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プロローグ
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「はぁ、なんでまたこうも無駄に銃弾を消費するのかなぁ……」
イギリス・ロンドンの街中に数百年前に建てられたバッキンガム宮殿。その地下奥深くに作られたとある経理部の一室にて、一人の少女がそんな独り言をボソリと呟く。
「何言ってるのよ、エレナ。それよりも早く、この前やっておいてって言った書類を出してくれない? そろそろ締め切りを近いはずだと思うんだけれど」
先ほどのエレナが口にした言葉を耳に聞き、同じく古びたパソコンに淡々と文字を打ち込んでいた同期である輝夜は右手に持つティーカップに入った紅茶をゴクリと飲み干す。そして、紅茶を飲みきった後に、エレナに対してはぁ、とため息をつきながら心底苛ついていると言わんばかりの悪態を彼女はつく。
「そうはいってもさぁ、さすがに仕事多過ぎない? 特に最近は死人が増加して戦況が悪化してるから、さらに仕事の数は増えてるし……」
めんどくさそうに机に伏せながら、そんな言葉を口を尖らすように呟くと、輝夜ははぁ、と再度吐息を漏らした後にエレナに向かって言葉を投げ掛ける。
「最近"ヤツら"の襲撃が激しいらしいからね。まぁ、私たちは前線で戦っている人たちより安全なんだから、それくらい我慢しないと申し訳ないわよ」
そのような言葉を輝夜が口にすると、エレナは「まぁ、それもそうだよね……」と独り言を口から漏らす。それから少し頭を横にふるふると震わせると、彼女は机の上に置いてあった飲みかけのエナジードリンクを一気に飲み干す。
そして、エレナは仕方がないか、といったような表情をしながら再び戦費を計算する作業に戻るのであった。
あのたわいもない話を終え、作業を再開させてから数時間後。二人が早く仕事を終わらせようと黙々とキーボードに指を叩きつけている中、ガチャリと大きな音を立てながら地下室に一人の人物が入ってくる。
そんないきなり室内に響き渡ったドアの開閉音は、パソコンに釘付けであった二人の少女鼓膜をぶるり震わせた。そして、二人はその大きな音に驚いたのか、小さな肩を小刻みに振動させたのちに、視線を近くの冷たいコンクリートの一部に造られた扉の前に立つ一人の人物に動かす。
その人間は男であった。髪は年齢が高齢ということもあってか白髪であり、その人物が衰えていることを象徴しているように思えた。だが、彼の目だけは衰えを知らぬようであり、その紅き瞳は全てを見通しているかのような錯覚に彼女らは陥る。そして、男が身に纏っている上等なスーツはその冷酷さをさらに引き立てていた。
そんな少し見覚えのある風貌をした男を前にした二人は、数秒間状況がまったく理解出来ないといったような表情をして動きを停止させる。そして、ハッとしたようにエレナは直ぐ様起立を行い、男に深く礼をおこなった。そのようないきなりの同僚の行動に輝夜は一瞬唖然とするが、エレナに急かされ同様に男に向かって頭を深く下げる。
男はそんな二人の行動をジロリと見つめると深いため息を口から吐き出す。
「そんなに私相手に畏まらなくていいって言ったじゃないか……。ほら、早く顔をあげて」
「そうはいっても、書類上指揮官が私たちの上官でありますから、最低限度の礼はしなければならないと思いますので……」
そのようなコドリック指揮官の話を聞き、エレナは少し困ったような表情をしながら反論をおこなう。
「このご時世もう国とか軍隊の概念なんて崩壊してるからね……。実質私と君たちの地位は同じような物だよ」
そう一区切り付けた後に、コドリック指揮官は遠い景色を見つめるとようにぼんやりとした目を彼女らに向けながら、ボソリと言葉を口から溢す。
「それに、私たちは所詮社会から消された者。死人に階級もありせんから」
そう彼が一言呟いた瞬間、三人の男女の間に沈黙の雰囲気が流れ込む。絶望・悲しみ・不安・恐怖・そういった負の感情が混じりあった空気は、彼らの肺から吸収され身体中に分配される。そして、それらの空気は確実に彼らの表情を暗くしていき、心を不安にさせていった。
