若松2D協奏曲

枝豆

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ホタルを愛でる夜

初めての

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(翠、こっち来て。)
和津くんがそっと袖を引っ張った。

「ほらそこ見て。」
うわぁー凄い!
緑地公園は小さな小川の河川敷に沿って作られた散歩道で所々河原に降りられるように作られている。
その河原がメインの場所で、上がった緑地公園に少し出店が出ていた。

私達6人は知り合いに声をかけられてしまった嶋田さん夫婦とは分かれて歩いていた。
ホタルを驚かせないように私語は慎むように言われているので、内緒話のようなヒソヒソ声になる。

和津くんが指さしたのは河原で草が覆い繁っている一角。
ボワッとした小さなホタルの灯りが沢山集まっている。
先に進むみんなが気になったけれど、2人で足を止めてホタルを眺める。

「凄いな…。」
「うん、綺麗。」
2人でずっと見入ってしまった。
しゃがみこんで2人でホタルを見つめる。
(今なら横顔…見れるかな?)
と思って和津くんの方を見た。

やっぱり綺麗…。
だけどすぐに和津くんがこちらを向いた。

「翠。」
「俺たち…付き合ってる?」
…うん。
黙って頷いた。

皇子くんが若菜先輩にそう言った時も、嶋田さんに聞かれた時も、恥ずかしくって俯くだけで…。きちんと言葉にして来なかったな。

「そう思っていたんだけど…。」
「そうか、安心した。」

そうか、不安だったんだ。
それは申し訳なかった…のかな。
「ずっと隣にいていい?その…彼女として?」
首を傾げながら聞く。

…ダメって言われないのがわかってからじゃないと言葉にできなかった、狡い私。

「うん、ずっと隣にいて。俺だけ見てて。
翠が見ててくれないと俺頑張れない。
…その、彼女として?」

うん、と頷いた。

頬をそっと和津くんの手のひらで包まれる。
じっと目を見られると、なんでだか吸い込まれて動けなくなる。
浴衣姿で、そんなカッコいい目で、じっと見つめてくるなんて狡い。

「…嫌?」
あっこれ、と思ったけれど。ふるふると首を振った。
和津くんなら嫌じゃない、そう思った。

和津くんの顔が少し傾いて近づいて来る。
和津くんの目が閉じて長い睫毛が際立った時に私も目を瞑った。

和津くんの唇がそっと私の唇に当たって離れた。…震えてた。
そのままじっとしていたら、もう一度唇が乗せられた。
今度はしばらく離れなかった。

そっと唇は離れていったけれど、恥ずかしくてもう顔をあげられない。
和津くんの大きな手のひらはまだ頬に触れられたまま…。

どうしよう、どうしよう。
どうしたらいいんだろう…。
時間が止まっちゃったみたい。
なんの音も聞こえなくて、走った後みたいに心臓の音だけを身体全部で感じてる。

「ズルいよ、翠。今日の翠は可愛すぎる。」
「…それは和津くんもだよ。」

見上げた和津くんは優しく微笑んでくれる。
ずっと見てたよ。和津くんが違うところを見ていても。

そう伝えないと、そう思ったのに。

「あっ、かゆい。」
和津くんが足を掻き出した。
河原で浴衣。蚊は物凄く寄ってくる。一応虫除けはしていたけれど、どうやら蚊に刺されてしまったようだ。

急に風の音や水が流れる音が耳に飛び込んできた。
…残念。時間動き出しちゃったみたい。

「薬はあるけど、暗いからよく見えないかなぁ。」
「大丈夫、後でいいよ。」

止まったままだと刺されやすいからと行こう、とみんなを追いかけて歩きだす。
時々ふわっとホタルが飛んで、それを見るために足を止める。

ホタルのために照明は最小限に抑えられているから、周りは真っ暗。
「もう逸れちゃったね。」
進む先に浴衣姿のみんなは見えない。
「まっ、いいよ。どうせ先にある屋台にいるんだから。」
和津くんはのんびり行こうと言ってくれる。

手を繋いでホタルを見ながら、2人で歩く。
あんまり話が出来ないから、つい色々な事を考えてしまう。
和津くんの大きな手とか、震えてた唇のこととか…。
どこまでもいつまでもこの道が続くといいのに…。
どこまでもどこまでも手を繋いで歩いて行けたらいいのに…。

…ずっと2人で。

なんて恥ずかしいことを考えてしまう。

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