亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

坑道

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初めて乗ったトロッコというものは、かつて経験したことがない速さで坑道の中を進んでいく。

「…凄いな、これは。」
禍がどうとかという事は一旦忘れることにして、あくまでも移動手段としてのトロッコの有能さにただ驚いた。
まず速い。ただ座っているだけなのにグングンと進んでいく。

先頭のひとつだけ形が違う箱には竈門がついており、坑夫の後ろにはコークスの山が積み上がっている。坑夫は山からコークスを掬い上げると、燃える竈門に放り込んでいく。
仕組みはよくわからないが、湯を沸かしてどうにかすると車輪が動き、その力で後ろの箱を引っ張って進むようだ。

パジェットはこの坑道について説明をしてくれる。

「ラグマイトを切り出す際、山を崩さないように、ある程度の柱と床を残して石を切り出しています。結果、坑道の中には城のような空間が出来ました。」

陽が当たるように開いた場所は住居にし、そうでないところはただの空間として残る事になった。
山の形に沿うように横へ横へ掘り進めていった結果、ラグーを取り囲む山脈に抜け道が出来た、という。

切り取った石を始めは人力で運んでいたけれど、神子マークの知識で移動の手段としてトロッコを導入した。

「トロッコのお陰で、随分と大きな岩の塊でも容易く外へ運べるようになりました。」

「さっき、砂の処分所に繋がっていると言っていたな。」
「ええ、というよりは空いた隙間に砂を入れた、という方が正しいです。」

確かに…ただの空間だ。
何かをしまってしまうには最適な場所のように思う。

パジェットは手元の地図を見せた。
「この坑道跡はこのままセブール湖近くまで繋がっています。
処分場はこの辺りではなく、セブール湖近くの最下層にあります。」

セブール湖近くから掘り始めたラグマイト石。
取り尽くして東に、取り尽くして下に、といった具合で、とうとうローザンとの境に近いザッカランまで来てしまった。

「この辺りを取り尽くしたら、この国の産業がひとつ消えます。その代わりとなる予定の物がコールでした。」

コールを使用する産業はどちらかと言えば工業国向きであったことから、南や西方面への輸出が多かった。

…この下に禍がある。

そう知ってしまうと、下から吹いてくる風に当たることすら躊躇してしまう。
坑道に兵士達が入ることを躊躇うということから、長きに渡りこの坑道が忌み嫌われていたことの表れだ。

「感じる物があったのか、王族からそうお達が出ていたのか…。
パジェットはいつここに処分所があることを知ったのか?」

「…最近です。
私はあの儀式にラグーの神官のひとりとして参列していました。
神子賜りがあり、直ぐに陛下に報告をしようと国へ急ぎ戻りました。

その時、陛下は、最大の礼を尽くして、レオボルトを迎え入れようとしましたが、セドリック王子がそれに異議を唱えたのです。」

ローザンからラグーに入って最初の街となるザッカランの教会で、セドリック王子は神子を迎えるべき待機していたそうだ。

そこに無駄に長く留まることになったのは、フローの村で俺たちが墓の修復を待っていたからに他ならない。

「その間に、セドリック王子に説得されたのです。
ラグーの民を思えばこそだ、と。」

セブール湖に着くまでの僅か数日、守護者のいないところで心を通わせる時間が欲しいだけ、と説得されたそうだ。

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