運命のひと。ー暗転ー

破落戸

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人生の汚点

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 いつもより高い位置に居る為か、見たくないものがよく見える。片腕で私を抱え上げる西園寺さんは、厳めしい表情はそのままに、小声で、「目を閉じていて構いません」と気遣いの言葉をかけてくれる。けれど、これ位のことは、これから何度だって出てくる。いちいち動揺などしていられない。いい加減に慣れていかなければならない。首を振り、西園寺さんに大丈夫だとアピールする。

 お酒と水煙草の匂い、そして淫らな雰囲気が色濃いホールに、当然だが、太刀川さんを初め、私以外の人達は、一切の躊躇を見せない。すぐ横に居る西園寺さんは鉄仮面を崩さないし、女将さんも、経験の差から場慣れしているのが目に見えてわかる。ジェイさんも、途中で合流した、不気味さを感じさせる血色の悪い高身長の男性も、やはり動じず、太刀川さんよりも色濃いクマを目の下に貼り付けた彼と目が合うと、馬鹿にする様に冷笑された。

 
「いいじゃん。そんなケチケチしなくってもさぁ、一緒に飲もうよ。ひとりじゃ寂しいだろ?」

「やめて、離してください! ちょっとどこ触ってるの!」

「ひゃ~さすがグラドル。いい身体してるわ~。変な気分になってきちゃった、俺~!」


 私達の前方で、完全に悪酔いしている男性のお客様方が、ひとりの女性ゲストを囲んで、ゲラゲラ下品に笑いながら卑猥なことを発言したり、やたらと女性に密着したりなどで、悪質なセクハラをかましていた。女性は苦々しい表情で男性達に、やめてと拒否し続けているのに、真っ赤な顔をした彼等は、厭らしくニタニタと笑うばかりで、止めようとはしない。不快だ。目の前で起きていることは珍しいことではないのか、誰も止めに入らないというのが、余計に。

 しかし、そんな無粋もすぐに打ち止められる。遠慮もなく、自分達の居る方に向かって歩みを進めてくる少数の団体に、男の人達は気づき、血気盛んに、なんだやるのかオオン、といった勇ましい表情でこちらを向いた瞬間、真っ赤だった顔が瞬時に青くなった。先程までペチャクチャと女性に絡んでいた口達者はどこへやら、すぐさま口をつぐみ、黙りこんで後ろに下がり、私達から距離をとる。

 突然静かになった彼らに、何事かと周りも注目する。興味深々に、こちらを見て、こそこそ話をする者も居れば、自身のために切り開かれた道を、海を割るモーセの如く、堂々と歩く太刀川さんに色めき立つ声も聞こえてきた。反対に、視界に入れた途端に大人しくなり、顔面を蒼白とさせ、横を通り過ぎていく私達を、異形のものでも目撃したかの様な視線を投げてくる先程の男性達と似た反応をする者も伺え、様々だ。

 このホテルの支柱の一部である大きな柱2つが、真ん中に聳える大階段の左右に並んでいる。柱そのものが水槽になっていて、幻想的な青に染まる巨大な円筒の中を、色とりどりの魚がゆらゆらと泳いでいた。薄暗さの中にある青は濃紺に輝き、ホールに漂う妖艶な雰囲気の一端を担っている。


「お待ちしておりましたぞ!」


 物珍しさに思わず目を奪われていると、階段を上りきる前に声をかけられた。私達を、というよりも、太刀川さんをお招きしたという今回の主催者が、数名の護衛をつけ、半ば興奮気味の恍惚とした顔で仁王立ちになり、待ち構えていた。

 通されたのは、所謂VIP専用のお部屋だった。隅では、ミュージシャン達によるピアノとチェロの情感たっぷりな生演奏。壁一面は、先程の柱と同じ、巨大な水槽となっており、暗がりを淡い蒼で照らす。水槽の中では、魚だけでなく、人魚の格好をした半裸の美女が時折目の前を泳ぐ。霰もない女性の姿に照れて目をそらすよりも、その芸術性の高さと美しさに、運ばれてくるお料理よりも、私にしては珍しく興味が沸いてしまう。

 人工物であるということはわかるが、青と緑のグラデーションがかかった大きな尾ひれを、水中でたなびかせる姿は童心をくすぐる。人魚のひとりと目が合いドキリとする。優雅に微笑み、ゆらゆらとこちらに手を振ってくれた。反射的に軽く手を振り返すと、彼女も満足そうな表情を浮かべ、軽やかに泳ぎ上へと上がっていく。す、すごいなぁ。足にあんなのつけてたら泳ぎづらいだろうし、それに、あんなに長く息継ぎが出来るだなんて。

 確かに、お部屋の雰囲気はとてもいい。見るもの全てが新鮮で退屈しない。

 けれども、このお料理のラインナップは如何なものだろう。ゆらゆらと泳ぐ魚達や人魚を見ながら、私達がフォークやナイフを入れるのはお魚料理だ。水槽の中の彼らにして見たら、同族が美味しく食されているところを眺めているという訳で。「獲れたてのサーモンと鮪の~……」とシェフの方が自慢の腕を振るったご馳走を出してくれるが、その都度水槽の中で泳いでいる鮭を凝視してしまう。いや、美味しいのだ。確かに美味しいのだけれど。頂いた命にきちんと感謝をし残さず食べようという気にはなるのだけれど、え? 食育の時間? という気分になるのは仕方がなかった。

 ちら、と太刀川さんと対面する席に居るかたを見る。言ってはなんだけれど、あまり健康的ではない、でっぷりとお肉が垂れ下がったお体をされているおじさまだった。着ているものは、非常に上質な有名ブランドなのだろうが、その体型のせいで、お世辞にもきちんと着こなせているとは言えないし、今にも無理矢理留めたボタンが弾き飛びそうだ。肩口には、降っていないはずの雪がまばらに積もっている。きつい香水の匂いが鼻をつんざく。

 かつて働いていた時雨旅館で、こういうタイプのお客様は何度かお見かけしている。珍しくもない。そして、旅館の女の子達の間でもというカテゴリーに入るだろう男性だった。

 この方の趣味嗜好、はっきり言えば性癖は、その身の振り方から非常にわかりやすい。美術や音楽など、芸術性あるものに造詣が深く、所謂美しいもの好き。そして、態度にも顕著に現れる。

 私達を出迎えたときにも、その傾向は見られた。太刀川さんを筆頭に、溶けるんじゃないのそれと言いたくなる程顔を綻ばせ、歓迎の言葉を次々と彼にかける。そのあと男性は、鏡花さんとジェイさんのみに恭しく手厚い歓迎の挨拶をするも、私達の存在は徹底的に無視しだった。

