8 / 87
父娘の会話
しおりを挟む
「…ったく。大人しくしておけと言っただろうに!」
「…私は悪くないわ!」
苦虫を完全に噛み潰したとしか思えない父の謂れのない叱責に、リーエンは唇を尖らせた。
「そうではない、お前が戦いに出る必要は無かった、そう言っている。」
「…だって。」
侵入者がリュウやシーフォンに向かって爆弾を投げたのだと思ったのだから、仕方がないじゃないの!
「…全く。少しは大人しくしてろ!戦うために武芸を教えたんじゃない!」
間もなく成人しようかという娘が、剣を片手に侵入者と対峙するなんて!と、ディバルは溜息をつく。
「…それで?あの人は?」
「カイに診させている。命は繋げそうだ。」
「…良かったです。」
…幸いだった。
まさか第二皇子を敷地内で死なせるような事になっては、さすがの父でさえも首が胴から離れただろう。
可哀想だが、あの馬はその場で安楽死させた。
とりあえず手当てを、と屋敷に運び入れて、濡れた服を脱がせた時、皆に衝撃が走った。
「…龍の印!」
背中にくっきりと残る焼印を見て、駆けつけた医師のカイが叫んだ。
神獣の印は皇族の証、皇子は背に、皇女は腰に焼印を施される。
龍は第二皇子ジンシ殿下の印。
なぜここに第二皇子がいて、手練に襲われたのか見当もつかない。
まずは治療、それから父に連絡を。
慌てて駆けつけてきた父にリーエンは叱り飛ばされたところである。
「何のためにここに居を構えたと言うのか!全く持って忌々しい!
いいか!リーエンは殿下の前に姿を見せるな!」
「…誰が看るのですか!」
憮然と答える。
高貴なる人の世話を童のセイに任せる訳にも、リュウやシーフォンら武人にさせる訳にもいかないのに。
この山荘には後は下働きの女しかいない。
「…仕方ない、とりあえずジャンに任せよ。」
父はため息をつく。
ジャンとはリーエンの仮の男姿である。
「…かしこまりました。」
「…直ぐに屋敷から誰か寄越す。
とりあえず城へ戻り、龍の宮へ伝えねばなるまい、後は頼む。」
ディバルはそう言い残して一旦山荘から離れた。
「…そんなこと言ったって、向こうから勝手に来たんじゃない!」
リーエンの愚痴は止まらなかった。
そもそも、フキ様の先読みでリーエンは「国を割る姫」と言われたのだ。
「殺されなかっただけマシだ。」
と両親は都落ちを受け入れた。
手折れ!とまで言われたリーエンの命を救ったのは帝だと聞いている。
女1人に何が出来ようものか、と帝は仰ったそうだけれど…。
もし先読みが当たるとすれば…。
様々な道筋を想像してきた。
そしてそれは2人の皇子による内乱である、と父母は予測した。
どういう理由かはわからないが、リーエンがその2人の導火線に火をつけるとすれば、「国を割る姫」となり得るのかもしれない。
「決して皇子に出会わせてはならない。」
運命に逆らえる策があるのだすれば、これしかない。
だからディバルはリーエンを連れて城に入る事を迷ったし、宰相もそれを認め、異例の別居に至ったのだ。
「…でも向こうから来ちゃうなんて!」
…これが運命の環の始まりでない事を祈るしかない。
ジャンとして接し、傷が癒えたらさっさと城にお引き取り願うしかない。
「…私は悪くないわ!」
苦虫を完全に噛み潰したとしか思えない父の謂れのない叱責に、リーエンは唇を尖らせた。
「そうではない、お前が戦いに出る必要は無かった、そう言っている。」
「…だって。」
侵入者がリュウやシーフォンに向かって爆弾を投げたのだと思ったのだから、仕方がないじゃないの!
「…全く。少しは大人しくしてろ!戦うために武芸を教えたんじゃない!」
間もなく成人しようかという娘が、剣を片手に侵入者と対峙するなんて!と、ディバルは溜息をつく。
「…それで?あの人は?」
「カイに診させている。命は繋げそうだ。」
「…良かったです。」
…幸いだった。
まさか第二皇子を敷地内で死なせるような事になっては、さすがの父でさえも首が胴から離れただろう。
可哀想だが、あの馬はその場で安楽死させた。
とりあえず手当てを、と屋敷に運び入れて、濡れた服を脱がせた時、皆に衝撃が走った。
「…龍の印!」
背中にくっきりと残る焼印を見て、駆けつけた医師のカイが叫んだ。
神獣の印は皇族の証、皇子は背に、皇女は腰に焼印を施される。
龍は第二皇子ジンシ殿下の印。
なぜここに第二皇子がいて、手練に襲われたのか見当もつかない。
まずは治療、それから父に連絡を。
慌てて駆けつけてきた父にリーエンは叱り飛ばされたところである。
「何のためにここに居を構えたと言うのか!全く持って忌々しい!
いいか!リーエンは殿下の前に姿を見せるな!」
「…誰が看るのですか!」
憮然と答える。
高貴なる人の世話を童のセイに任せる訳にも、リュウやシーフォンら武人にさせる訳にもいかないのに。
この山荘には後は下働きの女しかいない。
「…仕方ない、とりあえずジャンに任せよ。」
父はため息をつく。
ジャンとはリーエンの仮の男姿である。
「…かしこまりました。」
「…直ぐに屋敷から誰か寄越す。
とりあえず城へ戻り、龍の宮へ伝えねばなるまい、後は頼む。」
ディバルはそう言い残して一旦山荘から離れた。
「…そんなこと言ったって、向こうから勝手に来たんじゃない!」
リーエンの愚痴は止まらなかった。
そもそも、フキ様の先読みでリーエンは「国を割る姫」と言われたのだ。
「殺されなかっただけマシだ。」
と両親は都落ちを受け入れた。
手折れ!とまで言われたリーエンの命を救ったのは帝だと聞いている。
女1人に何が出来ようものか、と帝は仰ったそうだけれど…。
もし先読みが当たるとすれば…。
様々な道筋を想像してきた。
そしてそれは2人の皇子による内乱である、と父母は予測した。
どういう理由かはわからないが、リーエンがその2人の導火線に火をつけるとすれば、「国を割る姫」となり得るのかもしれない。
「決して皇子に出会わせてはならない。」
運命に逆らえる策があるのだすれば、これしかない。
だからディバルはリーエンを連れて城に入る事を迷ったし、宰相もそれを認め、異例の別居に至ったのだ。
「…でも向こうから来ちゃうなんて!」
…これが運命の環の始まりでない事を祈るしかない。
ジャンとして接し、傷が癒えたらさっさと城にお引き取り願うしかない。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる