運命のひと。ー暗転ー

破落戸

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人身御供

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「ただいま」

「……な」

「わり、志紀。救急箱どこ置いてたっけ? 最近全然使ってなかったから、わかんねぇや」

「ど、どうしたんですか、その怪我!」


 ある日の早朝だった。いつも通り、岡崎さんは私が眠りについたのを確認してから、世間も寝静まる夜中にどこかへとふらり出ていく。岡崎さんが帰ってきたら、朝御飯とお風呂位ゆっくり摂れる様に用意しておかないと、と私もそれなりに早く起きて朝支度をしている。帰ってきた彼に、おかえりなさいと声をかけてあげると、ほんの少しだが嬉しそうな顔をするので、毎日欠かさずしていたのだが、その日の岡崎さんには言ってあげられなかった。

 いちち、と頬についた青いとも赤いともいえない痛々しい色合いをした痣を擦っている。頬だけでなく、全身ところどころ負傷し、真っ赤な血が付着している。一体何処でどんなヤンチャをしてきたんだ、このひとは。

 救急箱から消毒液やら何やらを出しながら問い詰めるが、岡崎さんは飄々としたまんまだ。


「ほんとに大丈夫なんですか。病院行った方がいいですよ。というか行きましょうよ。痣とかグロいことになってますよ。ほら、お母さんついてってあげますから」

「お前の胎内から出てきた覚えはねぇんだけど。病院はいいって。擦り傷と打撲くらいだし」

「でも、そんな血塗で」

「返り血だから大丈夫」

「返り血って」

「そんな顔すんなって。ほんとに、どうともしねぇよ。ちょっと、しくっただけ。ダイジョーブダイジョーブ。お前も知ってるだろ。俺、ひとより何十倍も頑丈に出来てるし」


 私を安心させようと傷だらけの顔でへらりと笑う岡崎さんに、逆に不安を煽られる。岡崎さんがぽんとぽんと私の頭を撫でる。しかし、彼が次に告げた言葉は、私の懸念を的中させ、絶句させてしまった。まさに追い討ちだった。


「どうせ、すぐに治っから」

「……」

「たぶん、これ位だったら三時間ちょっとで傷も塞が……って、いてててて! な、なに!? 沁みる沁みる、べちゃべちゃ言ってるううう! 志紀さん! 丈夫だけど痛覚はある! 痛覚はバッチリあるから! いでででっ。めちゃ押し付けてくるじゃん! 手当てしてくれんなら、もっと優しくし……いいい!?」


 ぎにゃああとバシバシとテーブルを叩き、苦悶の表情で苦しみを訴える岡崎さんの腕の傷口に、たっぷりと消毒液を染み込ませたガーゼをぐいぐいと押し付ける。こんなのよりも比べ物にならない、もっと凄い重傷をこれまでも負ってきた癖に。その度に痛い思いをしてきた筈なのに、このひとは。


「し、しき?」

「……」

「な、何で不機嫌モード? なにぶすくれてんの?」

「岡崎さん。毎晩、何処で何してるんですか?」


 ご機嫌を窺う様に私の顔を不安気に覗き込んでいた岡崎さんの表情が固まる。今まで深くは突っ込んでこなかった私の突然の問いに、躊躇している。

 岡崎さんは私から顔を離して気まずそうに、「別に……」と痣になっている頬をかいて視線を反らした。私には言いたくないことを、後ろめたいことをしているのだなと、雰囲気で察することは出来る。追及してこないでほしいという岡崎さんの意思も。


「何されてるのか知りませんけど……最近、無理し過ぎなんじゃ。お昼も出てること多くなったし、ボロボロで帰ってくることが……」
 
「お前には関係ねぇよ」


 ピシャリと遮ってきた岡崎さんの言葉に、押し黙ってしまう。沈黙する私と岡崎さんの間に、気まずい空気が流れる。

 灰色の髪をくしゃくしゃに撫ぜた岡崎さんは、私から救急箱を回収し、かすり傷だらけの右腕に自ら手当てを施す。慣れた手付きで、包帯をぐるぐると俊敏に巻き付けていく。


「マジで、お前がそんなに心配することないから」

「……」

「ちょっと調子悪くして、ヘマしただけ」


 軽い口調で語る岡崎さんの顔は、殴打痕でわかりにくいが、確かによく見ると、いつもより顔が赤い、というか火照っている気がした。赤の双眼も心なしか覇気は無く、少しぼうっとしている。ピトリと岡崎さんのおでこに手を当てると、じんわりとした熱さが掌に滲んだ。


「風邪の引き始めなのかも」

「あー、やっぱそうなのかな。いきなり冷えだしたもんなぁ。寒暖差激しすぎんだよ」

「熱も測っておいてください。体温計も救急箱そのなかに入ってた筈ですから。もし高かったら、一緒に病院行きましょう。怪我もついでに診てもらいましょう」

「だから、大袈裟だって。熱も放っときゃ、その内すぐ引くから。時間たちゃ治るってわかってるモンに金出すのも馬鹿らし……いてっ」


 ばちん、と軽い音を鳴らして、岡崎さんの頬に両手を当てる。痣になった箇所に響いたのか、いててと顔を歪ませつつも、きょとりとして、不思議そうに私を見つめる岡崎さんに一言言ってやろうと思った。が、どう言えば、この人に私の思いが伝わるのかわからなくて、口の開閉を何度か繰り返すのみで、結局相応しい言葉が思い付くことはなかった。私の胸にあるこの蟠りを口にしたところで、ぼやーっと見つめてくる岡崎さんには一ミリとして伝わらないんだろうことも気付いていた。


「もっと、自分の身体を大事にしてください」


 私の精一杯だった。これ以上も、これ以下も無い。この一言に尽きた。


「そんな簡単にくたばりゃしねぇよ。なんせ、どっかの誰かさんに心臓ぶっ刺されても、タマ落とすことなかったんだから」


 やはり一寸足りとも伝わることはなく、岡崎さんは私を慰める為に「大丈夫」だとだけ告げてくる。それが全くの逆効果とも気付くことなく。

 頑なに体温計に手を伸ばさないが、やはり熱はあるのだろう。締まりが無いのはいつものことだが、私を安心させたいが為にヘラッといつも以上に緩んだ笑みを見せてくる。あちこち擦り傷と赤黒い痣だらけの顔でも笑って見せるその様は、当の本人がどう繕おうとも、こちらには痛々しさしか感じられない。

 岡崎さんの両頬からゆっくり手を下ろし、救急箱の中身に手を伸ばす。ガーゼや絆創膏を丁度いいサイズに切りながら、かつて天龍組が所有していた、あのおぞましい地下施設について思い出していた。

