運命のひと。ー暗転ー

破落戸

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自分の口から伝えたかった

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 ぱち、と目を覚ましてまず目に飛びこんできたのは眉を下げた咲ちゃんの不安げな顔だった。咲ちゃんは私が目を覚ましたのがわかると目を見開いて「せっせんぱいっ!」と手にしていたバナナの残りを全て口に含み、ぽーいと皮をどこぞへやら放り投げた。こ、こらこら。ポイ捨てダメゼッタイ。そしてお口をもぐもぐさせながらナースコールを押し、上から私の顔を観察し始めた。


「もぐっ、んぐぐ……せんぱい! 大丈夫ですか! 自分のことわかります? 咲のこと覚えてます?」
 
「……さ、さきちゃん」

「よかったー! 意識戻ったんですね! あなただれぇ? なんてベタなこと言われたらどうしようかと思いました」

「う……あ、頭いたい……」

「あぁ、あんま動いちゃだめっすよ! 頭にでっかいたんこぶ出来てるんだから」

「たんこぶ……?」


 重苦しい身体に鞭を打ち手を頭にやると、包帯の巻かれた部分が少し盛り上がっているのがわかった。触れるとじんじんとして鈍い痛みが広がる。


「はい。せんぱいってすごい石頭ですね。お医者さんがめがっさ吃驚してましたよ。鉄パイプで殴られてたんこぶだけで済んだのは幸いだったって。出血はしましたけど、救急がすぐ来て処置も急いで出来たのが良かったみたいですよ」

「……あ」

「思い出しました?」

「そ、そうだっ、か、香澄ちゃんは……!」

「わ、わわっ。そんな勢いよく起きちゃ」

「う!? っ~~い、いたいよぉ~~」

「だから言ったじゃないですか。せんぱい馬鹿なんですか」


 看護士さんが病室にやってきて、今の具合はどうかと頭の状態もチェックされる。その間に病室を見渡す。看護士さんに包帯を巻き直して貰っている私の様子を物珍しそうに眺める咲ちゃんの後ろにある窓の外を見ると夕方になっていた。あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。

 看護士さんがまた後でお医者さんと様子を見に来るといって病室を出て行った後、鈍痛にも少し慣れてゆっくりと体を起こす。非常に頭が重いし、くらくらもするが全く動けないという訳ではない。咲ちゃんに顔を向けると、賢い彼女は私が何を言わんとしているのかを察して話し始めてくれた。


「もー大変だったんですからね、あの後。志紀せんぱいとお腹蹴られた女性を救急車に放り込んだあと、お客様が通報してたのか警察が来て、暴れてた男捕まえてもらって。仲居さんはカンカンだし、香澄せんぱいは飲まず食わずで志紀せんぱいに付きっきりで離れようとしないし。見てらんなかったんで咲が交代するって帰らせました」

「……」

「旅館は通常通り経営はしてますけど、まぁ~この件で悪い噂はたっちゃって。時雨は緊急の事態にまともな対応出来ないクソ旅館だーとかね。事務所はお客様からのクレーム対応でめちゃ追われてます」

「私……」

「志紀せんぱいのせいじゃないですよ、今回は。どっちかってーと被害者のひとりになるんじゃありません? 何にも非のあることしてないじゃないすか」

「……」

「立場的にヤバいのは香澄せんぱいです。今回のトラブルの引き金になっちゃってんですから」

「か、香澄ちゃん、どうなるのかな……」

「んー……女将さんが居ればそれなりの処分はして、それでも香澄せんぱいの身は置いとこうとしてくれたかもしれませんけど、あの仲居さんじゃあねー。すぐクビとか言い出しそう」

「そ、そんな……」

「まぁでも、咲も今回はそれが妥当だと思います。なんせ負傷者も出て警察沙汰にまでなっちゃった位だし」


 ぎゅ、とお布団を握る。こ、こうしちゃいられない。とにかく、はやく戻らなきゃ。でも私にどうこう出来る問題なのかなこれ。だって、私が香澄ちゃんに居なくなってほしくないってだけのエゴで仲居さんに「香澄ちゃんをクビにしないでください」と頼み倒すのもおかしい気がする。ぐるぐると思考を巡らせるほど鈍痛がひどくなる。痛みに眉間にしわを寄せながら、咲ちゃんに尋ねる。


