亡国の王子に下賜された神子

枝豆

文字の大きさ
上 下
69 / 152
双子の街

覚悟

しおりを挟む
子爵様に会いに行く前の日の晩、ジョージアさん達はバロスさんの家に人を集めてくれた。

来てくれた人、ひとりひとり丁寧にレオの手を借りて浄化をしていった。

「おっ、腰の痛みが消えた!」
「あら、身体が軽いわ。」
口々にみんなが体調の変化を訴えてる。その表情がとても輝いて見えるのが嬉しかった。

最後にまとめて石にして出して見せた。
鶏卵ひとつ分、それだけのものがこの小さな街に溢れていたのだ。

「…残念ですけれど、この街は禍が溢れていました。
しばらくは大丈夫かもしれませんけれど、直ぐにまた元の状態に戻ります。原因が排除されない限り、少しずつ少しずつ禍は集められていくでしょう。
では、取り除かなければならない原因はなんだと思われますか?」
と尋ねる。

誰も答えようとしない。
それを認める事が難しいのはよくわかる。

「どうしてだと思いますか?」
バロスさんに尋ねると、バロスさんは
「嘘をつき、秘密を抱えて、捕縛や追放に怯えて暮らしているからだと思います。」
と答える。

そう。ストレスは万病の元、この街の人々を苦しめているのは、行き来できない街を行き来している事への罪悪感。
本来なら持つ必要がなかった罪悪感だ。

「なぜそれでも秘密を守り続けるの?」
単純な疑問。
こんな馬鹿げた法律に黙って従ってしまったのは?そして中庭の存在を頑なに秘密にし続けた理由は何?

答えは簡単。
「向こうに大切な人がいるから。」
「向こうに大切な人がいる人を知っているから。」

「ブランからの提案です。中庭の存在を公にしましょう。
そして皆で罰を受けて罪を償いませんか?」

レオの言葉に皆が黙り込む。
…罰を受けるという事は、捕縛されて、追放されるという事。

初め聞かされた時はみんなが驚いた。私だけじゃなく、教授もジョージアさんも、だ。

だけども思った。
秘密を守り続けることが禍を集める事になるなら、それは守るに値する秘密じゃないんだ、って。

「私も渡りますよ。南にレオがいるんだから。」
すこしでも不安は取り除いて欲しいから、ニッコリ笑って見せた。

「僕は既に渡った。こちらに大切な神子がいるから。守護者としてのプライドだ。僕は常に神子の側にあり続けなければならなかったんだから。」
レオの堂々とした説得は続いた。

「神子と守護者を捕縛できるならしてみればいい。街を渡った事が罪だというのならば、この街の全ての人が咎人だ。
皆で街を出る覚悟を持てば、このおかしな法律をやめさせる事が出来る。」

これは、赤信号、みんなで渡れば怖くない、だ。
ひとりでも多い方がより効果的になる。
だから必死になったと思う。
中庭も、みんなで渡れば怖くない。
…きっとみんなわかってくれる。

「この街からみんなが出る覚悟をみせるのは、自分の暮らしと健康の為よ。
このまま怯えて暮らしていくなんてもうやめませんか?
人の暮らしを守れない領主なんて要らないし、住んでるだけで病んでいく街なんて要らないわ。
立ち上がりましょう?そしてこんな馬鹿げた法律を無くしましょう?
みんなが安心して暮らしていくために。」

明日、覚悟ができた人は教会前の広場に来て欲しいと伝えた。

同じことを南の温泉でも、北の浴場でもやった。

最後にサリーさんの所に行った。
サリーさんは既に街のみんなから話を聞いて覚悟を決めていた。

「このまま泣いてばかりいたら、お腹の子にもよくありません、それには…やっぱりこの子には父親が…。」

行政長官の息子は、どちらかいえば非難されてもおかしくはない立場の人でもある。

「リュシルーを庇いたい守りたいという気持ちはもちろんあります。
…だけど、私はお腹の子も守りたい。
3人で共に生きる道があるならば、諦めたくはないです。」

「大丈夫ブランが約束する。絶対にサリーを護る。
みんなにとって輝く光の道があることを信じてくれ。」

はい、とサリーさんが頷いた。
「明日、堂々とリュシルーに会いに行こうと思います。」

強くて綺麗な瞳だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

処理中です...