若松2D協奏曲

枝豆

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恋するクリスマス 

北斗と優

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…もうすぐクリスマス。
そう、クリスマスなんだけど。

「北斗はどっちに出るんだ?」
と聞いてくるのは親父。
出るか出れないかじゃなくて、出ること前提の話。

親父の店と叔父ちゃんの店、どちらもクリスマスは人手が足りない。
学生のバイトはキッパリハッキリ2つに分かれる。
「クリスマスは〇〇と過ごしたいから休みたい派」
「なんの予定もないからせめてバイトでもして予定を作る派」

あっ、もうひとつ。
バイト同士でお付き合いしてて、バイトした後に…っていう派。
従姉妹ねえちゃん達がそうだった。従姉妹ねえちゃんの場合は調理師さんだったけど。

そんな時駆り出されるのは家族。
小学生の時なんて
「クリスマスなのにお手伝い偉いねぇ。」
なんて褒めてもらったりもしていた。

「移動面倒だし、こっち。」
「ああ、わかった。忍にそう言っとく。」

言えないよ、俺も休みたいなんて。
初めての彼女とのクリスマス、優と過ごしたいなんて。

「じゃあ、北斗と、仁志と優と…、ママ!クリスマスあっちでいいよ。」

おい!ちょっと待て!
なんで俺が店に出たら母ちゃんがあっちに行くんだ?
んで仁志はわかるけど、優って何!?

「ねえ、父ちゃん、優って?」
「ああ、忍、店出れなくなったから新しい人が決まるまで入ってもらえって、忍が…。」
従姉妹ねえちゃんどうしたの?」
「あれ!?聞いてない?忍、赤ちゃんが…」

って!待て待て!

「おれ、ねえちゃんが妊娠したのも聞いてないし、優がここでバイトする事も聞いてない!」
「…あれ?言ってなかったっけ?ママが…」
「聞いてない!」

ったく。ホント桜井の男は肝心なところで使えねぇし、大事な事ほど事後報告になる!


慌てて優に電話を掛けた。
「優、冬休み…。」
「うん、働くよ?だって忍さん赤ちゃんできたって聞いたから。」

はぁ?
なんで身内のこと、俺より優が先に聞いてんの?

横で電話してるのを聞いてた父ちゃんがニヤニヤ笑ってる。
煩いなぁ、何笑ってくれちゃってんの?

そっと立ち上がって、廊下に出た。

「…無理してない?」
「してないよ。部活がない日だけって言われてるし。」
「…クリスマスも?」
「うん、部活ないし。それに…、ね。」

…一緒にいられるでしょ、って。


電話を切って、部屋に戻ると父ちゃんからの一言。

「お前優の事、大切にしろよ。」
ってなんで父ちゃんに言われるんだ?
言われなくても大切にするけど?
だからこんなこき使われるの、だまって見てらんねえんだけど?

「優はな、桜井の女に取り込まれたんだ、泣かせたらママからも義姉ねえさんからも忍からも責められるゾ。
それでそのうちな、一番怖いのは優になるぞ。」

って楽しみそうにニヤニヤ笑ってんじゃねぇ。

「24日はお前達10時までな。25日は…早めに上がらせてやる。」

「…ありがとう。」

後から思った。

なんで働いてやる俺達が、お礼言わなきゃならないんだ?って。



クリスマスにラーメン屋に来る人は大抵の場合クリスマスなんて関係なく、日常の暮らしを送る人。

「よ、さすがに今日は人少ないなぁ。」
「あー、いらっしゃい。」
父ちゃんの友達の常連さんが入ってくる。
「あれ?見ない子だね。新しいバイト入れたの?」
「ええ、まあ…。」

いつもは店の外にまで行列が出来る事もあるけれど、今日はなんとか店内で収まっていて、さらに今はポツリポツリと空席がある。

「これ、どうぞ。サービスです。」
優が小皿に乗せた唐揚げをひとつテーブルに置く。

昨日今日と優と一緒に店に出て、もしかしてもしかしたらもしかする?なんて少し未来の姿を想像しちゃったり、しなかったり。

「おーい、もう上がって良いぞー、店閉めるわ。」
「えっ!?父ちゃん早くねぇ?」
まだ7時前だ。

「いーんだって。せっかくママがいねぇんだから。こっからは貸し切り!」
なぁ、っと常連さんにアイコンタクトをする父ちゃん。

「こっからは大人の時間、ガキは帰れ。」
よーく見ると父ちゃんの後ろには調理師さんがビール瓶とギョーザの並んだ皿を持って立っている。

ちっ、これから酒盛りか。

「北斗、2階の冷蔵庫にケーキ入ってるから、優と仁志と3人で食え。」
ホラホラ、ガキは早く行け!って追い払われた。

「ったく、こんなんバレたら母ちゃんにシバかれるつーの。」
勝手に店閉めて友達と店の酒飲んだなんて、きっと母ちゃんのゲンコツが落ちる。

「うーん、大丈夫じゃない?」
って言うのは仁志。
「なんで?」
「おかみさん、きっとそうなるだろうって言ってたもん。」

は?

「どうゆー事?」
と聞く横で優がクスクス笑ってる。

「さすがにクリスマス2日ともバイトって言うと、俺の母ちゃん1人になっちゃうって、どっちか休ませて欲しい、って頼んだんだ。そしたらおかみさん、きっとさっさと店閉めると思うから、帰れるよ、って。」

そう言いながら仁志はさっさと他人ん家の冷蔵庫を開けて、小さなケーキの箱を取り出した。
「これ俺は家で母ちゃんと食うから、お前達のはそっち、2人で食えって。」

よく見るとケーキの箱はもうひとつある。
そういえば仁志の家に父ちゃんはいない、母子家庭だった。
どうやら母ちゃんはそこまで考えてケーキの箱を分けて貰ったらしい。

「こういうことしてくれちゃうから、人使い荒くてもお前の家族嫌いになれないんだよなぁ。
あっ、おかみさんからの伝言。高校生らしいお付き合いをするよーに、だってさ。」

じゃあな、と仁志はさっさと帰っていく。


「…なんだあれ?」
「…なんだろうね。」

とりあえず、ケーキ食うか。

俺はもうひとつの箱を黙って取り出した。
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