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番外編 小話・裏話
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しおりを挟むベッドに寝そべってレオンを待つ。しかし、随分経っても彼は帰ってこなかった。まさか、顔に出ないだけで相当酔っていたのでは。トイレで寝ているだけならまだいいが、吐いたり倒れたりしてたらどうしよう。心配になって急いで起き上がり、寝室から飛び出した。すると、ちょうど戻ってきていたレオンが扉の目の前にいて、彼に抱きとめられる形になった。
「レオン! 気持ち悪くなったのか?」
「んーん……」
俺をきつく抱きしめたまま、レオンはうわ言のような返事をした。そのまま俺の首に頭を埋め、顔をすりすりと擦りつけている。体を押し返して顔を見ると、元々垂れている目尻がもっと下がり、いつもの三分の二程度しか瞼が開いていなかった。時間差で酔いが回って、眠たくなったんだろうか。
そうそう、これが見たかったんだよ俺は。内心で大満足しつつ、彼をベッドに誘う。いつものように向かい合って寝転ぶと、彼は俺の腕を引っ張って、付け根を枕にして密着してきた。いつも腕枕は嫌だって言うのに……! グッジョブ、酒。これからは定期的に飲もう。
正直かなりムラムラとしたが、眠たい酔っ払いに手を出さないくらいには俺は紳士のつもりだ。レオンを胸に抱き込んで、しあわせなまま眠りにつこう。そう思っていたのに……あろうことか、彼は俺の寝巻のボタンを器用に口で二、三個開けると、鎖骨に吸いついた。窪みに舌を這わせ、鼻先で首元をなぞる。それからつま先で布団を蹴って伸び上がり、俺の顎を甘噛みした。
驚きすぎて時間が止まった。参考までに言うと、レオンは普段滅多にスキンシップをしない。せがんでやっとしてくれるくらい。酒の力があるとはいえ、こんなに連続して、ましてや自分からしてくれるなんて。天変地異を覚悟した方がいいかも。
俺が反応を見せなかったからか、レオンはむう、と唸って胸に軽く頭突きをした。かわいすぎやしないか。今度レプレとエジリオに自慢しよ。恋の成就に障害が多い彼らに発破をかけてやらねば。
そんなことを考えていると、しかめっ面をしたレオンが顔を上げた。
「……今日はしないのか」
………………はっ! あまりの衝撃に時間どころか心臓も止まっていた気がする。え、い、今のお誘いですか? ですよね? 初めてされた。まじか、まじか。どうしよう、こんなにかわいいといじめたくなるのが俺の……いや、男の性だろう。『かわいい子はいじめよ』っていうことわざもあったはず。紳士? 何それ。俺の辞書にそんな言葉はない。
「するって何を? はっきり言ってくんなきゃわかんねえや」
そう伝えると、レオンは目を伏せて唇を噛んだ。俺の嗜虐心をくすぐるのが上手い。さて、どうしてくれようか。言うまで焦らして──
「もういい。一人でする」
「……は?」
言うや否や、レオンは俺の下着の中に手を突っ込んだ。一人でするんじゃないの? これどういう状況?
怒らせたことに対する謝意よりこの先の彼の行動への興味と期待が勝って、なされるがままにする。彼は右手で俺のを扱いて、左手を自分の背後に回した。手を差し込んだズボンの奥で、ぐちゅぐちゅと濡れた音がしている。……トイレが長かった原因は、準備してたからか? そう思い至った途端、ぐずり、と下半身に熱が集中した。据え膳が自ら口に飛び込んでくるこの状況に、果たして興奮しない人間がいるだろうか。
「ん……ふっ……」
俺のシャツを噛み締めて、レオンは声を押し殺している。傍観しているだけじゃ足りなくなってきた。彼のシャツを脱がせようと、ボタンに手を伸ばす。しかし、彼が手に噛みついて、一つも外すことはできなかった。もしや、本気で怒っていらっしゃる……?
「レオン、意地悪言ってごめん。俺にも触らせて」
「駄目だ」
ぴしゃりと吐き捨てたレオンはズボンを脱ぎ、それで手早く俺の両腕を縛った。抵抗できなかったのは、腕枕で片腕が痺れていたのと、あまりの早業のせいだ。緊縛って……俺もまだやったことないのに……!
