亡国の王子に下賜された神子

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ハマの儀式

儀式

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ハマーン神殿に辿り着いて、夏至までの期間は禊ぎの期間とされて特にする事は無い。
ただなんとなく三人でいつも過ごしていた。

随分と馴染めたと思う。気安く冗談も交えながら、肩を小突く程度にまでは親しくなれた。

もしアレンやサミーが俺に対して気を許そうとしなければ、辛い禊の期間になっただろう、そこは純粋に感謝している。

儀式の朝は白い服を着て、国ごとに順番を待つ。
くだらない話はするものの、儀式の事については何となく話題を避ける。

晴れ渡る青空に紺色の湖。
おおきく丸い湖を半分囲うようにハマーン神殿は聳え立っている。
湖の中に小さな浮島があり、小さな白い館が立っている。

神殿の1階の回廊は新成人でうめつくされて、2階の回廊は各地から呼ばれた神官長とこのハマーン神殿に座すナモン大神官長がハマの儀式の立会人として湖面を見下ろしていた。

「アレンディオ・イェオリ。いざ!」

神官の掛け声が掛かる。
「無心たれ。」
俺とサミーはアレンの背中を軽く叩いて送り出す。
鷹揚に頷いたアレンは回廊から湖へと伸びた桟橋へと足を踏み出した。

静まる群衆の中、ゆっくりとアレンが歩いていくのを俺とサミーは息をするのも忘れて見守る。

アレンは桟橋の端に立ち、そのまましばらく立っていた。
しかしゆっくりと面を上げ、そのまま前にジャンプした。

紺色の水面に白い波が立ち、また鏡のように静まる湖面。

数秒の後、また湖面に波が立ち、アレンの頭が現れる。
ゆっくりと掲げた右の手には何かキラキラと光る物が見える。

「…メダルだ。」
サミーの声は歓声で掻き消された。
儀式の中程になって初めての具現化された物の下賜だったからだ。

「やった!」
「よし!」
俺とサミーとはどちらともなく拳を振り、ついで抱き合って喜びを分かつ。

そのまま小舟へと引き上げられたアレンは、そのまま2階へと誘われていく。

「サミュエル・セルフェス。いざ!」
サミーが呼ばれる。
迷ったが、サミーに掛ける言葉はこれしか無いと思った。
「ハマの御心のままに。」
サミーは飛び切りの笑顔を見せてから、くるりと、踵を返した。

やはりゆっくりと桟橋を歩いて行き、そのまま止まる事なく水面に吸い込まれていく。

確率的にもサミーは何もないか、よくて予言だろう。
せめて迷いが晴れる事を願うだけだ。

しかし水面に上がってきたサミーの手には、ズッシリと重そうな剣があった。

ああ、きっと迷いは無くなった。
あの剣を手にして颯爽と駆けていくサミーが見えるようだ。

嬉しかった。
友の不安が拭われて、悩みが霧散した。
その場に立ち会えた事が自分のことのように嬉しかった。

続けての下賜に神殿は沸き立って、熱狂的な歓声の渦が巻き上がっていた。
その歓声を何処か遠くに聞いていた。

…次は自分。

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