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輿入れの日のジンシ

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リーエンを奥の宮に送り出して、すぐにセイが戻ってきた。

「払い戻されてしまいました。申し訳ありません。」
泣きながら謝るセイをホンはただ宥めた。

「大丈夫、案ずるな。策はあるから。」
セイにリンの事は告げられないが、リーエンは1人じゃない。

リュウにセイを託し、1人部屋に篭った。
「ハル」
「はい、こちらに。」
「リンから連絡は?」
「はい、無事に奥の宮におります、とのことです。」
「幾人か?」
「4人です。フェイにも同じだけ。今8人の目が付いております。」
「…足りるか?」
「お望みならば増やします。」
「…最善を尽くしてくれないか。」
「…畏まりました。」


それから入れ替わり立ち替わり「影」からの知らせが逐一届いた。

本来ならば兄が迎え入れるのに、それを大夫に任せたこと。
大夫は侍女すら遠ざけ、小姓の部屋にリーエンを納めた。
将軍が先に差し入れた輿入れ用具一式は手回りの長持ひとつ残してどこかに消え失せた。

ひとつひとつ報告を聞くたびに、後悔と苛立ちが沸き立つ。
やはり兄はリーエンを大切にはしてはくれない。

気が立つ私を宥めようと、将軍もリュウも、あれほど泣いていたセイでさえも気配りをしてくれるが、その気配りすら鬱陶しく感じてしまう。

…兄は女を抱かない。決してリーエンには手を出さない、いや出せない。だからこそ「孕んだリーエン」を奥の宮に入れる必要がある、今は耐えるとき。
そうフーシンからは言い聞かされている。
苦渋の決断を後押ししたのはこのフーシンの言葉で、「万が一」の場合は迷わずリーエンに付くと言い切ってくれたフーシンの決意を信じた。

しかし、不安は消えない。
少しでも疑心を持たれぬ為にも日を開ける事なく、リーエンはフェイに「望まれる」に違いない。
そうしなければ、フェイの企みは破綻してしまう。

…リーエン!

そう想像してしまうだけで、居ても立っても居られない。
すぐにでも剣を手に宮に駆け込んでしまいたくなる。
「私が行けば良かった。」
そう漏らすたびにリュウにシーフォンに嗜められる。
「何のために、リーエンが覚悟を決めたと思っているのか!」
と。

最後の安堵の知らせは夜半に届けられた。
兄は手付きを「装って」すぐに寝所を後にしたそうだ。
今宵は免れた…。

翌朝、奥の宮からセイを迎える使いが来た。
どうやらフーシンが一肌脱いでくれたようだ。

「宴が明日催されます。」
とティバルに知らされる。
「もう披露目か。」
「はい。」

血が混ざらぬように奥の宮に入った女は皆一度は月のものが来るまで蟄居となる。
本来ならそれから披露目、手付き、と進む。

リーエンの場合蟄居はないとはわかっていたが、披露目は日を開けると思っていた。

「…明日か。」
リーエンを奪われるかもと苛立つ日が少ないのはありがたいが、敵を全て炙り出す期間は取れなかった。

「抜かりはございません。」
「頼む、将軍だけが頼りだ。」
「私だけではございません。どうかご安心ください。」

では手筈通りに、とティバルは城へ戻っていった。
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