「あの女性は大丈夫だった? 容態とか……なにか聞いてる?」

「香澄せんぱいに縋ってた女ですか? 見た目ほど重傷じゃなかったって、もう退院したみたいですよ。どっちかってーとせんぱいの方がひどかった位です。売店行くとき、ちらっと見掛けましたけど、自殺でもしそうな顔してましたね」


 同情はしませんけどぉ、と机の上にあったビニール袋からヨーグルトとスプーンを取り出す。咲ちゃんは私にも食べるかと聞いてきたが首を振る。食欲はない。


「志紀せんぱいも、意識が戻って特に支障がなさそうなら明日にでも退院してもいいらしいですよ。流石に今日中はダメみたいですけど」

「た、退院する。明日も夜から仕事だし」

「ですよね。せんぱいならそう言うと思ってました。仲居さんにも、馬鹿みたい忙しくなっちゃったんだから明日は絶対に志紀せんぱいに出勤させろって言われてたんで。ほんと嫌われてますね」

「う……」

「じゃあせんぱい、明日の退院は咲も付き添いますから。夕方頃に迎えにきますね」


 鞄を手にした咲ちゃんが私に手を振る。しかし退出するべく病室の扉を開けた瞬間、目の前に立ち塞がる人物に情けない声を上げ、尻餅をついた。ここからの角度では咲ちゃんを驚かせた人物が誰かはわからない。しかし、入室して咲ちゃんに手をさしのべた人物が誰かわかると、彼女が驚いた理由もわからんでもなかった。咲ちゃんを抱き起こした人物は西園寺さんだった。私もまさかの人物に驚いてぽかんとしてしまい、すぐに挨拶が出来なかった。


「失礼、お嬢さん。驚かせましたか」

「び、ビビった……西園寺さんかぁ。吉田●太郎かと思ったぁ」

「誰が吉田●太郎ですか」

「だってクリソツなんすもん。顔が厳つい! あっ、もしかして志紀せんぱいのお見舞いですか! 若頭さんはー……居ないみたいすね。つまんな」

「……お取り込み中ですか、お嬢」

「えっ? あ、いや」

「あーー! 咲はもう帰りますからー。どうぞごゆっくりー。じゃあねーせんぱーい、お大事にー。またあしたー」


 咲ちゃんは病室に西園寺さんと私をふたり残し、扉を閉めてすたこらさっさと行ってしまった。お礼を言いたかったのに引き留める間もなかった。

 漂う沈黙の中、このひととふたりきりになるとやはり気まずいものが流れる。西園寺さんは私のベッドの前にある椅子を引き「お加減は」と尋ねてきたので大丈夫ですと答えると、そうですかと会話が一瞬にして終了した。

 また面倒やらかしやがったなこんのガキとか思われてるんだろうか。どきまぎしている私を置いて、腰掛けた西園寺さんは腕を組んで目を閉じ、黙ったままだ。傘下にしている旅館での騒ぎ、加えて負傷者のひとりが私だということは既に天龍組の方にも知れ渡っているらしい。ま、まぁそりゃあそうか。

 しばしの沈黙が続き、ちらりと横にいる西園寺さんを見つめる。腕を組んで、目を閉じて、黙ったまま動かない。……ね、寝てる訳じゃないよね?


「その負傷は」

「ハッハイ!?」

「悪漢からご友人を庇われたときに受けたものだと伺いました」

「……」

「それは真ですか」

「……わ、私が勝手に飛びこんだんです! 自分で仕出かしたことです! この怪我は私のせいなんです!」

「……」

「だ、だからお願いです。香澄ちゃんには何も」

「何を誤解されているかはわかりませんが、俺はただ、あなたがその為の行動を取ったのかどうかと伺っているだけです」

「……」

「この騒ぎの責は追求していない」


 目を開いた西園寺さんは私の目をまっすぐに見つめて、何かを見定めようとしていた。反らすことは許されず、固唾を飲んで、人を射殺さんばかりの鋭い視線に立ち向かう。ひたり、と頬に汗が伝ったのがわかった。一分も経っていない筈なのに随分と長く感じる視線のぶつかり合いは終わりを告げ、西園寺さんは息をついて立ち上がった。


