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穢れた国
船路
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サッカランから馬車に乗せられて、目指したのはネサンス川の河口近くの街だった。
ここから船で川を遡り、セブー湖を目指す。
「船路にした理由はわかりますか?」
教授の授業は続いている。
「…私が逃げないように、なんて。」
「そうです、よく出来ました。いいですか?余計な事は考えないように。」
「…えっ!あっ、はい。」
船に乗ってから、教授に縛り付けていた腰の綱は無くなり、一見私達は自由意志で船にいるように見える。
セドリック王子も気が緩んだのか、私達に張り付くようにはしなくなり、教授と2人で部屋に入って籠る事も出来るようになった。
…だから逃げる相談をしようと思ったのに、
先に教授に牽制されちゃった。
「レオ達はおそらく陸路でしょう。時間は船の方が早いと思います。その時間差を利用して、サキカにセドリック王子も守護者の資格がある事を認めさせるつもりなのだと思います。
なので、わかりますね。」
セドリック王子はハッキリと「私が逃げたらレオ達が殺される。」みたいな事は言わない。
ただ安全に開放するみたいな事も言わない。
「レオなしで浄化出来るとは思えません。」
「…それは確かめないとと言いましたよ。」
「…そうでしたね。」
教授は「セドリックにも資格があるかもしれない事は否定してはダメだ。」
と口酸っぱく言い続けている。
それがレオ達を助け出す為の肝になるから、と。
「…サキカ。これを。」
と渡されたのは教授の研究ノートだった。
「声を出さないで読んでください。」
と冒頭に走り書きされたメモがある。
過去の神子達の能力についてまとめた部分だった。
キュイエやドュシエの他に、「バラッシュ・放出、禍を禍のまま身体から出し、対象物に入れる。」
と書いてあった。
「教授、これって…。」
教授が人差し指を口元に当てる。
「私の考察です。マークはこれをしたのではないか?と。サキカはどう思いますか?」
「私はこの力については誰からも聞いてません。
マークさんが、湖に禍を放出したって事ですか?」
禍を禍のまま身体から出す、そんな事聞いてない。
単純に対象物って何?
「でなければある場所で急激に禍が溢れた説明はつかないでしょう?
出せるなら入れられる、そう思いますけどね。
神子にそんな力がある事は、神殿としては誰にも知られたく無かったのだと思います。」
そっか、きっとマークさんは禍をそのままどこかに放出してしまった。
どこかって、それはきっとひとつしかない。
セブール湖の禍は湧いたんじゃない、マークさんが放出した。
わざとなのか、偶然や無意識のうちになのかはわからないけど。
「この事を知っている人はいるんですか?」
「今はいないと思います。カーンモアという国にいた神子の覚え書きにあった記述です。ですがずっと想像していました。禍を自由自在に集めたり形を変えられる者は限られています。
レオがいないのです、万が一に備えて頭の片隅に置いておくと良いでしょう。」
はい、と答えたんだけど。
禍を禍のまま出す必要があるとは思えなかった。
「教授、聞いても?」
「はい、なんでしょう。」
「昇華についてわかっている事はありますか?」
ゴチャついた政争はさておいて、禍をなくして世界の秩序が整えてしまえば私の価値は無くなる。
きっとその先に未来がある。
元の世界に帰るにしろ、ここに残って生きていくにしろ、自由が欲しかった。
郷土愛、愛国心、土地や所属に拘る感情はみんなには悪いけれど、私にはないに等しい。
「囲われたり攫われたりする身分なんて要らない。」
突き詰めると私の願いはこれにつきる。
「さっさと終わらせてしまいたいの。そのために昇華は出来た方がいいと思うから。」
「…可能性がある神子の記述はひとつですね。イマジネーション、だそうですよ。」
イマジネーション、想像?
「はい、そうです。そう願い想像すれば、神子は禍を自在に操れるのだそうですよ。」
禍を禍じゃない形に変えるって事かな?