 基本的に厳めしくキリリとした男らしい面構えをした西園寺さんに、不健康極まりない顔色をした長身のスーツの男性、そしてこの面子で最もパッとしない上に存在感も薄い私には、声ひとつかけず、視線ひとつ寄越さなかった。ま、まぁ別にいいんだけど、あんまりにも明け透けすぎやしないかとは思ったし、明確な態度の差に、最初は呆気に取られた。

 真ん中に大きな燭台が置かれたテーブル席に案内された太刀川さんが、私に、ここに座れと自身の隣の空いた席をぽんぽんと叩いて呼び寄せるものだから、すごすごと大人しく従い腰掛けると、太刀川さんをお招きした男性からは「え? なんでお前がそこに座るの? は?」という目で見られることとなった。この席には女将さんが座ると思っていたのだろう。実際、太刀川さんが無理を強いてでも連れてきたがったのは女将さんのことだと思っていたらしい。なんか、スミマセン……。

 先程から男性は、目の前に太刀川さんが居ることに余程テンションが上がっているのか、物凄く喜色満面だ。赤らんだ顔で、真正面に座る太刀川さんに、よくもまぁそんなにレパートリーがあるものだと一種の尊敬の念を抱く位、話題を息荒く投げ続けている。身なりやらなにやらをきちんと整えさえすれば、実はホストでもやっていけるタイプなのかもしれない。というのも、男性が熱く語っている内容は、以外にも興味深く博識で、面白いといえば面白い。しかし、私の隣に座る姫……じゃなかった、太刀川さんには、男性の巧みな話術は通用しないらしく、聞いているのか聞いていないのかわからない態度を取り続けている。申し訳程度に、というか思い出したように、時折適当な返事をするだけだ。


「……して、太刀川殿。ひとつお尋ねしたいのですが、お隣のレディは」

「事前に話したろ。いやに食い意地の張った女だ。どうやら、今日は珍しく食が進まねぇ様だがな」


 無理もねぇ、と太刀川さんはくつくつと笑う。


「はぁ。それで、どの様なご関係で? まさか、太刀川殿の御息女ですかな!?」

「ぶっ」


 まさか太刀川さんの娘扱いされるとは思いもよらず、含んでいたりんごジュースを吹き出しそうになる。


「あ?」


 流石に、太刀川さんが不機嫌な声を発する。

 近くのテーブルから、女将さんと西園寺さんが血相を変えて勢い良く振り返り、「いえ、この方は」と口を揃えて説明をしようとした。明らかにヤベェとわかるその反応を見て、男性はすぐさま違うと察し、大慌てで両手を振りながら申し訳ないと謝罪を繰り返した。

 太刀川さんの名誉の為に何度も言うが、太刀川さんは決して見た目が老けている訳ではない。むしろお若い。もし、このひとの言うとおり、私が太刀川さんの娘であるというなら、太刀川さんはどんだけ若い頃に子供をもうけたんだという話になる。

 太刀川さんは、私との関係を男性に明示することも責めることもなく、ただ、この雰囲気には似合わない日本酒を口にした。ピリピリとした空気を、これ以上悪化させることはない。男性も追及を止めはしたが、右正面からから刺さる……いやほんと邪魔なんですけど何者なのお前と言いたげな男性からの視線が容赦なく刺さってきて痛い。

 少し離れたテーブル席で、別に用意されているお食事に手をつけている西園寺さんと女将さんのところにいきたい。ものすごく行きたい。マリネされた、ぷりぷりの海老にフォークを刺し口に運ぶ。

 男性の方は切り替えが早い。たっぷりと溢れ出た顔の脂汗をフリルのついたハンカチで拭いながら、不自然に話題を変える。


「いやはや。けれども、冷酷非道と触れわたる噂とは違い、太刀川殿は謙虚な方ですな~! えぇと、こちらのレディの追加の代金についても、全てこちらで負担すると言いましたのに! 本当によろしいのですか? ご遠慮されることはないのですよ。一人分増えたところで、合計にさして変わりはありませんからなぁ」


 え、と漏れ出そうになった声をなんとか抑え込む。バッと隣に居る太刀川さんに顔を向け、ガン見する。お、おいどういうことだ。話が違うぞ、太刀川さん。お酒を嗜み黙ったままの容疑者は、余計なこと言うんじゃねぇよ的な面倒臭そうな視線を真正面に座る男性に送っている。このひと、やっぱり嘘ついてたな!? ま、また無駄遣いして、勿体無い~……! と私の中に眠るおばあちゃんが鬼の角を生やして、太刀川さんをガミガミと叱りつけている。

 しかし、太刀川さんはちらりと横目で一瞬私を見ただけで、「元々、賄賂紛いの金のやり取りはしねェ主義だ」だとか適当な言い訳っぽいことをかまし、男性はその言葉にストイックだ、素敵だ、なんだのと感動して誉めちぎっているが、高級品の価値も録に分からない女だとわかっていて尚、大金注ぎ込んで貢いじゃう男はストイックとは言わん! と心のなかで突っ込んだ。

 だめだ……太刀川さんは、ちょっとお説教が必要だ。限度というものをちゃんと覚えさせないと、私が喜ぶものはなんだと探して、そのうち宇宙とか連れていかれそうだ。いや、冗談じゃなくて。太刀川さんをジト目で責めるも、彼はそっぽを向いてしまう。


「……はぁ」

 誰にも聞こえない程の小さなため息を静かにつく。

 私は、昔みたいに太刀川さんと一緒に本を読んだり、読んでもらったり、美味しいお菓子を食べたり、お昼寝したり、それだけで十分なのに。

 太刀川さんはいまいち、そこら辺がわかっていない様な気がする。与え続けないと、相手からは返ってこない。そう思い込んでる様な気がする。

 そんなことを考えながら、こりこりとエスカルゴの殻を、無意識にフォークの先でずっと転がしていたことに気づく。周りの話は、また別のものに変わっていた。行儀の悪いことをしていた。慌てて、殻からフォークを離す。

 この部屋の扉を護る様に立っているのは、ジェイさん、そして外に控えるのは長身の男性。無表情に宙を見つめるジェイさんを、足先から頭の頂点まで舐め上げるように見つめながら、肉付きがよろしい壮年男性は、ふむぅと興奮気味に鼻息を鳴らす。


「よくぞ、あそこまで手懐けられましたなぁ。扱いも難しく、油断や隙を見せれば、もう二度と、この世の夜明けを見ることは叶わなくなると聞いておりましたが。そうそう、確か一ヶ月程前、どこぞの物好きの組……確か、蓮華会島風組長でしたか。連中のひとりを引き取ったその翌日に、組長殿の身体は、原型も留めない程バラバラに斬り裂かれていたとか」


 んぐ、と食べ物が喉奥で詰まる感覚に襲われる。血生臭くなった話題に分かりやすいくらい食欲が失せ、一端フォークとナイフを置いた。


「結局、被験体は天龍組の方で回収し、再び保護下に置いたそうですな」

「それが奴だ」

「はい?」

「島風の親父には悪いことをした。引き渡したのは、奴らの中でも、最も獰猛で、血に飢えた獣だったらしい」


 太刀川さんは、扉に立つジェイさん、ではなく、その向こうに居るだろう男性を指しながら、流し目に扉の方へ視線を向けた。


「運が悪いことに、目利きの良すぎた島風の親父殿は、奴等が自分達の序列を決する前に、より良いものを、親玉に匹敵する野郎を引き当てちまった。運が良いのか悪ィのか、この場合は後者だろうよ」

「順位?」

「狼と同じだ」

「はぁ、狼ですか?」

「自然界の野獣と同じ様に、あいつ等にも序列が存在する。より強い者は誰だと、互いの力を見定めて優劣をつけ、食物連鎖と同じに三角を形成する」

「ははぁ。なるほど」

「頂点に君臨する先導者ボスが見つかれば、奴等は自然と上に付き従う様になる。己より格下だと判断した者には、頭を垂れはしねぇよ」


 そして、太刀川さんは「化け物全員を躾る必要はない」と続けた。


「理性が無い様にも見えるだろうが、元は人間だ。寧ろ、知性のある獣の血を合わせて弄くり回した分、通常の人間よりも数倍、社会性は高い。先導者を懐柔すりゃあ、下も勝手についてくる」

「さすが太刀川殿」


 恰幅の良い男性は、うっとりと恍惚し、感嘆の声をあげる。


「この狂乱とした、粗暴ともいえる世界で、一寸も穢れることなく、洗練たる腕前を以て、獰猛な天駆ける龍をその背に負ってきた理由わけもよく分かる。くわえて、その傲慢さに、気高き美しさ」


 男性は、テーブルの上に垂れ下がった脂肪をぶにぶにと乗せて、太刀川さんに差し迫る。食器の位置が乱れ、ガシャンガシャンと皿がぶつかる音がけたたましく鳴る。テーブルマナーなどあったもんじゃない。あれだけ熱く語っていた美意識はどこへいった。それらにも構わず、男性は、太刀川さんをより近くで、よく見ようと、もはやテーブルの上に寝転ばん勢いで乗り上げてくる。

 限界まで開眼した両眼は血走り、どっぷりとした色を含んでいる。身の毛がよだつ。あまりにも禍々しい。はぁはぁと息を荒く乱し、だらしなく開いた口からは涎がみっともなく出ている。じゅるりと涎を啜る様は異様だ。今にも襲いかかってきそうな男性の様子に、とてつもなく怖くなって、失礼ということも忘れて、座っていた椅子の背もたれに限界まで身体を押し付けて下がる。

 蛇だ。目の前にある美味しそうな獲物、卵を喰らおうとする、欲望にまみれた大蛇。太刀川さんは、そんな蛇から目を逸らすことなく、静かに見据えている。


「藍のかかった濡れ鴉の髪、きめ細やかな肌に、幼い乙女の様な薄桃色の唇。そして、深海を連想させる、深く澄みきった青の瞳は特に美しい……戦場に咲く華とは、まさにこのことだ」

「……」

「ふ、ふひっ。ぜひとも、その鍛え上げられた、鋭く美しき刀身を振るう、しなやかな身体を、叶うのであれば、この命捨てでも隅々まで拝見したい……」

「気色の悪ィことを言ってんじゃねぇ。反吐が出る」




「瀧島組長が、かつて陰間茶屋に身を置いていた貴方を落籍したと耳にしました」




 太刀川さんが、口に運びかけていたお猪口を寸前で止めた。同時に空気も止まる。

 こちらに背を向けていた女将さんが、驚愕とした表情でこちらを振り返る。私達の様子を注意深く伺っていた西園寺さんも、表情こそは変わらないものの、一瞬息を呑んだものに変わった。楽器を奏でていた音楽家すらも演奏の手を止め、太刀川さんを凝視していた。

 突如として変わった室内の雰囲気に、状況も分からず戸惑っているのは私だけだ。

 落籍された? 誰が? 太刀川さんが? ことばの意味はわかる。けれど、とはなんだ。それだけがわからない。だから、私の中でピースが繋がらない。

 落籍。時雨の旅館で働く女の子に、特に熱を上げたお客様が、指名を続けたその果てに本気の情を持ち、多大な金額と引き換えに、女の子を身請けするというものだ。そのままお嫁さんになったという子も居たし、お気に入りの娘を愛人として囲い込むということで有名な富豪の愛人のひとりになった子もいた。しかし、それは、誰も彼も女の子に当てはまることだ。それも、そういったことを生業の稼業とする人達にこそ使われる言葉。決して、太刀川さんに並ぶものではない……筈なのだけれど。


「天龍組の長であらせられる瀧島殿は、先の戦が原因で、子を為す事が出来ない身になってしまったのは有名な話です。だからこそ、自身の後任に相応しい跡継ぎに成りうる存在を、組の内、外と拘ることなく探していた。随分と粘り強く、吟味に数年という時間をかけられておられた様だが、さすが瀧島殿はお目が高い」


 凍りついた空気はぴりぴりと皮膚をつく。寒い。氷点下に居るみたいだ。息がしづらい。指ひとつ動かすのも躊躇われる。隣に座る男性に視線をやるのが、こんなにも怖いと思うのはいつぶりのことだろう。
 

「茶屋にてお客を相手するにも、いつも主導権を握っていたのは太刀川殿だったそうですな。にも拘らず、その魅力は絶大なもので、とても、ふひっ、売れておられたと聞いています」


 欲望という醜悪さを隠しもしない男性は、興奮気味に立ち上がり、テーブルを回りこんで太刀川さんのすぐ後ろにつく。太刀川さんが座る椅子の背もたれの柄を、今にも引きちぎれそうな程肉の詰まった太い指で掴んだ。顔中に脂汗を滲ませ、太刀川さんの匂いを嗅ぐために、すぅはぁと大きく深呼吸をしながら、大きな顔を太刀川さんの髪に近付けている。


