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ハマの儀式
神子賜り
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小舟へと引き上げられて、濡れたまま女人と共に連れてこられたのは、湖の中に見えていたあの浮島にある小さな館だった。
「ここは?」
「神子と神子の守護者のための離れになります。」
…俺、使うの?使っていいの?
小さな、けれども手の込んだ立派な館の立つ浮島に恐る恐る足を踏み入れる。
神殿の建物と同じく白亜の石を積み上げられて作られている。
神子と守護者…。
溺れた女人とそれを見兼ねて助けただけだけど、良いのかな?
…わかってる。現実逃避だよ。
あるがままに…。
なるようにしかならない…。
それがハマの儀式だと思えば、流されるように神官について行くしかなかった。
「神子様は最奥の寝台に。おそらくしばらくはお目覚めにはならないかと。」
舟に乗っていた神官がひとり、部屋の中へと案内をして行く。
「神子に直接お手を触れる事は守護者にしか出来ません。」
と言われて、毛布に包まれた女人を抱き抱えている。
この建物は…旧式の内装だと思う。
よく言えば重厚、悪く言えば古い。だけど丁寧に扱われていそう。
居室を抜けて、寝かせろと言いつけられた寝台は、ベッドというよりは小上がり。そこに豪華な布団が敷かれて、周りを天蓋が覆っている。
ソファーのようなものはなく、寝台の横に椅子がひとつ。
居室には大きな板が置かれて、周りには薄い物から大きな物まで様々な形のクッションが並べられ、やはりそこを天蓋が囲っていた。
「しばらく…とは?」
「記録によると、先代の神子は一昼夜程お目覚めにはなりませんでした。お目覚めの際には錯綜されるかと思いますので、レオボルト様はあまりお側を離れませんよう。
後ほど大神官長が参ります。ここで暫しお待ちください。」
そういって、神官はそそくさと舟に乗って行ってしまった。
舟を見送ってそのまま回廊をくるりと歩いた。外の回廊で一周できる。母屋と言うべき神殿へ続く道はなく、湖に囲まれている。
だから神官は舟でここへ来て、舟で帰って行ったのだ。
離れたくても離れられないじゃないか。
舟の行く先にある神殿をみる。
おそらくまだ続いている儀式…。
何もなければそのまま控え室に戻り、形あるものを賜った者だけが2階の大神官長の膝下へ呼ばれる…はずだった。
2階のバルコニー、おそらくアレンとサミーがいるに違いない場所を眺めた。
ひとりにされた事が怖い。
俺はどうなってしまうんだろう。
ここに取り残されてやれる事はひとつ。
レオは館に戻り、中を隈なく見て回る事にした。
大きな寝室が2つ、そのひとつには先ほどの女人が寝ている。隣に同じような寝室がひとつ。
食事をしたり雑事をするための居室がひとつ、浴室、従者の為の小さな部屋が2つ。
それだけの小さな館。
ほんの僅かな食糧すらない。
辛うじて水瓶があるが、料理場と呼べるものはなく、おそらく毎食神殿から運ばれてくるのだろう。
大した時間を掛けるまでもなく、やる事が無くなってしまった。
仕方なくクッションを抱えて床に座り込んだ。
「ここは?」
「神子と神子の守護者のための離れになります。」
…俺、使うの?使っていいの?
小さな、けれども手の込んだ立派な館の立つ浮島に恐る恐る足を踏み入れる。
神殿の建物と同じく白亜の石を積み上げられて作られている。
神子と守護者…。
溺れた女人とそれを見兼ねて助けただけだけど、良いのかな?
…わかってる。現実逃避だよ。
あるがままに…。
なるようにしかならない…。
それがハマの儀式だと思えば、流されるように神官について行くしかなかった。
「神子様は最奥の寝台に。おそらくしばらくはお目覚めにはならないかと。」
舟に乗っていた神官がひとり、部屋の中へと案内をして行く。
「神子に直接お手を触れる事は守護者にしか出来ません。」
と言われて、毛布に包まれた女人を抱き抱えている。
この建物は…旧式の内装だと思う。
よく言えば重厚、悪く言えば古い。だけど丁寧に扱われていそう。
居室を抜けて、寝かせろと言いつけられた寝台は、ベッドというよりは小上がり。そこに豪華な布団が敷かれて、周りを天蓋が覆っている。
ソファーのようなものはなく、寝台の横に椅子がひとつ。
居室には大きな板が置かれて、周りには薄い物から大きな物まで様々な形のクッションが並べられ、やはりそこを天蓋が囲っていた。
「しばらく…とは?」
「記録によると、先代の神子は一昼夜程お目覚めにはなりませんでした。お目覚めの際には錯綜されるかと思いますので、レオボルト様はあまりお側を離れませんよう。
後ほど大神官長が参ります。ここで暫しお待ちください。」
そういって、神官はそそくさと舟に乗って行ってしまった。
舟を見送ってそのまま回廊をくるりと歩いた。外の回廊で一周できる。母屋と言うべき神殿へ続く道はなく、湖に囲まれている。
だから神官は舟でここへ来て、舟で帰って行ったのだ。
離れたくても離れられないじゃないか。
舟の行く先にある神殿をみる。
おそらくまだ続いている儀式…。
何もなければそのまま控え室に戻り、形あるものを賜った者だけが2階の大神官長の膝下へ呼ばれる…はずだった。
2階のバルコニー、おそらくアレンとサミーがいるに違いない場所を眺めた。
ひとりにされた事が怖い。
俺はどうなってしまうんだろう。
ここに取り残されてやれる事はひとつ。
レオは館に戻り、中を隈なく見て回る事にした。
大きな寝室が2つ、そのひとつには先ほどの女人が寝ている。隣に同じような寝室がひとつ。
食事をしたり雑事をするための居室がひとつ、浴室、従者の為の小さな部屋が2つ。
それだけの小さな館。
ほんの僅かな食糧すらない。
辛うじて水瓶があるが、料理場と呼べるものはなく、おそらく毎食神殿から運ばれてくるのだろう。
大した時間を掛けるまでもなく、やる事が無くなってしまった。
仕方なくクッションを抱えて床に座り込んだ。
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