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新帝フェイ
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ティバル将軍の娘御のリーエン様のお輿入れの際のお披露目が正殿で行われた日、酒に酔った痴れ者が灯りに酒を取り落とした事で起きた大きな火災は、正殿を燃やし尽くし、沢山の者が焼け死んだ。
皇太子殿下フェイ様の顔にも酷い火傷の痕を残した。
それ以来フェイ殿下は常に頭巾を深く被り、口元も覆い隠し、目元しか見せなくなられた。
長く朱病を患われていた帝は崩御され、沢山の臣下が後を追った。
皇太子フェイ様は「これ以上の後追いを堅く禁じる。」とお触れを出さなければならないほどだった。
新しい帝となったフェイ様と宰相になったフーシン様は、様々な改革を行なっている。
古い臣下を罷免し、新しい臣下たちをたくさん取り入れた。
そして国師による祭祀を取りやめる事を決めた。
お側女のチェン様は病のためにお郷へ帰された。
同じくお側女のスーチー様は髪を落とされ、火事で亡くなられた母を弔いながら慰霊の宮でひっそりと暮らしている。
正妃ソニア様は変わらず奥の宮でお暮らしになり、たまにリーエン様と小さな茶会をお開きになっている。
側女だったリーエン様が皇子をお産みになられて100日のお披露目の日。
以前なら国師による先読みの儀式が行われる日だったけれど、それはもう行われない。
その日、その代わりかどうかはわからないが、帝とリーエン様は元は龍の宮、今は帝の宮から霊廟へと皇子を連れて出掛けられた。
先の帝の宮は火災で亡くなった者と前帝の後を追った臣下や兵士を弔う慰霊の宮へと在り方を変えている。
「帝に。」と声を掛けて一輪の花を手向ける。
「ハンジュ様に。」
「アナン様に。」
「弟…。ジンシに。」
穏やかに1人ずつ名を呼び一輪ずつ花を手向けていく。
「我が子と共に平和なリュウジュ国とすることを改めてお誓い申し上げます。」
と頭を下げて膝をつく。
新しい皇子には父と同じ鳳の印が入れられる事になった。
霊廟を出るとそこに1人の女が立っていた。
白装束に緋色の袴。
「…フキか。」
女の姿を見て帝の声が怖いものに変わる。
「ええ、リーエン様とお約束しましたので。」
「先読みは要らん。」
「ええ、わかっております。」
帝は涼しげな顔でそこに立つ女にどうしても一言物申したくなった。
皇子を抱いたリーエン様は口を開くことなく、一歩後ろへ控えられた。
「お前の所為で国が割れた。」
帝の威厳をまざまざと見せつけるかのような、重い言葉の響きにも関わらず、フキは飄々とそれを受け流した。
「郭公を見る価値はありませんでしたもの。」
涼しく言ってのけるフキの言葉に、帝の声はさらに低く冷たいものに変わった。
「…違う!例え帝の血では無くても、清らかな新しい民の先読みは国師の義務であった。」
「ほお、そう来ますか。」
心外だと言わんばかりのフキの返答に帝はさらに言葉を重ねる。
「お前が国を割った。親の咎は子には要らん。」
「…そうですね。その皇子にも親の咎を受け継がせる訳には参りませんものね。
口を塞ぎましょう、鳳の皇子の為に。」
嘲笑さえ浮かぶフキの口元を見て、帝の忍耐は切れた。
「国賊よ、この国より去れよ!
もう誰の命も取らぬと決めた我が意、二度と後悔させるな。」
「おお、怖い、怖い。
もちろん、喜ばれぬ者は去りましょう。ご機嫌よう、龍の帝。」
女はくるりと背を向けて、堂々と歩き去った。
皇太子殿下フェイ様の顔にも酷い火傷の痕を残した。
それ以来フェイ殿下は常に頭巾を深く被り、口元も覆い隠し、目元しか見せなくなられた。
長く朱病を患われていた帝は崩御され、沢山の臣下が後を追った。
皇太子フェイ様は「これ以上の後追いを堅く禁じる。」とお触れを出さなければならないほどだった。
新しい帝となったフェイ様と宰相になったフーシン様は、様々な改革を行なっている。
古い臣下を罷免し、新しい臣下たちをたくさん取り入れた。
そして国師による祭祀を取りやめる事を決めた。
お側女のチェン様は病のためにお郷へ帰された。
同じくお側女のスーチー様は髪を落とされ、火事で亡くなられた母を弔いながら慰霊の宮でひっそりと暮らしている。
正妃ソニア様は変わらず奥の宮でお暮らしになり、たまにリーエン様と小さな茶会をお開きになっている。
側女だったリーエン様が皇子をお産みになられて100日のお披露目の日。
以前なら国師による先読みの儀式が行われる日だったけれど、それはもう行われない。
その日、その代わりかどうかはわからないが、帝とリーエン様は元は龍の宮、今は帝の宮から霊廟へと皇子を連れて出掛けられた。
先の帝の宮は火災で亡くなった者と前帝の後を追った臣下や兵士を弔う慰霊の宮へと在り方を変えている。
「帝に。」と声を掛けて一輪の花を手向ける。
「ハンジュ様に。」
「アナン様に。」
「弟…。ジンシに。」
穏やかに1人ずつ名を呼び一輪ずつ花を手向けていく。
「我が子と共に平和なリュウジュ国とすることを改めてお誓い申し上げます。」
と頭を下げて膝をつく。
新しい皇子には父と同じ鳳の印が入れられる事になった。
霊廟を出るとそこに1人の女が立っていた。
白装束に緋色の袴。
「…フキか。」
女の姿を見て帝の声が怖いものに変わる。
「ええ、リーエン様とお約束しましたので。」
「先読みは要らん。」
「ええ、わかっております。」
帝は涼しげな顔でそこに立つ女にどうしても一言物申したくなった。
皇子を抱いたリーエン様は口を開くことなく、一歩後ろへ控えられた。
「お前の所為で国が割れた。」
帝の威厳をまざまざと見せつけるかのような、重い言葉の響きにも関わらず、フキは飄々とそれを受け流した。
「郭公を見る価値はありませんでしたもの。」
涼しく言ってのけるフキの言葉に、帝の声はさらに低く冷たいものに変わった。
「…違う!例え帝の血では無くても、清らかな新しい民の先読みは国師の義務であった。」
「ほお、そう来ますか。」
心外だと言わんばかりのフキの返答に帝はさらに言葉を重ねる。
「お前が国を割った。親の咎は子には要らん。」
「…そうですね。その皇子にも親の咎を受け継がせる訳には参りませんものね。
口を塞ぎましょう、鳳の皇子の為に。」
嘲笑さえ浮かぶフキの口元を見て、帝の忍耐は切れた。
「国賊よ、この国より去れよ!
もう誰の命も取らぬと決めた我が意、二度と後悔させるな。」
「おお、怖い、怖い。
もちろん、喜ばれぬ者は去りましょう。ご機嫌よう、龍の帝。」
女はくるりと背を向けて、堂々と歩き去った。
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