「…わかりません。どんな形にするんでしょう?」
「さあ?こればかりは…。」
「…ですよね…。」
うーん、困ったなぁ。
ここから船で川を遡り、セブー湖を目指す。
「船路にした理由はわかりますか?」
教授の授業は続いている。
「…私が逃げないように、なんて。」
「そうです、よく出来ました。いいですか?余計な事は考えないように。」
「…えっ!あっ、はい。」
船に乗ってから、教授に縛り付けていた腰の綱は無くなり、一見私達は自由意志で船にいるように見える。
セドリック王子も気が緩んだのか、私達に張り付くようにはしなくなり、教授と2人で部屋に入って籠る事も出来るようになった。
…だから逃げる相談をしようと思ったのに、
先に教授に牽制されちゃった。
「レオ達はおそらく陸路でしょう。時間は船の方が早いと思います。その時間差を利用して、サキカにセドリック王子も守護者の資格がある事を認めさせるつもりなのだと思います。
なので、わかりますね。」
セドリック王子はハッキリと「私が逃げたらレオ達が殺される。」みたいな事は言わない。
ただ安全に開放するみたいな事も言わない。
「レオなしで浄化出来るとは思えません。」
「…それは確かめないとと言いましたよ。」
「…そうでしたね。」
教授は「セドリックにも資格があるかもしれない事は否定してはダメだ。」
と口酸っぱく言い続けている。
それがレオ達を助け出す為の肝になるから、と。
「…サキカ。これを。」
と渡されたのは教授の研究ノートだった。
「声を出さないで読んでください。」
と冒頭に走り書きされたメモがある。
過去の神子達の能力についてまとめた部分だった。
キュイエやドュシエの他に、「バラッシュ・放出、禍を禍のまま身体から出し、対象物に入れる。」
と書いてあった。
「教授、これって…。」
教授が人差し指を口元に当てる。
「私の考察です。マークはこれをしたのではないか?と。サキカはどう思いますか?」
「私はこの力については誰からも聞いてません。
マークさんが、湖に禍を放出したって事ですか?」
禍を禍のまま身体から出す、そんな事聞いてない。
単純に対象物って何?
「でなければある場所で急激に禍が溢れた説明はつかないでしょう?
出せるなら入れられる、そう思いますけどね。
神子にそんな力がある事は、神殿としては誰にも知られたく無かったのだと思います。」
そっか、きっとマークさんは禍をそのままどこかに放出してしまった。
どこかって、それはきっとひとつしかない。
セブール湖の禍は湧いたんじゃない、マークさんが放出した。
わざとなのか、偶然や無意識のうちになのかはわからないけど。
「この事を知っている人はいるんですか?」
「今はいないと思います。カーンモアという国にいた神子の覚え書きにあった記述です。ですがずっと想像していました。禍を自由自在に集めたり形を変えられる者は限られています。
レオがいないのです、万が一に備えて頭の片隅に置いておくと良いでしょう。」
はい、と答えたんだけど。
禍を禍のまま出す必要があるとは思えなかった。
「教授、聞いても?」
「はい、なんでしょう。」
「昇華についてわかっている事はありますか?」
ゴチャついた政争はさておいて、禍をなくして世界の秩序が整えてしまえば私の価値は無くなる。
きっとその先に未来がある。
元の世界に帰るにしろ、ここに残って生きていくにしろ、自由が欲しかった。
郷土愛、愛国心、土地や所属に拘る感情はみんなには悪いけれど、私にはないに等しい。
「囲われたり攫われたりする身分なんて要らない。」
突き詰めると私の願いはこれにつきる。
「さっさと終わらせてしまいたいの。そのために昇華は出来た方がいいと思うから。」
「…可能性がある神子の記述はひとつですね。イマジネーション、だそうですよ。」
イマジネーション、想像?
「はい、そうです。そう願い想像すれば、神子は禍を自在に操れるのだそうですよ。」
禍を禍じゃない形に変えるって事かな?
「…わかりません。どんな形にするんでしょう?」
「さあ?こればかりは…。」
「…ですよね…。」
うーん、困ったなぁ。
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