69 / 242
ホタルを愛でる夜
初めての
しおりを挟む
(翠、こっち来て。)
和津くんがそっと袖を引っ張った。
「ほらそこ見て。」
うわぁー凄い!
緑地公園は小さな小川の河川敷に沿って作られた散歩道で所々河原に降りられるように作られている。
その河原がメインの場所で、上がった緑地公園に少し出店が出ていた。
私達6人は知り合いに声をかけられてしまった嶋田さん夫婦とは分かれて歩いていた。
ホタルを驚かせないように私語は慎むように言われているので、内緒話のようなヒソヒソ声になる。
和津くんが指さしたのは河原で草が覆い繁っている一角。
ボワッとした小さなホタルの灯りが沢山集まっている。
先に進むみんなが気になったけれど、2人で足を止めてホタルを眺める。
「凄いな…。」
「うん、綺麗。」
2人でずっと見入ってしまった。
しゃがみこんで2人でホタルを見つめる。
(今なら横顔…見れるかな?)
と思って和津くんの方を見た。
やっぱり綺麗…。
だけどすぐに和津くんがこちらを向いた。
「翠。」
「俺たち…付き合ってる?」
…うん。
黙って頷いた。
皇子くんが若菜先輩にそう言った時も、嶋田さんに聞かれた時も、恥ずかしくって俯くだけで…。きちんと言葉にして来なかったな。
「そう思っていたんだけど…。」
「そうか、安心した。」
そうか、不安だったんだ。
それは申し訳なかった…のかな。
「ずっと隣にいていい?その…彼女として?」
首を傾げながら聞く。
…ダメって言われないのがわかってからじゃないと言葉にできなかった、狡い私。
「うん、ずっと隣にいて。俺だけ見てて。
翠が見ててくれないと俺頑張れない。
…その、彼女として?」
うん、と頷いた。
頬をそっと和津くんの手のひらで包まれる。
じっと目を見られると、なんでだか吸い込まれて動けなくなる。
浴衣姿で、そんなカッコいい目で、じっと見つめてくるなんて狡い。
「…嫌?」
あっこれ、と思ったけれど。ふるふると首を振った。
和津くんなら嫌じゃない、そう思った。
和津くんの顔が少し傾いて近づいて来る。
和津くんの目が閉じて長い睫毛が際立った時に私も目を瞑った。
和津くんの唇がそっと私の唇に当たって離れた。…震えてた。
そのままじっとしていたら、もう一度唇が乗せられた。
今度はしばらく離れなかった。
そっと唇は離れていったけれど、恥ずかしくてもう顔をあげられない。
和津くんの大きな手のひらはまだ頬に触れられたまま…。
どうしよう、どうしよう。
どうしたらいいんだろう…。
時間が止まっちゃったみたい。
なんの音も聞こえなくて、走った後みたいに心臓の音だけを身体全部で感じてる。
「ズルいよ、翠。今日の翠は可愛すぎる。」
「…それは和津くんもだよ。」
見上げた和津くんは優しく微笑んでくれる。
ずっと見てたよ。和津くんが違うところを見ていても。
そう伝えないと、そう思ったのに。
「あっ、かゆい。」
和津くんが足を掻き出した。
河原で浴衣。蚊は物凄く寄ってくる。一応虫除けはしていたけれど、どうやら蚊に刺されてしまったようだ。
急に風の音や水が流れる音が耳に飛び込んできた。
…残念。時間動き出しちゃったみたい。
「薬はあるけど、暗いからよく見えないかなぁ。」
「大丈夫、後でいいよ。」
止まったままだと刺されやすいからと行こう、とみんなを追いかけて歩きだす。
時々ふわっとホタルが飛んで、それを見るために足を止める。
ホタルのために照明は最小限に抑えられているから、周りは真っ暗。
「もう逸れちゃったね。」
進む先に浴衣姿のみんなは見えない。
「まっ、いいよ。どうせ先にある屋台にいるんだから。」
和津くんはのんびり行こうと言ってくれる。
手を繋いでホタルを見ながら、2人で歩く。
あんまり話が出来ないから、つい色々な事を考えてしまう。
和津くんの大きな手とか、震えてた唇のこととか…。
どこまでもいつまでもこの道が続くといいのに…。
どこまでもどこまでも手を繋いで歩いて行けたらいいのに…。
…ずっと2人で。
なんて恥ずかしいことを考えてしまう。
和津くんがそっと袖を引っ張った。
「ほらそこ見て。」
うわぁー凄い!
緑地公園は小さな小川の河川敷に沿って作られた散歩道で所々河原に降りられるように作られている。
その河原がメインの場所で、上がった緑地公園に少し出店が出ていた。
私達6人は知り合いに声をかけられてしまった嶋田さん夫婦とは分かれて歩いていた。
ホタルを驚かせないように私語は慎むように言われているので、内緒話のようなヒソヒソ声になる。
和津くんが指さしたのは河原で草が覆い繁っている一角。
ボワッとした小さなホタルの灯りが沢山集まっている。
先に進むみんなが気になったけれど、2人で足を止めてホタルを眺める。
「凄いな…。」
「うん、綺麗。」
2人でずっと見入ってしまった。
しゃがみこんで2人でホタルを見つめる。
(今なら横顔…見れるかな?)