 人権も何もかも捨て置かれた、ヒトを実験体として扱う非人道な施設。最も厳重な監視と管理下に置かれた1番奥の部屋。生活感も何もない広い空間に、ベッドがひとつ。その周りを取り囲む様に設置された、たくさんの医療器具と精密な機械達。無機質なそれら全てが、生と死のギリギリの境界線をさ迷い続ける岡崎さんの命を繋ぎ、そして殺し続けていた。何度も何度も崖っぷちに追い詰められ、容赦なく背中を押され突き落とされ、そしてボロボロになった身体を再び引き上げられ、また落とされる。命を弄ぶ所業だった。

 あれを、岡崎さんは常に自らに課している。あのときの状況と今は、何ら変わりない。多少のことでは死なないからと己の身体を過信し、蔑ろにしている。

 ささくれが剥けてしまうなどの些細なことでも、子供みたいに「痛い」としつこく訴えてくる癖に、それよりも痛い所では済まない深手を負うとわかっていて、自ら率先して死地に向かっていく。その背中は大きく頼り甲斐はあるけれど、不安定でもあった。

 それに気付いてから、岡崎さんの生き方が恐ろしくてならない。いつかこのひとが、自分の限界を見誤り、自分で気付かない内に、いつかひっそりと、誰にも気付かれることなく身を滅ぼすことになるのではないかと。


『俺は、太刀川にはなれねーぞ』


 あんなことを言っておいて、自らあのひとに近付こうと、いや、近付きつつあるのは、紛れもない岡崎さんなんじゃないのか。自分の中でそう思うところがあるから、あの様な発言が出てきたのではないか。

 岡崎さん本人がそのことに気付いているのかどうかはわからない。けれど、それを直接私の口から岡崎さんに告げることで自己に認識させてしまえば、どんなに脆い橋の上でも、足を前へ踏み込み突き進んでいくこの人に、揺らぎを与えてしまう気がした。

 居心地の悪い空気の中、絆創膏とガーゼを顔中にべたべた貼り付けた岡崎さんが、予め用意していた朝食をもぐもぐと咀嚼しているのを、お味噌汁を口に含んでちらりと見つめる。

 お前には関係ない、かぁ。岡崎さんが私に対して、いいや、私だけじゃなく、対する人達全員に張っている見えない大きな壁、A.●.フィールドのようなもの。ここからこれ以上は踏み込んでくるなと、張り巡らされたライン。見えない筈なのに、それが今だけは顕著に見えた気がした。








「……何かありました?」

「え?」

「いや、その……元気が無いなと思って」


 私よりもずっと背が高いのに、伏し目がちに、上目遣いでこちらの様子を窺ってくる挙動は小動物を彷彿とさせる。

 頻繁にいらっしゃって下さるお客様にまで指摘される程に、今の私はしょぼくれて見えているのだろうか。返事は曖昧に、へへへと誤魔化す様に笑うと、私の変化を感じ取り、何かあったかと尋ねてきた、くたびれたコートを羽織った男性は少しだけ眉を歪ませた。

 お会計を終えると、私を雇うお孫さんが購入されたばかりのお茶菓子を御盆に乗せて、こちらをチラチラと振り返る男性をテーブル席へ導くその後ろ姿を見送る。

 案内を終え戻ってきたお孫さんに、ちょんちょんと肩をつつかれる。


「志紀も休憩しなよ。あのひとのテーブル席にお茶置いといたらいい?」

「えっ」

「えっ、て。あんた、いつも休憩時間はあのお客さんとお話ししてるじゃない。向かいに座っていいって言ってくれてるのに、あんた、いつも遠慮して立ちっ放しで。こっちも気になって仕方ないったら。全然いいのよ。休憩時間は自由。ゆっくり座ってお喋りなさいな」

「で、でも」

「なぁに? あのお客さん、よく来るじゃない。友達なんでしょ?」

「お友達かって聞かれると、ええっと……」

「だって、あのお兄さん来るの、決まって志紀が出てくるときだけだし、あんた目当てに来てるとしか……」 

「え、あ、そ、そうだったんですか」

「や、やだ、ちょっと。あんた年頃だし、狙われてるんじゃないの? それとも付き纏われてるの?  無理矢理言い寄られてるの!? あたしが一言言ってきてやろうか!? ていうか、あんたも甘い顔してないで、嫌なら嫌でビシッと跳ね除けなきゃ駄目でしょ!」

「い、いいえ! そんなことは決して。色んな所を旅されてる方で、旅先での珍しい体験を聞かせてもらってて、お話上手で! わ、悪いひとじゃ」

「それだけで良い人かどうかなんて、わからないじゃない」

「そ、そうです、よね。ごもっともです」

「……」

「……」

「とにかく、ハッキリ言っておかないと駄目よ。自分にはもう一緒になるって決めた、れっきとした人が居るんだって」

「え。い、一緒って」

「いいね! 浮気はだめだよ」

「ウワキ!?」


 しょうがないなぁとため息をつき、「あたしと旦那が目を光らせておくからね」と私の頭を一撫でし、お孫さんは彼の座るテーブル席に近づき、礼をしてから、私の分のお茶を置いた。

 すれ違いに私の肩をポンポンと叩き、裏へと戻っていったお孫さんの後ろ姿に、懐かしい友人の姿を思い出す。気が強く駄目なことは駄目とハッキリ言える、しっかり者の彼女。いまは何処で何をしているのか。けれど、彼女らしく逞しく生きているに違いないと信じている。会いたいなぁと思う。宙ぶらりんな私を見て、とことん叱ってほしいとも。


「志紀」


 名前を呼ばれ振り向くと、頻繁にやってくる、くすんだ色をした金髪の男性が、困惑した戸惑いの表情でこちらを見ていた。

 近づくと、正面に座るように促される。二人分のお茶が並んでいる為、飲まないでいるのもおかしい。一礼してから腰掛ける。


「ごめん。なんだか、その、誤解を生んでしまってるみたいで……」

「あ、さっきの……き、聞こえてました?」

「彼女、結構通る声をしてるから。……迷惑ですよね。すみません」

「えっ、何がです?」

「気持ち悪いと思われても仕方ないってわかってる。突然、よく知りもしない男に付き纏われてるって怖い思いをさせてることも。通報されても仕方ない」

「えぁっ。い、いいえ、そんな! オーウェンさんは、いつもちゃんと商品をお買い上げして下さるし、美味しそうに食べて下さるし、れっきとしたお客様です。付き纏われてるだなんて、私、もう思ってませんから」

「でも」

「そりゃあ、最初は疑問に思うことも正直ありましたけど……」

「……」

「その、オーウェンさんのお話聞いてると、なんだか懐かしくなってくるといというか」


 昔、お世話になったひとを思い出すんです、と伝えると、一時期私の親代わりとなってくれたご老人と偶然にも同じ名字を持った男性は、ほんの少し目を丸くした。瞳の色は違えど、そのまんまるとした目は館長さんのビー玉の様な眼を彷彿とさせた。


「その人も昔は趣味でよく旅に出てたみたいで、オーウェンさんみたいに、色んな国で経験したことを、たくさんお話ししてくれたんです」

「……」

「もう若くないし、体力もそう無いからって、ひとつの場所に落ち着いて。大きくなったら、私も、まずは興味のあるところから足を運んで、色んなものに見て触れなさいって言ってくれたひとで」

