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誓いの行く末
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シュタインから嫁いできた私が知らなかったキッテンの習慣は様々ある。
お茶の時間が午前中にあることもそうだし、王族が合議制を取っていることそうだ。
婚約者選定の際、私に付けられた侍女は私が出戻ってきた時には既に城には居なかった。
婚約者選定の婚約者候補に付けられた侍女達の間にも熾烈な出世競争が繰り広げられていたなんて知らなかった。
…悪いことしちゃったな。
と思う。
あの頃の私は、早々にステファンとの事は諦めていて早くシュタインに帰る事ばかりを考えていて、周りを全く見ていなかった。
出世競争に敗れた私の侍女は仕事を辞めてどこかに嫁がされたらしい。
程度の差はあれど、彼女もまた私と同じ家に縛られた女だったのだ。
「拝剣の誓い」という求婚の存在を知ったのは自分の結婚式の後だった。
私を王太子妃と認めないさるご婦人達の嫌味でだった。
既にステファンとレイチェルはその「拝剣の誓い」を済ませて、初夜を終えていたらしい。
兄嫁の計略で割り込んだ時、既にレイチェルは後戻りが出来なくなっていたことを、取り返しがつかない時期になって知らされた。
全てを与えられ、全てを与える。その証となるのが懐剣で、その懐剣が未だにステファンの執務室の机の上に載せられている。
そしてその横には黒い壺。
知らない間に私がレイチェルに贈った事になっている、葬儀で振る舞うためのお菓子壺。
砂糖菓子は皆に振る舞った。誰それ関係なく、城に関わる全ての人に同じものを用意していた。
それこそ国王陛下から下働きの女中に至るまで、数の違いはあるものの、皆に同じものを用意したはずなのに。
入れ物は…。王族と貴族は陶器、その他は紙箱で、色は白。黒い陶器の壺なんか知らない…。黒い入れ物や黒いお菓子が葬儀で振る舞われることも知らなかったのに。
ステファンの執務室に行くたびにそれが嫌でも目に入って心が重たくなった、
ある日の事だった。
ステファンの執務室を掃除していた女中のひとりがその黒い壺をハタキで引っ掛けて落とした。
その瞬間、重く私の胸にのし掛かっていた何かがスッと消えた。
…これでもう見なくて済む、と。
しかし、粉々に砕け散った黒い壺を見たステファンは烈火の如く怒った。
「誰だ!誰に言われた!」
「…申し訳ございません。」
土下座して泣き崩れる女中に対してステファンは容赦がなかった。
…だけど変だ?
「誰に言われた!」って?
まるで誰かの指図でワザと壺を壊したとでも言いたいのか?
…私だと思っているのだろうか。
レイチェルを侮辱した証の品を後生大事に飾っているような夫の振る舞いに業を煮やしたとでも?
…あり得るわ。私だって幾度も叩き壊して捨ててやりたい誘惑に駆られていたんだから。
女中はそのまま警備兵に引き渡されて、連れられていった。
「そこまでの事なのでしょうか?」
取り成したい訳ではなく、単純な疑問だった。
たかが陶器の壺ひとつ割ったくらいで…まるで罪人のように扱われては可哀想だ、と思った。
「あの壺は2人の女性を貶めた。悪戯にしては悪意があり過ぎる。」
ステファンは書類に目を通したままでそう言った。
ステファンの様子や声からはなんの感情も読み取れなかった。
「2人…ですか?」
ひとりはわかる、レイチェルだ。
もうひとりは…誰?
「わからないのか?」
呆れたようにステファンは書類から視線を上げて私を見た。
「ええ、わかりません。」
「ブリトーニャ、お前だよ。」
えっ!?どういう事ですか?
きっと今私はものすごく間抜けな顔をしているだろう。
「他国の者がキッテンの習慣を知っているはずがない。
あの黒い壺を選んだのは間違いなくキッテンの者だ。
やらせたのはお前じゃないだろう?」
ステファンの視線は真っ直ぐに私を見ている。
…違う。私が初めてステファンの瞳を見たのかもしれない。
「ずっとそう思っていたのですか?」
「すまない…最初は違った。
だけど後からそう思うようになった。
レイチェルの侍女はお前からだとは言わなかった。誰からかはわからない、知らない、と。
お前らしくもないとも思った。
お前なら直接言いに行くし、実際そうしただろう?
