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王都ヨーシャー
学長と教授
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帝国アカデミー、ブラン学長はダンディを絵に描いたような人だった。
濃緑のジャケットにお揃いのパンツは、英国紳士のようにも見える。
それもそのはずで、先代の神子マークさんの好んだファッションをまねしてるのだそうだ。
先代の神子、イギリス人だった、しかも男の人!
昨日マリー様が先触れを出してくださっていて、学長だけでなく神子研究の権威、ベネット教授も初めから同席してくれていた。
まず、学長の話から聞いた。
ブラン学長の話は因子についてだった。アレン様は主因と副因と仰ったけれど、学長は、全ての人が目に見えず感じ取る事がない因子をたくさん持っていると推察していた。
ひとつの因子に拘る高位貴族家は同族結婚
時に近親婚に拘る。すると1人が持つ因子の数は少ないが、その分濃く強くなるそうだ。
ブラン家のように様々な家柄が混ざり合った家系では、1人がたくさんの因子を持っている可能性があり、教育や拠る環境で、どれかが表に表れてそれを伸ばしていけると学長は考えていた。
だからレオが神の息吹の因子を持っていてもおかしくは無いし、あまりその事を意識せず、自分が欲するままに学んでいけば、自ずと必要な因子は育ってくると言ってくれた。
学長はおそらく私よりも「ブラン」のレオの心持ちの方が心配だったのかもしれない、と思う。
だって。
レオの表情が明るくなったから。
何がレオを苦しめていたかはわからないけれども、学長の言葉がレオを掬い上げたに違いない。
神子を学問として研究していたベネット教授は、私達の質問に答えるという問答形式で「授業」をしてくださった。
私が聞きたいのは、どうやったら旅をし続けながら神子としての責任を全う出来るのか?に尽きる。
皇妃様たちは一箇所に留まり、穢れを吸い上げた人を集めて浄化するシステムを構築していた。
だから神殿や王宮が一か所にいて欲しいと思うのは理解できる。
すると教授は「巡行」を勧めてくれた。
旅をしながら浄化をする。
神子だと身分を明かし、行き先を先に触れておく。
どこか目印にとなる場所を決めておけばその辺りに住まう人が集まるのではないか?
「神殿、城、領主館、各地のアカデミーなら、協力を得られると思います。」
そう言ってくれたけど、なんか違うと思った。
旅の主体はレオだと思うから。
「神子だと明かしたくは無いのです。」
「お忍びで、という事ですか?」
「はい…。」
私の言葉に教授は黙り込み、レオは慌てた。
「サキカ、私のことは後でいい!」
それはダメ、と突っぱねた。
こういうのは最初が肝心だと思う。
「問題は如何様にして、禍を持つ者を見つけるか、ですね。」
ベネット教授がため息を吐きながら呟いた。
あれっ?それ迷うとこじゃないかも。
レオを見つめた。
話してもいい?
