亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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ハマの儀式

この世界の理

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泣いて足掻いて諦めた私はとりあえず現実をきちんと見つめてみる事にした。

…異世界転移。
ファンタジーでよく見る異世界。ルールも常識も全く違うと想像できる。
魔法とかスキルとかが普通に溢れている世界かもしれない。

だからまずはこの世界の事を知ろう。それからレオは「帰れない。」と言ってるけれど、それも本当か嘘かは自分で確かめてみないとわからないし。

と、いうわけで!

私がこの世界の事をまず最初に聞いたのは、私が目覚めてからずっと側にいるレオだった。
レオは私を優しく慰めてくれる時もあれば、放っておいてくれる事もあった。
日常の細々とした世話だけでなく、戸惑いも怒りも嫌な顔ひとつせずに受け止めてくれていた…と思う。
感情の起伏が激しかった自覚はある。それでもじっとレオは私の側にいてくれた。

感情の波が収まって我に返った時、レオに対しては申し訳ない気持ちになる。
そして、この人の言う事ならきっと信用できるんじゃないかな、それくらい私はこの人の事を受け入れ始めている。

だからレオに
「この世界のことを教えて欲しい。」
と頼んだ。

レオはやっぱり嫌な顔ひとつせずに、どこから話そうか?と聞いてくれる。

だからまずは
「ここはどこ?」
と聞いた。
それから
「なんで私はこの世界に呼ばれたのか?」
を聞いた。

ここはハマという神様のいるハマーン神殿で、私はハマ神からこの世界に遣わされた「神子」だと言われた。

うん、目覚めた時の話と変わらなかった。


そこでレオはきちんと神官長に話を聞くべきだと薦めてきた。
「レオがその方がいいと思うなら。」
そう答えて、ナモンという神官長さんも交えて話を聞いてみることになった。

レオと2人でナモン神官長さんの部屋に行って、話を聞く。

「あー、では。
あまつはじめのおんときに、たけだけしき…

と語り始めたナモン神官長に
「待って!」
と止めた。
それ絶対理解出来ないヤツだから!
「噛み砕いてお願いします。」

ナモン神官長は残念そうだったけど、ここで古文の勉強とかしてらんないから、我慢してもらうしかない。

そしてナモン神官長の話をザックリと纏めると…。

まず、この世界の成り立ちが神話のように語られた。

この世界は2人の光と闇の夫婦神が創った。そして地水火風の4人の子を産み、子に世界を託して去っていった。
4人の子は新たな神となって、この世界に生命を創り、秩序をもたらそうとした。

しかし4人の仲は悪かった。
特に3番目の火の神ファイと4番目の風の神ウィンの仲は最悪だった。
2人は度々衝突し、この世界を壊しかけた。

もう手に負えないと思った地の神ユレと水の神ハマは2人を眠りに付かせた。

残ったユレとハマは懸命に世界に秩序をもたらしたけれど、とうとう力尽きた。
人間に少しの力を与えて、役目を任せて、それぞれも同じく眠りについた。

それから人々はハマ神やユレ神の命のままに、この世に秩序をもたらすために生き続けている。
という話だった。

「古事記みたい。」
「コジキ?」
「ええ、あーそうですね。元の世界の私がいた国も神様が創った世界です。」

ナモン神官長にそういう伝承や神話がある、みたいには言わなかった。
…この世界の人達は「本気」な気がしたから。
真剣に神が創ったと考えている。闇雲にただ信じているという生優しい雰囲気は微塵もなかった。

で、ここはそのハマという水の女神が眠っている場所に建てられた神殿。
年に1度夏至の日に起き出すハマに新成人が将来を聞ける「ハマの託宣」という成人式がある。

どうやら私はその「ハマの託宣」の儀式で、レオという新成人に下賜された「ハマの神子」という事になる…らしい。
下賜…。私はレオにプレゼントされた、って事かと思うと少し悲しくなる。

けれどレオはこう言った。
「俺がサキカに下賜されたとも言える。サキカがこの世界で困らないようにサキカを助ける。僕はサキカの守護者として選ばれ下賜されたんだ。」

神子と守護者の絆は絶対らしい。
私は死ぬまでレオと共に生きて、レオも私と共に生きていく。
それが「神意」なのだそうだ。

「…それでいいの?」
つい聞いてしまった言葉にレオの本気が見えてしまった。
困ったような悲しそうな、なんとも言えない顔だった。
しかしレオは
「もちろん。とても光栄な事だから。」
と答えた。

きっと私はレオにとっては迷惑な存在なんだと思う。
それでも「光栄だから」と私に気を使ってくれたんだろう。

この先の事は置いておくとして、私がこの世界で生き抜くためにはレオの力を借りるしかないってことみたい。

「申し訳ないですが、よろしくお願いします。」
と頭を下げた。
レオは優しく頷いてくれた。

「ここを出ると私はどうなるの?」
「イェオリという俺の国に行く事になると思う。」
「そうですね、おそらくは。今までの神子様の場合ですと…、」
「待って!なにそれ!他にも神子がいたの?」
「…はい。」
とナモン神官長は頷く。
「会いたい!」
「…残念ながら、無理です。既にご崩御されておられます。サキカは200年ぶりの神子様ですので。」

そっか…。
自分の境遇と同じ人がいた、その人に話が聞けたら良かったな。

「前の神子様の事が気になりますか?」
「ええ、それはもちろん。」
「では、神子の研究をしている者がおりますので、その者にお会いできる様にしておきましょう。」
とナモン神官長が約束してくれた。
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