ブリトーニャ、なぜ違うと言わなかった?」
何故って…。
言っても無駄だと思ったからだ。誰も私のことを信じない、と。
皆、あの兄嫁の味方だったから。
それに。
もし習慣を知っていたら…していたかもしれないから。
泣きそうだ。だけど泣かない、泣いてはいけない。
それがここに嫁いだ私の意地だ。
「レイチェルとの事は過去だ。けれどなかった事には出来ない。してはならない。それをすれば貴族達は俺達を信用しなくなる。
レイチェルにしたことを、俺たちは忘れてはならない。
それがキッテンの剣の誓いが持つ重みだ。
それとも何か?お前は俺が許せないか?
なら、欲しければこれをやる。」
ステファンは机の上に載っていた懐剣を無造作に掴むと、グイッと私の前に突き出した。
「これをどうしろと?」
「さあ?好きにすればいい。捨ててもこの場で抜いて俺を刺しても。
必要なら膝をついて愛を誓おうか?」
「要りません。そんな懐剣ひとつ貰ったところで何も変わりません。
私には剣の誓いの重さなんか分かりたくもありません。
ただ。
あの壺を贈ったのが私じゃなかったと思っていてくれた事は嬉しく思います。
…ありがとうございます。」
そうか、要らないか。
ステファンはそう呟いて、持ったままの懐剣を…。
執務室の机の引き出しに入れて鍵を掛けた。
もうひとつの重石が取れた気がした。
「俺は王太子としてお前を伴侶にした。間違うことなく政略だ。だからってお前をいつまでも蔑ろにするつもりはない。
ただ、俺はエルンストを手放すつもりはないし、レイチェルはエルンストの伴侶となり、お前の相談役になる。
母と叔母のように一生付き纏う縁になる。
俺ともだ。
お前が自分の意思でここに立つと言うのなら、レイチェルとの事は飲み込め。
嫌なら好きに暮らせ。ただ離婚は出来ない。」
離婚は私も望まない。ここにいてもシュタインに出戻っても同じ針の筵の上にいる事に変わりはないのだから。
「…もうしばらく時間をかけても良いですか?」
「…好きにしろと言った。2度は言わない。」
「ありがとうございます。
それから今日はもう失礼しても良いですか?」
もう我慢できない、ここには居られそうもない。
涙が…宙を見て必死で堪える。
私を信じてくれる人がいた。
針の筵に一緒に座ってくれるという人がいた。
壺を割った女中は、婚約者候補のひとりだったある侯爵家からの推薦で城に上がっていた。
その女中はレイチェルの部屋にあった短剣をレイチェルの部屋からステファンの部屋に移動させたことも白状した。
そしてひとりの儀典部の官僚が城から去った。
お茶の時間が午前中にあることもそうだし、王族が合議制を取っていることそうだ。
婚約者選定の際、私に付けられた侍女は私が出戻ってきた時には既に城には居なかった。
婚約者選定の婚約者候補に付けられた侍女達の間にも熾烈な出世競争が繰り広げられていたなんて知らなかった。
…悪いことしちゃったな。
と思う。
あの頃の私は、早々にステファンとの事は諦めていて早くシュタインに帰る事ばかりを考えていて、周りを全く見ていなかった。
出世競争に敗れた私の侍女は仕事を辞めてどこかに嫁がされたらしい。
程度の差はあれど、彼女もまた私と同じ家に縛られた女だったのだ。
「拝剣の誓い」という求婚の存在を知ったのは自分の結婚式の後だった。
私を王太子妃と認めないさるご婦人達の嫌味でだった。
既にステファンとレイチェルはその「拝剣の誓い」を済ませて、初夜を終えていたらしい。
兄嫁の計略で割り込んだ時、既にレイチェルは後戻りが出来なくなっていたことを、取り返しがつかない時期になって知らされた。
全てを与えられ、全てを与える。その証となるのが懐剣で、その懐剣が未だにステファンの執務室の机の上に載せられている。
そしてその横には黒い壺。
知らない間に私がレイチェルに贈った事になっている、葬儀で振る舞うためのお菓子壺。
砂糖菓子は皆に振る舞った。誰それ関係なく、城に関わる全ての人に同じものを用意していた。
それこそ国王陛下から下働きの女中に至るまで、数の違いはあるものの、皆に同じものを用意したはずなのに。
入れ物は…。王族と貴族は陶器、その他は紙箱で、色は白。黒い陶器の壺なんか知らない…。黒い入れ物や黒いお菓子が葬儀で振る舞われることも知らなかったのに。
ステファンの執務室に行くたびにそれが嫌でも目に入って心が重たくなった、
ある日の事だった。
ステファンの執務室を掃除していた女中のひとりがその黒い壺をハタキで引っ掛けて落とした。
その瞬間、重く私の胸にのし掛かっていた何かがスッと消えた。
…これでもう見なくて済む、と。
しかし、粉々に砕け散った黒い壺を見たステファンは烈火の如く怒った。
「誰だ!誰に言われた!」
「…申し訳ございません。」
土下座して泣き崩れる女中に対してステファンは容赦がなかった。
…だけど変だ?