「確かに、貴殿の手腕は目を見張るものがある。けれど、貴方の若さでここまで伸し上がるには、ほ、他の技量が必要だった筈」

「……」

「こんなにも高貴な貴方が、と、床の間ではどのように乱れるのか、非常に興味がありまして。ぜひ、この豚ッコホン、私めにも手解きを頂きた」


 太刀川さんの刺青が覗く首筋を、触れるか触れないかの距離で、脂ギッシュの太った手が近づく。遂に思い切った男性は、怖いもの知らずなのか、後ろから太刀川さんの頬にお手つきしようとした。

 見ていられなくなった。その先に、何が待ち受けているのかがわかって。


「あの!!」

 
 淫らで不快なものに見舞われた雰囲気を打ち破った小娘の叫びに、太刀川さん以外の全員が注目する。今もなお、太刀川さんに迫る男の背後に忍び寄り、太刀川さんから引き離そうとしていた西園寺さんも、身を乗り出しかけていた女将さんも、黙ってこちらの様子を見守っているだけだったジェイさんも。

 ぎゅうっと掌で掴んだ肉の塊は、ねとねとととしていた。気持ち悪かったけれど、それでも、ソーセージみたいな手をきつく握り締めた。この人に、今の太刀川さんに触れてほしくない。触れさせてはならない、と本能で思った。

 庇護感でいっぱいの情が、私を支配し、突き動かした。微かに震えていた太刀川さんの手が刀の柄に触れたのを見て、声をあげずにはいられなかった。刀に触れたその手の震えは、怒りからなのか、それとも苦しみなのか、悲しみからのものかはわからない。今の私を動かしているのは、太刀川さんを大きく揺らがしている何かを取り除いてあげないと、という思いだけだった。

 
「何ですかな、お嬢さん」


 美しいものに触れようとした自らの腕をひっとらえ、邪魔をした女を、太刀川さんを苛む原因であろう不届き者が睨む。こ、このひと、あと数秒遅かったら、自分がどうなっていたかわかっているのか! とは言えず、「その、えっと……」と、向こう見ずな行動を取った自分も自分だった。この無礼を、どうカバーしなければならないかと、頭をフル回転させ、目線をあちこちにやる。


「お……お手洗いは何処ですか?」


 さっきから近くて、とモジモジしながら小さな声で訴えると、男性は「はっ?」と素っ頓狂な声をあげた。

 結局、乙女の常套手段しか思い浮かばなかった。というか、実際ちょっとチビりそうだった。いや、ほんとにトイレいきたい。実は先程の異様な空気から、緊張が膀胱にきていた。トイレいきたい。決壊しそう。目の前の男性に負けないくらい、尋常じゃない汗を流し続ける女が、割りとマジでヤバめな領域にキていることを男性も察した。なんせ、一応この場では太刀川さんの次に偉いポジションにある筈の自分に、切羽詰まって、直接お手洗いはどこかと必死な面立ちで訴えてくるぐらいなのだから


「け、化粧室は下に。案内をさせましょうか?」

「いえ、ひとりで大丈夫です! すみません!」


 太刀川さんとは、何故だか目を合わせられなかった。彼も私の方を見ていなかったから、合うも合わないのだけれど。

 でも、なんとなく、今はたぶん、太刀川さんは今この場に、私に居てほしいとは思っていない。確信があった。

 びっこを引きながら、扉の前に立っているジェイさんが私をじっと見つめているのに気づく。あとはお願いします、という意味を込めてジェイさんに頭を軽く下げると、彼女は私の意を汲み取ることが出来なかったのか、小さく首をかしげていた。

 私がトイレに退出したあと、ずっと沈黙していた太刀川さんが、ジェイさんにひとつ命を下していた。


「ジェイ」

「……」

「探せ。……鼠だ」


 テーブルの上に散らかったナイフやフォークを手に取り、私のあとを追うようにしてジェイさんが部屋を出ていったことも、そして太刀川さんがその命をジェイさんに発した後、西園寺さんがこれまで以上に警戒を高め、神経を研ぎ澄まし、周囲を警戒し始めていたことも、私は知らなかった。

 大階段を降りたところのすぐに、お手洗いはあった。白と金の装飾があちこちに施され、床は大理石という豪華仕様だ。用を足したあと、蓋を閉じて便座に腰掛ける。予想はついてきたけれど、このホテルにやってきて一番落ち着いたのが、まさか便座の上だとは。天を仰ぎ、大きくため息をつく。

 明らかに、太刀川さん、様子おかしかったな。いつもみたいに機嫌を損ねたって言ってしまえば簡単だけれど、今回はそれだけに留まらない気がする。あの西園寺さんですら、驚いてたみたいだったし。なにがなんだか、わからない。

 トイレを出て、先程、脂まみれの腕を掴んだことを思いだして、なんとなく念入りに手を洗う。石鹸水を多めに手の上に乗せて、指の隙間や掌を擦り合わせていると「志紀」と馴染みのある声に名前を呼ばれた。


「女将さん」

「わても、ちょっとお化粧直しにね。嫌な汗かいてもうたから」

「そ、そうですよね。なんかよくわかんないですけど、ヒヤヒヤしましたよね」


 女将さんは私の隣に並んで、ポーチから化粧道具を取り出し、白粉のついたパフを頬に当て始めた。私は、泡立った石鹸水で念入りに手を洗い続けている。何の話題も無い。沈黙が漂う中、二、三人の女性がお手洗いを利用しに入り、用を済ませ出ていき、再び私たち以外に誰も居なくなったところで、女将さんが口を開いた。


「志紀。あんた、さっき、尊嶺はんとあのひとの間に割って入っとったけど、もしかして、尊嶺はんから聞いとったの?」

「えっ? な、なにをです?」

「えっ……て、そんな呆けた顔して。な、なんやの。わかっとって、あんた、止めに入ったんちゃうの」

「私は、何も。なんか嫌な感じがして、殆ど反射的に手出ししちゃって」

「そう」

「太刀川さんって、昔、色々あって瀧島さんに拾われたってことは知ってるんですけど……落籍って? それと、ええっと、なんだったかな。かげま? って何ですか?」

「志紀はまだ知らんでええよ」

「え、で、でも」

「あの豚は、どんな手段を用いてでも、気に入った人物のことは、湯水の様に金を注いで隅から隅まで調べあげるストーカー気質で有名や。その執念は、どんな手練れの情報屋も敵わへん言われとる」