「そうなんですか」

「はい。オーウェンさんは、お仕事であちこちの国を周ってるって前に仰ってましたよね。歴史の研究とか、たまに発掘もされてるって。もしかして考古学者さんとかですか?」

「やってることは似たものなんだけど、そんな高尚に名乗れるものじゃないよ」

「でも、学者さんなんですよね。すごいなぁ」

「すごくないよ。……君の言っている人の方が、立派だったと思う」

「え?」

「あ、いいや。何でもない」


 オーウェンさんは下唇を噛んで、手前にあるお饅頭の乗ったお皿を私の方に寄せた。お茶を飲もうとしていた私が、えっと声を上げると、オーウェンさんは私と目を合わせることなく、斜め下を向いて「食べて」と小さく呟いた。
 

「でも」

「いいんだ。君の分だから」

「そんなに気を遣って頂かなくても。オーウェンさんが食べてください」
 
「僕がしたくてしてることだから」

「……ありがとうございます。それじゃあ、ひとつだけ。いただきます」

「それで……何かありました?」

「んぐっ。な、何かとは」

「さっきも聞いたけど、元気がない」

「そんなことは」

「僕で良ければ、話してもらえかないかな」

「……」

「頼りないかもしれないけど、君の力になりたいんだ」


 先程、私と目を合わせようとしなかった人と同一人物とは思えない。紫色の瞳で私を真摯に見つめてくるオーウェンさんに戸惑わない訳がない。だからこそ、まずは疑問を口に出さずにはいられなかった。


「どうして?」

「え?」

「どうして、そこまで私のことを気にかけてくれるんですか?」

「……」

「オーウェンさん。時々、私のこと懐かしむみたいに見るし……」


 やっぱり何処かで会ったことがあるんだろうか。忘れていた幼少期の記憶のどこかに、もしかしたら、この男性がどこかに潜んでいたのかもしれない。

 しかし、何度尋ねてもオーウェンさんの口から語られることはない。ただただ、私の中で不思議が散り積もっていく。どうして? なんで? と尋ねる度、オーウェンさんは決まってこう答える。


「きみは、いいひとだ」

「……」

「だから助けたい」


 裏も何も無い、心からの言葉なのだと、すんなりと感じ取れた。この男性の素性など詳しく知らないというのに、私はこの一ヶ月足らずで、オーウェンさんは私にとって危険なひとではないと、根拠も無い癖に、何故だか確固たる確信を得てしまっている。

 岡崎さんやお孫さんにそれを言ったら「警戒心が足り無すぎる」と、これでもかと叱られてしまうだろう。自分でもどうかしていると思える位なのだから。

 暖かい湯呑みを両手で包み、口を開く。


「一緒に暮らしてるひとが居るんです」

「うん」

「そのひとが、最近毎日怪我だらけで帰ってきて、でも、大丈夫の一点張りで、何をしていたのかとか、何があったのかとか、一切話してくれなくて」

「怪我?」

「はい。なにかと無茶をしがちなひとで、いつか、取り返しのつかないことになるんじゃないかって、心配で」


 私の話を聞いたオーウェンさんは眉を寄せ、口許に手を当てて考え込む仕草をした。探偵みたい。暫くその状態で黙り込んでいたオーウェンさんは顔を上げた。


「その同居人っていうのは……前に、僕も会った、君を迎えに来ていた人かい?」


 珍しい灰色の髪と赤い瞳をしていた、と情報を付け加えたオーウェンさんの言葉に頷く。そうかと軽く頷き、オーウェンさんはトランクを開いて、ごそごそと中身を漁り始める。

 その中から一冊、あちこちに付箋が貼られた古書を取り出した。一緒に出した眼鏡をかけて、パラパラと頁を捲り、文字を読む為に左右へ視線を素早く走らせている。それが済めば、また別の書物をと、トランクへ手を突っ込み、次々とテーブルの上へと積み重ねていく。本当に読めているのかソレと聞きたくなるスピードで、素早く本のタワーをオーウェンさんは作り上げていく。

 というかそのトランク、どうなってるんだろう。質量保存の法則をまるまる無視しているとしか思えない数の本が出てきてるんだけど。周りのお客さん達も、どうなってんだアレと奇怪なものを見る視線を寄越し、見せ物か何かかと若干の注目を集めている。

 数分も立たない内に、十何冊もの本に目を通して目当ての箇所を見つけたのか、オーウェンさんの忙しなかった動作がピタリと停止する。オーウェンさんは眼鏡を外し、とある書物の頁の一点を見つめたまま、口を開いた。


「志紀。彼の生まれを聞いたことは?」

「え? ええと、少ししか。詳しくは聞いてなくて……」

孤児みなしごだったと話してはいなかったかい」

「は、はい」

「彼の髪と目の色は人工的なものじゃない。生まれ持ったもの?」

「そう、聞いてます」

「体力がひと並外れていたりしない? 常軌を逸した身体能力を持っているだとか」

「……え」

「例えば、どんな重傷や致命傷を負っても、すぐに自己治癒するとか」

「……」

「……傷の治りが異常な程早いだとか、そういうことはなかった?」


 教えてなどいない筈なのに、次々と述べられるのは岡崎さんの特徴ばかりで、その何もかも当たっていた。

 オーウェンさんは私が答えやすい様に、イエスかノーで返事が出来るようにしてくれていたけれど、段々と馬鹿正直に答えてしまってよいのかという思考に陥り、口籠り、遂には黙りこんでしまうと、オーウェンさんに「そうなんだね」と見透かされてしまう。


「やっぱり、そうか」


 そう一言呟いたオーウェンさんは、パタンと本を閉じ、テーブルの上に出したたくさんの本を、一冊一冊トランクの中に戻していく。

 彼は残るひとつとなったお饅頭に手を伸ばし、一口大に千切ってから口に含んだ。初めてお店のテーブル席を利用されたとき、ポツンと出されたお饅頭を見下ろして、ナイフとフォークはどこかとキョロキョロ探していたひとだ。使い古した衣服を着用されているが、ちょっとした所作は何から何まで上品で洗練とされており、教養を感じられる。もしかしたら、結構良い家柄に生まれた方なのかもしれない。

 もぐもぐと小さく咀嚼を繰り返すオーウェンさんに、何故岡崎さんのことを、というよりも彼の特性についてそんなに知っているのかと尋ねようとしたら、お孫さんから呼ばれ、休憩時間はとっくに過ぎていたことに気がつき、慌てて立ち上がり返事をする。

 
「すっ、すみませんオーウェンさん。お仕事に戻りますんで、私はこれで。お饅頭ご馳走さまです。ごゆっくりなさってください」

「こちらこそ。……無理はしない様に気をつけて」


 口角を緩く上げたオーウェンさんに、お仕事頑張ってと軽く手を振られる。岡崎さんのことはまた後でか、次にお店にいらっしゃったときに聞こうと頭の片隅に置き、カウンターへと戻った。