「あ、あの……?」

「若頭は国を出ておりますので、本日は俺が代わりにご様子を。若頭には転んで頭にこぶが出来ただけで元気にされている、とだけお伝えしておきます」

「……」

「俺が居てはゆるりとは出来ないでしょう。これにて失礼致します。ご自愛ください」

「えぁ、ありがとう、ございます……?」


 何やら憑き物が落ちたかの様な表情をした西園寺さんは比較的、本当にわかるかわからないかの差だが、私がいつも見る厳しい顔つきの西園寺さんとは少しだけ雰囲気が異なっていた。礼をして病室を出て行った西園寺さんを見送って、はぁああ……と肩の力が抜ける。な、なんだったんだろう、今の。とりあえず、大事おおごとにはしない報告をしてくれるってことでいいのかな。

 太刀川さん、今、日本には居ないのか……。








 特に体の方にも支障はなさそうだということで、とりあえずは無理はしないこと、何か体に異変を感じたらすぐ病院に来ることをお医者さんと約束し、退院を許可してもらった。咲ちゃんの付き添いでお家まで送って貰い、夜からのお仕事の準備をしながら何度か香澄ちゃんに電話をかける。が、全く出てくれる気配がない。メッセージを送るも既読にもならない。不安だけが散りつもっていく。

 言いようのない焦燥感に襲われながら出勤すると、玄関エントランスは一昨日の出来事はなかったかの様に綺麗になっていた。鉄パイプで殴られ傷だらけになっていた壁は、応急処置として豪華な花で隠されている。

 私の姿を見つけるなり、フネさんが泣きそうな顔で駆け寄ってきてくれたので必死になって大丈夫ですよと慰めたあと、もう一度現場を見ると思い出したかの様にズキズキと頭が痛んだ。しかし今はそんな痛みに構っているヒマなどない。騒ぎのあとで様々な対応に各従業員が追われている。微力でも私もその助けに入らねばとお仕事をする。時折頭がくらくらとしてふらついたりもするが、フネさんか咲ちゃんが気を遣って一緒についてカバーしてくれたので倒れるということはなかった。お二人が居なければ上手く動けないところもあったので本当に有り難い。

 なんとか休憩時間まで乗り越え、地下室に行こうとしたら後ろから冷たい声で名前を呼ばれ引き留められる。私を呼んだのは固い顔をした仲居さんだ。その隣にはぶーたれている咲ちゃんが居る。


「志紀、あんた今から休憩時間なんでしょう。身体が空くならついてきな」

「は、はい。あの、何か……」

「今から査問会があるの。あんたにも関係があることだから出席しな」

「……さもん? 一体何の、」

「いいから黙ってついてきたらいの! はやくして頂戴! 忙しいんだから、ちんたら歩いてるんじゃないわよ。見てて鬱陶しい!」

「す、すみません!」

「っていうかなんで咲までー?」


 すたすたと足早に歩く仲居さんの後ろを必死についていく。私達が連れてこられたのは特別応接間で、私も咲ちゃんも入るのは初めてだった。部屋には知らない男性が数名の他、ソファに座っている人物に私もあまり話したことのない女性従業員がひとり、そしてその向かいに居たのは心配で心配で会いたくて仕方のなかったひとがいた。


「か、香澄ちゃん!」


 私服のタイトスカートから伸びる長い脚を組み、ソファの肘掛けに頬杖をついている香澄ちゃんが座っていた。慌てて香澄ちゃんに駆け寄り膝をつく。空いている片手を取り、下から彼女を見上げた。


「香澄ちゃん、大丈夫? あのあと怪我しなかった? 電話全然繋がらなくて心配した……」


 しかし、何度呼び掛けても香澄ちゃんは最初に私を一瞥しただけで、そのあと目を合わせてくれない。顔を背けた横顔しか見えなかった。不機嫌というよりも、合わせる顔がないと言った様な態度だ。でもなぜ香澄ちゃんがその様な行動を取るのかわからなかった。……私が怪我をしたのは自分のせいだと思っているのだろうか。……違う、たぶんそれだけじゃない。もし責任感がどうとかそんな話ならば、香澄ちゃんはきっと憎まれ口を叩きながら、そっけなくでもすぐに謝ってくる筈なのだ。でも、それをしようともしない。


「あぁはいはい。感動の再会ってやつ? くっだらない茶番だことー。……あ、もしかしてさ、香澄。その雑用係とよくひっついてたけど、もしかしてそいつとも」

「勘違いすんなブス。こいつとは一切関係なんて持ってないわよ」

「なっ……誰がブスですって!? この……っ」

「喧嘩はやめな、見苦しい。時間はないの。さっさと始めるわよ。ほら、志紀、咲もとっとと座りな」


 私達の様子を目の前で見ていた女の子がいかにも不快という表情を隠さずに言った言葉に香澄ちゃんがピシャリと反論する。一触即発な雰囲気を打ち止めたのは仲居さんで、向かいのもうひとつのソファに座りながら、私と咲ちゃんにも座る様に言った。こちら側にはひとつしかソファが残ってなかったので、咲ちゃんに座ってというと、「志紀せんぱいは本調子じゃないんだから座ってください。咲はここでいいっす」と空いたソファの肘掛けの部分にちょこんと腰掛けた。礼儀だとか指摘されるのではないかとヒヤヒヤしたがこれが咲ちゃんの通常運転なので仲居さんは何も言わない。お言葉に甘えて、咲ちゃん付のソファに腰掛ける。


「さて、と。志紀、咲。時間も押してることだし、単刀直入に聞くわ。あんた達、香澄とよく一緒に居たわね」

「咲はそんなにっす」

「最後まで黙って聞きな。あんた達ふたりは香澄が同性愛者だってことは知ってたの」

「……あの」

「正直に言いな。あんな騒ぎ起こしたあとで誤魔化しは許さないからね」

「……っ」

「知ってましたよ。咲も、せんぱいも」

「さ、咲ちゃん……ッ!」


 私の代わりにすらっと答えてしまったのは咲ちゃんだった。どうして、と左上にある咲ちゃんの顔を見上げるも、咲ちゃんは肩を竦める。続いて右に居る香澄ちゃんを見つめるが彼女は表情を一切変えなかった。咲ちゃんはふぁああと欠伸をしながら、「でもそれが何だってんです」と仲居さんに応えた。


「でも同性愛者それが何だってんです。別に雇用契約にレズとかゲイとかがダメーなんて書かれてなかったじゃないすか。別に何の問題もないっしょ」

「……」

「もしもそれが理由で香澄せんぱいを責めるってんなら、サベツってやつになるんじゃないすか。プッダッサーーイ。さては仲居さん、女将さんに香澄せんぱいのことどうするべきか相談の連絡入れましたね? あのひと優しいから、どうせ仲居さんの納得の出来る答えは返ってこなかったんでしょ。だからなんとか香澄せんぱいクビに出来ないか焦ってんだぁ」

「口を慎みな。問題はそれだけじゃないんだよ」


 咲ちゃんと仲居さんの問答に私も何か言わなければと口を開こうとしたそのとき、仲居さんに名前を呼ばれた。


「この様子だと咲は知らないみたいだね。……志紀」

「は、はい」

「あんた、香澄のことで他に隠してることがあるんじゃないのかい」

「……ありません。何も。もしあったとしても……い、言えません。香澄ちゃんとはお友達ですから」

「ッアハ! だって! 聞いた!? 香澄ィ、あんた随分信用されてんじゃないの。かわいそーに。あたし同情しちゃーう」


 私の発言に吹き出したのは右向かいに居る女の子だ。ひぃひぃとお腹を抱えて涙を拭っている。一体何がそんなにおかしいのか皆目見当がつかない。ずっと黙ったままでいる香澄ちゃんだっておかしい。
 

「アハハ、滑稽すぎて涙出てきた。ププ、香澄ちゃんだって、ははは」

「……あの」

「あ?」

「何が、そんなにおかしいんですか?」

「……はぁ?」

「か、香澄ちゃんとお友達だってことの、何がそんなに面白いんですか? わ、笑ってばかりじゃわかんないです」


 ぎゅっと膝の上で拳を握る。わ、私のことは別にいいんだ。でも、私だって大事なお友達を馬鹿にするような物言いをされたら不快にもなる。俯いていた顔を上げ、私と同い年位だろう女の子を真っ直ぐに見つめる。ガクガクと震える手に、滲み出そうな涙を必死で堪える。


「……なにコイツ、超ムカつく」

「……」

「仲居さぁん、もう話し出しちゃっていいですかぁ」

「まぁ、志紀も咲も何にも知らない様だしね」

「しきってのね、あんた。いいわよ、教えてあげる。あんたね、ずーーっと騙されてんのよ。そこの香澄ちゃんに」

「……え?」

「……いや、呼び方変えた方がいいわよねぇ? ね、そうでしょ? ……香澄クン?」


 静寂が空間を支配した。なんか、いま、え? 

 香澄ちゃんは目を閉じて誰とも目を合わさないし、仲居さんは頭を抱えてるし、咲ちゃんはおっきなおめめを限界まで見開いて口をぽかんと開けてよだれを私に垂らしかけてるし、私は……ええっと……え? 理解が追いつかない。香澄ちゃんは女の子で、香澄ちゃんは香澄ちゃんで、香澄くんじゃなくて、でも香澄くんで。つまり……?


「一昨日の騒ぎを見てたあたしのお客さんがさぁ、教えてくれたんだよねぇ、あんたの正体。あの裏町通りのゲイバーに入り浸ってる女だってさ。話聞いて吃驚したよぉ? 性転換してるんだって? 最近ってほんとすごいねー。言われても全然わからんわ。きっれーに出来てんじゃん。取るもん全部とって、つけるもんも全部つけたんでしょ? 声まで可愛い女の子にしちゃってさぁ。すげえじゃん。トランス●ォーマーじゃん。元の自分の要素はどれだけ残したの? アハハッ」


 左上から、「マジで……?」と戸惑う咲ちゃんの声が聞こえてくる。私は香澄ちゃんをただ見つめることしか出来なくて。香澄ちゃんはやはり黙ったまま何も言わなくて否定もしないから、彼女の言っていることが真実であることを物語っていた。


「ねぇねぇ、香澄ィ。あんた、ナリは女にしてるけど、実際の中身はどっちなの? 男を相手にする仕事してるから男が好きなんだと思ったら、女とも遊んでるしさぁ。しかも結構おモテになるらしいじゃない? 女に。……プッ。あぁもしかしてバイってやつぅ?」
 
「……」

「チッ、だんまりかよ。でも知ってる? この時雨はね、さっき咲が言ってたけど、別にレズだろうがゲイだろうがバイだろうが、容姿とテクさえ持ってりゃ問題にはしてないの。でも、オカマだとかオナベとかいうなら話は別よ。ねっ仲居さん?」


 仲居さんはうんざりとした表情かおをしながら、嫌悪感を隠すことなく黙ったままでいる香澄ちゃんを睨みつけた。


「香澄、あんたずっとあたしらを#__かた__#ってたのね。時雨うちはね、お客様への信用に関わるからあんたみたいな人達は受け入れてないのよ。女だと思って抱いた相手が実は男だったって、お客様が何らかの拍子で後で知ってしまったらどうなると思う? 時雨の信用はガタ落ちして、噂でも流されたら売上に確実に影響する。訴えられる可能性だってある。元締めの天龍の皆さんにどれだけのご迷惑をおかけすることになるか、賢いあんたならわかってんでしょう。いや、わかってたらここには居ないわね。あたしの見込み違いだった」


 責任はとってもらうわよ、と最終通告を受けた香澄ちゃんは、ははっと、ここに来てから始めて笑った。まさかの反応に動揺を隠せないでいる私達を見渡し、香澄ちゃんは足を組み直した。


「あーーあ、バレちゃったかぁ。……まぁ、仕方ない。そうですよ、あたしは男です。元、って言った方が正しいですけど。いろいろバレないように対策はしてたんですけどね。でも言い訳はしないわ。そこのビッチが言ってることは全部本当よ」

「ビッチ呼ばわりしないでくんない、カマ野郎が」

「あーら傷ついた? ごめんなさいね。でも、そのカマ野郎に負けてたのはどこのどいつよ性格ブス。あんたのご自慢のテクは言うほどだってこっちに流れる客はたっくさん居たけど? 少なくともあんたよりあたしの方が美人だしね? 見てくれだけ飾ったって、中身がブスで仕事も半端だってんなら救いようがないわよ」

