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体育祭 溢れ話
シャボン玉 皇視点
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「疾風達来ないって。」
反省会の後、なだれ込んだ「祝勝会」はカラオケになった。
いつのまにかいなくなっていた疾風と翠からの連絡は、今日は帰る、だった。
途中で聞かされた女子達の企み。
どうやら疾風はそれに上手く乗れたようだ。
…やっと終わった、な。
「皇!失恋慰労会するぞ!」
北斗の言葉にギクリ!と心臓が跳ね上がる。
「おまっ、お前なぁ。」
「するの?しないの?皇の慰労会!」
「…する。」
祝勝会だと思っている奴らは大盛り上がりではしゃいでいる。
「いつから気付いてた?」
「うん?あ、去年の文化祭くらい?」
「…最初からじゃん。」
「あっ、そうなの?」
「…疾風も?」
「気付いてない、大丈夫。」
…そっか。コイツ、わかってて色々やってたんだ。
中学から仲の良かった疾風が、バスケにしか興味がなかったあの疾風が、好きになったという子はすぐにわかった。
疾風のために協力してやる。
最初はそうだった。
自分の気持ちを一瞬で膨らませたのが文化祭の準備中。
当日は吹部で拘束されてクラスにいられないからと積極的に準備に参加していたのは、疾風が好きになった翠だった。
良いクラスだったと思う。楽しくて、ノリ良くて。
ただ真面目じゃなかった。
準備になんてほとんど誰も来なかった。
「当日楽しめればそれでいい。」
ハッキリと言い切っちゃう奴らの集まり。
俺だって他人の事は言えない。
渋々で準備に参加したのは疾風がいたからだ。
ったくいつまで追いかけ続けるつもりなんだ?
上から目線でそう思ったから。
「なあ、翠。準備だけなんてバカらしくならないの?」
その時に、誰よりも一緒懸命に働く翠に来てないヤツの事を愚痴った。
返ってきたのはいつものふんわりとした笑顔だった。
「うーん、当日頑張ってもらえたらいいんじゃない?それに準備だって楽しんだもん勝ちだよ?」
看板のペンキを塗りながら、じゃあこれは秘密のお楽しみだと笑いながら隅っこに描いたのは、
「By O」
っていう文字。そこは後で貼り付ける装飾で隠れる所。
「皇子くん、当日看板を見たらきっとニヤニヤしちゃうね。」
と得意気そうな顔を見せた。
その瞬間、準備をサボった奴等への不満は消え去った。
ちょっとしたお楽しみ。準備に参加した奴だけの秘密のお楽しみ…。
たったこれだけでマイナスの気持ちがプラスへと魔法のように書き換えられた。
でも、でもさ。
「いや、それ書くならKでしょ。おれ、コウ、だから。」
「あ!」
失敗したーと落ち込む翠の姿に、あははとひとしきり笑った。
そして瞬間の思いつき。
「ちょっと貸して。」
翠が持っていた筆を取り上げて、Mと文字を足す。
それを見てふふふと笑った翠。
「何してんの?」
別作業しながらも抜け目なく俺たちの様子を見ていた疾風が近寄ってくる。
「あっ、じゃあ和津くんも。」
翠に足されたWの文字を見て、一瞬で膨らんだ気持ちは弾けて割れた。
きっと疾風が好きになったのは翠のこういう所だ。
あと一歩踏み込めないのもこういう所。
一瞬で心を攫っていくのに、翠はスルリと逃げていく。
疾風の方が先に気付いてたってことか。
恋に出来なかった気持ちの欠片を大切に大切に胸に隠し込んだ…つもりだった。
早くくっついてくれ。でないと終わらない。
クラスが変われば…と思ったけど、変わらなかった。
まだ続くのか…。気持ちの欠片を隠したまま翠と疾風に抱きついた進級式の日。
廊下側の端と窓側の端の席。アイツらは隣。
この距離感が一番平和、そう言い聞かせた。
「いつまで続くかな?」
「アイツ、バスケ馬鹿だからなぁ。」
「ねえ、別れたら行くの?」
「行かねーよ!何それ怖いわ。」
つーか、別れないだろう…きっとあの2人は。
後から優と花音が、欠片さえも粉砕してくれた。
「多分ね、翠が好きなのは、何かに一生懸命な時の和津の横顔だと思う。」
「翠、トランペットが恋人だから、和津くんは永遠の2番目じゃないの?」
そうか、2人の追いかけっこはこれからも続くのか。
「北斗ー。お前思ってたよりいい奴だな。」
「何?今頃気付いたの?おせーよ。」
「次はお前な。」
「…何が?」
