修道院に行きたいんです

枝豆

文字の大きさ
上 下
73 / 100

追いかけて

しおりを挟む
庭に出たはずのレーチェを追いかけて外へ出た。

「エルンスト殿下…ここは。」
「退け!」

階段を塞いでいた兵を恫喝するように道を開けさせ、カツカツと靴音をひびかせながらレーチェを探す。

一本道だった。
いるはずのない場所に見張りの兵が立っている。見張りの兵を道標にして、レイチェルの後を追った。

叔母の温室の前にマヌエラが幾人かの兵に囲まれて立っていた。
俺に気付くと慌てて俺の前に立ち塞がった。

「エル!ダメよ!行ってはダメ!」
マヌエラが必死になって俺の腕を掴んで、引き留める。
「離せ!」
「ダメよ!大丈夫だから!レイチェル様のこと信じて!」
「…嫌だ、俺は行く!」

レーチェを信じていない訳じゃない。万が一の可能性ですら俺には耐えられない。

「あなたのワガママで、人の人生を変えるの!!」
「ああ、それでレーチェが俺の側にいてくれるなら、俺はなんでもする!!」

あの時、母達が思い描いていた筋書き。
「こんな筋書きじゃなかったはずよ。」
母はあの日俺にそう言った。

たくさんあったレイチェル救済の申し出の中で、たったひとりだけ、城に来る前のレイチェルを知っていた男。
真摯にレイチェルへの愛を綴り、王族の慈悲を願い出ていた男。
それがラウール・レイモンドだった。
そのラウールが城に来ていると聞いたら…。

「あんな奴にレーチェは渡さない!」
「渡せと言ってるんじゃない。終わりにしなくてはならないのよ。

…あなた自分がしでかした事がわかってる?
レイチェル様に真実を隠して嘘をついて、自分の手を取らなければ幸せにはなれない、そう思わせたのよ。あなたは卑怯だわ!

違う道があった事、それでもレイチェル様がエルを選んだって、そうしないとレイチェル様は過去から抜け出せない、カトリーナ様はそう言ったわ。」

「ステファンの事は乗り越えた!」
「違うわ、レイチェル様はこれから上に立つ者のひとりとして人々を信じなくてはならないからよ。
自分を見捨てたと思っている人達を。
それがどんなに辛いことかあなたわかってる?」

「俺がいる!俺だけでいい!」
「エル、傲慢にも程があるわ!」

…傲慢?俺が、傲慢?

「俺が…傲慢?」
「そうよ、あなたは王族の権威を振り翳して、たくさんの人の善意を踏み躙っているわ。
教会だって、たくさんの貴族達だって、政略だけでレイチェル様の保護を申し出たんじゃない。
皆が大きく声をあげないのは、あなたが王族のひとりだからよ。

レイチェルは知るべきなのよ。決して孤独だった訳じゃない。レイチェルの周りにはたくさんレイチェルを心配している人がいたんだって。
それから、エルンストをそこまで傲慢に変えてしまうくらいあなたに愛されているんだって。

男なら、それくらい度量のあるところを見せなさいよ!」

「…嫌だ。無理だ。」
そうしたらきっとレーチェは俺に幻滅する。

押し問答をしていると、レーチェが温室から出てきた。
ひとりで!

「レーチェ!」
駆け寄って強く抱きしめた。
レーチェは逆らわず、そのまま俺にその身を預けてくれる。

「エル、愛してる。だから…終わりにして。あなたがそうしなければならなかった理由、それを伝えてあげて。
私はマヌエラ様と会場に戻るから。」

「レーチェ?」

チュッと頬にレーチェはキスを落として、優しく手のひらで俺の身体を押し退けた。

「会場で待ってるから。今日の私はカトリーナ様の代理だから、務めを果たさないと。」

レーチェは俺の脇をすり抜けて、行ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

杜野秋人
恋愛
「このような事件が明るみになった以上は私の婚約者のままにしておくことはできぬ!そなたと私の婚約は破棄されると思え!」 ルテティア国立学園の卒業記念パーティーで、第二王子シャルルから唐突に飛び出したその一言で、シャルルの婚約者である公爵家令嬢ブランディーヌは一気に窮地に立たされることになる。 シャルルによれば、学園で下級生に対する陰湿ないじめが繰り返され、その首謀者がブランディーヌだというのだ。 ブランディーヌは周囲を見渡す。その視線を避けて顔を背ける姿が何人もある。 シャルルの隣にはいじめられているとされる下級生の男爵家令嬢コリンヌの姿が。そのコリンヌが、ブランディーヌと目が合った瞬間、確かに勝ち誇った笑みを浮かべたのが分かった。 ああ、さすがに下位貴族までは盲点でしたわね。 ブランディーヌは敗けを認めるしかない。 だが彼女は、シャルルの次の言葉にさらなる衝撃を受けることになる。 「そして私の婚約は、新たにこのコリンヌと結ぶことになる!」 正式な場でもなく、おそらく父王の承諾さえも得ていないであろう段階で、独断で勝手なことを言い出すシャルル。それも大概だが、本当に男爵家の、下位貴族の娘に王子妃が務まると思っているのか。 これでもブランディーヌは彼の婚約者として10年費やしてきた。その彼の信頼を得られなかったのならば甘んじて婚約破棄も受け入れよう。 だがしかし、シャルルの王子としての立場は守らねばならない。男爵家の娘が立派に務めを果たせるならばいいが、もしも果たせなければ、回り回って婚約者の地位を守れなかったブランディーヌの責任さえも問われかねないのだ。 だから彼女はコリンヌに問うた。 「貴女、王子妃となる覚悟はお有りなのよね? では、一度お試しで受けてみられますか?“王子妃教育”を」 そしてコリンヌは、なぜそう問われたのか、その真意を思い知ることになる⸺! ◆拙作『熊男爵の押しかけ幼妻』と同じ国の同じ時代の物語です。直接の繋がりはありませんが登場人物の一部が被ります。 ◆全15話+番外編が前後編、続編(公爵家侍女編)が全25話+エピローグ、それに設定資料2編とおまけの閑話まで含めて6/2に無事完結! アルファ版は断罪シーンでセリフがひとつ追加されてます。大筋は変わりません。 小説家になろうでも公開しています。あちらは全6話+1話、続編が全13話+エピローグ。なろう版は続編含めて5/16に完結。 ◆小説家になろう4/26日間[異世界恋愛]ランキング1位!同[総合]ランキングも1位!5/22累計100万PV突破! アルファポリスHOTランキングはどうやら41位止まりのようです。(現在圏外)

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

夫が浮気をしたので、子供を連れて離婚し、農園を始める事にしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 10月29日「小説家になろう」日間異世界恋愛ランキング6位 11月2日「小説家になろう」週間異世界恋愛ランキング17位 11月4日「小説家になろう」月間異世界恋愛ランキング78位 11月4日「カクヨム」日間異世界恋愛ランキング71位 完結詐欺と言われても、このチャンスは生かしたいので、第2章を書きます

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

【完結】孕まないから離縁?喜んで!

ユユ
恋愛
嫁いだ先はとてもケチな伯爵家だった。 領地が隣で子爵の父が断れなかった。 結婚3年。義母に呼び出された。 3年も経つのに孕まない私は女ではないらしい。 石女を養いたくないそうだ。 夫は何も言わない。 その日のうちに書類に署名をして王都に向かった。 私は自由の身になったのだ。 * 作り話です * キチ姑います

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

信用してほしければそれ相応の態度を取ってください

haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。 「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」 「ではその事情をお聞かせください」 「それは……ちょっと言えないんだ」 信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。 二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。

処理中です...