30 / 87
国師フキ
しおりを挟む
奥宮大夫が去った後、程なくして部屋を訪れる者があった。
戸1枚で区切った部屋で、逃げようがない。
「失礼致します。」
こちらの返事も待たずに戸を開いて入ってきたのは、奥宮では少し浮くだろう、緋色袴姿の品の良い老婆だった。耳から垂れ下がる金の輪がシャラシャラと音を立てる。
「国師フキにございます、姫、おかえりなさいませ。」
老婆は歳に合わず透き通った声で、意味不明の言葉を紡いだ。
…この人が…。
私を「手折れ!」と言った占い師だ。
「おかえりとは?」
「16年ぶりに都へ戻ったのでしょう?おかえりですわ。」
と笑った。
「そんなに睨まなくても。」
どうやら無意識で睨みつけていた様だ。
「それは…当たり前です。」
コロコロっとフキはまた笑った。
「姫さまは私を恨んでおられるようだが、それはお門違いです。わたくしはペテンではなかった、何一つ間違ってはいない。」
そうでしょう?と視線で訴えられた。
リーエンは黙り込んだ。
…確かに。
「国を割る不吉な姫」一言も間違ってはいない事を、今の身には染みてよくわかる。
「赤子の先読みは無限に広がる道の一番太い筋道を口に出します。そこに繋がる道を選ぶ者もいれば、選ばない者もおります。
どう選んでもそこへ至る道もあればひとつ選び間違えれば至らない道もあります。
あなた様の道はどれを選んでも至るところはひとつの道でした。避けるとするならば手折るしかなかった。
帝が手折るなと思し召したとき、既にあなた様の道は決まってしまったのです。」
サキの表情には怒りも憂いも、ましてや悦びもない。
ただ見えたものを淡々と口にしただけだった、と言っている。
「御用は?」
「聞きたいことがあればお答えしようかと思いました。」
しばらく考えた。国師に聞くとしたら先読みしか無い。
「国はどうなりますか?」
「既に割れました。」
「私のせいだ、と?」
「あなた様の道ではありません。あなた様を選んだ者の道です。」
「ジンシ様…の、ですか?」
「違います、龍の皇子ではなく郭公の皇子の道です。」
龍でなければあとは1人しかいない。
「郭公?鳳ではなく?」
「はい、郭公です。
帝にも郭公だと言うたのに、鳳を与えてしまわれました。手折れと言いましたのに…。」
「私を選んだ?ジンシではなく…フェイが?」
「ええ、あなた様は破滅への道標でした。選ばれた以上、道はひとつでございます。
後は憂う必要も悩む必要もないし、抗っても無駄でございます。ただ生きて願えば与えられる、割れるのも一時の迷い、と申しておきましょう。」
ずずっとフキの手が伸ばされてリーエンの腹を摩った。
ゾワっと身体に身震いが走る。
「少し喋り過ぎました。御身を大切になさいませ。
では1年後に、また。」
それだけ言うとフキは部屋を出た。
与えられた言葉に押し潰されそうになって、リーエンは見送るどころかしばらく動くことさえ出来ないでいた。
「リン…。」
コトっ。
「どうしたらいいかしら。」
口に出してから気付いた。二択でなければリンは答えられない。
「何かすべき?」
コトっ…コト。
「…そう、わかった。」
なるようになる、なるようにしかならない、きっとそう言う事だ。
戸1枚で区切った部屋で、逃げようがない。
「失礼致します。」
こちらの返事も待たずに戸を開いて入ってきたのは、奥宮では少し浮くだろう、緋色袴姿の品の良い老婆だった。耳から垂れ下がる金の輪がシャラシャラと音を立てる。
「国師フキにございます、姫、おかえりなさいませ。」
老婆は歳に合わず透き通った声で、意味不明の言葉を紡いだ。
…この人が…。
私を「手折れ!」と言った占い師だ。
「おかえりとは?」
「16年ぶりに都へ戻ったのでしょう?おかえりですわ。」
と笑った。
「そんなに睨まなくても。」
どうやら無意識で睨みつけていた様だ。
「それは…当たり前です。」
コロコロっとフキはまた笑った。
「姫さまは私を恨んでおられるようだが、それはお門違いです。わたくしはペテンではなかった、何一つ間違ってはいない。」
そうでしょう?と視線で訴えられた。
リーエンは黙り込んだ。
…確かに。
「国を割る不吉な姫」一言も間違ってはいない事を、今の身には染みてよくわかる。
「赤子の先読みは無限に広がる道の一番太い筋道を口に出します。そこに繋がる道を選ぶ者もいれば、選ばない者もおります。
どう選んでもそこへ至る道もあればひとつ選び間違えれば至らない道もあります。
あなた様の道はどれを選んでも至るところはひとつの道でした。避けるとするならば手折るしかなかった。
帝が手折るなと思し召したとき、既にあなた様の道は決まってしまったのです。」
サキの表情には怒りも憂いも、ましてや悦びもない。
ただ見えたものを淡々と口にしただけだった、と言っている。
「御用は?」
「聞きたいことがあればお答えしようかと思いました。」
しばらく考えた。国師に聞くとしたら先読みしか無い。
「国はどうなりますか?」
「既に割れました。」
「私のせいだ、と?」
「あなた様の道ではありません。あなた様を選んだ者の道です。」
「ジンシ様…の、ですか?」
「違います、龍の皇子ではなく郭公の皇子の道です。」
龍でなければあとは1人しかいない。
「郭公?鳳ではなく?」
「はい、郭公です。
帝にも郭公だと言うたのに、鳳を与えてしまわれました。手折れと言いましたのに…。」
「私を選んだ?ジンシではなく…フェイが?」
「ええ、あなた様は破滅への道標でした。選ばれた以上、道はひとつでございます。
後は憂う必要も悩む必要もないし、抗っても無駄でございます。ただ生きて願えば与えられる、割れるのも一時の迷い、と申しておきましょう。」
ずずっとフキの手が伸ばされてリーエンの腹を摩った。
ゾワっと身体に身震いが走る。
「少し喋り過ぎました。御身を大切になさいませ。
では1年後に、また。」
それだけ言うとフキは部屋を出た。
与えられた言葉に押し潰されそうになって、リーエンは見送るどころかしばらく動くことさえ出来ないでいた。
「リン…。」
コトっ。
「どうしたらいいかしら。」
口に出してから気付いた。二択でなければリンは答えられない。
「何かすべき?」
コトっ…コト。
「…そう、わかった。」
なるようになる、なるようにしかならない、きっとそう言う事だ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる