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皇子くんの一番
迎え
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電車を降りてからもダッシュをして、ハアハアと息を切らしながら、学童の門をくぐり抜けた。
部屋の灯りは既に落ちていて、玄関の扉の横のガラス板の向こう側だけがほんのりと明るい。
「…す、すみません。遅くなりました…。」
肩で息をしながら玄関扉を開ける。
上り口にランドセルを背負ったまま座っている壮がいる。隣には指導員の泉さんが寄り添ってくれていた。
壮はやっぱり想像した通り、俯いて膝をしっかりと抱え込んでいる。
「ごめん、遅くなった。」
頭をポンポンっと軽く叩く。
「ごめんね、コウくん、何回も電話はしてみたんだけどお母さんと連絡取れなくて。」
「…父は?」
「…お父さんはお母さんが行くはずだから、と。」
「…そうですか。いつもすみませんご迷惑かけました。」
良いの、いつもこれくらいまではいるからぁ、と泉さんは言ってくれるけれど、多分このまま鍵を閉めて帰るのだろう、しっかり帰り支度を終えたから、部屋の電気を消してここにいる。
「帰ろう、壮。」
声を掛けると、壮は黙ってゆっくりと立ち上がる。そのまま俺の腰にしっかりとしがみついた。
「壮くん、気をつけてね。さよーならっ。」
懐かしい学童独特のアクセントをつけて泉さんはさよならの挨拶をする。
「…さよーならっ。」
聞こえるか聞こえないか小さな声で壮が答える。
「お世話になりました。」
なんでもないことのように壮が思ってくれたらいい、無理して出来るだけの明るい声を出して、玄関を出る。
やっぱり泉さんも一緒に外へ出て、そのまま鍵を掛ける。
「コウくん学校どう?」
「まあ、普通に。」
「ははっ、普通って何が普通?相変わらずクールだなぁ、コウくんは。」
「…別にクールじゃないですよ。」
これから駅へと向かう泉さんと歩きながら世間話をしていく。
俺も小学生の6年間、この学童に通っていたから、泉さんとの付き合いは長い。
面倒見の良い泉さんは気難しい壮が懐いている唯一の指導員、だからかこうやって迎えが遅れた時にいつも壮の側にいてくれる。
壮は俺の鞄を握ったまま一言も喋らない。
元々あんまり喋らない子だから、普通と言えば普通なんだけれど。
(…最近多いもんな。)
今月になってから既に3回、こうやって壮の迎えについて俺に問い合わせが来ていた。
本当は18歳未満への引き渡しはしないルールなので、母、父、よく迎えにくる和津さん、の次、最後の最後に俺への連絡が来る。
今日だって本当ならルール違反なのに、こうやって引き渡してくれている。
壮は敏感にその事を察している。
もしかしたら指導員同士の会話の中で、何か聞いてしまっているのかもしれない。
「また葛西さんお迎え来てないんだけど…。」程度の会話でも壮はきっと傷付いている。
泉さんと別れてから、壮が手を絡めてきた。
兄と手を繋ぐのは壮には恥ずかしいようで、泉さんの前では絶対にしない。
だけどこうやって2人になると必ず手を繋いでくる。
「なあ、なんか喰って帰ろうか?それとも買って帰るか?」
気分を変えてやろうと思って、聞いてみた。
「…唐揚げ。」
ポツリ壮が選んだのは、最近お気に入りの唐揚げ専門店のモノ。
少し遠回りになるけれど、まっいいか。
「よし、買って帰るか。」
うん!と頷いて顔を上げた壮はやっと少し笑顔を見せてくれた。
部屋の灯りは既に落ちていて、玄関の扉の横のガラス板の向こう側だけがほんのりと明るい。
「…す、すみません。遅くなりました…。」
肩で息をしながら玄関扉を開ける。
上り口にランドセルを背負ったまま座っている壮がいる。隣には指導員の泉さんが寄り添ってくれていた。
壮はやっぱり想像した通り、俯いて膝をしっかりと抱え込んでいる。
「ごめん、遅くなった。」
頭をポンポンっと軽く叩く。
「ごめんね、コウくん、何回も電話はしてみたんだけどお母さんと連絡取れなくて。」
「…父は?」
「…お父さんはお母さんが行くはずだから、と。」
「…そうですか。いつもすみませんご迷惑かけました。」
良いの、いつもこれくらいまではいるからぁ、と泉さんは言ってくれるけれど、多分このまま鍵を閉めて帰るのだろう、しっかり帰り支度を終えたから、部屋の電気を消してここにいる。
「帰ろう、壮。」
声を掛けると、壮は黙ってゆっくりと立ち上がる。そのまま俺の腰にしっかりとしがみついた。
「壮くん、気をつけてね。さよーならっ。」
懐かしい学童独特のアクセントをつけて泉さんはさよならの挨拶をする。
「…さよーならっ。」
聞こえるか聞こえないか小さな声で壮が答える。
「お世話になりました。」
なんでもないことのように壮が思ってくれたらいい、無理して出来るだけの明るい声を出して、玄関を出る。
やっぱり泉さんも一緒に外へ出て、そのまま鍵を掛ける。
「コウくん学校どう?」
「まあ、普通に。」
「ははっ、普通って何が普通?相変わらずクールだなぁ、コウくんは。」
「…別にクールじゃないですよ。」
これから駅へと向かう泉さんと歩きながら世間話をしていく。
俺も小学生の6年間、この学童に通っていたから、泉さんとの付き合いは長い。
面倒見の良い泉さんは気難しい壮が懐いている唯一の指導員、だからかこうやって迎えが遅れた時にいつも壮の側にいてくれる。
壮は俺の鞄を握ったまま一言も喋らない。
元々あんまり喋らない子だから、普通と言えば普通なんだけれど。
(…最近多いもんな。)
今月になってから既に3回、こうやって壮の迎えについて俺に問い合わせが来ていた。
本当は18歳未満への引き渡しはしないルールなので、母、父、よく迎えにくる和津さん、の次、最後の最後に俺への連絡が来る。
今日だって本当ならルール違反なのに、こうやって引き渡してくれている。
壮は敏感にその事を察している。
もしかしたら指導員同士の会話の中で、何か聞いてしまっているのかもしれない。
「また葛西さんお迎え来てないんだけど…。」程度の会話でも壮はきっと傷付いている。
泉さんと別れてから、壮が手を絡めてきた。
兄と手を繋ぐのは壮には恥ずかしいようで、泉さんの前では絶対にしない。
だけどこうやって2人になると必ず手を繋いでくる。
「なあ、なんか喰って帰ろうか?それとも買って帰るか?」
気分を変えてやろうと思って、聞いてみた。
「…唐揚げ。」
ポツリ壮が選んだのは、最近お気に入りの唐揚げ専門店のモノ。
少し遠回りになるけれど、まっいいか。
「よし、買って帰るか。」
うん!と頷いて顔を上げた壮はやっと少し笑顔を見せてくれた。
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