「誰に言われた!」って?
まるで誰かの指図でワザと壺を壊したとでも言いたいのか?
…私だと思っているのだろうか。
レイチェルを侮辱した証の品を後生大事に飾っているような夫の振る舞いに業を煮やしたとでも?
…あり得るわ。私だって幾度も叩き壊して捨ててやりたい誘惑に駆られていたんだから。
女中はそのまま警備兵に引き渡されて、連れられていった。
「そこまでの事なのでしょうか?」
取り成したい訳ではなく、単純な疑問だった。
たかが陶器の壺ひとつ割ったくらいで…まるで罪人のように扱われては可哀想だ、と思った。
「あの壺は2人の女性を貶めた。悪戯にしては悪意があり過ぎる。」
ステファンは書類に目を通したままでそう言った。
ステファンの様子や声からはなんの感情も読み取れなかった。
「2人…ですか?」
ひとりはわかる、レイチェルだ。
もうひとりは…誰?
「わからないのか?」
呆れたようにステファンは書類から視線を上げて私を見た。
「ええ、わかりません。」
「ブリトーニャ、お前だよ。」
えっ!?どういう事ですか?
きっと今私はものすごく間抜けな顔をしているだろう。
「他国の者がキッテンの習慣を知っているはずがない。
あの黒い壺を選んだのは間違いなくキッテンの者だ。
やらせたのはお前じゃないだろう?」
ステファンの視線は真っ直ぐに私を見ている。
…違う。私が初めてステファンの瞳を見たのかもしれない。
「ずっとそう思っていたのですか?」
「すまない…最初は違った。
だけど後からそう思うようになった。
レイチェルの侍女はお前からだとは言わなかった。誰からかはわからない、知らない、と。
お前らしくもないとも思った。
お前なら直接言いに行くし、実際そうしただろう?
ブリトーニャ、なぜ違うと言わなかった?」
何故って…。
言っても無駄だと思ったからだ。誰も私のことを信じない、と。
皆、あの兄嫁の味方だったから。
それに。
もし習慣を知っていたら…していたかもしれないから。
泣きそうだ。だけど泣かない、泣いてはいけない。
それがここに嫁いだ私の意地だ。
「レイチェルとの事は過去だ。けれどなかった事には出来ない。してはならない。それをすれば貴族達は俺達を信用しなくなる。
レイチェルにしたことを、俺たちは忘れてはならない。
それがキッテンの剣の誓いが持つ重みだ。
それとも何か?お前は俺が許せないか?
なら、欲しければこれをやる。」
ステファンは机の上に載っていた懐剣を無造作に掴むと、グイッと私の前に突き出した。
「これをどうしろと?」
「さあ?好きにすればいい。捨ててもこの場で抜いて俺を刺しても。
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「要りません。そんな懐剣ひとつ貰ったところで何も変わりません。
私には剣の誓いの重さなんか分かりたくもありません。
ただ。
あの壺を贈ったのが私じゃなかったと思っていてくれた事は嬉しく思います。
…ありがとうございます。」
そうか、要らないか。
ステファンはそう呟いて、持ったままの懐剣を…。
執務室の机の引き出しに入れて鍵を掛けた。
もうひとつの重石が取れた気がした。
「俺は王太子としてお前を伴侶にした。間違うことなく政略だ。だからってお前をいつまでも蔑ろにするつもりはない。
ただ、俺はエルンストを手放すつもりはないし、レイチェルはエルンストの伴侶となり、お前の相談役になる。
母と叔母のように一生付き纏う縁になる。
俺ともだ。
お前が自分の意思でここに立つと言うのなら、レイチェルとの事は飲み込め。
嫌なら好きに暮らせ。ただ離婚は出来ない。」
離婚は私も望まない。ここにいてもシュタインに出戻っても同じ針の筵の上にいる事に変わりはないのだから。
「…もうしばらく時間をかけても良いですか?」
「…好きにしろと言った。2度は言わない。」
「ありがとうございます。
それから今日はもう失礼しても良いですか?」
もう我慢できない、ここには居られそうもない。
涙が…宙を見て必死で堪える。
私を信じてくれる人がいた。
針の筵に一緒に座ってくれるという人がいた。
壺を割った女中は、婚約者候補のひとりだったある侯爵家からの推薦で城に上がっていた。
その女中はレイチェルの部屋にあった短剣をレイチェルの部屋からステファンの部屋に移動させたことも白状した。
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