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合奏
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生々しい政治の話に毒され、リーエンの心は暗く澱んでいた。
怒りに任せて部屋を飛び出して自室に篭ってはみたものの、冷静になってみたら何故私があれほど腹を立ててしまったのかの説明がつかない。
倒れてから今日までずっと側でホンを見てきた。
生きる事も死ぬ事も諦めた抜け殻に魂が戻る日をずっと待っていた。
「あんなに嬉しそうだったのに…。」
懐かしい調度品に囲まれたホン、いいえジンシには僅かだけど光が差していた。
良い兆しになるかと思ったのに、さらに奈落に落とすような事になり、リーエンは腹を立てた。
リーエンはただ「生きて欲しい」と思ったのだ。
欲を持って、抜け殻じゃなく、傀儡じゃなく、自分の意思で、自身の脚で、自分の手で、何かを掴み取って、生きて欲しかったのだ。
はたと気付いた。
「他人事なのに…。」
馬鹿だなぁ、関わらないと決めたお人じゃなかったのか。
なぜあんなに腹を立ててしまったのか?
「…イヤだわ。」
ホンに情が湧き始めてしまったのを自覚した。
気分を変えたい…。
このモヤモヤする気持ちをはらさなければ!
リーエンはひさしぶりに琴を出してきた。
殿下が山荘にいる間は子女の嗜みとされる事は控えていた。
特に琴の音は響く。
「もう女だってバレちゃったし、構わないわよね。」
柱を立て直し、爪を付ける。
ビーン
試しに弦を弾いて感触を確かめると、リーエンは一番得意な曲を奏で始めた。
無我夢中で琴を爪弾く。この曲は速めに弾く方が聞こえが良い。
懸命に音を繋げる事に集中して、余計な思考が切り離されていく。
ピィー、フルルゥー、と笛の音が合わさってきて、思わず手を止めた。
縁側にいつの間にかホンが座っていた。
手を止めてしまったのを咎めるように見つめられて、
「もう一度。」
と一言。
仕方なく頭から弾き直した。
この曲を知っているのかどうかは知らないが、ホンの笛の音は驚くほどに上手くて、またリーエンの琴の音に程よく溶け込んだ。
琴と笛の音が夕焼けの空へ吸い込まれていった。
「笛、お上手なんですね。」
長々と続けた演奏が終わると、リーエンの方から話しかけた。
女物の笛だったので、ホン自ら吹くとは思っていなかった。
「…母の形見なんです。」
とホンが静かに話し出した。
「母上様のですか。」
ここに来て以来、初めてリーエンに個人的な事を話し出したホン。
驚きはしたが、邪魔だてはしたくなかったので、静かにホンの言葉に耳を傾ける。
「母は笛と琴の担い手でした。殿上人の宴で演奏したのを切っ掛けに帝に見染められました。」
ジンシの母は万事控えめで、他国の姫であった皇后を常に立てて暮らしていた。
しかし帝の寵愛は政略結婚の皇后ではなく、見染めた側女に傾いた。
そのため母は皇后に遠慮して、なるべく自身の棟から出ないようにと努めていた。
「母はあまり出歩く事なく、奥の宮の自室に籠り、私に笛を教え込み、2人でよく演奏に興じました。」
正直、私にはつまらなかったですけどね、とホンは自嘲する。
…あっ、笑った。
ここに来て以来、凪のような無表情か苦悶する顔しか見た事がなかったのに。
…こんなに美しく笑う人だったんだ。自嘲でさえも美しい。
「そこで、私は部屋から出る口実を作るために武芸に励みました。」
剣練で知り合ったフーシンと意気投合したのを知った帝が、奥の宮から自身の宮に移る時に、フーシンを近習へと引き上げてくれた。
「…そうですか。それは良かったですね。」
事情も知らないで良かったと言えるのは、ホンの表情が優しく柔らかったからだと思う。
「フーシンは色々な事によく怒ってくれました。
私を蔑ろにしようとする者たちに対して…。
意見を言えない私の代わりに…。先程の貴女のように。
リーエン殿、私の為に怒ってくれてありがとう。」
嬉しかった、とホンは付け加えてくれた。
「…生きて下さい。」
つい出でしまった言葉になんの脈絡もない事に気付いて、リーエンは赤面した。
「…生きるよ。助けてくれた天女の為にも。」