 今日のお仕事も無事に(とは言っても、たいしたことはしていないのだが)終える。丁度聞き慣れたバイクの音が外から聞こえてきた。それを耳にしたお孫さんに、お熱いことねと揶揄われる。


「もう上がっていいわよ。お疲れさま。次もよろしくね」

「はい。お疲れ様でした」


 お店の前にバイクを停車させ、ゴーグルを脱ぎながら店内に岡崎さんが入ってくる。私も駆け寄ったが、その顔色に足が止まる。何で家で寝てないんですか、と私が口を開く前に、奥から出てきたお孫さんが私の代わりに訴えてくれた。


「や、やだ、徹也! どうしたの、その顔の怪我……というか、顔色真っ青じゃないの!」

「あーー大丈夫大丈夫。ほんと、見ため程たいしたことねぇから」

「体調悪いんじゃないの? 風邪引いてるんじゃ。薬は飲んだの?」

「そこまでするこたねぇよ。大丈夫だって」

「ばか! 風邪ってのはね、侮ってると大変なことになるんだからね! 引き始めなら、今のうちに治すのが肝心よ。ほらっ。市販だけど薬! あげるから、ちゃんと飲みなさい、ね!」

「あー、はいはい! わかったわかった! ちゃんと飲むって。だから、あんま叫ばないでくんない。耳に響く! そのキンキン声で悪化するから」

「ったく、もう!」


 ぽかんとする。私が何を言っても大丈夫しか言わなかった岡崎さんが、お孫さんの言葉には大人しく従っている。そうか、岡崎さんにはあれくらいもっと強く言ってあげないと聞き入れてくれないのか、と思わぬ場面で学んだ。

 そして、痛感もした。岡崎さんとお孫さんがぎゃんぎゃん言い合うやり取りは賑やかだ。厨房にいるお孫さんの旦那さんも呆れた表情でこちらの様子を覗き込んでいるが、どこか微笑ましそうに見ている。私はというと、二人のじゃれあいに思うところがあり、心が僅かに萎んでいた。

 元気溌剌なお孫さんの姿が、ウェーヴのかかった黒髪の女性のものに成り代わる。一時期はよく見ていた光景が、淀んだ情と共に色濃く蘇るのがわかって、自分自身の醜さに対しての嫌悪感を覚えた。

 テーブル席から椅子を引く音がして振り返ると、オーウェンさんが手の中の懐中時計を見て身支度を整えているところだった。お孫さんと話している最中の岡崎さんに、少しだけ待っていてもらえるかと一言お伝えしようとしたが、ヒートアップしていく彼とお孫さんとの会話に割り込んで入ることは出来ない。なんとなく背伸びをしてみたりとアピールをするも、岡崎さんは気付かない。
 
 このままでは帰ってしまう。お話の邪魔をしてもなんだろうと、岡崎さんはそのままに、オーウェンさんの背中を追いかける。声をかけると、彼はすぐに振り向いてくれた。


「志紀」

「オーウェンさん。ごめんなさい、帰り際に」

「構わないよ。どうし……」


 オーウェンさんは途中で言葉を止めて、私を通り越した向こう側を見つめる。紫の瞳が向く先を見ると、そこにはお孫さんと歓談する岡崎さんが居る。オーウェンさんは岡崎さんを暫し見つめ「彼だね」と呟いた。


「そ、そのことなんですけど。オーウェンさんはどうして、岡崎さ……あの人のことを」

「それは……」

「?」

「……志紀。こんなことをあまり言いたくはないけれど……あまり、彼に心を傾け過ぎない方がいい」

「……え?」

「後々、君が辛い想いをするだけだと思う、から」


 振り絞るように私にかけられた提言に、悪意は感じられない。寧ろ、それを口にした本人がひどく苦し気だ。

 しかしながら、なぜオーウェンさんがそんなことを言うのか。私に、岡崎さんと懇意になるのはやめておけと忠告する人の真意が掴み取れない。首を傾げながら、どうしてと口を開こうとしたが、その口が大きく暖かいものによって塞がられる。


「こいつに妙なこと吹っ掛けんの、やめてくんねぇかな」


 後ろから私の口を覆い隠した人物が誰なのか、いつもより低くドスの聞いた声でもわかる。振り返ることも、私の口を塞ぐ手を引き剥がすことも許されず、ただただゴツゴツしい手に両手を添えることしか出来ない。

 何か恐ろしい空気が後ろから流れている。それを留めてあげたいのに、岡崎さんの手がそれを許さない。

 私の視界には、斜め下に顔を向けつつも、その紫の双眼は岡崎さんをしっかりと見据えている猫背気味のオーウェンさんの姿しか見えない。トランクを手にしているその手には力が込められ、血管が浮き出ていた。向かい合った人は岡崎さんには何も言葉を発することなく、けれど警戒心を剥き出しにする訳でもなく、ただただ複雑そうな顔で岡崎さんを無言で見つめていた。

 先に動いたのは私の肩を抱いた岡崎さんの方で「行くぞ」と力強く私の体を引いた。ちら、と少しだけ後ろを振り向くと、オーウェンさんは何か言いたげな顔をしたあと、意を決した表情で、お店を立ち去る私達をじっと見つめていた。


「わぷっ」


 私を連れ出し、バイクに乗せた岡崎さんは無理矢理私にヘルメットを被せてくる。あまりにも乱暴に押し付けられたので、少しムッとする。運転席に乗り込み、ゴーグルを装着している岡崎さんの背中に一言言ってやろうと思ったが、岡崎さんを呼ぶ可愛いらしい声に遮られてしまう。


「徹也!」


 スリットの入ったセクシーなチャイナドレスを着た女性が岡崎さんに駆け寄り、親しげに話しかけ始めた。岡崎さんも「よぉ」とたった今つけたばかりのゴーグルを上にずらしながら、女性に挨拶を返す。


「なぁに、今から帰るとこ? ウチに寄ってかない? 良いお酒が今日入ったのよ。この前助けてくれたお礼も兼ねて、私の奢り!」

「マジで? あー、でも、いいわ。今飲んだらバイク引きずって帰らねーとならなくなるし」

「えぇ~」 

「また今度な」


 ぷるぷるの唇を尖らせた女性が、ちらりと横目で後部座席に乗る私に視線を移す。なんだか、品定めされている様な気分になった。女性は少し気分を害した顔をして、私からプイと顔を背け、岡崎さんの腕を抱いて絡み付いた。う、うわ。おっぱいが。おっぱいが岡崎さんの腕で柔らかく潰れている。


「わっ、ば、ばかっ! くっつくなって!」

「顔赤くしちゃって、やっぱり徹也可愛い! ね、ホントに遊びにきてよ。サービスするから、ね?」


 これは所謂セックスアピールというやつなのだろうか。岡崎さんの襟元を鷲掴み、引き寄せ、岡崎さんの耳に唇を近付け、甘い誘惑の言葉を吐息を混じらせて囁き、ちゅとその耳朶に軽く口付けている。顔を離す寸前、ちろ、と勝ち誇った顔でこちらを見つめる女性にどう反応していいのかわからず、私は黙って見守ることしか出来ない。

