亡国の王子に下賜された神子

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ハマの儀式

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「レオボルト・ブラディール。いざ!」
神官の掛け声と共に歩き出した。

アレン、サミーと続けての下賜だ。
おそらく俺には何もない。

でも構わなかった。
既に俺は下賜をされていたようなものだったから。

新たな名と、かけがえのない絆。

放浪のブランにとって、王族と最高官僚との縁は望んでも手に入るものでは決してない。
それが今この胸の中にある。
十分だ。

清々しいほどに気分が良かった。
アレンの不安もサミーの迷いも無くなったのだから。
これからの俺は旅の中で自身で見出せば良いのだから。
だから、何の迷いも憂いもなく、紺色の湖にその身を捧げられる。

瞼を閉じて宙に飛び出した。
トプン、と足先から冷たい水に包まれていく。
下に下にと落ちていく感覚。
意外なくらいに深い。どこまでもどこまでも落ちて行った。

あっ、目を開けなければ。

ハマの姿くらいは見なくては、そう思って瞼を開いた。

あれ?

そこは一面水色の世界だった。
自然豊かな湖ではなく、どこか無機的なただ空色に塗り固められ、水を蓄えた箱の中のように見えた。

…どこだ?

これが予言なのだろうか?
ただ箱の中にいるのに?

足先が底に着くのがわかる。綺麗に磨き上げられた平な石の底だった。
その底を足で蹴って、今度は上へ上へと上がっていく。

上を見ると水面がキラキラと輝いて見えた。
そこにひとつの人影が見えた。

あれはなんだ?
その人影に向かって泳ぎ始めた。

…人形?
一瞬裸に見えるがよく見ると白い肌着のような衣を纏っている。
腕を前で交差して己を抱きしめてピクリとも動かないのは人形だから?
ゆっくりとその人形は閉じていた瞼を見開いた。

人だ!女人だ!

ハマの儀式の間、神殿からは女性は追い払われる。
どこから来たのか、なぜ儀式に紛れ込んだのかわからない。

驚きの面持ちで周りを見渡した女人は、ブワッと大きく息の固まりを吐き出してしまった。

まずい!このままだと溺れてしまう!

水を掻く力を増して、その女性の方へと泳いでいく。

もう限界なんだろう、懸命に上へと泳いでいった女人は次第に動きが緩慢になっていく。
慌ててその女人を抱えて、更に水面を目指す。

プファーッ!
水面から顔を出したとき、驚くほどに周りは静かだった。
見渡すと皆が驚きの顔でこちらを凝視している。

それはそうだろう。
女人禁制の儀式の中で、湖の中で女人がいてしかも溺れているのだから。

ウオーーーー!
突如空を引き裂くような歓声が上がる。
なんだ?どうした?

「レオボルト、おめでとう。神子だ、神子が下賜されたんだ。」
興奮が抑えきれない様子の神官を乗せた舟が近づいてくる。

…神子?
いや、違うだろ。ただ湖で溺れていた女人を助けただけなんだが。

「とりあえず引き上げてくれ。」
舟に女人を押し上げてから、舟のヘリに手を掛けた。
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