「は、はぁ」

「せやから、あのおひとが言ったことは本当なんやろ。……前々から、ちらほら耳にしたことはあったし、でも、まさかとは思ってたけど、ほんまに……尊嶺はんが」

「女将さん?」


 化粧の手を止め、洗面台に両手をつき項垂れた女将さんは、深く消沈していた。気丈を振る舞っていたが、先程から右の頬ばかり白粉を押し当てていたことから、心ここにあらずで、状況を受け止めきれていないといった風だ。遂に両手で顔を覆い、自らを落ち着かせようと、深呼吸を繰り返し始める。


「尊嶺はんが、頑なに自分のことを話そうとせえへんかったのが、ようわかった」

「……女将さん?」

「ありがとう、志紀」

「え?」

「何も知らんでいてくれて、ありがとう」

「……」

「わては何も言わんし、よう言わん。あんたに教えもせんし、尊嶺はんの為にも出来ひん。志紀は、そのままで居ってあげて。今は、調べようとせんといたって。あんただけは、今目の前に居る尊嶺はんを見ておいてあげて。あんただけは」

「女将さ……」

「いつか、尊嶺はん自身が、自分から話せる様になる、その日まで」


 それが、今の太刀川さんにとって救いになる筈だからと言って、お化粧を直し来たという目的を忘れた女将さんは、頬を流れる涙はそのままに、口を抑えて、お手洗いを走って出て行ってしまう。

 今まで世間知らずだとどやされ、常識を知れだの、大人になれだの、たくさんの人に言われてきた。女将さんは、そのなかでも云わば、私を成長させてくれようと、一番近くで厳しい言葉を投げ続けてくれていた筆頭だ。その女性から、こんな物を知らない私に対して、ましてや疑問を飛ばしてばかりの私に、そんなことも知らないのかと詰るよりも先に、ありがとうなどと礼を言ったのだ。


「(私は、なんにもしてないのに)」


 泡だらけになった手を洗い流し、私も身嗜みを整えてから戻ろうと、鏡を見ながら全身を確認していると、騒がしく野太い声をした二人組の女性……じょ、女性? の声が聞こえてきて、お手洗いに近づいてくる。そして、その姿を見せ、入ってきた。

 
「いやだ~~アサコ~~。スリットから汚い脛毛がはみ出てるぅ~。気持ち悪いわね~。ちゃんと脱毛したの、あんた。ミ●ゼ行ってきなさいよ。ちょ~不快~。意識足りてないんじゃないのぉ?」

「そういうテツコだってぇ、骨太丸出しでムキムキじゃない。いやだわ~~。ガタイが良すぎるのよ~。それじゃあ男に声かけられないのも納得よねぇ~」

「やっだぁ~! シュ●ちゃんみたいな体格したヤロ……クソアマに言われたくないんですけど~。てかあり得なくなーい? 少なくとも、お、あたしの方が美人だしィ~。スタイルもいいしィ~。ずぇっんずぇんアサコよりモテるに決まってんですけど」

「なにをう!?  なんなら勝負するか勝負! おっ……私の方が、胸もあるわよ。見ろ、このたおやかな豊かさを! だっちゅーのも出来る……わよ!」

「胸筋だろうが、そりゃあ! 触ったら、かったいのよ! 岩じゃないのよ! ゴツゴツじゃないのよ!」

「張りがあるってのよ、こういうのは! なんか、このやり取り、お●ぎとピ●コみたいになってきたわね!」

「おだまり! ……っていうかアサコ、お願いだから、ソッチの世界に目覚めないでね。さっき、あんた、バーの兄ちゃんにいやに絡んでたけど目覚めないでね。一番ノリッノリだけど、目覚めないでね。視界の暴力だからァ!」


 ……なんか、お互いにマウント取り合ってるけど、どっちもどっちじゃないか? というか、どうしたの。そのガッサガサな声。カラオケでも行ってきた後なの? ちょいちょい裏声にひっくり返っている野太い声の二人組が、賑やかに口喧嘩をしながら化粧室に入ってきた途端、その強烈なビジュアルに目を奪われた。
 
 まず目を引くのが、逞しく鍛え抜かれたその体格だ。お二人とも恰幅が良く、金髪のオ●カルヘアーに、何故か真っ黒なグラサンをかけ、真っ赤なドレスを着た女性は、ノースリーブから出た腕の筋肉すっごいですね、アスリートですか? と聞きたくなるし。問題は、もう片方だ。

 先程赤いドレスを着たおねえさんが言った様に、熊の如く大きな体格は、全盛期のシュ●ルツネッガーを連想させ……というか、ボディビルダーの方としか思えない程に、筋骨隆々のお身体をしている。なのに、よりにもよって、スタイルが際立つピチピチのチャイナ服を着ているので目立って仕方がない。

 お化粧もそうだ。金髪ウェーブのオス●ルヘアーの女性は、いやもうそれピエロやん、ペニー●イズやん……と言いたくなる厚化粧。もはや、元の顔がどうなのかわからない程に原型を留めていない。身体の大きなチャイナ服の女性も歌舞伎役者やん、市川 ●十郎やん……と内心で評価を下す。小さい子が、この二人を見たら泣く。絶対泣く。

 そんな奇妙な、がに股の二人組が洗面台の前にひとり突っ立っていた私に気付き、そして目が合う。何故だろう、グラサンの女性が一瞬たじろいだ様には見えたのは気のせいか。とにかくも、あまりジロジロ見るのは失礼というものだ。さっさと終わらせて、太刀川さんのことも気になるし、はやく戻ろう。

 鏡の中の自分が付けている簪が少しずれ、結い上げた髪も少し緩んでいるのに気付いて、髪を整え直すことにした。簪と髪を纏めていたピンなどを取り外していく。

 二人も、お化粧直しにきたのだろう。私の左隣に2mはあるだろう恰幅の良い女性が「やっぱり、ちょっと太って見えるわねぇ」なんて言いながら、何故かもりっっという効果音を出しながらマッスルポーズを取っている。いや、本当になぜそのポージングなんだ。似合ってはいるけれども。