レオが迷っているふうだったから、私が決めた。
話す!と。
「私、どうやら禍を溜め込んでいるものが見分けられそうなんです。」
黒や灰色にくすんで見える、濃い薄いも見分けられそうな事を伝えると、教授はポカンと口を開いた。
「わかるのですか?」
「はい。多分…。」
教授は
「少し咀嚼する時間を下さい。」
と物思いに耽る。
横でそれを見ていた学長は何かに呆れるように、また何かを諦めたように、息を吐いた。
「こうなると厄介なんです。」
と私に向かって苦笑いをし、
「ベネット、試したい?旅に付いて行きたいんだろう?」
と教授に向かって話し掛けた。
その言葉を聞いて、ベネット教授は立ち上がった。
「良いんですか!いや、行きたい。
この目で見たい!神の力を確かめてみたい!」
ベネット教授の目はキラキラ輝いている。
うん、断れる雰囲気は微塵もなさそうだ。
ブラン学長も
「誰よりも神子と神子の守護者について詳しい者です。きっとお役に立つとお約束出来ます。」
と勧めてくれる。
私は知らない事ばかり、レオだってきっとそう。
「…いい?」
「もちろん。サキカが願うのならば。」
こうして、ベネット教授の同行が決まった。
宰相邸の大広間に人が集められた。
王城でキュイエしてもらう予定の人達とお屋敷で働く人達が混ざって並んだ。
私はその人達を分けていく。
禍を溜めている人とそうでない人と。
教授は嬉々としてそれを見守っている。
私が禍を持つと思った人はそれぞれが手を繋ぎ合い、更にひとりに禍を集めていく。
最後まで禍を集めた人の顔はどんよりと灰色に曇っている。
私はその人からキュイエをし、小豆大の小石をひとつ作った。
私に本当に神子の力があり、禍に穢された人が見分けられるか?の確かめだった。
灰色に曇った人を取り分ければいいし、禍が入ってくるのは熱さでわかるのだから、見分けることは簡単だった。
マリー様が持っていた禍に比べるとその量は大したことはなく、それは取り出したのが小さな豆粒だったことでもわかる。
「なんと素晴らしい!」
ベネット教授の瞳がキラキラと輝いている。
結果を受けて、なんとなくの旅の方向性が決まった。
旅をしながら穢されている人や場所を探す。
ある程度その地に住まう人に禍を集めてもらい、私がそれを浄化していく。
浄化が終われば次の地へと移る。
行き先は旅の主であるレオが決めればいい。
信頼できる少数の人に禍を集めて貰えれば、神子のいる場所を大々的に広める必要は無くなるから、完全とは言えないが、静かに旅を続けることは出来るだろう。
この辺りは神殿にお願いする事にした。
神殿の中にはハマ湖の水が貯められた場所があり、そこで禊をする事でも禍を薄める事ができる。そのため浄化してもらうために王城を目指す人は、途中途中で神殿に立ち寄るそうだ。
やっと、やっと。
私とレオの旅が始められる。
濃緑のジャケットにお揃いのパンツは、英国紳士のようにも見える。
それもそのはずで、先代の神子マークさんの好んだファッションをまねしてるのだそうだ。
先代の神子、イギリス人だった、しかも男の人!
昨日マリー様が先触れを出してくださっていて、学長だけでなく神子研究の権威、ベネット教授も初めから同席してくれていた。
まず、学長の話から聞いた。
ブラン学長の話は因子についてだった。アレン様は主因と副因と仰ったけれど、学長は、全ての人が目に見えず感じ取る事がない因子をたくさん持っていると推察していた。
ひとつの因子に拘る高位貴族家は同族結婚
時に近親婚に拘る。すると1人が持つ因子の数は少ないが、その分濃く強くなるそうだ。
ブラン家のように様々な家柄が混ざり合った家系では、1人がたくさんの因子を持っている可能性があり、教育や拠る環境で、どれかが表に表れてそれを伸ばしていけると学長は考えていた。
だからレオが神の息吹の因子を持っていてもおかしくは無いし、あまりその事を意識せず、自分が欲するままに学んでいけば、自ずと必要な因子は育ってくると言ってくれた。
学長はおそらく私よりも「ブラン」のレオの心持ちの方が心配だったのかもしれない、と思う。
だって。
レオの表情が明るくなったから。
何がレオを苦しめていたかはわからないけれども、学長の言葉がレオを掬い上げたに違いない。
神子を学問として研究していたベネット教授は、私達の質問に答えるという問答形式で「授業」をしてくださった。
私が聞きたいのは、どうやったら旅をし続けながら神子としての責任を全う出来るのか?に尽きる。
皇妃様たちは一箇所に留まり、穢れを吸い上げた人を集めて浄化するシステムを構築していた。
だから神殿や王宮が一か所にいて欲しいと思うのは理解できる。
すると教授は「巡行」を勧めてくれた。
旅をしながら浄化をする。
神子だと身分を明かし、行き先を先に触れておく。
どこか目印にとなる場所を決めておけばその辺りに住まう人が集まるのではないか?