と思って和津くんの方を見た。
やっぱり綺麗…。
だけどすぐに和津くんがこちらを向いた。
「翠。」
「俺たち…付き合ってる?」
…うん。
黙って頷いた。
皇子くんが若菜先輩にそう言った時も、嶋田さんに聞かれた時も、恥ずかしくって俯くだけで…。きちんと言葉にして来なかったな。
「そう思っていたんだけど…。」
「そうか、安心した。」
そうか、不安だったんだ。
それは申し訳なかった…のかな。
「ずっと隣にいていい?その…彼女として?」
首を傾げながら聞く。
…ダメって言われないのがわかってからじゃないと言葉にできなかった、狡い私。
「うん、ずっと隣にいて。俺だけ見てて。
翠が見ててくれないと俺頑張れない。
…その、彼女として?」
うん、と頷いた。
頬をそっと和津くんの手のひらで包まれる。
じっと目を見られると、なんでだか吸い込まれて動けなくなる。
浴衣姿で、そんなカッコいい目で、じっと見つめてくるなんて狡い。
「…嫌?」
あっこれ、と思ったけれど。ふるふると首を振った。
和津くんなら嫌じゃない、そう思った。
和津くんの顔が少し傾いて近づいて来る。
和津くんの目が閉じて長い睫毛が際立った時に私も目を瞑った。
和津くんの唇がそっと私の唇に当たって離れた。…震えてた。
そのままじっとしていたら、もう一度唇が乗せられた。
今度はしばらく離れなかった。
そっと唇は離れていったけれど、恥ずかしくてもう顔をあげられない。
和津くんの大きな手のひらはまだ頬に触れられたまま…。
どうしよう、どうしよう。
どうしたらいいんだろう…。
時間が止まっちゃったみたい。
なんの音も聞こえなくて、走った後みたいに心臓の音だけを身体全部で感じてる。
「ズルいよ、翠。今日の翠は可愛すぎる。」
「…それは和津くんもだよ。」
見上げた和津くんは優しく微笑んでくれる。
ずっと見てたよ。和津くんが違うところを見ていても。
そう伝えないと、そう思ったのに。
「あっ、かゆい。」
和津くんが足を掻き出した。
河原で浴衣。蚊は物凄く寄ってくる。一応虫除けはしていたけれど、どうやら蚊に刺されてしまったようだ。
急に風の音や水が流れる音が耳に飛び込んできた。
…残念。時間動き出しちゃったみたい。
「薬はあるけど、暗いからよく見えないかなぁ。」
「大丈夫、後でいいよ。」
止まったままだと刺されやすいからと行こう、とみんなを追いかけて歩きだす。
時々ふわっとホタルが飛んで、それを見るために足を止める。
ホタルのために照明は最小限に抑えられているから、周りは真っ暗。
「もう逸れちゃったね。」
進む先に浴衣姿のみんなは見えない。
「まっ、いいよ。どうせ先にある屋台にいるんだから。」
和津くんはのんびり行こうと言ってくれる。
手を繋いでホタルを見ながら、2人で歩く。
あんまり話が出来ないから、つい色々な事を考えてしまう。
和津くんの大きな手とか、震えてた唇のこととか…。
どこまでもいつまでもこの道が続くといいのに…。
どこまでもどこまでも手を繋いで歩いて行けたらいいのに…。
…ずっと2人で。
なんて恥ずかしいことを考えてしまう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
神様自学
天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。
それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。
自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。
果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。
人の恋心は、どうなるのだろうか。
空白
成瀬 慶
青春
過去に大きな汚点を抱えている俺。
それは、
他人からしてみたら
たいしたこともない事なのかもしれない。
バカらしいこと。
しかし、
あの頃の人俺は逃げた。
遠く遠くへ逃げて行って
辿り着いた先には、
今という普通の人生につながっていた。
ある日、ポストに届いた結婚式の招待状。
それから俺は、あの日消してしまった
二度と会うことは無いと決めていた過去を想う。
Dear my roommates
heil/黒鹿月
青春
ルームメイトだけど、あんまり話したことなくて―――
―――お互い、何を思ってるのかわかんなくて
でも、私たちはどこか似てて―――
―――いつかは言えるかな。
『お互いの 気持ち』。
星花女子プロジェクト参加作品です。
墨森 望乃夏(黒鹿月 木綿稀)×白峰 雪乃(しっちぃ)。どこか似たもの同士不器用な2人が、仲良くなるまでの日記。
なろうからの改稿になります。
※時たま話者が変わります。タイトルの所にどちら視点なのかを記載しています。
※星花女子プロジェクトは、登美司 つかさ様の合同企画です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常
坂餅
青春
毎日更新
一話一話が短いのでサクッと読める作品です。
水原涼香(みずはらりょうか)
黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。
檜山涼音(ひやますずね)
茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。
柏木菜々美(かしわぎななみ)
肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。
自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。
基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。
残念美人。
芹澤ここね(せりざわここね)
黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。
綾瀬彩(あやせあや)
ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。
成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。
伊藤夏美(いとうなつみ)
彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている
彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。
元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。
綺麗な顔立ちの子。
春田若菜(はるたわかな)
黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。
なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。
涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。
チャリ通。
俺の高校生活がラブコメ的な状況になっている件
ながしょー
青春
高校入学を前に両親は長期海外出張。
一人暮らしになるかと思いきや、出発当日の朝、父からとんでもないことを言われた。
それは……
同い年の子と同居?!しかも女の子!
ただえさえ、俺は中学の頃はぼっちで人と話す事も苦手なのだが。
とにかく、同居することになった子はとてつもなく美少女だった。
これから俺はどうなる?この先の生活は?ラブコメ的な展開とかあるのか?!
「俺の家には学校一の美少女がいる!」の改稿版です。
主人公の名前やもしかしたら今後いろんなところが変わってくるかもしれません。
話もだいぶ変わると思います。
【4話完結】好きなだけ愛しているとは言わないで
西東友一
青春
耳が聞こえず、言葉も喋れない女の子「竜崎」に恋していた。けれど、俺は彼女と会話する努力をせずに日々を過ごしていた。そんなある日、幼馴染の「桜井」から体育館裏に呼ばれ歯車が動き出す―――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる