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天使が舞い降りる 皇
緊張の時間
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田辺さんは救急車で運ばれて、救急車には嶋田さんが同乗した。
近くの大学病院に直ぐに運んでくれるという。
それから寿美ちゃんは家に連絡を入れた。
行き先が決まるまでは、と嶋田さんには待たされていたからだ。
泣きじゃくってしまってさっぱり要領を得ない。
「だから、お母さんが、あのね、お母さんが…。」
「貸して。」
と寿美ちゃんから携帯を取り上げた。
「こんばんは。今日、嶋田先生のお宅で、ええ、いきなり倒れられて。意識はあるんですけど、受け答えは支離滅裂で。
救急車で大学病院に…はい、そうです、鷹野大の、ええ、救急です。
奥さまには嶋田さんのご主人が、はい、直ぐにお願いします。
寿美さんは…はい、はい、わかりました。そうさせて頂きます。」
一旦携帯を離して、
「美和子さん、田辺さんのご主人は直ぐに病院に向かうそうです。ただ家に寿美ちゃんをひとりにするのは…と。申し訳ないけれど症状がはっきりするまでここに誰かと居させて欲しい、と。」
美和子さんがもちろんよ、と答えるのを確認して、もう一度携帯を持ち直す。
「はい、大丈夫だそうです。はい、はい。ええ、わかりました。よろしくお願いします。」
と電話を切った。
「大丈夫、少し落ち着こう。着替えはある?」
着物のままだと辛いだろう。直ぐに動けないのもある。
幸い寿美ちゃんの家はここから近い。
一旦帰って着替えるという。
「付いてく。夜だし、みんなお酒入ってるし。」
と側にいることを申し出た。
少し寿美ちゃんが落ち着くまで、俺が着物を脱ぐのを待ってもらって、上着を羽織って家を出た。
「どうしよう、どうしよう。私、付いてたのに。」
田辺さんには元々持病の様なものはなく、至って健康だったそうだ。
ただ、少し風邪気味だった。
「薬は飲まなかったの、今日お酒を飲むからって。栄養剤だけ。」
ブルブルと震えているので、手を握った。
ぎゅうーっと握り込む圧が強いけれど、何も言わずに好きにさせた。
それで安心できるなら、それでいい。
田辺さんの家は本当に近くだった。
途中車で病院に向かう旦那さんとすれ違った。
「寿美、大丈夫か?」
「どうしよう、ごめんなさい。ごめんなさい。」
落ち着き掛けていた寿美ちゃんがまた泣き出す。
「大丈夫です、私が一緒にいるようにしますから。」
と田辺さんに伝える。
旦那さんは直ぐに病院に行かなくてはならないから、寿美ちゃんのことは任せてくれ、と請け負って、病院に向かってもらった。
寿美ちゃんは泣きながらもなんとか普段着に着替えて、直ぐにでも出掛けられるように身支度を整え、嶋田さんの家へと戻った。
「すみません、せっかくのクリスマスイブだったのに…。」
と俯く寿美ちゃんに、それは違うと言った。
「クリスマスだから良かったんだよ。
みんながいる前だったから、直ぐに救急車を呼べた。」
ハッ!と寿美ちゃんが息を呑む。
「そうよ、私たち目の前にいたのよ。おかしいな、変だな?と思って直ぐに倒れたの。
きっと寿美ちゃんが目の前にいても同じだったわ。
こういうのはね、ひとりで背負っちゃダメなの。
パーティーの事は気にしなくでいいの。
田辺さんが元気になったらまた集まればいいのよ。」
寿美ちゃんがボロボロと涙を溢す。
「ホラ、もう泣かないの。きっと大丈夫。」
美和子さんがタオルで涙を拭っていく。
結果。田辺さんは急性アルコール中毒だった。
栄養ドリンクだと思って飲んだのは液体の風邪薬だった。
無水アルコールが多量に入っていたらしく、そこにワインを飲んでしまった。
後遺症の心配も少ないようで、病院で点滴を打ってもらって、アルコールが抜けたら帰れる。
「良かったわね。」
と美和子さんが寿美ちゃんを慰める。
年齢的にも脳血管系の病気を心配したんだそうだ。
「もうみんな泊まっちゃいなさい。」
と美和子さんは和室にまで布団を敷いて、帰るに帰れないでいたおばさま達と寿美ちゃんは大人しく布団に潜り込んだ。
「皇くんいて良かったわ。」
後片付けを手伝いながら、美和子さんがそう言ってくれる。
「多分、それほど親しくないからですよ。」
こういう時、親しい人ほど取り乱すのだと思う。
面識がなかったわけじゃないけれど、冷静でいられたのは親密さの違い。
「だからよ。冷静な人が側にいて良かった、ってこと。」
でも大したことがなくて良かったわ、と美和子さんは静かに大きく息を吐いた。
近くの大学病院に直ぐに運んでくれるという。
それから寿美ちゃんは家に連絡を入れた。
行き先が決まるまでは、と嶋田さんには待たされていたからだ。
泣きじゃくってしまってさっぱり要領を得ない。
「だから、お母さんが、あのね、お母さんが…。」
「貸して。」
と寿美ちゃんから携帯を取り上げた。
「こんばんは。今日、嶋田先生のお宅で、ええ、いきなり倒れられて。意識はあるんですけど、受け答えは支離滅裂で。
救急車で大学病院に…はい、そうです、鷹野大の、ええ、救急です。
奥さまには嶋田さんのご主人が、はい、直ぐにお願いします。
寿美さんは…はい、はい、わかりました。そうさせて頂きます。」
一旦携帯を離して、
「美和子さん、田辺さんのご主人は直ぐに病院に向かうそうです。ただ家に寿美ちゃんをひとりにするのは…と。申し訳ないけれど症状がはっきりするまでここに誰かと居させて欲しい、と。」
美和子さんがもちろんよ、と答えるのを確認して、もう一度携帯を持ち直す。
「はい、大丈夫だそうです。はい、はい。ええ、わかりました。よろしくお願いします。」
と電話を切った。
「大丈夫、少し落ち着こう。着替えはある?」
着物のままだと辛いだろう。直ぐに動けないのもある。
幸い寿美ちゃんの家はここから近い。
一旦帰って着替えるという。
「付いてく。夜だし、みんなお酒入ってるし。」
と側にいることを申し出た。
少し寿美ちゃんが落ち着くまで、俺が着物を脱ぐのを待ってもらって、上着を羽織って家を出た。
「どうしよう、どうしよう。私、付いてたのに。」
田辺さんには元々持病の様なものはなく、至って健康だったそうだ。
ただ、少し風邪気味だった。
「薬は飲まなかったの、今日お酒を飲むからって。栄養剤だけ。」
ブルブルと震えているので、手を握った。
ぎゅうーっと握り込む圧が強いけれど、何も言わずに好きにさせた。
それで安心できるなら、それでいい。
田辺さんの家は本当に近くだった。
途中車で病院に向かう旦那さんとすれ違った。
「寿美、大丈夫か?」
「どうしよう、ごめんなさい。ごめんなさい。」
落ち着き掛けていた寿美ちゃんがまた泣き出す。
「大丈夫です、私が一緒にいるようにしますから。」
と田辺さんに伝える。
旦那さんは直ぐに病院に行かなくてはならないから、寿美ちゃんのことは任せてくれ、と請け負って、病院に向かってもらった。
寿美ちゃんは泣きながらもなんとか普段着に着替えて、直ぐにでも出掛けられるように身支度を整え、嶋田さんの家へと戻った。
「すみません、せっかくのクリスマスイブだったのに…。」
と俯く寿美ちゃんに、それは違うと言った。
「クリスマスだから良かったんだよ。
みんながいる前だったから、直ぐに救急車を呼べた。」
ハッ!と寿美ちゃんが息を呑む。
「そうよ、私たち目の前にいたのよ。おかしいな、変だな?と思って直ぐに倒れたの。
きっと寿美ちゃんが目の前にいても同じだったわ。
こういうのはね、ひとりで背負っちゃダメなの。
パーティーの事は気にしなくでいいの。
田辺さんが元気になったらまた集まればいいのよ。」
寿美ちゃんがボロボロと涙を溢す。
「ホラ、もう泣かないの。きっと大丈夫。」
美和子さんがタオルで涙を拭っていく。
結果。田辺さんは急性アルコール中毒だった。
栄養ドリンクだと思って飲んだのは液体の風邪薬だった。
無水アルコールが多量に入っていたらしく、そこにワインを飲んでしまった。
後遺症の心配も少ないようで、病院で点滴を打ってもらって、アルコールが抜けたら帰れる。
「良かったわね。」
と美和子さんが寿美ちゃんを慰める。
年齢的にも脳血管系の病気を心配したんだそうだ。
「もうみんな泊まっちゃいなさい。」
と美和子さんは和室にまで布団を敷いて、帰るに帰れないでいたおばさま達と寿美ちゃんは大人しく布団に潜り込んだ。
「皇くんいて良かったわ。」
後片付けを手伝いながら、美和子さんがそう言ってくれる。
「多分、それほど親しくないからですよ。」
こういう時、親しい人ほど取り乱すのだと思う。
面識がなかったわけじゃないけれど、冷静でいられたのは親密さの違い。
「だからよ。冷静な人が側にいて良かった、ってこと。」
でも大したことがなくて良かったわ、と美和子さんは静かに大きく息を吐いた。
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