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皇子くんの一番
練習開始
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壮はとても喜んで、やってみたい!と言い切った。
水曜は美和子さんが、土日は仕事じゃなければ嶋田さんが練習を見てくれる。
壮には珍しいこと。
どうせ上手くいきっこない、どうせ出来ない。だから初めからやらない、というのが口癖だったのに。
最初の水曜日、学童を休んで壮はひとりで嶋田さんの家に行く。
無理かな?と少し心配したのは杞憂に終わった。
電車にひとりで乗って、駅に迎えに来てくれた美和子さんと、桜広公園までバスに乗る。ソラはきちんとキャリーバッグの中で大人しくしていたそうだ。
しかも、
「ソラ、キャリーバッグじゃ可哀想だよ。」
と、次からはバスも1人で乗ると言って、実際にそうし始めた。
まずは桜広公園のドッグランで練習し始めた。テニスコート2面分の市内で一番大きなドッグランなのに、あっという間に端から端までフリスビーを投げられるようになり、ソラはきちんとキャッチ出来るようになった。
「こりゃ、もう少し大きな場所まで行かないとな。」
嶋田さんは誤算だったはずなのにとっても喜んでくれた。
そして。
嶋田さんは隣市の貸し出し施設である河川敷のドックランを借りてくれた日。
何故か休みだった父が急に壮の練習を見たいと言い出した。
父と俺と壮と、父が運転する車に乗って、ドックランに着いた時、父が来たいと言った理由がわかった。
「嶋田さん、こんにちは。息子たちがお世話になっています。」
「あら、えっ?葛西さん?えっー?皇くんと壮くんって葛西さんのお子さんだったのー!」
ビックリしているのは美和子さん。
「えっ?2人知り合い?」
俺も嶋田さんも壮もビックリしていた。
美和子さんは、大きな結婚式がある時など、父のホテルの従業員では手が足りない時に、着付けを手伝う事があるのだそうだ。
「じゃあ、もしかして母も?」
「…グランドホテルの葛西さんは支配人だけよね?」
「あ、いや。妻は旧姓のまま仕事をしているので、ブライダルの白石が妻です。」
「えっ?白石さん!?嫌だぁ、知ってるもなにも、ブライダルって窓口じゃないのよ!」
いやぁ、世の中狭いなぁ、と大人達はすっかり打ち解けた。
ドックランには他に数組の嶋田さんの犬仲間がいた。河川敷のこの場所は個人では借りられない場所なので、サークルという形にしているんだそう。
サークルの仲間は当たり前のように子供の壮を受け入れてくれている。壮はソラと一緒ならあまり人見知りはしないようだ。
よく笑うし、大声で話す。大声を出さないと遠くまでフリスビーを追いかけて走っていったソラには届かないからなんだけど、いつのまにか他の人と話す声も大きくなっている事に、壮だけが気付いていない。
嶋田さんと俺はカメラを構えながら、壮とソラの練習を見守っていた。
水曜は美和子さんが、土日は仕事じゃなければ嶋田さんが練習を見てくれる。
壮には珍しいこと。
どうせ上手くいきっこない、どうせ出来ない。だから初めからやらない、というのが口癖だったのに。
最初の水曜日、学童を休んで壮はひとりで嶋田さんの家に行く。
無理かな?と少し心配したのは杞憂に終わった。
電車にひとりで乗って、駅に迎えに来てくれた美和子さんと、桜広公園までバスに乗る。ソラはきちんとキャリーバッグの中で大人しくしていたそうだ。
しかも、
「ソラ、キャリーバッグじゃ可哀想だよ。」
と、次からはバスも1人で乗ると言って、実際にそうし始めた。
まずは桜広公園のドッグランで練習し始めた。テニスコート2面分の市内で一番大きなドッグランなのに、あっという間に端から端までフリスビーを投げられるようになり、ソラはきちんとキャッチ出来るようになった。
「こりゃ、もう少し大きな場所まで行かないとな。」
嶋田さんは誤算だったはずなのにとっても喜んでくれた。
そして。
嶋田さんは隣市の貸し出し施設である河川敷のドックランを借りてくれた日。
何故か休みだった父が急に壮の練習を見たいと言い出した。
父と俺と壮と、父が運転する車に乗って、ドックランに着いた時、父が来たいと言った理由がわかった。
「嶋田さん、こんにちは。息子たちがお世話になっています。」
「あら、えっ?葛西さん?えっー?皇くんと壮くんって葛西さんのお子さんだったのー!」
ビックリしているのは美和子さん。
「えっ?2人知り合い?」
俺も嶋田さんも壮もビックリしていた。
美和子さんは、大きな結婚式がある時など、父のホテルの従業員では手が足りない時に、着付けを手伝う事があるのだそうだ。
「じゃあ、もしかして母も?」
「…グランドホテルの葛西さんは支配人だけよね?」
「あ、いや。妻は旧姓のまま仕事をしているので、ブライダルの白石が妻です。」
「えっ?白石さん!?嫌だぁ、知ってるもなにも、ブライダルって窓口じゃないのよ!」
いやぁ、世の中狭いなぁ、と大人達はすっかり打ち解けた。
ドックランには他に数組の嶋田さんの犬仲間がいた。河川敷のこの場所は個人では借りられない場所なので、サークルという形にしているんだそう。
サークルの仲間は当たり前のように子供の壮を受け入れてくれている。壮はソラと一緒ならあまり人見知りはしないようだ。
よく笑うし、大声で話す。大声を出さないと遠くまでフリスビーを追いかけて走っていったソラには届かないからなんだけど、いつのまにか他の人と話す声も大きくなっている事に、壮だけが気付いていない。
嶋田さんと俺はカメラを構えながら、壮とソラの練習を見守っていた。
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