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不甲斐ない男
謀反の兆し
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「謀反を起こして、フェイを倒す、そうおっしゃいますか?」
「…違う。謀反が起きた、そう言っている。」
…謀反が起きた。
「帝が病に倒れた隙に、フェイが国を獲る、と?」
「…違う。」
フェイではないとすると、後はジンシしかいない。
「ではジンシが…。」
「違う!」
まるで出来の悪い子供のように、違う違うと否定される。
「まず、帝は朱病ではない、だから帝は隔離ではなく幽閉されていると考えるべきだ。」
かもしれない、そう思う、という言い回しではなく、シンエンははっきりと言い切った。
シンエンがそういうのならば、そうだろうと思ってしまうから不思議だ。
しかしフーシンは確かめねばならない。
身の振り方というのはフーシンだけのことでないのだと思うからだ。
必要があれば皆を説き伏せなければならないからだ。
「いいか、フーシン。朱病だからこそ皆は閉じ込められても文句は言わない。朱病の感染のしやすさと怖さは皆が知っているからだ。
そして朱病は人から人へと伝染る。その強さは計り知れない。
では、ジンシは誰から伝染された?そして誰に伝染す?」
ああ、わかった。
「もしジンシが朱病なら、フェイも隔離されるべき…ですね。」
あの朝ジンシがフェイに会って何かを頼まれたのは明らかだ。
「ああ、そして帝も同じだ。帝ならさしずめ宰相と6府の長あたりは隔離だ。
護衛騎士も隔離、なんならティバルだってそうかもしれない。」
しかし隔離されたのは一部の者だけ。
朱雀と玄武の一部の者は姿を見せないが、ジンシの側にいた青龍に至ってはバラバラにされている。
「では…謀反が起きたとして、首謀者は?」
「フェイがすると思うか?」
「…思いません。」
統べる気がない者が、黙っていたら転がり落ちてくるものを待っていたらいい者が、謀反を起こす理由がない。
「そうだ、だがフェイを好きに操っている者を切れるのは誰だ?」
あっ、と思った。
「帝と…ジンシ…。」
ようやく及第点だったらしい、シンエンは満足そうに頷いた。
「そうだ。だがジンシは閉じ込められる前に抜け出した。誰が抜け出させた?」
「フェイ、ですか?」
「そうだ。つまり…」
「フェイは臣下の謀反を許した訳ではない?」
「…そこが難しい。」
フェイならやめさせることも出来ただろう、しかしそうではない。
好き勝手に謀反までやらせておいて、最後の砦となるジンシを外へ出した。
「ジンシは今どこにいる?」
「…わかりません。」
「いや、お前にならわかるはずだ。考えろ。」
フェイではない。
宰相でもない。
あの2人はジンシは死んだ者として考えている。
「ディバル殿?」
形見分けはティバルの手で行われている。
ティバル殿はなんて言っていたか…。
「考えてみろ、形見分けはジンシと縁の薄いディバルが行った。一番大切にしていた笛は消えた。お前の手元に来たのは別の笛。その笛は誰のだ?」
「…わかりません。女物の笛ですが、見たこともない笛です。」
「では他の物はどうだ?」
「…他の物とは?」
「母代わりにしていたシーレンは何を賜った?」
「シーレンは…鏡、いや硯か?」
「ジンシに手習したのはシーレン、だから硯だろう。櫛は?」
「櫛は…毎日髪を結っていた小姓の…あっ!」
そうだ。皆一人一人ジンシとの思い出深い、これ以外は考えられない物を賜った。
だからこそジンシの死を否定出来た。
高価な玉のついた簪なんかは女官のシーレンに行ってもおかしくない。櫛も鏡もそうだ。
しかしシーレンが賜ったのは、男物の硯。
「なぜティバルにそれがわかった?」
ああ、ああ。
唯一高潔なティバルの所にジンシはいる。
探し求めていたジンシの居所が見つかった。
「…違う。謀反が起きた、そう言っている。」
…謀反が起きた。
「帝が病に倒れた隙に、フェイが国を獲る、と?」
「…違う。」
フェイではないとすると、後はジンシしかいない。
「ではジンシが…。」
「違う!」
まるで出来の悪い子供のように、違う違うと否定される。
「まず、帝は朱病ではない、だから帝は隔離ではなく幽閉されていると考えるべきだ。」
かもしれない、そう思う、という言い回しではなく、シンエンははっきりと言い切った。
シンエンがそういうのならば、そうだろうと思ってしまうから不思議だ。
しかしフーシンは確かめねばならない。
身の振り方というのはフーシンだけのことでないのだと思うからだ。
必要があれば皆を説き伏せなければならないからだ。
「いいか、フーシン。朱病だからこそ皆は閉じ込められても文句は言わない。朱病の感染のしやすさと怖さは皆が知っているからだ。
そして朱病は人から人へと伝染る。その強さは計り知れない。
では、ジンシは誰から伝染された?そして誰に伝染す?」
ああ、わかった。
「もしジンシが朱病なら、フェイも隔離されるべき…ですね。」
あの朝ジンシがフェイに会って何かを頼まれたのは明らかだ。
「ああ、そして帝も同じだ。帝ならさしずめ宰相と6府の長あたりは隔離だ。
護衛騎士も隔離、なんならティバルだってそうかもしれない。」
しかし隔離されたのは一部の者だけ。
朱雀と玄武の一部の者は姿を見せないが、ジンシの側にいた青龍に至ってはバラバラにされている。
「では…謀反が起きたとして、首謀者は?」
「フェイがすると思うか?」
「…思いません。」
統べる気がない者が、黙っていたら転がり落ちてくるものを待っていたらいい者が、謀反を起こす理由がない。
「そうだ、だがフェイを好きに操っている者を切れるのは誰だ?」
あっ、と思った。
「帝と…ジンシ…。」
ようやく及第点だったらしい、シンエンは満足そうに頷いた。
「そうだ。だがジンシは閉じ込められる前に抜け出した。誰が抜け出させた?」
「フェイ、ですか?」
「そうだ。つまり…」
「フェイは臣下の謀反を許した訳ではない?」
「…そこが難しい。」
フェイならやめさせることも出来ただろう、しかしそうではない。
好き勝手に謀反までやらせておいて、最後の砦となるジンシを外へ出した。
「ジンシは今どこにいる?」
「…わかりません。」
「いや、お前にならわかるはずだ。考えろ。」
フェイではない。
宰相でもない。
あの2人はジンシは死んだ者として考えている。
「ディバル殿?」
形見分けはティバルの手で行われている。
ティバル殿はなんて言っていたか…。
「考えてみろ、形見分けはジンシと縁の薄いディバルが行った。一番大切にしていた笛は消えた。お前の手元に来たのは別の笛。その笛は誰のだ?」
「…わかりません。女物の笛ですが、見たこともない笛です。」
「では他の物はどうだ?」
「…他の物とは?」
「母代わりにしていたシーレンは何を賜った?」
「シーレンは…鏡、いや硯か?」
「ジンシに手習したのはシーレン、だから硯だろう。櫛は?」
「櫛は…毎日髪を結っていた小姓の…あっ!」
そうだ。皆一人一人ジンシとの思い出深い、これ以外は考えられない物を賜った。
だからこそジンシの死を否定出来た。
高価な玉のついた簪なんかは女官のシーレンに行ってもおかしくない。櫛も鏡もそうだ。
しかしシーレンが賜ったのは、男物の硯。
「なぜティバルにそれがわかった?」
ああ、ああ。
唯一高潔なティバルの所にジンシはいる。
探し求めていたジンシの居所が見つかった。
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