 
「ったく。お前も、そんな胸も足もバインバインに晒した格好でふらついてんなよ。もっと着込め。だから変な野郎が妙な気ィ起こすんだよ」

「心配してくれてるの? 嬉しい!」

「へーへー。ほら、店の連中呼んでるぞ。売れっ子が野郎ひとりに構ってると評判落ちるだろ」

「いいわよ。徹也が相手なら」

「百戦錬磨の俺様を、有象無象の客に吐く売り言葉で落とそうなんざ、甘く見られたもんだな。金にはなんねーから、やめとけやめとけ」

「……本気なんだけど」


 じっと真剣な顔で岡崎さんを見上げる女性の表情の美しいこと。二人の間に何があったかは知らない。でも、この女性は本気で岡崎さんを想っているのだということはわかった。その姿がとても綺麗だと、思わず見惚れてしまう程に。

 色っぽいお姉さんがたくさん居るお店から、女性を再び呼ぶ。名残惜しそうに岡崎さんから離れる女性の頭を、岡崎さんはわしわしと撫でた。せっかくセットしたのにぐちゃぐちゃになっちゃう、と照れ臭そうに女性は笑ってから、お店へと戻っていった。

 それを見届け、岡崎さんは再びゴーグルを装着しようとしたが、その手を止めた。後ろに居る少しだけ私を振り返り、こちらを見つめる横顔から見える右目を、首を傾げながら見つめ返す。


「岡崎さん?」

「何も聞かねぇの」

「え?」

「……俺に何か聞きたいこと、ねぇの」

「何かって……」


 疑問符を浮かべていると、岡崎さんは珍しく伏し目がちになって、私から視線を反らした。


「……何でもない。忘れて」


 覇気の無い声色だった。元気が無いとか、体調が優れないからとか、それらから来るものじゃなくて。岡崎さんと声をかけるが、彼は既にその両目をゴーグルで隠し、バイクを発進させてしまう。目の前にある岡崎さんの背中が小さく見えた。

 家に帰ってからも、岡崎さんはずっと黙ったままだった。ご飯のときも何も言わないし、今だって何を考えているのかわからない無表情でバラエティ番組を眺めている。

 いつもの不機嫌とは違う。いつもなら、ぶすくれた子供みたいな顔をしてネチネチと口擊を仕掛けてくるというのに、シンと黙ったまんまだ。何となく、今の岡崎さんには近寄りがたくて、ソファに座る彼の元には行かず、テーブルの方で居心地悪く小さくなっている。

 一体どうしたというのかと思考を巡らせると、岡崎さんの体調不良に何か関係があるのではないかという考えに至る。お孫さんから貰った薬のケースを開け、用法の通り二錠取り出す。うん、食後って書いてある。

 グラスに水を注いで、岡崎さんに渡そうと振り返ると、刀を手にした岡崎さんが玄関へと向かおうとしていて慌てて引き留める。え、ちょ、ど、どこいくの。


「おっ、岡崎さん! どこ行くんですか」

「どこって。いつも通り」

「そんな、こんな早くに? というか、駄目ですよ。体調悪くなってるんでしょ。休んでなきゃ、ますます悪化します。薬も飲んでない。怪我だって。今日くらいは休んだ方が」

「平気だって」

「うそ! 無理しないで下さいってば。最近、一日だって、ゆっくりしてないじゃないですか!」

「お前こそ、さっきの奴としけこんでくれば」

「は……は?」

「好きにしろよ。平々凡々で、人畜無害そうで、お優しそうで、見たとこ利口そうで、学のありそうな野郎だったじゃねぇか。それこそ、お前が好きそうな。楽しそうにしてたし? いやに親しそうだったし……随分打ち解けてたみたいだし」

「岡崎さん、何言って……」


 氷のつぶてかと思う程、あまりにもひんやりとした発言が投げられる。やっぱり、いつもと様子がおかしい。

 だめだ、このひとを、こんな状態のままひとりにしてはいけない。岡崎さんの袖口を掴んで引き留めるけれど、あっさり振り払われてしまい、ひとを傷つける為の凶器を手に、岡崎さんは私の静止も無視して出て行ってしまった。








 あんなことがあって、すやすやとひとりで眠るなんて出来る訳がない。電気だけを点けた居間のソファで膝を抱え、ひたすらに岡崎さんの帰りを待つ。テレビをつけても不安な気はちっとも紛れなくて、すぐに消した。コチコチと柱時計が秒針を刻む音だけが静寂に響き渡る。

 縋る気持ちで宝石箱オルゴールを手に取る。心を落ち着かせる為に優しい音色を聞こうとしたが、仕掛けを解く為の手も止まってしまう。傍らに宝石箱オルゴールを置き直し、抱えた膝の中に顔を埋めた。

 ぶる、と肌寒さに目が覚める。待ちくたびれて、いつの間にか転た寝していたらしい。電気代の勿体ないことしたな、と小さくため息をつく。と、同時位に、外の方から、この邸宅に向けて明かりが照らされた。岡崎さん!? 帰ってきた!? とずっこけながら、窓に近づき、闇夜を覗く。

 しかし、そこに見慣れたバイクは無く、代わりに、つい最近見た高級車が停まっていた。嫌な予感がして、玄関まで出来るだけのスピードで足早に向かう。

 すると扉の向こうから「おい、しっかりしろ」と聞いたことのある声がした。ガチャガチャと鍵を開けようとしているのがわかり、先にこちらからスコープを覗いて、向こう側に居る人物が予想内の人であったことと、もう一人の姿を確認し、直ぐ様扉の鍵を開けて放った。


「うおっ! ビビったぁ。遠坂さん」

「お、岡崎さん! ど、い、一体なにが」

「あーー、詳細は後だな。とりあえず、中入ってもいいか」


 疲れた様子のイワンさんが小脇に抱えていたのは、昨日の傷など比べ物にならない程の重傷を負った岡崎さんだった。ピクリともせず、呻き声もあげない。

 呆然としている私の横をイワンさんが通り過ぎ、明かりのある居間へと向かう。岡崎さんを抱えたイワンさんが通ったあとの床には、赤黒い血がずりずりと続いていた。病院へ連れて行くべきではないのかと進言するも、イワンさんは不要だと言い切る。これくらいの怪我なら大丈夫、岡崎さんはそこまでヤワじゃないとも。


「なぁんか動きも鈍いし、様子がおかしいとは思ってたが、まさか、こいつが風邪なんてもん引いてたとはな」

「……」

「まぁ、厳しい連戦続きだったしなぁ。流石のこいつも、ちょいと応えたか」 

「連戦……」


 仕事だから、これ以上は言えないんでね、とイワンさんは意識を失っている岡崎さんをソファに下ろした。そして、慣れた様子で呼吸をしているか、脈があるかを確認し「生きてるな」と一言だけ述べる。岡崎さんのおでこに手を当てると相当熱かったらしく、すぐに手を引っ込めている。