 その女性の更に左隣には、グラサンをかけた女性が黙って、ただでさえ唇にはみ出す範囲までベタベタに塗りたくられたルージュの口紅をさらに塗りたくっている。

 まぁ気にしてはいけない、と長い髪を軽く手櫛でとかしていたのだが、左からの視線……というか圧がすごい。見てる。すっごい見られてる。


「……」

「……」

「……あ、あの」

「んん!?」

「ヒェッ……いやその……私になにか?」


 勢い良くこちらを向いて返事をしてくれたのは、シュ●ちゃんの方だけだった。その向こうに居る女性は、リップを持って、じいっと鏡を見つめて黙ったままだ。


「あンらぁ~ごめんなさいねぇ~。さっき、天龍の若大将さんに連れられてた女の子じゃない? って気になってねぇ。つい、まじまじと見つめちゃってぇ~」

「えぁ、は、はぁ」

「アナタ達の様子、仲がよろしくて微笑ましいったらありゃしなかったわ、ほんと~」

「は、はぁ」

「ズバリ聞いちゃっていいかしら。アナタ、あの天龍組若大将太刀川尊嶺の好い人なの?」

「……そっ……んなとこだと思います。……たぶん」


 見ず知らずの方に、自らの素性を答えてもよいものか迷いに迷ったが、誤魔化したところで、この女性は勘づいている様だし、たぶん違うといったところで「はぐらかしてんじゃないわよぉ!」と強い追及が来そうな予感がして、なんとなく濁した回答をする。が、その直後、奥からバキィッ! と何かが砕ける音がして、肩がびくついた。え。な、なにごと。


「んっまァァ~。大人しい見かけによらず、すっっごいの捕まえたわねぇアンタっ! ねぇテツ……って、テツコぉ!? あんた、なにやってんのぉ! ブフッ。そんなっ、ぶ……くくっ、リップ、木っ端微塵に粉砕しちゃってぇ……ぶふふっ!」

「別に」

「なに、沢●エリカ? 古いわよ、そのネタ。えぇ~ほんとにィ~? もんのすごい腕に血管浮き上がってるけど」

「べ、つ、に! っていうか、何笑ってんのよ! その脱毛し忘れたボーボーの脇毛、ガムテで全部引きちぎってやる! ……わよ!」


 笑いをこらえ……いや、堪えきれていないシュ●ちゃんに、プークスクスと笑われながら、グラサンの女性が勢い良く中指を立てたところで、どこからか天●越えのメロディが鳴った。

 キチキチのセクシー(?)に大きく開いたチャイナ服の胸元に、ずぼっと指を突っ込み、谷間からスマホを取り出した女性は、そのまま電話に応答し、肯定の返事をして切った。


「合図が来たわ。手筈通りにね。抜かるんじゃないわよォ」


 グラサンをかけた女性の肩を叩き、声をかけ、そして、えらくこぶしを効かせた演歌を口ずさみながら、お手洗いを去っていた。

 マッスルな女性に置いていかれたピエロメイクの女性は、私から真ん中の洗面台分の距離を開けて、ハァアアと大きくため息をつき、くるくると巻かれたオス●ルヘアーの毛先をいじり始めた。特に話すこともなく、私も同じく長い髪を纏めるためにピンを口に挟み、ひとつずつ髪の中に差し込んでいく。


「ねぇ」

「ふぁ、はい。なんですか」

「リップ貸してくんない」

「リップですか?」

「見てただろ。さっき折れちゃったの。だめ?」

「いいですけど、使用済ですよ? 今お付けされてるものより、色もだいぶ薄いし……」

「だめならいいけど」

「だ、だめじゃないです。これでいいなら。どうぞ」


 もう十分塗りたくられてるし、それ以上必要なくないか。と思いつつ、取り出したリップを差し出すと、女性はこちらに寄ってきて「どーも」と手短にお礼を言って受け取り、私の隣の洗面台の前に立って、鏡を見ながら口紅を塗りはじめた。

 女の人にしては、ものすごく身長高いなぁ。真っ赤なピンヒールを履いているのもあるとは思うけれど。

 このホテルに立ち入ることが出来るくらいだ。やっぱり、スポーツか何かで大活躍している、有名なアスリートの女性なのかも。って、そうじゃない。ちゃっちゃと終わらせて戻らなきゃ。お、遅すぎて大きい方かなとか思われたくないし。ちがうし……。

 ひとりで整えるには慣れていない髪をなんとか結び終えて、よしと簪を挿そうとしたその瞬間だった。暖かい何かが私の首の後ろををそっと掠めた。ゾワワとこそばゆい感覚に苛まれる。堪えきれず「ひぇえうっ」と変な声をあげてしまう。隣の女性が大げさにビクリと身体を揺らしたのに気付き、その手が私に向いていたことから、私の首にタッチを仕掛けてきた犯人だということがわかる。現行犯の表情は、ピエロメイクとグラサンでわからないものの、何やら慌てふためく動作をとり、じりじりと私から後ずさっている。


「ど、どうしましたか、いきなり。こそばゆいじゃないですか。あ、何かついてました?」

「こそばゆ……っ! ああああんたねぇ! だからって、そんなはしたない声出してんじゃないわよ! ビックリしたじゃない。ドキッとしたじゃない!」

「えええ……まぁ、スミマセン……首触られるの弱くて(理不尽……)」


 なんか、このやり取り覚えがあるな。物凄くデジャヴな気がする。なんだっけ。

 お姉さんはふーーと大きく深呼吸をした後、「ンンンンンン!」と地面が唸るような大きな咳払いをし、再び鏡に向き合う。ファンデーションを取り出し、特大のパフでボフボフと自身の顔面を叩きだしたので(グラサン取ればいいのに)、ほんとなんだったんだ、と触れられた首筋に手を当てる。

 簪をつけ終わると、隣から舌打ちと共に、「躊躇なく挿しやがって」と、とてつもない怨念の込められた低い呟きが隣から聞こえてきた。こわい。無視しようと思っていたが、ナイフの様に鋭く刺すような視線が負のオーラと共に上から降ってくるので、全く気にしないというのは土台無理な話だった。いっそ、何が気にくわないのか、ハッキリ言ってくれたらいいのに。


「まだ、私になにか、その、ご用でも」

「なに? ゴニョゴニョ言われても何言ってるか聞き取れないんですけどー。もっとハキハキ喋ってくんない。そんなんじゃ女優になれないわよ。その足みたいに大根言われるわよ」


 さっきから、初対面の相手に失礼極まりない発言乱発する上に、いやに喧嘩腰だなこのひと。初対面……初対面?