胸の前で腕を縛られた俺を仰向けにさせると、レオンは下着も脱ぎ、俺に跨った。待って、騎乗位も初めてじゃん。大盤振る舞いか。酒様、仕事しすぎだよ。
己のシャツをたくし上げたレオンはそこで静止し、こてりと首を傾げた。どうしたのかと思えば、彼は力なく垂れた自身に触れている。
「勃たない」
「あー……酒飲みすぎるとなるらしいな」
「ふうん。まあ、俺のは必要ないし、いいかあ」
何が面白いのか、いひひ、と笑って、レオンは腰を落とし始めた。酒のせいでいつもより熱い胎に呑み込まれていく。
「お前のは、はあ……っ、いつも通りだな。酒勝負は、俺の負けか」
「い、や……レオンの勝ちでいいよ」
「んふふ、そうか。じゃあ、褒美をもらわないと、なっ、ぅあ……!」
ぺったりと肌が密着するまで座ったせいで、一気に最奥まで到達したのだろう。レオンは俺の腹に手をついて、伸びをするネコみたいに背を反らしてガクガクと体を震わせた。ぎゅ、ぎゅ、と胎も収縮し、額に汗が浮かぶ。
「あ……ははっ。挿れただけで達してしまった。ふふっ」
くすくすと笑い続ける彼の下で歯を食いしばる。好きに動きたくて仕方がない。しかし、彼を怒らせてしまった手前、許しを得ずに勝手をするのは気が引ける。息を荒くして、耐えるしかない。今はまだ。
「顔を真っ赤にして、つらいか?」
「ああ。レオンもまだ物足りないだろ。ご褒美やるから、これ解けよ」
「うむ、そうだな……しかし」
蠱惑的に微笑んで、レオンはゆるゆると腰を前後に動かした。強いのにもどかしい快感に、がちりと歯が鳴る。
「あ、う……俺はっ、これでも十分、気持ちいいんだが」
「……っくそ、まじで俺に似てきたな」
「ふふ、いじめたくなる気持ちがよくわかったよ」
「じゃあ俺も、レオンみたくかわいくおねだりしたら許してもらえる?」
もう限界だ。なりふり構っていられない。レオンが望むことならなんだってやってやろう、という気にすらなっていた。元より、そうじゃない時なんてないけど。
んんー、と小さく唸って、レオンは体を前に倒した。それから、唇のすぐ横に口づけを。ここまで来て更に焦らすか。いい加減血管の一本や二本切れそうだ、と思っていると、彼は腕の拘束を解いた。
「弱っているお前も新鮮でよかったが、やっぱり俺は、強気なお前の方が好きだな。ほら、ご褒美という名の仕返しをしたらどうだ」
ぶちっ。
間違いなく、頭の中で何かが切れた。腹筋を使って跳ね起き、倒れそうになったレオンを片腕で引き寄せる。嬌声を上げる口の中に舌を差し込んで、反対の手は服の中へ。乱暴に胸を鷲掴みにし頂きを抓ると、彼は俺の背中に爪を立てた。
「レオンって、マゾだよな」
「んあ? あっひぁっ! ふっ、あはっ」
笑声交じりに喘ぐレオンは、笑い上戸なのかもしれない。畜生、かわいいな。俺も、停滞していた血が急に巡り始めて、頭がぐらぐらしてきた。加減がきかなさそうだ。
……いや、それもいつものことか。
「腕、首に回して」
催促すると大人しく従う彼の頬に口づけて、俺の腕は彼の膝裏へ。
「しっかり捕まってろよ。よい、しょ!」
「え? ひッ……!」
レオンを抱えて膝立ちになる。駅弁もどき。こんなのができるって、魔法様々だな。ちゃんと立つやつはまた今度、酔ってない時に。
普段より奥まで突き上げたからか、レオンはのけ反って震えたまま、なかなか戻ってこなかった。腕の力が抜けてないから、気絶はしてないと思うけど……
「おーい、とんでる?」
「飛んでる……というか、浮いてる?」
「ふはっ! そうだな、浮いてるなー」
ゆらゆらと体を前後に揺らすと、レオンは怖くなったのか、慌てて俺にしがみついた。それだけでなく、必死に上に逃げようとしている。気づいたかな。でも、もう遅いよ。
腰を掴んでいた手に力を込め、容赦なく彼の体を引きずり下ろした。
「おッ……!」
「仕返し、ちゃんと受け取れよ」
奥の方で挿抜を繰り返す。レオンは尚逃げようとしたが、どんどん抵抗は弱くなっていった。
「あッ! ま、これッ、深、い! ずっと……ッ!」
「ずっと、何?」
「ずっとぉ、んんッ、ふぎゅッ、ゔぅ~~ッ」
レオンは俺の肩に顔を埋めて唸るばかりで、意味のある言葉を発しない。痙攣し続ける体を見れば、イきっぱなしになってるのはわかるけど。
「歯ァ噛み締めんな。顔上げて」
「む、むり、むぃ……ッ」
「無理じゃない。できたら口の中舐めてやるよ」
好きだろ、と耳元で囁いてやっと、レオンは顔を上げた。眉間に皺を寄せて八の字に下がった眉。睫毛に水滴が乗るくらい潤んだ目。血が出るくらい噛み締めた唇。あの時と同じような泣き顔を、違う形で上書きできていることを確認して、俺はいつも勝手に安心している。
約束通り唇を合わせ、彼が特に好きな舌先と上顎を舐める。過ぎた快感でつらいだろうに、健気に応えようとする彼が愛おしくて、無意識にぐ、ぐ、と腰を押しつけた。こうなったらもう、俺たちはほとんど一つになっているから、彼が息を詰まらせるのと同時に俺も彼の中に溶け出した。
余韻で震える体を、そっとベッドに横たえる。ぼーっと俺の顔を見ていたレオンは、ゆっくりと瞬きをした。
「眠い? 寝ていいよ。後は俺がしとくから」
「ん……」
ありがとう、と声もなく言って、レオンは静かに寝息を立て始めた。薄く開いた唇にもう一度口づけを落とす。それから、タオルとぬるま湯を取りに部屋を出た。
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