 イワンさんは、岡崎さんの手当ての為に、私にあれがこれが必要だから用意してほしいと的確な指示を寄越し、私はそれに従った。

 ミイラ男、再び。なんて冗談を言っている余裕もなく、岡崎さんに止血を始めとした応急処置が施された。傷の痛みもあるのだろうが、汗が滲み、赤く火照った顔をして荒い呼吸を繰り返す岡崎さんの姿は、まさに重症患者の病人にしか見えなかった。


「遠坂さん、悪いんだけど、俺も途中で抜けて徹也のこと回収してきたもんだからさ、後処理だとか、すぐしないといけないことが多くてよ。手当てやら何やら、後は任せてもいいかい」

「は、はい」

「大丈夫。徹也の場合、普通の人間と違って、どんだけ致命傷負っても、生きてる以上は勝ちだ。生命力の塊だし、息があるだけ儲けもんってやつだよ。少し寝かせてりゃ、その内すぐに目ェ覚ますさ」

「……」

「……そんな怖い顔しなさんな。こっちも仕事なもんでね」


 怖いかお、と言われ、思わず自分の顔に触れる。イワンさんに指摘される様な表情をしていたのか、私は。戸惑っていると、イワンさんは苦笑した。


「遠坂さん。徹也と喧嘩かなんかしたの」

「してない……と思うんですけど……たぶん」

「そう? いや、なぁんか徹也の調子が狂ってるの、風邪それだけじゃあ無い気がしたもんでね。らしくもなく、我武者羅が過ぎてやがったから。鬱憤晴らしというか、ムシャクシャを振り払いたがってる様な暴れ方でよぉ。かと思えば、簡単にやっこさんに無防備に背中晒しやがるし」

「……」

「とりあえず、あとは頼むよ。やることまず片付けて、明日か明後日にでも、また様子見に来るから」


 イワンさんが「あー、くたびれた」と肩をぐるぐると回しながら邸宅を出ていこうと背を向けて、呟く様に最後に言った。


「あのまんま、人間を越えた向こう側にイッちまっうんじゃねぇかと思ったよ」





 再び、岡崎さんと私のふたりぼっちになった部屋。熱と怪我のせいで悪夢でも見ているのか、岡崎さんは歯を食い縛り、表情を歪めている。手拭いで、顔や首に滴る汗を拭い、おでこにピッタリと張り付いてしまっている前髪を払う。

 
「おかざきさん」


 このひとを苦しめる悪夢から掬い上げてあげたくて、いつもよりもずっと熱の高い手を両手で握りしめ擦ってやる。寒くないかな、毛布、もう一枚位かけた方が。そうだ、水分も取ってもらわないと。

 とにかく、一晩は見ておくことになりそうだ。何かあれば、すぐに用意できる様に、寝間着とかも色々準備しておこう。お孫さんには申し訳ないけれど、明日のお手伝いはお休みさせてもらって……と決まれば、電話するのも忘れないようにしないと。

 寝室にある毛布を一枚取りに行こうと立ち上がり、岡崎さんの手を離すが、すぐに強い力で引き戻される。その勢いで、再びぺたりと床にへたりこんでしまう。

 お、起きた? 意識を取り戻したのか。血を流し過ぎたこともあって、尋常じゃなく顔色が悪い岡崎さんの顔を覗きこむ。しかし、赤い目を拝むことは出来ない。岡崎さんと何度か呼び掛けると、閉じられた瞼が微かに動き、反応を見せたので、絶えず名前を呼ぶ。


「岡崎さん、わかりますか。お水、要りますか。お返事、出来そうですか」


 小さな呻きと共に、うっすらと開いた口が何か呟いてることに気付き、その口許に耳を近づける。

 何とか聞き取れたその声が紡いだものは、私の息を一瞬止めるには十分だった。


「……き……」


 渾身の力を振り絞って発声したのか、それだけを呟き、岡崎さんの身体から一気に力が抜ける。心なしか、先程よりも和らいだ岡崎さんの表情を見つめ、私の手を捕まえていた岡崎さんの手をやんわりとほどく。

 寒くないように布団の中にその手を戻し、寝室から取ってきた毛布をそっと上に重ねた。先程の苦しそうな呻きは消え、息遣いは荒いものの、比較的穏やかな寝息をたて始めた岡崎さんの顔を、静かに眺める。萎みきった心には、見ない振りをして。

 苦しみながらでも、彼が必死になって呼んだのは、私の名前ではなかった。

 時折汗を拭いてあげながら、岡崎さんから離れずに様子を見守り続けていると、私の方が喉の乾きを覚えた。いったん私も水分補給しようと立ち上がる。

 柱時計は4時過ぎを指していた。外はまだ真っ暗で、朝日が顔を覗かせるには、もう少し時間を要する。

 グラスにお茶を入れていると,こつんと居間の窓に何かがぶつかる音がした。雨でも降ってきたのか? 気のせいかと無視しようとしたが、二、三度、音が続き、流石に気にせざるを得ない。なんだ? と窓から外の様子を覗く。

 暗がりでわかりづらいが、この邸をずらりと取り囲む壁に一部、円形に縁取られた鉄柵の向こう側にひとが居るのに気付く。そして、それが誰なのかも。

 魘されていた岡崎さんが、先程よりも落ち着いて眠りについているのを確認し、居間から外に繋がる窓を開いて庭に出る。そのまま外溝を進み、小石を投げることで私に自分の存在を知らせた、柵の向こう側の男性へと近付く。


「オーウェンさん?」

「志紀」


 切羽詰まった表情をして、柵を強く両手で握り締めていたのはオーウェンさんだった。彼は私の姿をその紫色の瞳に収めると、ほっとした様に息をついた。


「ど、どうしたんですか? こんな時間に。それに、どうして此処が」

「志紀、よく聞いてくれ」


 柵から伸びたオーウェンさんのが私の手を捕まえて引き寄せる。突然のことに驚いて声が出せず、真剣な顔で私の顔をじっと見つめるオーウェンさんに戸惑うしかない。


「すぐに此処から……いや、彼の傍から逃げるんだ。今すぐ」

「は……」

「彼は今まともに動けない状態なんだろう。抜け出すには今が好機だ。僕が手伝う。なんとかして、此処から」

「ま、まって、オーウェンさん。落ち着いて。突然、何を」

「志紀。君が彼のことをどう想っているのか、どういう関係なのか、深くは追及しない。けれど、彼とこのまま共に居るということは、君にとって良いことじゃあない。それは確かなんだ。君の身を滅ぼしかねない」

「オーウェンさ……」

「よく聞いてくれ。志紀にとっては、僕は数回話しただけの人間だ。会って間もない人間が、何を知った風に、偉そうにと思われても仕方ない。けれど、今から僕が言うことは、どう思われても揺るぎない事実だ」

「……」

「彼は、今君の隣に居る男は危険だ。あれは、人間ヒトじゃない」


 僕は、それをさっきこの目で見てきた。そして間違いないと確信もしたと、私の両手を握るオーウェンさんの手は微かに震えている。不安に満ちた顔とは裏腹に、その紫には、相手に真実を伝えようという揺るぎない強い意志が感じられた。


「これ以上、彼に気を許してはいけない。このままじゃ、取り返しのつかないことになる」

「取り返しのつかないって……」

「帽子屋が、僕を使いに出した理由がよくわかった。彼が危惧するのもわかる。先見の目で、これを見越していたんだろう。けれど、帽子屋かれはここまで踏み込むことは許されない。手を出せない領域だ。だからこそ、彼は、僕に志紀きみを託したんだ」

「帽子屋? 帽子屋って、まさか。ま、まって。どうしてオーウェンさんまで帽子屋のことを」

「詳しいことは後にしよう。今は、此処から君を連れ出すのが優先だ。何か土台の様なものはあるかい。そしたら、僕が上から引っ張り上げて……」


 キョロキョロと庭の中を見渡し、それらしきものが無いかと探すオーウェンさんに対し、私は戸惑いを隠せず、そして動けずに居た。

 ぎゅっと服を握り、突っ立ったままでいる私を、オーウェンさんが後押しする様に呼ぶが、やがて私の意思を察して、岡崎さんの暴力性と、その危険性を訴えてくる。

 オーウェンさんは、イワンさんも言っていた岡崎さんの姿を、何らかの形で目撃したのだろう。そして恐らくは、それは私も一度は目にした、荒ぶる獣の化身となった岡崎さんの姿だったのかもしれないし、私もまだ見たことのない岡崎さんの新しい姿だったのかもしれない。

 どちらにせよ、声を荒げることなどといったことはしない、穏やかなイメージが強いオーウェンさんが、ここまで必死になって私を説き伏せようと声を張り上げていることは、余程のものを見たに違いない。けれど、何を言われようとも、私の足は動かない。当然と言えば、当然だった。

 なんの返事もせずに立ち竦むばかりの私の様子から、返事を汲み取ったオーウェンさんが、信じられないという雰囲気を纏う。そして、今度は静かで穏やかに、そして聞き分けのない小さな子供に、その理由を尋ねる親の様に問い掛けた。


「まさか、わかっていて……その上で、望んで一緒に居るのか」


 私の意思で、と問われると、自分のなかでも疑問が沸き立つ。太刀川さんが居なくなった時点で、私がこの場所に留まる理由は失せた。それでも、私が今もなお此処に居るのは、私を引き留めているのは、私がひとりで固執し続けている、岡崎さんと交わした約束の為だ。岡崎さんも口には出さないけれど、きっと忘れていない。ただ、私が独り善がりに、そして彼自身に、その判断を、それがどれだけ身勝手なことだとしても、彼に答えを委ねたかった。


「……志紀。頼む。このままじゃあ駄目だ。駄目なんだ。考え直してくれ」

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい、オーウェンさん。どうして貴方がジャックと関わりがあるのか……でもきっと、帽子屋のことだから、やっぱり私の想像では計り知れないことがあるんだと思います。だけど、そもそもなんです。あ、あんなにも、あちこちボロボロな状態の岡崎さんをほっぽっておくことは、私には絶対出来ない。誰に、何を言われても、絶対に」

「自分の人生を擲ってでも?」

「そうは思ってない! 私はただ」

「僕にはそうとしか聞こえないし、見えない。……帽子屋が嘆いていたのもわかる。今の君は、危ういが過ぎる」

「……」

「君の傍では上手く牙を隠しているのかもしれない。でも、彼は正真正銘、荒振神の化身だ。そのものと言い切ってしまっていい。人間の振りをしているだけだ」


 オーウェンさんは私の視点に合わせる為に、高い身長を屈ませた。服を掴み、唇を噛んで押し黙る私に、柵の向こう側に居る男性が手を差し出し、警戒する猫に「大丈夫だから、こっちにおいで」と呼ぶのに似た穏やかな声色で呼び掛ける。


「帰ろう、志紀」

「……」

「お父さんとお祖母さんが、君をずっと探し続けてる。苦しみながらずっと、長い間。お祖父さんだって、毎年欠かさず挨拶に来てくれた君が突然来なくなったって、寂しがってるに違いない。……君の帰りを、今も待っている人達が居ることを、忘れないでくれ」


 決して揺るぎはしないと思われていたのに、じわじわと私の中に惑いが広がっていく。忘れられる訳無い。何があろうとも、大事な家族のことだけは、片時だって忘れたことはない。今だって、ずっと、会いたいと、こんなにも焦がれているのに。

 ぎゅっと両目を閉じる。耐え難いという情を隠しきれない。両手で顔を覆う。しき、と優しく諭す声色のオーウェンさんに、恐る恐る顔を上げる。

 微かに反応を見せた私に、オーウェンさんはほっとした表情を見せたが、その穏やかさが警戒したものに切り替わる。唇を引き結び、私の後ろを厳しい目で見つめるので、振り向こうとしたが、それは叶わなかった。


「おかざきさ……」


 掴まれた二の腕が、痛みで悲鳴をあげる。力強く私を捕まえたひとを見上げて、ひゅ、と息が止まる。

 誰だ、これは。

 見たこともない男性が、そこに居た。真っ暗闇の中でも、血の如く濃い赤が、人を射殺さんばかりの眼光を放っている。あまりにも妖しく、毒々しく、凄まじい畏怖を相手に植え付ける。相手の気を竦ませるのに、十分な修羅を纏っていた。


「いっ……痛い! 岡崎さ……」


 上手く足を動かせない私は、遠慮も何も無い強引な力によって、邸の中へと引き摺られる形で腕を引かれる。力加減などあったものではなく、腕は軋み、折れそうだ。私の腕をとっ掴まえている岡崎さんの手に自身のものを添えて、その力を和らげさせようとするが、びくともしない。

 黙ったままで私の腕を引っ張るそのひとの後ろ姿は、私に恐れを抱かせる。いつも見る、頼りがいのある大きな背中とは違う。私の知っている岡崎さんとはかけ離れていた。雰囲気も何もかも、いつもの彼とは異なる何かが、私をこの暗い巣穴へ引きずり込もうとしている。


「彼女をどうするつもりだ!!」


 後ろから聞こえてくるのは、オーウェンさんの必死な叫びだった。咆哮とも取れる、岡崎さんへの弾劾。紫色の瞳をした彼は、柵を握り締め、こちらに向かって、岡崎さんへと弾丸を撃ち込んでいく。


「自分が何をしようとしているのか、わかっているのか! そうして、いつまでも、自分の正体をひた隠しにしていられるとでも思っているのか。志紀は、お前の為に用意された贄じゃない!!」


