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穢れた国
気の緩み
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サッカランの教会はラグマイトの崖をくり抜いて作ったまるで遺跡のような建物だった。
中は剥き出しの石のままではなくて、白く塗料が塗られて、窓も大きく開けられていて、思ったよりも明るい。
それでも光が入らない奥の方は真昼でも蝋燭の灯りが欠かせないそうだし、換気も悪いのであまり奥には入らないように、との注意が案内の童からされた。
「司祭様はただいま来客中ですので、ここでしばらくお待ちください。」
と私達を残して童は部屋から出て行った。
「少し外を見ていい?」
比較的高いところにある教会の窓からはサッカランの街を見下ろせる。
白いラグマイトの建物がどこまでも続いていて、所々濃い緑色の樹木が植えられている。
建物が途切れた先にはすこし荒れた砂漠が広がり、所々に小さな集落が見える。
「綺麗な街並みね。ここが禍に悩んでいる国だとは思えない…。」
元の世界なら間違いなく世界遺産に認定される。今まで見たどこよりも綺麗な街並みだった。
「サキカ。少し聞いても良いですか?」
教授が畏まって尋ねてくる。
「何でしょう?」
「サキカの世界の事を少し教えて貰っても?」
「はい、良いですよ。」
嬉しそうに教授は鞄から大きな地図を1枚ひろげた。
「あっ、世界地図!」
見たとこがあるその地図は元の世界の世界地図だった。
見慣れている日本が真ん中にあるものではなく、大西洋が真ん中にある欧州版の世界地図。
「見たことがありそうですね。サキカの国はどこですか?」
ココです、と日本列島を指した。
「サトーと同じ国ですね。」
「みたい、ですね。これ、すごいですね。どうしたんですか?」
「海洋を旅していた時に乗っていた船が沈没した、という神子が持ってきたものを写しました。」
ほうー、凄いなぁ。
「サキカは2000年代、でしたよね?」「ええ、産まれたのは2008年、こちらに来たのは2023年の夏です。」
「良かった、賢き神子の時代です。」
「…賢き神子?」
教授の話だと、自分が生きていた場所や時代の事しか知らない人も、この世界よりももっと遅れた文明時代の人も色々いたそうだ。
逆に凄く先の未来から来た人もいるのか聞いてみたところ、いるらしい。
「しかし、賢いかはまた別です。」
とも言う。
賢い…ある程度理性的にこの世界に来たことを受け入れられる時代の人、ということらしい。
もっと錯乱したり、頑なに否定したり、何も出来なかったり、逞しく生きていったり、様々。
私がいた時代はそういう意味ではSFやファンタジー系の話に溢れていたと思う。
「デンキがなければなにも出来ないと言う神子もいたんですよ。炎を初めて見たとか。」
あー、未来から来た人はそうかも。
逆に直火調理がキャンプじゃなくて日常だったり。
「決して他の時代の神子が愚かだとしたいのでは無くて…。」
辛口の教授にしては珍しくフォローするような言い方。
「いえ、わかります。話が通じるか通じないか、ですよね。受け入れる素養があるかないかとか。」
「そうです、わかってもらえると助かる。 ある程度理性的で程よく理論的で、謙虚で。宗教的概念を持っていて、権力に溺れる事もなく…なかなか身勝手で難しい注文なのは承知しています。
…サキカなら、きっと私の長年の疑問を晴らしてくれるかもしれないと信じられました。」
「長年の疑問、ですか?」
「はい。特に権力や能力を欲する神子では聞けないと思っていた事があるのです。
今日はお疲れでしょうから、また日を改めて聞かせてくださいますか?」
「もちろん。私が答えられる事ならなんでも聞いて下さい。
ただ私、まだ向こうでは子供なんです。足りない知識もありますから、どうかお手柔らかに。」
ははは、っと教授が笑ってくれたから、私もテヘヘっと笑ってみせた。
さっき出て行った童がコップに水を入れて戻ってきた。
「どうぞ。」
と差し出されたのは切ったレモンが浮いている。
美味しそう!
長い階段を登ってきたことも重なって、一気に飲み干した。
「うん、美味しい!」
「…まだありますよ。おかわりしますか?」
「はい!お願いします。」
私は立て続けて2杯飲み干して。
…眠くなった。
中は剥き出しの石のままではなくて、白く塗料が塗られて、窓も大きく開けられていて、思ったよりも明るい。
それでも光が入らない奥の方は真昼でも蝋燭の灯りが欠かせないそうだし、換気も悪いのであまり奥には入らないように、との注意が案内の童からされた。
「司祭様はただいま来客中ですので、ここでしばらくお待ちください。」
と私達を残して童は部屋から出て行った。
「少し外を見ていい?」
比較的高いところにある教会の窓からはサッカランの街を見下ろせる。
白いラグマイトの建物がどこまでも続いていて、所々濃い緑色の樹木が植えられている。
建物が途切れた先にはすこし荒れた砂漠が広がり、所々に小さな集落が見える。
「綺麗な街並みね。ここが禍に悩んでいる国だとは思えない…。」
元の世界なら間違いなく世界遺産に認定される。今まで見たどこよりも綺麗な街並みだった。
「サキカ。少し聞いても良いですか?」
教授が畏まって尋ねてくる。
「何でしょう?」
「サキカの世界の事を少し教えて貰っても?」
「はい、良いですよ。」
嬉しそうに教授は鞄から大きな地図を1枚ひろげた。
「あっ、世界地図!」
見たとこがあるその地図は元の世界の世界地図だった。
見慣れている日本が真ん中にあるものではなく、大西洋が真ん中にある欧州版の世界地図。
「見たことがありそうですね。サキカの国はどこですか?」
ココです、と日本列島を指した。
「サトーと同じ国ですね。」
「みたい、ですね。これ、すごいですね。どうしたんですか?」
「海洋を旅していた時に乗っていた船が沈没した、という神子が持ってきたものを写しました。」
ほうー、凄いなぁ。
「サキカは2000年代、でしたよね?」「ええ、産まれたのは2008年、こちらに来たのは2023年の夏です。」
「良かった、賢き神子の時代です。」
「…賢き神子?」
教授の話だと、自分が生きていた場所や時代の事しか知らない人も、この世界よりももっと遅れた文明時代の人も色々いたそうだ。
逆に凄く先の未来から来た人もいるのか聞いてみたところ、いるらしい。
「しかし、賢いかはまた別です。」
とも言う。
賢い…ある程度理性的にこの世界に来たことを受け入れられる時代の人、ということらしい。
もっと錯乱したり、頑なに否定したり、何も出来なかったり、逞しく生きていったり、様々。
私がいた時代はそういう意味ではSFやファンタジー系の話に溢れていたと思う。
「デンキがなければなにも出来ないと言う神子もいたんですよ。炎を初めて見たとか。」
あー、未来から来た人はそうかも。
逆に直火調理がキャンプじゃなくて日常だったり。
「決して他の時代の神子が愚かだとしたいのでは無くて…。」
辛口の教授にしては珍しくフォローするような言い方。
「いえ、わかります。話が通じるか通じないか、ですよね。受け入れる素養があるかないかとか。」
「そうです、わかってもらえると助かる。 ある程度理性的で程よく理論的で、謙虚で。宗教的概念を持っていて、権力に溺れる事もなく…なかなか身勝手で難しい注文なのは承知しています。
…サキカなら、きっと私の長年の疑問を晴らしてくれるかもしれないと信じられました。」
「長年の疑問、ですか?」
「はい。特に権力や能力を欲する神子では聞けないと思っていた事があるのです。
今日はお疲れでしょうから、また日を改めて聞かせてくださいますか?」
「もちろん。私が答えられる事ならなんでも聞いて下さい。
ただ私、まだ向こうでは子供なんです。足りない知識もありますから、どうかお手柔らかに。」
ははは、っと教授が笑ってくれたから、私もテヘヘっと笑ってみせた。
さっき出て行った童がコップに水を入れて戻ってきた。
「どうぞ。」
と差し出されたのは切ったレモンが浮いている。
美味しそう!
長い階段を登ってきたことも重なって、一気に飲み干した。
「うん、美味しい!」
「…まだありますよ。おかわりしますか?」
「はい!お願いします。」
私は立て続けて2杯飲み干して。
…眠くなった。
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