亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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祠の村

霧に襲われる

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築山の、柵の入り口に立った。
周りは真っ暗な霧に覆われて見える。

カイルさんが鍵を使って南京錠を外した。
ギィーと軋む音と共に柵の扉が開かれる。

「…大丈夫?」
レオが心配して聞いてきたから、うん、と答えた。
大丈夫かは本当はわからないけれど、そう言うしかないじゃない?

寒い冬の夜に熱いお風呂に入った時のように、ピリピリしたものが身体を刺してくる。
レオと気休めに手を繋いで、一歩足を踏み出した。
暗く静かな参道を4人で歩くと、重く冷たい空気に包まれる。

ただ、私の身体の中には吸収出来ない。
まだ私には大気から禍を集める事は出来ないのかもしれない。

「あれが祠です。」
目の前に小さな建物が見えた。
白い壁に赤茶の屋根。屋根は素焼きの瓦みたいに見える。小さな陶器の板を少しずつずらして重ねられている。
そして大きな金属の観音扉。やはり扉には南京錠が嵌められている。
異様にみえるのが、金属の蔦飾りだ。
祠に巻き付けられたように幾重にも蔦の飾りが施されている。

カイルがまた違う鍵を使って扉の南京錠を外した。
「…開けますよ。」
ギュッとレオと繋いだ手に力を込めた。

開けた瞬間、ブワッと黒い霧の塊が私を襲ってきた。

飲み込まれる!

そう思ってつい顔を背けたとき、私の意識は無くなったらしい。

…サキカ!
レオの声が遠くから聞こえた。






寒い…。ううん、温かい。
う?やっぱり寒い…。


目が覚めたとき、私はほぼ裸の下着姿でレオに抱き込まれていた。
ポカポカと温かい。

…ああ、副作用が出ちゃったんだな、と思った。
そしてそれはそれだけの禍があそこにあったという事。

レオはまだ眠っている。透けるように白い頬、長いまつ毛。眠っている姿は芸術的に美しい。

ここ、どこだろう?

レオを起こさないように周りを見回した。
天井は白く塗られた桟が格子状に組まれて、四角に区切られた場所には花の絵が描いてある。白い壁に白い家具。
全体的に白、そしてカーテンやクッションはピンクの小花柄。
ふふ、可愛い。
おそらくだけど、若い女の子の為の部屋だと思う。

フロー様のお屋敷?確かお嬢さんがいらしたような…?
あの美魔女様も驚いたかもしれない。
好きになれないと言っていたから、何か感じていたものがあったのだろう、図らずもそれを証明してしまった。

…今何時ごろなんだろう。随分と長く眠ってしまったのかもしれない。
…喉乾いたな。

レオを起こさないように気をつけてそっとベッドから抜け出そうとしたけれど、失敗したらしい。

「う…ああサキカ、目が覚めたか?」
「おはよう。」
ふふ、とレオが微笑む。
「多分まだ朝じゃない。」

カーテンの向こう側は明るい。たぶん夕方。
2~3時間ほど眠ったようだ。

「前に比べると短い…の?」
「違う、過去最高だと思う。丸1日だ。」
「そ、そんなに!?」
そりゃ喉も乾くはず。

レオが起きて水差しからコップに水を移して渡してくれる。

レオはパンツしか履いていないからほぼ裸で、二の腕や腹筋の筋肉をつい見てしまう。

目のやり場に困って、掛け布団の中に慌てて頭まで潜る。

「…何か着たい。」
わたしだって似たような格好だ。多分ショーツとスリップ姿。この世界にブラジャーに当たるような物はなく、スリップの胸の部分が二重になっていて、アンダーバストで切り替えがある。ノンワイヤーのブラスリップが正しい言い方かもしれない。

気絶した時に誰かが上に着ていたドレスを脱がしたらしいので、それがレオではなくリマだと良いなぁ、と願うだけだ。

レオがガウンを手渡してくれた。
布団の中でもぞもぞとそれを着込んでから起きる。
レオからコップを受け取って、ごくごくと飲んだ。

「はあーっ、少し落ち着いた。」

副作用が起きたという事は私の器がまた大きくなったのだろうか。
「ねえ、どのくらいの石を出したの?」
「…それが全く出しではいないんだ。」

結晶ドュシエしてない?
という事は私の中に溶け込んだのだろうか。
私の身体はそんなにはダメージは残っては無さそうだ。

「ねえ、ここはどこ?」
「カイルの家だ。」
「…カイル?ウソでしょう?こんなに可愛いのに…。」

「いいや、カイルの家だよ。ただカイルの趣味じゃないだけ。
…カイルは渋っていたよ、ここに僕達を連れてくるのを。教授が押し切ったんだけど…。まあ起きたら、色々わかるよ。」

どうしてかわからないけれど、レオはニヤニヤと笑っている。
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