亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

突入

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ゴンドラに一度に乗れる人数は6人。
せめて教授とも一緒に、と願ったけれど叶わなかった。

「上で待ってます。」
最後に私の頭を軽く撫でて、教授は兵士に囲まれて先に登っていった。

「すまないな。」
登っていく教授を見送った私にセドリックが驚くほど柔らかな声を掛けた。

「ベネットと乗せられるなら叶えてやりたかったが、警備の問題だ。すまない。」
「あっ、いえ…。お気になさらず…。」

あー、自分のこういうところが嫌い。
先に謝られたらもう怒れない。仕方ないんだ、と受け入れてしまう。

ゴンドラは鉄の柱にワイヤーをかけてそれを滑車で動かす仕組み。
ケーブルカーを縦にした感じに見えた。

程なくして空のゴンドラが降りてくる。
ケーブルカーと同じなら、教授達は上に着いたと考えられる。

(4~5分ってところかな?)
息が止められる長さじゃない、それなのに禍の霧の中に突っ込んでいかなくてはならない。
それが不安だった。
ロサ姫のお墓に行った時に不安じゃなかったのは、絶対に守ってくれると思えたレオがいたからだと痛感してしまう。

セドリック王子に手を引かれてゴンドラに乗り込んだ。
6人が横一列に並ばないといけない。

「ほら、おいで。」
セドリック王子が腕を広げて私を抱え込んだ。
「あっ!えっ!…あの。」
大丈夫、離して。
そう言いたかったのに、
「怖いなら見なければいい。」
と笑顔までをも見せた。

絶対子供扱いしてるんだ!
怖いのは怖いけど、高いからじゃないから!
とも思ったんだけど。

禍の霧に直接突っ込むんだから、見なければ吸わないかもしれない、と思うと拒否する事も怖い。

「すみません。お借りします。」
と仕方なくセドリックの王子の服をギュウっと掴んで、目を瞑った。
腰にセドリックの腕が回された。

ガタン!
ひとつ大きく揺れて、ゴンドラが動き出す。

セドリック王子の服を掴む指に力を入れると、私を抱き込んだセドリック王子の腕にも力が込められたのがわかる。

「揺れる。」
セドリック王子が囁く。

えっ!?

ガタン、ガタン。
何かに乗り上げるように2回揺れた。

「揺れる。」
また同じ事を言って、ガタン、ガタンと2回揺れた。

どこかの繋ぎ目に乗り上げる時にゴンドラは大きく揺れる。

…大丈夫、大丈夫。
自分にひたすらに言い聞かせながら、何も見ず、何も考えず、禍を受け入れてしまわないようにする。

ピリっと耳に刺激があった。
多分霧の中に突っ込んだサイン。
ロサ姫のお墓に初めて行った時のような、ピリピリと身体に突き刺さってくる刺激を受ける感覚がする。

(…入れちゃダメ!)
そう思うのに、ピリピリしたものはどんどん身体中に広がっていく。

だめ!ダメ!
入れちゃだめ!

身体の閉じ方なんか知らない事に気付いたら、もうダメだった。

「揺れる。」

あっ、ゴンドラがまた揺れるんだ。
意識が揺れに身構えてしまった時、それは一気に身体の中に入ってきて広がってしまった。

「うっ…あっ。」
熱い熱の塊が、身体の中を駆け巡る。
グルグルとした渦が身体の中でとぐろを巻く。

「神子?」

セドリック王子が身体を揺さぶる。

「ヤダ!触らないで!」
つい荒い声でセドリック王子を拒絶してしまった。

「神子!」

神子じゃない。
レオは私を神子とは呼ばない!

「…レオ、レオ!!」

セドリック王子が何かを叫んでる。だけどそれは頭に入ってこない。
熱に身体が支配されていく。

「レオ!レオ!!いやぁ、レオ!!」
気持ちが悪い、吐いてしまいたくなる。
ここにレオがいないのが、耐えられない。
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