「神殿、城、領主館、各地のアカデミーなら、協力を得られると思います。」
そう言ってくれたけど、なんか違うと思った。
旅の主体はレオだと思うから。
「神子だと明かしたくは無いのです。」
「お忍びで、という事ですか?」
「はい…。」
私の言葉に教授は黙り込み、レオは慌てた。
「サキカ、私のことは後でいい!」
それはダメ、と突っぱねた。
こういうのは最初が肝心だと思う。
「問題は如何様にして、禍を持つ者を見つけるか、ですね。」
ベネット教授がため息を吐きながら呟いた。
あれっ?それ迷うとこじゃないかも。
レオを見つめた。
話してもいい?
レオが迷っているふうだったから、私が決めた。
話す!と。
「私、どうやら禍を溜め込んでいるものが見分けられそうなんです。」
黒や灰色にくすんで見える、濃い薄いも見分けられそうな事を伝えると、教授はポカンと口を開いた。
「わかるのですか?」
「はい。多分…。」
教授は
「少し咀嚼する時間を下さい。」
と物思いに耽る。
横でそれを見ていた学長は何かに呆れるように、また何かを諦めたように、息を吐いた。
「こうなると厄介なんです。」
と私に向かって苦笑いをし、
「ベネット、試したい?旅に付いて行きたいんだろう?」
と教授に向かって話し掛けた。
その言葉を聞いて、ベネット教授は立ち上がった。
「良いんですか!いや、行きたい。
この目で見たい!神の力を確かめてみたい!」
ベネット教授の目はキラキラ輝いている。
うん、断れる雰囲気は微塵もなさそうだ。
ブラン学長も
「誰よりも神子と神子の守護者について詳しい者です。きっとお役に立つとお約束出来ます。」
と勧めてくれる。
私は知らない事ばかり、レオだってきっとそう。
「…いい?」
「もちろん。サキカが願うのならば。」
こうして、ベネット教授の同行が決まった。
宰相邸の大広間に人が集められた。
王城でキュイエしてもらう予定の人達とお屋敷で働く人達が混ざって並んだ。
私はその人達を分けていく。
禍を溜めている人とそうでない人と。
教授は嬉々としてそれを見守っている。
私が禍を持つと思った人はそれぞれが手を繋ぎ合い、更にひとりに禍を集めていく。
最後まで禍を集めた人の顔はどんよりと灰色に曇っている。
私はその人からキュイエをし、小豆大の小石をひとつ作った。
私に本当に神子の力があり、禍に穢された人が見分けられるか?の確かめだった。
灰色に曇った人を取り分ければいいし、禍が入ってくるのは熱さでわかるのだから、見分けることは簡単だった。
マリー様が持っていた禍に比べるとその量は大したことはなく、それは取り出したのが小さな豆粒だったことでもわかる。
「なんと素晴らしい!」
ベネット教授の瞳がキラキラと輝いている。
結果を受けて、なんとなくの旅の方向性が決まった。
旅をしながら穢されている人や場所を探す。
ある程度その地に住まう人に禍を集めてもらい、私がそれを浄化していく。
浄化が終われば次の地へと移る。
行き先は旅の主であるレオが決めればいい。
信頼できる少数の人に禍を集めて貰えれば、神子のいる場所を大々的に広める必要は無くなるから、完全とは言えないが、静かに旅を続けることは出来るだろう。
この辺りは神殿にお願いする事にした。
神殿の中にはハマ湖の水が貯められた場所があり、そこで禊をする事でも禍を薄める事ができる。そのため浄化してもらうために王城を目指す人は、途中途中で神殿に立ち寄るそうだ。
やっと、やっと。
私とレオの旅が始められる。
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