「んだともっかい言ってみろやこの男女!」

「お望みなら何度だって言ってやるわよ×××女」

「ふたりともいい加減にしなさい! 香澄も煽んじゃないよ!」

「わかってますよ。今回の件は私に非があるのは明確ですから。取り返しのつかない騒ぎだって起こしてしまったんです。それでのうのうと此処に残ろうとするほど、あたしは厚顔無恥じゃない」


 そう言って香澄ちゃんは立ち上がり、仲居さんにあるものを差し出した。それが何かわかった瞬間、私の体が勝手に動き、目の前の香澄ちゃんの手を掴んだ。香澄ちゃんは尚も私の方を向いてくれない。香澄ちゃんの手を掴む私の震える手を、ふりほどくために触れようともしない。私はただじっと香澄ちゃんの顔を見上げることしか出来ない。

 そんな私達を放って、仲居さんは香澄ちゃんが差し出したものをひったくってしまった。


「確かに受け取ったわ香澄。……ほんとうに、迷惑な話だこと。こんの忙しいときに、トップランカーのあんたが抜けることになるだなんてね」


 さっさと時雨ここから出て行きな、と仲居さんは扉を指す。香澄ちゃんは引き留めたままの私の手を見つめ、そして目を閉じそっと振り解いた。簡単に外れてしまった私の手は、そのまま宙を浮かべたまま動くことができない。まって、と震える声は届かない。置いていかないで、お願いと縋る私の目を見ることなく、香澄ちゃんは背を向け、ドアノブに手をかけたまま「仲居さん」と声をかけた。


「確か……性別を詐称してる奴が居ることを知ってて黙ってた従業員にも処分が下りましたよね」

「……そうね」

「その二人はほんとうに何にも知りませんでしたよ。この件に関して全くの無関係。だからそれ以上、二人に尋問めいた真似をするのはよしてくださいよ」

「それはどうかねぇ。あんたらが共謀してる可能性だって」

「じゃないと、あたしみたいなのが働いてたこと、あたし自身が街中で言いふらしますから」

「な……」

「頼みますよ、仲居さん。いい加減まともな判断力つけてくださいよ。女将が居ない今は、あんたがこの旅館のトップなんだからさ」


 それじゃあサヨナラと後ろ手を振り、香澄ちゃんは出て行ってしまった。この、旅館から。

 硬直したままだった私の手がだらりと下がる。全身から力が抜けてソファに座り込む。顔を手で覆い、ぐちゃぐちゃになってしまった頭と心を落ち着かせようと必死だ。いや、落ち着いてはいる。ただ、なかなか整理が、間に合わないだけで。


「……さ、あんた達も仕事に戻りな」

「ねー仲居さぁん。香澄についてたお客、あたしに担当させてよぉ、絶対うまく引き留めるからさぁ」

「いきなり全員は無理に決まってんでしょ。あんたの擦り切れて使い物にならなくなるよ」


 今後のことを話しながら仲居さんと、香澄ちゃんのことを暴露した女の子、そして私達が逃げないように囲んでいた男性たちが退出していく。残ったのは咲ちゃんと、私のふたりだけだった。咲ちゃんも戸惑っているのだろう。30分くらい私達は放心状態のままだった。先にこの沈黙を打ち破ったのは咲ちゃんだった。


「せんぱい」

「……」

「……せんぱいって、マジで疫病神かなんかですか。せんぱいに関わったひとたち、皆この旅館出てくじゃないですか。ヤバいっすね。こっわぁ。次は咲の番かな~……」

「……」

「……なんとか言ってくださいよせんぱい。咲、こういう気ぃ遣う感じなの苦手なんですよ。香澄せんぱいが男だったってショックなのはわかりますけど……」

「どうでもいい」

「え?」

「香澄ちゃんが男だったとか女じゃないとか、そんなのどうでもいい……」

「……」

「わ、私は、ただ……一緒に居られるだけで、それだけでいいのに……っ十分なのに……」

「……」

「男の子でもいいよ。なんでもいいよ! そんなのどうだっていい! なのにどうして、どうして、どうして何も言わずに離れていっちゃうの……私を置いてっちゃうの……!」

「せんぱい……」


 頭をぐしゃぐしゃにかき乱すと、巻いていた包帯が乱れるのがわかる。それと同じぐらい心の中が乱れに乱れていく。私に背を向けた過去のひと達が、私を置いて更に離れて歩いていく。その中に加わったのは香澄ちゃんだ。彼女もまた一度として私を振り向くことはなかった。あの日、何もかもバラバラな二人でも隣り合って手をつないで、不格好ながらも一緒に歩いていた筈なのに。

 ぼたぼたと流れ落ちる涙を拭うことなく、ソファに座ったまま前屈みになる。頭が痛い。でもそれ以上に襲ってくるのは喪失感だ。心が引き裂かれる寸前だった。

 そんなときに思い切り両頬を掴まれて顔を上げさせられる。そして、思い切りバチン! と音を立てて両頬を挟まれた。アッ●ョンブリケ状態になった私は驚いて、目をぱちくりとさせる。今もなお両方のほっぺに手を添えてくる人物を呆然と見上げた。頬が遅れてひりひりしてきた。咲ちゃんは目をつり上げ、すうううと息を吸い、そして私に叫んだ。


「あんた、ほんっっっっとばか!」

「……!?」

「……って、今のせんぱい見たら言うと思うんですよね。どこかの誰かさんが」

「……」

「せんぱい。このままでいいんですか? 今のままだと、もうそんな風に怒ってくれるひと、ほんとに居なくなっちゃいますよ。あの様子だと、香澄せんぱいから会いにくること絶対無いだろうし。確か家とかも知らないんですよね? だったら志紀せんぱいからぶつかっていかなきゃ」

「う……っ」

「泣かないでくださいよ。ほんと情けないなぁ。咲は香澄せんぱいみたいに面倒見は良くないんすよ。ましてや年上のせんぱいの介護なんてもっぱらごめんですからね」


 そんなことを言いつつ、咲ちゃんは乱れた私の包帯をたどたどしくも巻きなおす。巻いた包帯のあちこちの隙間から髪がぴょこぴょこと飛び出ていた。あまり整っているとは言えないけれど、咲ちゃんは満足そうにしている。


「さっき言ってたこと、香澄せんぱいにそのままぶちまけてやればいいんすよ。なんなら怒ってもいいと思いますよ。よくも今まで騙してくれたな貴様ァーー! ……なんつってね」

「……はは、ぶん殴られちゃうよ」

「じゃあ殴り返してやりましょう。大丈夫っすよ、相手は男なんだから。多少は頑丈に出来てますよ」


 その前にノックアウトされちゃダメですよ。と忠告した咲ちゃんは私を立ち上がらせ、ぐいぐいと背中を押した。そのまま玄関エントランスで到着してしまったので、戸惑いながら咲ちゃんの名前を呼ぶとしっしっと追い払う動作をされる。


「せんぱいは香澄せんぱいを探しに行っていいですよ。雑用は咲がやっときます」

「でっ、でも」

「いーですから。でも今度は肉まんだけじゃなくて、豚まんとピザまんとフカヒレまんそれぞれ3つずつ奢ってくださいね」

「……咲ちゃんも大概食いしん坊だね」

「何言ってんですか、フネさんと香澄せんぱいと咲の分に決まってんでしょ。あ、志紀せんぱいのは知らないっす。……あーーー、勘違いしないでくださいね? 別に志紀せんぱいの為でもなければ、香澄せんぱいの為でもないですよ。……やっぱ、キモイなって思うとこあるし。ただ……あの性格ブスがちょーし乗ってんの見てる方がヤなんです。超イラッとしたしー」

「咲ちゃん」

「はい」

「ごめんね、あ、ありがとぉ……うえぇ……」

「出てる出てる鼻水超出てる。抱きつかないでくださいよ子どもかよ恥ずかしいな」

「あっごめん……鼻水ついちゃった……」

「やっぱ残って洗濯してください」








 このままでは動きづらい。走りやすいようにと庭師さんに借りた運動靴に履き替え、だらしはないが着物を襦袢ごと膝まで捲り上げる。


「え? マジで? ガチじゃん。ちょ、あんま無理はしないでくださいよ。半分病人みたいなもんなんだから」


 咲ちゃんは着物がずり落ちない様にと、髪につけていたクリップタイプの簪で固定してくれた。膝まで捲り上げた着物に運動靴。どこのやんちゃ坊主だと突っ込みたくなるが、この際見栄えの悪い足を見られようが馬鹿にされようがどうでもいい。

 まだそんなに遠くには行ってないだろうとあちこちを周りながら、時折止まって香澄ちゃんに何度も何度も電話をかけるも出てくれない。絶対無視してる。わ、わかってるんだからな香澄ちゃん……全部まるっとお見通しなんだからな……。かけてくんなと言われてるみたいで締め付けられる様な思いになるが、着信拒否にされてないだけまだ希望があると思え! と自分に言い聞かせる。香澄ちゃんは自宅に招いてくれたこともなければ、どこに住んでるのかも教えてくれたことはない。徹底的な秘密主義者だった。








 あちこち走り回って、思い当たるところを探しても全然見つからなくって。たまにまた電話をかけてみて。そんなことを繰り返してるうちに真夜中になってしまった。明らかに少なくなった人通りに、濃くなっていく闇が不安定な心に更なる不安と焦りを煽った。そんなまさか……い、いやだ、何の成果も得られませんでした帰還だけは嫌だ。でもどうしよう、どうしたら。

 頭もふらふらしてきたし、そろそろ本当に私の体が限界を訴えている。なんで見つからないんだろう。実はすれ違いを重ねていたりするのだろうか、それとも、まさか街を出ていたりだなんてことは……。サーッと血の気が引く。それだけは勘弁してくれ。それではジ・エンドではないか、冗談じゃない。

 もう一度電話を掛けてみようとスマホを取り出し、アドレス帳を開いてふと思った。もしかしたら、見かけていたりしないだろうか。いやでも。あのひとはマサイ族並に目がいいと言っていたし、知り合いを見かけたら話しかけるタイプだ。こんな時間に出歩いているとは思えないけれど。でも、お仕事で夜に行動することも多いとは言っていたし。もしかしたら、だ、だけど……。……あんなことがあった後に、頼るのは虫が良すぎるのではないだろうか。

 ……構うもんか、今そんなことうだうだ言ってる場合か。私は香澄ちゃんともだちに会いたいんだ、会わなくちゃいけないんだ。だから、だから、お願い。お願い、とそればかりを念じながら震える手でダイヤルボタンを押す。もう、藁にもすがる思いだった。何度かコール音を繰り返して、そして久々に聞いた不機嫌そうな低い声が聞こえてきたらもう、色々と決壊しそうだった。

 
『……なんだよ』

「っ……お、おかざきさんっ……香澄ちゃん見てませんか……!」

『もう俺とは関わりたくないとか言ってなかった……って、は? 香澄? ……なに、お前突然』

「お、お願いです岡崎さん……! 香澄ちゃんのこと見かけたら連絡ください。お願いします。なんでもいい、どんな些細な情報でもいいから……!」

『お、おい、落ち着けって。なんかあったの。香澄がどうしたって……』

「……っ、おねがい、おかざきさん……たすけて…… 」
 

 久し振りに聞いた大好きなひとの声に涙が止められない。どうして、このひとの声はこんなに涙腺を刺激するんだ。どうして縋りたくなるの。不安だらけの心が爆発して、みっともなく電話越しに泣き声を晒してしまう。岡崎さんはしばらく黙ったあと、私の叫びに応えてくれた。


『……今どこだ。すぐ行く』


 だから待ってろ、とかけられた言葉にますます涙が溢れる。素直に自分の居る場所を答えてしまう私はなんて愚かで甘ったれなんだ。香澄ちゃんを見かけたら連絡くださいって、それだけをお願いするつもりだったのに。

 電話を切ったあと、ズルズルと通りの壁にもたれて崩れ落ちる。体力的にも遂に限界がきた。頭がぐるぐる目眩がする。倒れるレベルではないが、やはり万全の状態ではないというのは厄介だ。

 バタバタと誰かが慌ただしく走ってくる音が聞こえてきて顔を上げる。街灯に照らされた灰色の髪が見えて、一瞬息が止まる。 そこには、汗だくの焦った顔で息を荒くした岡崎さんが、座り込んでいる私を見つけ呆然とした様子で立っていた。もの凄く急いできてくれたのだろう。電話を切ってから五分も経ってない。ほんと何者なんだこのひと。

 もう、なんだかなぁ……。このひとにはかなう気がしないや……。慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる岡崎さんを見ただけで、彼への想いが容易く断ち切れるものではないと改めて痛感することとなった。
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