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再始動

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生きる事を決めたジンシは抜け殻ではなくなった。
まずは剣の鍛錬を始めた。
いきなり武官のリュウやシーフォンを相手にするのは体力的に無理だったので、「ジャン」が相手を務めた。

「なかなか綺麗な太刀筋ですね。」
とジンシが褒めてくれる。
「力では敵いませんから、このように仕込まれました。」

将の父が私に仕込んだのは、一撃必殺の剣。
刃を合わせても力負けするので、とにかく躱して交わして、一瞬の隙を逃さずに確実に突く。

最初のうちこそ体力が無く、私と互角だったジンシだったけれど、直ぐに遥かに私を凌駕する。
「こう見えて割と強いんです。」
とジンシは笑った。

フーシンと共に警護に就いていた兵士達に良く挑み掛かっていたらしい。
「怒られませんでしたか。」
「怒られたよ。初めのうちは。しかしそのうちお互いにそれが楽しくなった。」

その様子が目に浮かぶ。
退屈になりがちな要人警護の任務の中の一服の清涼になっただろう。
初めは戸惑っていた兵士達も、次第に輝くように笑う皇子との交わりに心惹かれていったに違いない。

このところ、ジンシは体力だけではなく、感性も感情も取り戻しつつある。
強いだけでもなく、しなやかでもあった。
散々皇子として色々と詰め込まれて来たのだろう、ジンシの教養の幅の広さと深さは驚くほどだった。

馬に乗らせれば誰よりも速く、狩をすれば鹿も猪も思うがままに。
あれほど頑に開かなかった本もあっという間に読み終えた。

…あの夜。
私は返事をしなかった。
黙り込んだ私に
「急がなくていい。」
と話を打ち切ったのはジンシの方だった。

この山荘から出られない私と、同じく山荘から出られないホン。
決まって私達は共に過ごした。
そうしたかったからなのか、そうするしかなかったのか。

けれどそれは暇に囚われていた私の暮らしを大きく変えてくれた。

あれから夕闇の頃に決まって合奏をした。
顔を見合わせて音を奏でたのはあの日だけだ。
それでも私が琴を爪弾けばどこからか笛の音が聞こえてきた。

それから変わった事がもうひとつ。
それまではセイやシーフォンが買い付けていた食料品や日用品が麓の町の御用聞きから届けられるようになった。

そして配達人の翁は必ずと言って良いくらいに、しわくちゃの請求書を突きつけるのだ。
その請求書を受け取るのはジンシの役目で、ジンシは一瞥すると直ぐにその紙を燃やしてしまう。

「…請求書じゃないんでしょう?」
と尋ねると
「…請求書だよ。」
とはぐらかされる。

父は相変わらずこちらには来ない。

男達がコソコソと何かをしているのは明白だ。


鍛錬をして、野山を駆けまわり、音楽を弾く…後から思えばこの時が一番穏やかな日々だった。
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