごす。

「大変でしたねぇ、しかもこちらにも客人じゃ、本当に忙しんでしょうね。」
「ああ、全くだよ。あっ、別にあんた達がいることを迷惑だなんて思ってやしないからね。
ただ2つ重なっちまっただけっていうだけの話だよ。」

わかりますよ、とにこやかに相槌を打つ。
しばらくは話題を変えて無関係な内容の話に花が咲いた。
いつしか話題はリマの身の上話になっていた。
孤児だったこと、神殿で育てられて修道女なるために修行してること、高貴な方の旅にお供させいる事。

「別に神殿での修行や旅が嫌だって訳じゃないんですけど、本当はどこかで楽しく暮らしたいんですけど。
あっ、これ内緒ですよ。ご主人の耳に入ったら怒られちゃう。」
とはにかんでもみせる。

わかる、わかる、あんたのご主人碌な奴じゃないんだろうね。

使用人達の一体感はどれだけ酷い環境で働かされているか?を打ち明ければ直ぐに生まれる。

…ごめんなさい、サキカ様。

侍女じゃなく友になりたいと言ってくれたサキカ様はリマにとっては心から支えたいと思える人である。
だけど、どうか今だけ、今だけは許してください、と心の中で謝り倒す。

「主人を選べないってぇのは、辛いモンだよねぇ。」
リマの心の内なんかには全く無頓着に女性の愚痴は続いていく。

「でもさぁ、コッチに残れたのはまだマシなんだよ。
なんかさ、離宮にいる客人っていうのはさぁ、随分気難しいお人らしくってさぁ。
風呂以外の手はいんない、って払われてるらしくってさぁ。
そんな事言われたって私たちゃぁ、公爵様の命令で仕事しなきゃなんねぇってのにさぁ。
クビにされたら困るってぇの、わかってくんないのかなぁ、って。
収容所なんかに行かされた日にゃ絶対に戻ってこれないからねぇ。
あっちにいる人はビクビクしてるって話だよ。」

「あっ、それ困りますよね。そんなに気難しい人なんですか?」

「そうだよ、病人?怪我人?っていうの?障害者って感じでさぁ、ずっとベッドに寝たきりなんだって。
そんなのに、ひとりで大丈夫ってさぁ、お目付きの男以外部屋には入れねぇって話だよ。
男女が部屋の中で2人だけって、何やってんのか…。
皇妃様達もそうだったけんど、高貴なお方っていうのはさぁ、貞操とか貞節とか気にしねぇんだねぇ。」

えっ!?
思わない知らせに、ナイフを持っていたリマの手が震えた。

「っったい!」
気付けば手元を狂わせたせいで、指先に血が滲んでいた。

「あらっ?手ぇ切っちまったんかい。ったく鈍臭い子なんだなぁ。
ほらここはいいから手当てしといで。」

すみません、と言って腰を上げた。
本当は「収容所」の事も聞きたかったけれど、それよりもサキカ様の事を優先しなくちゃ。

サキカ様の身に何か起こっているのは疑いようがない。
早くレオ様に知らせないと!!
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