「…天女?」
死の淵で見たんだ、とホンは言った。
夢うつつの中で、美しい天女を見た。
「少しジャンに似ていた。」
ホンが言わんとしていた事に気付いた。
死の淵にいると思い侮ったのだ。
それなのにこのひと月「ジャン」として接してきたことに気付く。
「…お恥ずかしい限りで…。」
もう、隠れたい…。
「訳は先程聞いた。フキ様の先読みで要らぬ苦労を掛けたようだ。
…ただわかって欲しい。
帝の言う事は正しい。私は生きて子を成して次の世代へ国を託さなければならない。
国を割るどころの話ではなくなる、平和な世の為に、後継者で揉める事は出来ない。」
…はい、と頷くしか出来ない。
もしハルが言った事が真実ならば、世継ぎはジンシ殿下しか作れない。
「…ただ兄の願い通りの、兄の身代わりのように生きていく事は多分出来ない。私は私が選んだ人と分かち合いたい生きていきたいと思う。」
…そうでしょう。
それが人として正しい姿だと思う。
「…リーエンは生まれし時より、我と兄と出会う事を避けて生きてきた、と聞いた。」
「はい。それが定めに逆らえる唯一の道と信じて生きて参りました。」
「しかし、そのせいで私はリーエンと出会ってしまった。」
そうか…。言われてみたらそうかもしれない。
あの先読みさえなければ、たくさんいる臣下の、たくさんいる子女のひとりでしかなかったのだ。
この山荘に籠る事も、ジンシがこの山荘に送り込まれる事も無かった。
ならば瀕死のジンシを看ることもなく、こうして共に音を奏でる事も、腹を割って話をする事も…きっとなかった。
「私は母から常に「兄の臣下であれ。」といい含めて育てられた。
兄と私がひとつである事が何よりも肝要なのだ、と。
その事に疑問を持つことも許されなかった。
今思うと、母はきっとリーエン殿の先読みを知って、案じたに違いない。
将軍もそうに違いない。
お二人は宿命を変えようとしていたのだろう。」
うん、そうだ。そうに違いない。
ハンジュ様は我が子を諌める事で、父は私を囲うことで、宿命を変えようとしていた。
でも…。
「…しかし無駄になった。」
「ああそうだ。無駄になった。」
共にあれと願われていた兄弟は最悪の形で決裂した。
決して出会うはずのない者が出会ってしまった。
「どうあっても変えられない運命だった、そう思わないか?
それならば、私は甘んじて受けようと思う。」
ホンは真っ直ぐに私を見た。
直感だった。
この話は止めなくては!そう啓示が降りた。
立ち上がろうとした私をホンが止めた。
「…落ち着きましょう。」
「…落ち着いている。気は触れてはいない。」
「せめて、聞くだけは聞いてはくれないか。」
真っ直ぐ私を見つめる瞳は「生きて」いた。
生きる者の、光を湛えた瞳だった。
駄目とは言えなかった。ずっと待ち望んでいた「生きる」者の瞳だったから。
でも、駄目だ。
この先は聞いてはいけない。
「…やめましょう。」
「嫌だ。」
せめて視線を逸らそうとしたけれど、身体が動かなかった。
真っ直ぐに私を見る視線に吸い込まれて瞳を逸らすことが出来なくなった。
「私はリーエンと生きて分かち合いたいと思う。」
ああ、ああ。
とうとう…。運命が動き出してしまった。
怒りに任せて部屋を飛び出して自室に篭ってはみたものの、冷静になってみたら何故私があれほど腹を立ててしまったのかの説明がつかない。
倒れてから今日までずっと側でホンを見てきた。
生きる事も死ぬ事も諦めた抜け殻に魂が戻る日をずっと待っていた。
「あんなに嬉しそうだったのに…。」
懐かしい調度品に囲まれたホン、いいえジンシには僅かだけど光が差していた。
良い兆しになるかと思ったのに、さらに奈落に落とすような事になり、リーエンは腹を立てた。
リーエンはただ「生きて欲しい」と思ったのだ。
欲を持って、抜け殻じゃなく、傀儡じゃなく、自分の意思で、自身の脚で、自分の手で、何かを掴み取って、生きて欲しかったのだ。
はたと気付いた。
「他人事なのに…。」
馬鹿だなぁ、関わらないと決めたお人じゃなかったのか。
なぜあんなに腹を立ててしまったのか?
「…イヤだわ。」
ホンに情が湧き始めてしまったのを自覚した。
気分を変えたい…。
このモヤモヤする気持ちをはらさなければ!
