亡国の王子に下賜された神子

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ハマの儀式

アレンの心の内

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俺と同い年の「ブラン」がいるという事を教えられたのは俺が10歳くらいだったか。

「ブランを制する者は全てを制する」のだから、いつかお前の前に「ブラン」が現れるはずだ。決してブランを敵に回すな、必ずその手の内に囲い込め、と父が言った。

「ブランの血の結束」は実は王家にとっては怖い存在だ。
200年放浪を続けているブラン、今ではどの国にもどの組織にも必ず「ブラン」はいる。

まだ若かった父が痛感したのは、隣国との外交交渉の時だそうだ。
隣国の代表は王族だったが、その補佐官が「ブラン」だった。
なのでこちらも「ブラン」を補佐官に立てるしかなかった。イェオリの王の手の内にブランはひとりしかいなかった、レオの祖父だ。

交渉は王族や外交官1人でするわけでは無い。
補佐官、その下にいる文官達が、下調べ、根回し、調整に調整を重ねる。
それを「ブラン」同士がやるのだ。
ブランの絆は、それが初対面であったとしても、家族並みの絆になる。

家族の為に交渉し、家族の為に譲歩する。
ブランを矢面に立てる事で相手の本気度が伝わる。
ブランの怖いところは必ず落とし所を探り当てると言われている事だ。

実際その時の交渉はお互いが納得して締結まで至った。
多くを失ったが、それに見合う多くを得る。
…お互いにだ。

もしこれが決裂していたら?
もしどちらか一方に極端に有利になるようならば?
それらは必ず禍根になる。
それは国として長い目で見れば決して益では無いはずだ。

難しい交渉をまとめ上げたその手柄は父のものになった。ただ詳しい事を知る者は全てを「ブラン」に投げて、最後に是と言っただけだ、という事を知っている。

祖父であった国王陛下はブランに男爵の地位を与えた。
領地と爵位でイェオリにブランを囲った。
結果として、隣国との関係は今でも友好的だし、ブラン男爵の息子はそのままイェオリの地に留まっている。

…今回だってそうだ。
託宣に弾かれたミラルカは最初は納得していなかった。
神官長は「ハマ神の託宣は絶対だ。」と抗議を押しのけようとした。

ミラルカは「不正があったのでは無いか?」と言っていた。ハマ神を疑ったのではなく、教会を神官を疑ったのだ。
それにいち早く気付いたのが、「ブラン」だった。

やり直しを求めるミラルカ、儀式は一度きりという教会。
それに対してブラン神官は「再現」という表現を使って双方を納得させた。
「不正を成し得たのか、再現してみましょう。」と。

幾度も「再現」を試みたが、結果は変わらなかった。
しかも託宣に選ばれた「ブラン」も再現に参加させた。

目の前で起こる「神秘」に、ミラルカは納得して黙るしかなくなり、教会はハマの託宣に揺るがない力がある事を見せつけることが出来た。
「ブラン」の知恵による結果。

俺の前に「ブラン」が現れた。
しかも亡国と同じ名の「ブランディール」となって。
果たしてどのような意味があるのかは今はわからない。

ハマの儀式に臨む者の絆は、損得もなく身分の差もない。
「ハマに選ばれし新成人」それだけ。

サミーとレオ。
俺と対等な立場に立つ初めての男たち。
囲い込めるかではない、大切にしたい初めての「仲間」になってくれるのだろうか。

幼い頃から親交のあったサミーはともかく、レオの周りには壁を感じる。
この壁を突き崩さなくては。

…俺に出来るだろうか。

そう思っていた矢先、先にレオの方が胸襟を開いてくれた。

イェオリにも領地にも爵位にも拘らないというレオ、まさに「放浪のブラン」そのままだ。

レオの懸念は俺にはむしろ好印象だった。
王族といえどもブランは縛れない。
ブランを縛るのは、「ブラン」として誠実である事。

どこにいても何をしていても、ブランは友を裏切らないのだから。











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