「もしかして、お姉さん、私とどこかでお会いしたことあります?」

「……」

「お姉さん? もしもし? 聞こえてます?」

「あー別に。この感じ、懐かしいなと思って」

「ってことは、やっぱりどこかでお会いしたことが」

「あ~ないない。ないわよ。あんたみたいなちんちくりんと交流してる程ヒマじゃないのよ、あたし~」

「でも、さっき」

「昔、似たようなやり取りしたことあったから、思い出しただけですー」

「えっ。奇遇ですね。私も、なんかデジャヴだなぁと考えてたところだったんです」

「……あっそ」

「でも、そうですよね。こんな強烈なひと、一度見たら忘れるわけ無いですもんね」

「なんなの、その含み笑いと言い方。チョームカつくんですけど」

「不思議ですね。私、ものすごく人見知りする方なんですけど。お姉さんとは、なんでか初対面な気がしないです」

「……」

「って何言ってるんですかね、私。そうそう、何か気になることでもあるなら、遠慮なさらず仰って下さい。なんかついてます? 芋けんぴとか。そんなに見られると、流石に気になっちゃうんで」

「悪い虫に刺されてる」

「え」

「首」


 とんとん、とお姉さんは、私の首筋をピンポイントに直接指でつつき、そしてツーーとなぞった。擽ったい。なんでだろう、何でか顔が熱くなった。

 えっと、なんだっけ。あ、そうだ虫刺されだって。そんなのいつのまに……いや、待てよ。まさか。
 
 お姉さんにつつかれたポイントを鏡で確認する。首に咲いた赤い花弁が虫刺されなどではないことに気付き、羞恥から、全身の体温が急速に上昇する。そして、わざわざこの痕を指摘してきたお姉さんも、意地悪にも、これが何か知った上で言ってきたのだとわかった。

 片手で首を隠し、恥ずかしさから顔を上げられずに俯く。せっかく結い上げたけれど、髪は下ろしておいた方がいいかもしれない。どうしよう。

 お姉さんは再び、ファンデーションとパスを鷲掴み、進化キャンセルの如く、顔面にパフの怒濤の連打を繰り返した。ファンデーションの白い粉が舞いに舞う。


「ふ~ん。えらく熱烈なことで~~! 天龍の太刀川って、あんなクールぶってるけど、意外と見せつけたがりなのね~~! へぇ~~ふうぅーーん! 独占欲の塊じゃん。うっざぁーーい!!」

「ちょ、お、お姉さん。ファンデ、ファンデーションが靄みたくなってます。もはや砂塵と化してます。流石につけすぎ。こっちまでかかってます。いくらなんでも、ぱふぱふしすぎです」

「あ? なに? あたし、ぱふぱふ好きなのよ。ひとの嗜好に口出ししないでくんない。ドラ●エじゃ、もはや常連よ。ぱふぱふマスターよ」

「そのぱふぱふじゃないです」

「おま、あんた、天龍組の太刀川の、女ってさっき認めてたけど、本気マジで言ってんの?」

「一応……」

「……ふーん。ふーーん。ふーーーん」

「……」
 
「っていうかさぁ、一応だとか、たぶんとか、何よ、さっきからハッキリしないわね。女ならビシッと白黒つけなさいよ」

「じゃあ……ハイ、そうです」

「ハッキリ言うなよ!! 白黒つけんなよ! っていうか、アッサリ認めないで傷つくから! ほんとやめて! 今の一手で、お姉さんの盤面が全部黒になっちゃったじゃないのよ!」

「どっちですか。何ひとりでオセロしてんですか」


 絶望感に満ちた必死の形相で、突然ヒステリックに怒鳴りつけてきた女性の言動は、もう滅茶苦茶だ。目は見えないものの、お姉さんはピエロメイクの施された半笑いの口をひきつらせ、カールされた髪を指にくるくると巻き付け、余裕ぶった態度を見せているが、カタカタカタカタと尋常じゃなく手を震わせているのがわかる。


「こっこここ恋しちゃったの? 星の夜願い込めて指先で太刀川にメッセージ送っちゃったの?」

「そう、だと思います。たぶん……」

「えっ!?」

「でも、それは、恋とはまた……」

「うううそおっしゃい!  エイプリルフールはまだ先よ!」

「違……は、はい?」

「大体なぁ! そうだと思いますって、おまえ、そんなアッサリ……ッついこの間はっ、これからもずっとって!」

「……え? え?」

「っあ~~も~~この……っ! ばかァ! バカばか! 生意気にも乙女の心を弄びやがって、お前はぁああ」

「う、うわ! な、なんですか、いきなり怒って。吃驚するなぁ」

「ぐすっ……」

「え、ちょ、な、なに鼻啜ってんですか。うそ、もしかして泣いてるんですか?」

「泣いてね……ないわよ!! 鼻炎なの! 蓄膿症なの!」

「耳鼻科行って下さい。さっきから情緒不安定過ぎますよ、お姉さん。もしかして飲み過ぎました? 気持ち悪いんですか? 吐きたいんですか? 指突っ込みましょうか?」

「お前のそういう間違った気遣いしてくるとこ、ほんと腹立つ……もうなんなの、ほんと……」


 お姉さんはハァアアと大きなため息をつき、オ●カルヘアーの金髪を、やけに男らしい動作でがしがしと両手でかきながら、その場にしゃがみこみ、俯いてしまった。ほんとに大丈夫か、このひと。さっき、ホールで怪しい煙草を吸っているひと達も居たし、実は、このひともその口だったりして。それにしては、まだあの人達よりはまともに見えるけれど。

 お姉さんと同じく、しゃがみこみ、ドレスの上からでもわかる、筋肉質で大きな背中を軽くさすってあげると、お姉さんの動きが止まる。


「……っや、やめといたら~? 女関係で、あんまり良い噂聞かないわよー、あの男。女遊び、すっごい激しいらしいじゃない。あんたみたいなちんちくりんも、どうせ遊びよ。あ・そ・び」

「……もしかして、お姉さん」

「……な、なによっ」

「太刀川さんとお付き合いされてた女性だったりとかします?」

「何でそうなった!?」

「違うんですか? だって、さっきから、太刀川さんと私の関係をすごく気にされてるから……」

「ふ、ふ、ふざっっけんな! 誰か好き好んで付き合うか、あんな性格ひん曲がった性悪の××××野郎と! ねーわ! 一番ねーわ! ありえねーわ! ホラ見て鳥肌スゴくない!? 拒絶反応出ちゃったよ! 今にも羽ばたけそうだよ!」

「お姉さん、口悪いですね。なんだ違うのか。太刀川さんって、ほんと守備範囲広いな~って感心したとこなのに」

「どういう意味だ、コラ。お姉さん十分美女だろうが。どこかの誰かさんよりオッパイもあるし~」

「ちょ、どこ見てるんですか。それは置いといて、話を聞いてください。何を気にされてるのかは知りませんが、立場としては太刀川さんの……ええと、女ってことで合ってるんだと思いますけど。でも、私」


