亡国の王子に下賜された神子

枝豆

文字の大きさ
上 下
78 / 152
穢れた国

船路

しおりを挟む
サッカランから馬車に乗せられて、目指したのはネサンス川の河口近くの街だった。
ここから船で川を遡り、セブー湖を目指す。

「船路にした理由はわかりますか?」
教授の授業は続いている。
「…私が逃げないように、なんて。」
「そうです、よく出来ました。いいですか?余計な事は考えないように。」
「…えっ!あっ、はい。」

船に乗ってから、教授に縛り付けていた腰の綱は無くなり、一見私達は自由意志で船にいるように見える。
セドリック王子も気が緩んだのか、私達に張り付くようにはしなくなり、教授と2人で部屋に入って籠る事も出来るようになった。
…だから逃げる相談をしようと思ったのに、
先に教授に牽制されちゃった。

「レオ達はおそらく陸路でしょう。時間は船の方が早いと思います。その時間差を利用して、サキカにセドリック王子も守護者の資格がある事を認めさせるつもりなのだと思います。
なので、わかりますね。」

セドリック王子はハッキリと「私が逃げたらレオ達が殺される。」みたいな事は言わない。
ただ安全に開放するみたいな事も言わない。

「レオなしで浄化出来るとは思えません。」
「…それは確かめないとと言いましたよ。」
「…そうでしたね。」
教授は「セドリックにも資格があるかもしれない事は否定してはダメだ。」
と口酸っぱく言い続けている。
それがレオ達を助け出す為の肝になるから、と。

「…サキカ。これを。」
と渡されたのは教授の研究ノートだった。
「声を出さないで読んでください。」
と冒頭に走り書きされたメモがある。

過去の神子達の能力についてまとめた部分だった。
キュイエやドュシエの他に、「バラッシュ・放出、禍を禍のまま身体から出し、対象物に入れる。」
と書いてあった。

「教授、これって…。」
教授が人差し指を口元に当てる。

「私の考察です。マークはこれをしたのではないか?と。サキカはどう思いますか?」
「私はこの力については誰からも聞いてません。
マークさんが、湖に禍を放出したって事ですか?」

禍を禍のまま身体から出す、そんな事聞いてない。
単純に対象物って何?

「でなければある場所で急激に禍が溢れた説明はつかないでしょう?
出せるなら入れられる、そう思いますけどね。

神子にそんな力がある事は、神殿としては誰にも知られたく無かったのだと思います。」

そっか、きっとマークさんは禍をそのままどこかに放出してしまった。
どこかって、それはきっとひとつしかない。
セブール湖の禍は湧いたんじゃない、マークさんが放出した。
わざとなのか、偶然や無意識のうちになのかはわからないけど。

「この事を知っている人はいるんですか?」
「今はいないと思います。カーンモアという国にいた神子の覚え書きにあった記述です。ですがずっと想像していました。禍を自由自在に集めたり形を変えられる者は限られています。
レオがいないのです、万が一に備えて頭の片隅に置いておくと良いでしょう。」

はい、と答えたんだけど。
禍を禍のまま出す必要があるとは思えなかった。

「教授、聞いても?」
「はい、なんでしょう。」
昇華イレイエについてわかっている事はありますか?」

ゴチャついた政争はさておいて、禍をなくして世界の秩序が整えてしまえば私の価値は無くなる。
きっとその先に未来がある。
元の世界に帰るにしろ、ここに残って生きていくにしろ、自由が欲しかった。
郷土愛、愛国心、土地や所属に拘る感情はみんなには悪いけれど、私にはないに等しい。

「囲われたり攫われたりする身分なんて要らない。」
突き詰めると私の願いはこれにつきる。

「さっさと終わらせてしまいたいの。そのために昇華イレイエは出来た方がいいと思うから。」

「…可能性がある神子の記述はひとつですね。イマジネーション、だそうですよ。」

イマジネーション、想像?

「はい、そうです。そう願い想像すれば、神子は禍を自在に操れるのだそうですよ。」

禍を禍じゃない形に変えるって事かな?
「…わかりません。どんな形にするんでしょう?」
「さあ?こればかりは…。」
「…ですよね…。」

うーん、困ったなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...