亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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祈祷師の街

見えてはいけなかったもの

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神子の安全を考えると、ヨーシャーをいち早く抜けたかったので、サキカがこの世界で初めて過ごす街をローラン国のザンギュットという街に決めた。

ザンギュットは帝都の台所と言われ、生鮮品を始めとした大きなマーケットがある。
そこでサキカと買い物をして、この世界の見聞を広めて貰うつもりだった。

ザンギュットのマーケットで珍しい光景を見た。
神の息吹の力を街中の至る所で振るう者たちがいる。

イェオリでは禍は教会で祓う。穢れを感じたものが教会に出向いて祓っていただくのだ。
このザンギュットでは力を持つものが街へ繰り出して練り歩き、禍を祓って浄財を得ているようだ。
珍しい仕組みだと、単純にそう思っていた。

ただサキカの口数が極端に減ったのが気になる。
浄化の様子を食い入るように、時に睨みつけるように見ているのが気になる。

サキカはまた何かを見てしまっている。

気をつけよう…。
そう思った矢先、突然サキカが走り出そうとするから、慌てて腕を掴んで引き留めた。
「1人は危ない!どこに行きたいの?」
サキカは誰かを追いかけたかったようだけど、俺が引き留めたために逃げられてしまったらしく、ガッカリと落ち込むような表情を見せた。

「こういうのは普通なの?」
とサキカに聞かれて上手く答えられない。
少なくてもイェオリでは普通でない。

「わからないな。多分リマの方が詳しい。」
リマは近くの神殿で暮らしていたから、ザンギュットに来た事もあるだろう。

「そうですね、祈祷を受けたという食べ物はよく売れます。特に今は目の前で祈祷を受けたので、より安心出来ます。」

リマはそう教えてくれた。
ザンギュットからの食料は浄化をされてからヨーシャーに運搬され、さらにそれを神殿が買い上げていたらしい。
ザンギュットを通った、というだけでも安心出来る、と。

サキカが見たままの様子を教授に話しているのを横で聞いた。
教授も驚いていたけれど、それは俺も同じ。

「旅のお方、宜しければ浄化を致しますが?」
私達がただの旅人だと思ったのだろう、女性が声を掛けてきた。

…私にはおそらく禍がない、教授にもないだろう。なんたって神子と常に側にいるのだから。

「…ではお願いしようかな、いくらだ?」
そう答えたのは教授だ。
試したい、そんなところだろう。
「…そうですね、20リズでどうでしょう?」

「…どうでしたか?」
と教授に尋ねられたサキカはわからないと答えた。

「…詐欺とは言い切れないところが、難しい、そう言う事ですね。」


それからサキカはますます落ち込み、街の雰囲気を心から楽しめる様子は見られない。

…ダメか。

とりあえず宿を取り、サキカを休ませる事に決めた。
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