亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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双子の街

真実の姿

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ジョージアさんとナタリアさんに改めて中庭を見せて貰った。

「こんな物があったのね。」
分断された街は完全な分断じゃなかった。

「割と気楽に行き来するのか?」
とレオが尋ねる。
ジョージアさんの答えは、
「ええ、南の温泉に入ったこともありますよ。息子が南におりますが、夕食は一緒に食べます。」
だった。

息子のオソロは今ラグーの温泉施設建設に掛り切りになっているとジョージアさんは言う。
そのためサリーさんのところとは違って、南の街の仕事ですらジョージアさんが担う事さえもあるらしい。

「じゃあ、南北の人が結婚する事もあるのか?」
「さすがに領主の許可が必要になりますので、事実婚になります。
何組かいたはずです。
しかしなるべくならば避けたいと皆が思っています。」

ジョージアさんにさっき倒れていたサリーさんを私に任せて皆がどこかに行ってしまった話をすると、
「街を巡回している私兵隊ならサリーを運ぶために手を貸してくれたと思います。
しかし南の人が北で目立つ事をすれば、咎められ、捕縛される可能性もあります。
南の住人がその中にいた場合を考えると…迂闊に私兵隊には頼れません。
旅人で馬車に乗っているサキカ様なら、私兵隊に変に疑われずサリーを運べる、そう考えての事…だと思いたいです。」

時に非情にならないとこの街の秘密は守れない、ジョージアさんはそうも言った。

「致し方ない…。悔しいですが。
私もそうしたかもしれません。人としての感覚が麻痺してしまっているのです。」

西日が差し込む中庭に他の人の姿はない。
昼間は気軽に行き来しても、夜は必ず自分の街に戻る。

店も売っている物も何もかもが「双子の街」だから、本来は行き来する必要もない。
ただ、家族が、友人が、愛する人がいるから中庭を渡る。

「誤算だったんじゃないですか?」
静かにしかし冷たい声で教授がジョージアさんに尋ねた。

「本来はこんなに長く分断が続くとは思ってなかった。

それに、それぞれの暮らしに慣れたら行き来は無くなるはずだった。
人はいつか死ぬ。親が死ねば子が街を渡る理由は無くなる。

…行き来出来てしまった事が新たな悲しみを生み出している。終わりがない、哀しい事だ。
サキカ様が見たものが全てだ。この街の皆が不安を抱えて生きている。」

「…確かにそうです。
こんな馬鹿げた事が長く続くとは。ツイント子爵が弟を思うためだけに…と思うと。そして弟がいつまでもこの状態に甘んじている事も…。
分けられない物がある事に気付いて欲しいものです。」

サリーさんが子供を産んで、その子が因子持ちだとわかれば当然父親探しが始まる。

「この街で治癒の因子を持つのは行政長官夫人の血筋です。息子はリュシルー様しかいませんから直ぐにバレます。
サリーのあの話ぶりですと、リュシルー様は本気のご様子ですので、見て見ぬ振りはなさらないでしょうし、サリーは南北を行き来していた罪人にされてしまうでしょうから、子は行政長官に取り上げられてしまうかもしれません。

それよりも中庭の存在が知られたらと思うと。
一体何人が捕まるかわかりませんし、中庭は潰されるでしょう。
サリーの不安は街の不安でもあります。

…誤算だったとベネットは言われたが、余所者にはわからないかもしれませんが、中庭を作った事に後悔はないのですよ。
あの時はそれが最善だった。でなければ悲しい思いを抱えたままの人がもっとたくさんいたに違い無いのです。」

ジョージアさんの憂いを帯びた哀しい瞳を、夕日が優しく照らしていた。
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