 なんで、私、会ったばかりのお姉さんが宥めてんだろう。というか、一体何に対して慰めようとしているのか自分でもわからない。しかし、おかしなことに、この女性にはちゃんと話しておかないと、と私の中の何かが囁く。何を? 今から私は、この人に何を伝えようとしているんだろう。

 私が言葉を続けようとした、その瞬間だった。

 キャアアアとお手洗いの外から、甲高い悲鳴が多数聞こえてくる。リラックス系の音楽が鳴り続けるお手洗いにはそぐわない悲鳴だ。

 驚くよりも先に、うずくまっていたお姉さんが勢い良く立ち上がり、お手洗いの出口の方へ顔を向ける。そして、高いピンヒールを躊躇なくその場で即座に脱ぎ捨て、「靴は!?」と引き留める間もなく、お手洗いを出ていってしまった。オズの魔法使いのドロシーが履いていそうな、ルビー色の靴が、お手洗いの床に転がっている。それらを拾い上げ、未だにざわめきと悲鳴の止まないお手洗いの外へ、お姉さんを追い掛けて私も出ていった。

 お手洗いを出たところで、既にお姉さんの姿は何処にも見えなくなってしまった。しかし、代わりに視界に飛び込んできたのは、


「……女将さん?」


 ここからそう遠くない、少しだけ離れた距離。ホールの入り口で、口の端が腫れた、顔を殴られた痕のある女性。目を凝らすと、その人物は女将さんだった。

 身動きが取れないよう、床に座らされている。女将さんは、後ろに立つ人物に、綺麗にアップにした髪を鷲掴みにされ、緊張した面立ちをしていた。髪をきつく引っ張られたのか、表情を歪めた。女将さんは掴まれていた髪を乱暴に離され、床に投げ捨てられる。女将さんを拘束していた人物は、大きく物騒な銃を代わりに手にし、それを女将さんに向け、逃げることを禁じた。

 ぽと、と抱えていた靴が床に落ちる。どうして、女将さん。一体何が。他のゲストも突然の事態に、恐れ戦いている。

 暗かったホールに電気がパッと点き、明るくなった。光の下、露になった人物の姿に目を見開く。女将さんを跪かせ、その後ろに立っている女性。軍服を着用し、帽子を深く被って顔を隠している。そのひとは、帽子から僅かに、その眼を覗かせ、大階段の方をじっと見つめていた。ほんの少しばかり見えたその顔、どれだけ離れた距離でも、私にはわかる。

 彼女が、一心に目を反らすことなく見つめている視線の先を追う。大階段を上ったところにある広い踊り場には、西園寺さんと、スーツを着た血色の悪い男性に、私の大切なひとの不興を買った人物が、横に並んでいた。そして、その真ん中に位置した太刀川さんが、煙管の紫煙を揺蕩わせながら、青い瞳で自身を見つめる瞳に視線を返していた。

 太刀川さんがふーーと煙を吐き出した、その直後だった。

 弾丸の放たれる音が大きく木霊する。その後すぐに、女将さんの甲高い悲鳴が、先程の銃撃音を追うようにしてホールに響き渡り、鼓膜を刺激する。

 鮮血が宙を舞う。ポタポタとあちこちに降り注ぐ赤の液体は、重力に従い、磨き抜かれた床に落ち、赤黒く染めていく。数分前まで賑わっていた場が、騒然としたものに一瞬にして変化した。

 ぼと、と重量感を持たせた音と共に地に落ちたのは、今の今まで、胴体の一部として繋がっていたはずの女将さんの右腕。絶ち切られたばかりの神経が痙攣し、意思を持たない筈の指先がビクビクと震えている。千切れた腕の部分、その断面から、不規則に赤いものが吹き出していた。

 女将さんが、尋常ではない痛みに叫び声を上げる。軽くなった己の右肩と血に染まる着物、床に転がった撃ち落とされたばかりの自身の腕を見比べて、血反吐が出るのではないかと思うほど咆哮した。バランスを保てなくなった身体は地に崩れ落ち、悲壮感に満ち溢れた苦痛を訴え、叫び続ける。

 私は、その光景を間近で目にし、絶望していた。絶望としか言いようがなかった。声を出せなかった。今すぐにでも女将さんに駆け寄りたいのに、足が動いてくれない。頭が真っ白になる。尋常じゃない絶望感が身体を支配した。ガクガクと震える足で立っていることなど到底不可能で、その場で膝を折り、崩れ落ちる。

 容赦も、慈悲の欠片も無く、何の罪も無いひとりの人間の腕を落とした女性は、大階段の踊場から、その光景を淡々と見下ろしていたひとを無感情に、しかし、とてつもなく強い怒りと深い憎しみに満ちた鋭い目で睨み上げている。今も尚、その手に握る銃を彼に向け、撃ち殺さんばかりに。

 耳をつんざくような女将さんの叫喚を耳にしながら、顔色ひとつ変えない太刀川さんは、今しがた起きた出来事に惑うどころか、目を閉じて愉しそうにくつくつと笑った。

 場内のあちこちで、混乱とした悲鳴と怒号が上がり、ゲストが次々に、我先にと、このフロアから逃げ去っていく。その代わりに、ぞろぞろとシラユキさんの後ろから現れたのは、多種多様な武器を携えた輩達だった。

 予想だにもしていなかった突然の事態に呆然としていた私の腕が、何者かによって取られる。誰かと見上げると、ジェイさんだった。茫然自失として、へたりこんでしまっている私を、ジェイさんは横に抱え、上に居る太刀川さんの元まで引き戻す。

 太刀川さんのすぐ後ろに落とされ、目の前に立つ男性の後ろ姿を仰ぎ見る。西園寺さんが太刀川さんの方に少しだけ身体を寄せ、耳打ちをする。


「たった今、兄弟から報告が。天龍組も含め、各地で同盟関係にある諸会及び組系列が襲撃を受けていると。こういった事態を想定に入れた上で、各所に散らばせていた若衆も応戦している様ですが、京都に配置した諜報部からの回線もジャックされ、通信も途切れ途切れで正確なものが掴めません。錯綜しています」


 それを聞いても尚、太刀川さんは笑みを浮かべたままだ。


「正面から堂々たァな。やってくれるじゃねェか」

「しかし、全て手筈通りです」

「あぁ」


 面白い位にな、と太刀川さんが小さく呟く。悲鳴をあげ続ける女将さんの足に「腕の次は足だ」と言いたげに銃を向けているシラユキさんと、憎悪の込もった視線を投げてくる白鷹と鬼龍組の勢を、西園寺さんと共に見下ろしながら。

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