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流行病

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「分かる範囲で構わない。何があったか教えては貰えるか?」
ジンシはディバルに頼んだ。

「不審な者と警備の者とが一戦を交え、怪我人まで出たとの知らせを受けて、急ぎこちらへと参じました。」
淡々とディバルはあの日の事を語り出してくれる。

まずは治療を、と医師のカイが怪我人の服を剥ぎ取ったとき、背の焼印を見つけた。
まずい事になったと、急ぎディバルは城へと戻った。
しかし皇子の住まう、龍の宮の扉は既に固く閉ざされていた。

「…朱病が出たと聞いたが。」
身体に朱色の発疹が出る朱病は、感染力が強く致死率も高い。
そのまま龍の宮に関わる者たちは宮から出る事が許されず、隔離された。

当然、ティバルは伝言も伝えられなければ、あちらから何か言付けられる事は出来なかった。

そこでディバルは皇族の私生活を管理する内務府に連絡を入れた。
内務府からの返答は、「ジンシ殿下は朱病に罹り、龍の宮で闘病されている。お尋ねのような者は心当たりがない。」
であった。

そんな馬鹿な!信じられない。

神獣の印を持つ者に心当たりがないの一言で放るなんて!
たとえ偽者であったとしても、戯れ者であったとしても、神獣を身に入れる事は皇族以外は犯罪だ。
帝の落とし胤かもしれない。
考えなくてはならない可能性は幾つもある。

諦められなかったディバルは、続けて皇族の祭務を担う殿中府へと伝手を頼ったが、答えは変わらなかった。
そして悶々とする中一夜が明け、公布されたのが、「ジンシ皇子の崩御」である。

「何かあったのだと悟りました。」
とディバルは項垂れる。
あの日の事を思い出すと悔いばかり募るとも言った。

「帝は…?」
「朱病は龍の宮と帝の奥宮で発生致しました。帝も念のため隔離されました。」
「どのくらい出た。」
「…2名。帝とジンシ殿下です。」
「信じるのか…。」
「いいえ、理にかないません。」

疫病が皇族だけに現れる、そんな御伽噺はない。しかし、そう触れが出て、それに沿って城が動いている。

「…では公務は全てフェイ皇太子が、か?」
「…はい。いかにも。」
「皇太子は何と?」
「…崩御は皇太子から発布されました。」

…そうか。

何はともあれ、龍の宮の者達に疫病がなかったらしい事には安堵する。
後は…父か。

「…何が起きたのだろう?帝は?」
「今一度、調べております。」
「…影は?」
「既に皇太子に全権がございます故に…。」

「不甲斐ない将で申し開きもございません。」
ティバルに返してやれる言葉はない。
もうその立場ではおそらくは…ない。

「俺はどうすべきか…。」
「先ほども言いました。答えが出るまではホンとしてここに、と。」

「…すまぬ、少し考えさせてくれ。1人にしてもらえるか?」
「…はい。扉の外にジャンが控えておりますので、何かあれば…。」
「…わかった。」

ディバルとジャンは一礼の後部屋から下がった。
一人残された静寂の中で、ジンシはただ座り続けていた。
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