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追いかけて
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庭に出たはずのレーチェを追いかけて外へ出た。
「エルンスト殿下…ここは。」
「退け!」
階段を塞いでいた兵を恫喝するように道を開けさせ、カツカツと靴音をひびかせながらレーチェを探す。
一本道だった。
いるはずのない場所に見張りの兵が立っている。見張りの兵を道標にして、レイチェルの後を追った。
叔母の温室の前にマヌエラが幾人かの兵に囲まれて立っていた。
俺に気付くと慌てて俺の前に立ち塞がった。
「エル!ダメよ!行ってはダメ!」
マヌエラが必死になって俺の腕を掴んで、引き留める。
「離せ!」
「ダメよ!大丈夫だから!レイチェル様のこと信じて!」
「…嫌だ、俺は行く!」
レーチェを信じていない訳じゃない。万が一の可能性ですら俺には耐えられない。
「あなたのワガママで、人の人生を変えるの!!」
「ああ、それでレーチェが俺の側にいてくれるなら、俺はなんでもする!!」
あの時、母達が思い描いていた筋書き。
「こんな筋書きじゃなかったはずよ。」
母はあの日俺にそう言った。
たくさんあったレイチェル救済の申し出の中で、たったひとりだけ、城に来る前のレイチェルを知っていた男。
真摯にレイチェルへの愛を綴り、王族の慈悲を願い出ていた男。
それがラウール・レイモンドだった。
そのラウールが城に来ていると聞いたら…。
「あんな奴にレーチェは渡さない!」
「渡せと言ってるんじゃない。終わりにしなくてはならないのよ。
…あなた自分がしでかした事がわかってる?
レイチェル様に真実を隠して嘘をついて、自分の手を取らなければ幸せにはなれない、そう思わせたのよ。あなたは卑怯だわ!
違う道があった事、それでもレイチェル様がエルを選んだって、そうしないとレイチェル様は過去から抜け出せない、カトリーナ様はそう言ったわ。」
「ステファンの事は乗り越えた!」
「違うわ、レイチェル様はこれから上に立つ者のひとりとして人々を信じなくてはならないからよ。
自分を見捨てたと思っている人達を。
それがどんなに辛いことかあなたわかってる?」
「俺がいる!俺だけでいい!」
「エル、傲慢にも程があるわ!」
…傲慢?俺が、傲慢?
「俺が…傲慢?」
「そうよ、あなたは王族の権威を振り翳して、たくさんの人の善意を踏み躙っているわ。
教会だって、たくさんの貴族達だって、政略だけでレイチェル様の保護を申し出たんじゃない。
皆が大きく声をあげないのは、あなたが王族のひとりだからよ。
レイチェルは知るべきなのよ。決して孤独だった訳じゃない。レイチェルの周りにはたくさんレイチェルを心配している人がいたんだって。
それから、エルンストをそこまで傲慢に変えてしまうくらいあなたに愛されているんだって。
男なら、それくらい度量のあるところを見せなさいよ!」
「…嫌だ。無理だ。」
そうしたらきっとレーチェは俺に幻滅する。
押し問答をしていると、レーチェが温室から出てきた。
ひとりで!
「レーチェ!」
駆け寄って強く抱きしめた。
レーチェは逆らわず、そのまま俺にその身を預けてくれる。
「エル、愛してる。だから…終わりにして。あなたがそうしなければならなかった理由、それを伝えてあげて。
私はマヌエラ様と会場に戻るから。」
「レーチェ?」
チュッと頬にレーチェはキスを落として、優しく手のひらで俺の身体を押し退けた。
「会場で待ってるから。今日の私はカトリーナ様の代理だから、務めを果たさないと。」
レーチェは俺の脇をすり抜けて、行ってしまった。
「エルンスト殿下…ここは。」
「退け!」
階段を塞いでいた兵を恫喝するように道を開けさせ、カツカツと靴音をひびかせながらレーチェを探す。
一本道だった。
いるはずのない場所に見張りの兵が立っている。見張りの兵を道標にして、レイチェルの後を追った。
叔母の温室の前にマヌエラが幾人かの兵に囲まれて立っていた。
俺に気付くと慌てて俺の前に立ち塞がった。
「エル!ダメよ!行ってはダメ!」
マヌエラが必死になって俺の腕を掴んで、引き留める。
「離せ!」
「ダメよ!大丈夫だから!レイチェル様のこと信じて!」
「…嫌だ、俺は行く!」
レーチェを信じていない訳じゃない。万が一の可能性ですら俺には耐えられない。
「あなたのワガママで、人の人生を変えるの!!」
「ああ、それでレーチェが俺の側にいてくれるなら、俺はなんでもする!!」
あの時、母達が思い描いていた筋書き。
「こんな筋書きじゃなかったはずよ。」
母はあの日俺にそう言った。
たくさんあったレイチェル救済の申し出の中で、たったひとりだけ、城に来る前のレイチェルを知っていた男。
真摯にレイチェルへの愛を綴り、王族の慈悲を願い出ていた男。
それがラウール・レイモンドだった。
そのラウールが城に来ていると聞いたら…。
「あんな奴にレーチェは渡さない!」
「渡せと言ってるんじゃない。終わりにしなくてはならないのよ。
…あなた自分がしでかした事がわかってる?
レイチェル様に真実を隠して嘘をついて、自分の手を取らなければ幸せにはなれない、そう思わせたのよ。あなたは卑怯だわ!
違う道があった事、それでもレイチェル様がエルを選んだって、そうしないとレイチェル様は過去から抜け出せない、カトリーナ様はそう言ったわ。」
「ステファンの事は乗り越えた!」
「違うわ、レイチェル様はこれから上に立つ者のひとりとして人々を信じなくてはならないからよ。
自分を見捨てたと思っている人達を。
それがどんなに辛いことかあなたわかってる?」
「俺がいる!俺だけでいい!」
「エル、傲慢にも程があるわ!」
…傲慢?俺が、傲慢?
「俺が…傲慢?」
「そうよ、あなたは王族の権威を振り翳して、たくさんの人の善意を踏み躙っているわ。
教会だって、たくさんの貴族達だって、政略だけでレイチェル様の保護を申し出たんじゃない。
皆が大きく声をあげないのは、あなたが王族のひとりだからよ。
レイチェルは知るべきなのよ。決して孤独だった訳じゃない。レイチェルの周りにはたくさんレイチェルを心配している人がいたんだって。
それから、エルンストをそこまで傲慢に変えてしまうくらいあなたに愛されているんだって。
男なら、それくらい度量のあるところを見せなさいよ!」
「…嫌だ。無理だ。」
そうしたらきっとレーチェは俺に幻滅する。
押し問答をしていると、レーチェが温室から出てきた。
ひとりで!
「レーチェ!」
駆け寄って強く抱きしめた。
レーチェは逆らわず、そのまま俺にその身を預けてくれる。
「エル、愛してる。だから…終わりにして。あなたがそうしなければならなかった理由、それを伝えてあげて。
私はマヌエラ様と会場に戻るから。」
「レーチェ?」
チュッと頬にレーチェはキスを落として、優しく手のひらで俺の身体を押し退けた。
「会場で待ってるから。今日の私はカトリーナ様の代理だから、務めを果たさないと。」
レーチェは俺の脇をすり抜けて、行ってしまった。
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