「お前なら自分でなんとかすっか。」
「だからなんの話だよ?」
「…別に。」
俺は…イチ抜けた。
反省会の後、なだれ込んだ「祝勝会」はカラオケになった。
いつのまにかいなくなっていた疾風と翠からの連絡は、今日は帰る、だった。
途中で聞かされた女子達の企み。
どうやら疾風はそれに上手く乗れたようだ。
…やっと終わった、な。
「皇!失恋慰労会するぞ!」
北斗の言葉にギクリ!と心臓が跳ね上がる。
「おまっ、お前なぁ。」
「するの?しないの?皇の慰労会!」
「…する。」
祝勝会だと思っている奴らは大盛り上がりではしゃいでいる。
「いつから気付いてた?」
「うん?あ、去年の文化祭くらい?」
「…最初からじゃん。」
「あっ、そうなの?」
「…疾風も?」
「気付いてない、大丈夫。」
…そっか。コイツ、わかってて色々やってたんだ。
中学から仲の良かった疾風が、バスケにしか興味がなかったあの疾風が、好きになったという子はすぐにわかった。
疾風のために協力してやる。
最初はそうだった。
自分の気持ちを一瞬で膨らませたのが文化祭の準備中。
当日は吹部で拘束されてクラスにいられないからと積極的に準備に参加していたのは、疾風が好きになった翠だった。
良いクラスだったと思う。楽しくて、ノリ良くて。
ただ真面目じゃなかった。
準備になんてほとんど誰も来なかった。
「当日楽しめればそれでいい。」
ハッキリと言い切っちゃう奴らの集まり。
俺だって他人の事は言えない。
渋々で準備に参加したのは疾風がいたからだ。
ったくいつまで追いかけ続けるつもりなんだ?
上から目線でそう思ったから。
「なあ、翠。準備だけなんてバカらしくならないの?」
その時に、誰よりも一緒懸命に働く翠に来てないヤツの事を愚痴った。
返ってきたのはいつものふんわりとした笑顔だった。
「うーん、当日頑張ってもらえたらいいんじゃない?それに準備だって楽しんだもん勝ちだよ?」
看板のペンキを塗りながら、じゃあこれは秘密のお楽しみだと笑いながら隅っこに描いたのは、
「By O」
っていう文字。そこは後で貼り付ける装飾で隠れる所。
「皇子くん、当日看板を見たらきっとニヤニヤしちゃうね。」
と得意気そうな顔を見せた。
その瞬間、準備をサボった奴等への不満は消え去った。
ちょっとしたお楽しみ。準備に参加した奴だけの秘密のお楽しみ…。
たったこれだけでマイナスの気持ちがプラスへと魔法のように書き換えられた。
でも、でもさ。
「いや、それ書くならKでしょ。おれ、コウ、だから。」
「あ!」
失敗したーと落ち込む翠の姿に、あははとひとしきり笑った。
そして瞬間の思いつき。
「ちょっと貸して。」
翠が持っていた筆を取り上げて、Mと文字を足す。
それを見てふふふと笑った翠。
「何してんの?」
別作業しながらも抜け目なく俺たちの様子を見ていた疾風が近寄ってくる。
「あっ、じゃあ和津くんも。」
翠に足されたWの文字を見て、一瞬で膨らんだ気持ちは弾けて割れた。
きっと疾風が好きになったのは翠のこういう所だ。
あと一歩踏み込めないのもこういう所。
一瞬で心を攫っていくのに、翠はスルリと逃げていく。
疾風の方が先に気付いてたってことか。
恋に出来なかった気持ちの欠片を大切に大切に胸に隠し込んだ…つもりだった。
早くくっついてくれ。でないと終わらない。
クラスが変われば…と思ったけど、変わらなかった。
まだ続くのか…。気持ちの欠片を隠したまま翠と疾風に抱きついた進級式の日。
廊下側の端と窓側の端の席。アイツらは隣。
この距離感が一番平和、そう言い聞かせた。
「いつまで続くかな?」
「アイツ、バスケ馬鹿だからなぁ。」
「ねえ、別れたら行くの?」
「行かねーよ!何それ怖いわ。」
つーか、別れないだろう…きっとあの2人は。
後から優と花音が、欠片さえも粉砕してくれた。
「多分ね、翠が好きなのは、何かに一生懸命な時の和津の横顔だと思う。」
「翠、トランペットが恋人だから、和津くんは永遠の2番目じゃないの?」
そうか、2人の追いかけっこはこれからも続くのか。
「北斗ー。お前思ってたよりいい奴だな。」
「何?今頃気付いたの?おせーよ。」
「次はお前な。」
「…何が?」
「お前なら自分でなんとかすっか。」
「だからなんの話だよ?」
「…別に。」
俺は…イチ抜けた。
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