 何を言われようとも、岡崎さんがオーウェンさんに言葉を返すことはなかった。口から生まれてきたと言われても不思議じゃないと自分でも言っていた岡崎さんが、何一つとして反論をしなかった。

 強引に背中を押される形で家の中へと先に戻される。床へと乱暴に投げ捨てられ、今まで岡崎さんにぞんざいな扱いを受けたことが無かったので、驚きと動揺が私の中に渦巻く。倒れた身体をなんとか立て直し、起き上がろうとするが、その前に熱いものが私の背後に覆い被さってきた。

 後ろにのしかかってきた岡崎さんに両手首を掴まれ、勢いよく床に押し付けられる。思い切り頬を打ち付けた。痛い。眉間に皺を寄せ、顔を歪めていると、下から掬うように顎をひん掴まれ、強制的に後ろを振り返させられ、赤い双眼と無理矢理目を合わせられる。

 透明度の高い赤は完全に据わっていた。反らしたら、このまま縊り殺される。第六感が私にそう告げた。それでも今の岡崎さんには何か言わなければと唇を震わせる。けれど、言葉が出ない。

 掴まれた右手首は床に押し付けられたまま、顎下に回されていた岡崎さんの左手が首に回り、軽く持ち上げられる。その手が首周りをなぞり、長く伸びた髪を払いのけ、後ろ首を無防備にさせた。


「ひっ……」


 滑りのある、熱いものが首の後ろを這う。こそばゆさだとか、そんなことを気に留めている余裕もない。

 喰われる。狩り取られる。肉と血に飢え、これでもかと腹を空かせた獣が、久方ぶりの獲物に舌舐めずりをしているドキュメンタリーのワンシーンを思い出す。

 そうして、耐え難い、容赦のない痛みが与えられた。


「い゛っ……!」


 肉の裂ける、尋常でない痛覚が襲いかかる。鋭い牙が柔らかい肉に埋め込まれ、がぶりと更に深く噛みつかれる。

 いたい、いたい、いたい。歯を食い縛り耐えるが、苦痛の声はどうしても漏れ出てしまう。がぶがぶと角度を変えてうなじを咀嚼される。牙を立てるだけじゃなく、噛みついたところに舌を這わせてくるものだから、ゾワゾワした感覚と、深みを増す痛みが入り交じる。


「いや、やだ、岡崎さん」


 床にしがみつく様にして上半身を沈ませるが、呼び掛けに一切応じてくれない岡崎さんは、私の動きに合わせ、首に顔を埋める勢いで、逃げられぬ様に首根っこに噛みつき、捕らえてくる。動けない。

 ちゅる、という水音が間近から聞こえてくる。このままじゃあ駄目だ。この先に待ち構えている行為がなんなのか、いくら鈍いと言われてきた私にだってわかる。

 だめだ、こんなの。こんな形で。首を捉えていた岡崎さんの手が、私の身体を這う様に動き始めて確信する。

 信じるしかなかった。この、私を喰わんとする獣の中に居る岡崎さんが戻ってきてくれることを。服の中に手を入れられ、肌を弄られても、何度も何度も岡崎さんと呼び続けた。たとえ応えてくれなくても、絶対に応じてくれると信じて。

 想い人の名をまるで念仏の様に唱え続けた声は掠れ、いつしか水気を含んでいた。

 天は私を見捨てはしなかった。


「おかざきさん」

「……」

「うで、痛いです。すごく、痛い」


 おれちゃう、と小さく訴えると、鋭さを隠しもしない獰猛な瞳に、ゆっくりと時間をかけて、深みが戻ってきた。

 私の知っている岡崎さんがそこに居た。その口許は血が付着し、呆然とした表情をしている。

 強い力で拘束され続けていた私の右手首が解放される。握られていたところを擦る。真っ赤になって鬱血していた。じんじんと痺れが治まらない。

 身体をゆっくりと起こし、乱れた服を整える。そっと首の後ろに手を当ててみると、赤い血が僅かに指についた。

 恐る恐る後ろを振り返ると、岡崎さんは一番怪我がひどかった左の肩口を押さえ、だらりとソファにもたれていた。息は上がり、肩は大きく上下している。慌ててそのおでこに手を当てると、思った通り、熱は上がっていた。更に、包帯の巻かれた場所に赤が滲み、傷口が開いてしまっている。岡崎さんの身体をなんとか支えて、再び横になってもらおうとしたが、ぐいと肩を押され引き離される。


「わりぃ」

「……」

「まだ外に居ると思う、から。……話つけてくる。聞きたいこともあるし」

「岡崎さん、あの人は別に」

「お前は黙ってろ」

「……」

「志紀だけのことじゃない。何でアイツ、俺の……」

「岡崎さん……」

「そもそも……お前、なんで、あんな、どこの馬の骨とも知らねぇ奴とあんなに仲よしこよししてんの。あいつ、前にお前のこと追っかけ回してた奴だろ、何なんだよ」

「……」

「誰に対しても、ああなの? お前がそうやって、誰にでも良いツラしてるから、つけこまれんだろ。だから、勘違いした変な奴、引っ掻けてくるんだろ」

「……」

「それとも何、わざとなの? 刺青野郎のとこで、ヤクザの女として、美人局みてぇな処世術も叩き込まれたのかよ。まぁ、相手の懐に入り込むのは十八番だもんな。お前の」

「……」

「今の状況だって、わかってんだろ。前に話したよな。危機感持てって。いつまでも平和ボケされてちゃ、こっちも迷惑なんだよ」

「……」

「なんか、言えよ」

「どうしたんですか」

「何が」

「熱と怪我のせいじゃない。……変ですよ」


 岡崎さんらしくないと呟くと、私の前に居るひとはこれでもかという程目を見開いた。


「俺らしい?」

「……」

「俺らしいって、どんなだよ」


 熱で息を荒くした岡崎さんは、私に、今自分がどんな顔をしているのか見せたくないのか、いつかの夜に覗き見たときの姿と同じように深く俯き、片手で自分の顔を隠した。

 少しして、岡崎さんは顔から手を離して、拳を作り、額に当てる。私がよく知る深い赤の瞳に完全に戻った岡崎さんの目が開かれる。

 塞ぎ込んだ顔をした岡崎さんは、とても辛そうに、そして申し訳なさそうに、真っ赤になった私の手首とうなじを撫でた。


「……痛かったよな。怖かったよな。……ごめんな」

「……」

「まだ外に、さっきの野郎居る筈だから。……あいつと話して戻ったら、すぐに手当てしてやるから。ちょっと我慢しててくれ」


 そう言うなり、岡崎さんはふらふらの状態で立ち上がり、庭へと向かい、歩いて出て行ってしまった。引き留めようと手を伸ばしたが、既に後ろを向いた岡崎さんに無言で再び振り払われてしまう。

 明確な形で拒絶された。結局伸ばした手は誰にも届くことはなく、膝の上に落ちた。




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