リーエンはひさしぶりに琴を出してきた。
殿下が山荘にいる間は子女の嗜みとされる事は控えていた。
特に琴の音は響く。
「もう女だってバレちゃったし、構わないわよね。」
柱を立て直し、爪を付ける。
ビーン
試しに弦を弾いて感触を確かめると、リーエンは一番得意な曲を奏で始めた。
無我夢中で琴を爪弾く。この曲は速めに弾く方が聞こえが良い。
懸命に音を繋げる事に集中して、余計な思考が切り離されていく。
ピィー、フルルゥー、と笛の音が合わさってきて、思わず手を止めた。
縁側にいつの間にかホンが座っていた。
手を止めてしまったのを咎めるように見つめられて、
「もう一度。」
と一言。
仕方なく頭から弾き直した。
この曲を知っているのかどうかは知らないが、ホンの笛の音は驚くほどに上手くて、またリーエンの琴の音に程よく溶け込んだ。
琴と笛の音が夕焼けの空へ吸い込まれていった。
「笛、お上手なんですね。」
長々と続けた演奏が終わると、リーエンの方から話しかけた。
女物の笛だったので、ホン自ら吹くとは思っていなかった。
「…母の形見なんです。」
とホンが静かに話し出した。
「母上様のですか。」
ここに来て以来、初めてリーエンに個人的な事を話し出したホン。
驚きはしたが、邪魔だてはしたくなかったので、静かにホンの言葉に耳を傾ける。
「母は笛と琴の担い手でした。殿上人の宴で演奏したのを切っ掛けに帝に見染められました。」
ジンシの母は万事控えめで、他国の姫であった皇后を常に立てて暮らしていた。
しかし帝の寵愛は政略結婚の皇后ではなく、見染めた側女に傾いた。
そのため母は皇后に遠慮して、なるべく自身の棟から出ないようにと努めていた。
「母はあまり出歩く事なく、奥の宮の自室に籠り、私に笛を教え込み、2人でよく演奏に興じました。」
正直、私にはつまらなかったですけどね、とホンは自嘲する。
…あっ、笑った。
ここに来て以来、凪のような無表情か苦悶する顔しか見た事がなかったのに。
…こんなに美しく笑う人だったんだ。自嘲でさえも美しい。
「そこで、私は部屋から出る口実を作るために武芸に励みました。」
剣練で知り合ったフーシンと意気投合したのを知った帝が、奥の宮から自身の宮に移る時に、フーシンを近習へと引き上げてくれた。
「…そうですか。それは良かったですね。」
事情も知らないで良かったと言えるのは、ホンの表情が優しく柔らかったからだと思う。
「フーシンは色々な事によく怒ってくれました。
私を蔑ろにしようとする者たちに対して…。
意見を言えない私の代わりに…。先程の貴女のように。
リーエン殿、私の為に怒ってくれてありがとう。」
嬉しかった、とホンは付け加えてくれた。
「…生きて下さい。」
つい出でしまった言葉になんの脈絡もない事に気付いて、リーエンは赤面した。
「…生きるよ。助けてくれた天女の為にも。」
「…天女?」
死の淵で見たんだ、とホンは言った。
夢うつつの中で、美しい天女を見た。
「少しジャンに似ていた。」
ホンが言わんとしていた事に気付いた。
死の淵にいると思い侮ったのだ。
それなのにこのひと月「ジャン」として接してきたことに気付く。
「…お恥ずかしい限りで…。」
もう、隠れたい…。
「訳は先程聞いた。フキ様の先読みで要らぬ苦労を掛けたようだ。
…ただわかって欲しい。
帝の言う事は正しい。私は生きて子を成して次の世代へ国を託さなければならない。
国を割るどころの話ではなくなる、平和な世の為に、後継者で揉める事は出来ない。」
…はい、と頷くしか出来ない。
もしハルが言った事が真実ならば、世継ぎはジンシ殿下しか作れない。
「…ただ兄の願い通りの、兄の身代わりのように生きていく事は多分出来ない。私は私が選んだ人と分かち合いたい生きていきたいと思う。」
…そうでしょう。
それが人として正しい姿だと思う。
「…リーエンは生まれし時より、我と兄と出会う事を避けて生きてきた、と聞いた。」
「はい。それが定めに逆らえる唯一の道と信じて生きて参りました。」
「しかし、そのせいで私はリーエンと出会ってしまった。」
そうか…。言われてみたらそうかもしれない。
あの先読みさえなければ、たくさんいる臣下の、たくさんいる子女のひとりでしかなかったのだ。
この山荘に籠る事も、ジンシがこの山荘に送り込まれる事も無かった。
ならば瀕死のジンシを看ることもなく、こうして共に音を奏でる事も、腹を割って話をする事も…きっとなかった。
「私は母から常に「兄の臣下であれ。」といい含めて育てられた。
兄と私がひとつである事が何よりも肝要なのだ、と。
その事に疑問を持つことも許されなかった。
今思うと、母はきっとリーエン殿の先読みを知って、案じたに違いない。
将軍もそうに違いない。
お二人は宿命を変えようとしていたのだろう。」
うん、そうだ。そうに違いない。
ハンジュ様は我が子を諌める事で、父は私を囲うことで、宿命を変えようとしていた。
でも…。
「…しかし無駄になった。」
「ああそうだ。無駄になった。」
共にあれと願われていた兄弟は最悪の形で決裂した。
決して出会うはずのない者が出会ってしまった。
「どうあっても変えられない運命だった、そう思わないか?
それならば、私は甘んじて受けようと思う。」
ホンは真っ直ぐに私を見た。
直感だった。
この話は止めなくては!そう啓示が降りた。
立ち上がろうとした私をホンが止めた。
「…落ち着きましょう。」
「…落ち着いている。気は触れてはいない。」
「せめて、聞くだけは聞いてはくれないか。」
真っ直ぐ私を見つめる瞳は「生きて」いた。
生きる者の、光を湛えた瞳だった。
駄目とは言えなかった。ずっと待ち望んでいた「生きる」者の瞳だったから。
でも、駄目だ。
この先は聞いてはいけない。
「…やめましょう。」
「嫌だ。」
せめて視線を逸らそうとしたけれど、身体が動かなかった。
真っ直ぐに私を見る視線に吸い込まれて瞳を逸らすことが出来なくなった。
「私はリーエンと生きて分かち合いたいと思う。」
ああ、ああ。
とうとう…。運命が動き出してしまった。
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