そんな雰囲気の流れに耐えきれなくなったのか、その空気を作った張本人である指揮官が言葉を二人を投げ掛ける。
「まぁ、その話は置いといて……。そういえば輝夜さん、君に司令官から話があるそうだからちょっと来てくれないかい?」
そう呟くと、彼は輝夜に向かって手招きをおこなった後に、コツコツと音を立てながら地下室を後にする。そのような指揮官の様子を見て、輝夜は「はい、わかりました!」と早口で彼に言葉を投げ掛けると、急いでそちらの方に足を向けるのであった。
「そろそろ部屋に着きますので、準備をしといてくださいね」
地下室を出てから数分後、薄暗い階段を抜け、窓から見える夕日の美しさに見とれていた少女の鼓膜を低い男性の声が震わせる。
「はい、わかりました」
そんな声に無意識に輝夜は応答すると、近くにいたコドリック指揮官は目の前にある豪勢なドアを数回ノックし、ノブを回してガチャリと開ける。
そして、それと同時に指揮官は輝夜に目線を向けて、入るように促す。その目線を受けて、輝夜はゆっくりと首を縦に動かす。
「失礼します。事務官を連れて来ました」
そうコドリック指揮官が呟くと、ゆっくりと赤い絨毯の敷かれた部屋に足を踏み込んでいき、輝夜もその後に続き彼の背後を追う。
その瞬間、輝夜の瞳に部屋の内部の光景が映り込む。床に敷かれた赤いペルシャ絨毯は新品同然の真新しさを誇っており、土足で踏み込むの躊躇させている。そして、壁には有名な作品であろうと思われる絵画が飾られており、天井からぶら下げられているきらびやかなシャンデリアに怪しく照らされている。
そんな少し不気味な雰囲気が流れている部屋の奥へと歩みを進めていると、目の前に一人の軍服を着た男が現れる。
その男は胸に沢山の勲章を身に付けており、相当凄い功績を残したのだろうということを輝夜は安易に想像することができた。
そんな様子で輝夜は目の前の男をじろじろ見つめていると、目線に気づいたのか、男はゴホンと大きく咳をおこなう。
「二人とも、忙しい中集まってくれてありがとう。まあ、取り敢えず腰でも下ろしてくれ」
司令官は近くに置かれた椅子を指差し、腰を下ろすように二人を促す。
「今回、私が君たちをここに呼んだのは、とある任務を遂行して欲しいからなんだが……」
そう司令官が口に出すと、近くに立っていた秘書らしき人物が三枚程の薄い紙の束を二人に渡してくる。
「司令官、少し疑問点があるのですがお聞きして宜しいでしょうか?」
先ほど配られた書類に目を通していると、隣に座っているコドリック指揮官が男に向かって言葉を投げ掛ける。
「なんだね。あんまり時間はないのだが」
そんなコドリック指揮官の言葉に、司令官は眉を潜めながらため息をつく。
「お言葉ですが、この作戦は私達には重すぎるのではないかと……。それこそあなた方が指揮している最前線部隊にやらせた方がいいのでは?」
「ああ、私共も最初はそうしようと考えていたさ。だが、こちらも先の大戦であまり余力がないのだよ……」
司令官はコドリック指揮官のそんな言葉を聞き、困ったように吐息を吐き、瞼を閉じる。そして、数秒間経つと司令官は「それで、話は戻るが……」と先ほどの話はなかったかのように平然と話題の軌道を元に戻す。
「作戦は簡単だ。最近ロンドン市内で急速に勢力を拡大しているカルト教団に潜入して欲しい」
「カルト教団? イギリス国内に住む人はキリスト教を信仰すののが義務のはずじゃないのですか?」
そんな司令官の言葉に、輝夜は疑問を投げ掛ける。
確か、イギリス国内の主流の宗教としてカトリック派閥のキリスト教が広まっている筈だ。
崩壊前のイギリスでは宗教の自由が認められていたが、崩壊後は革命を避けるためと統一されたと聞いている。それに、彼らがそんなカルト教団にのめり込んで"特権"を剥奪されにいくとは考えにくい。
「ああ、確かに"元々"英国人であった者たちは健気に毎日祈りを捧げている」
「では誰が信仰しているのですか?」
輝夜の口からそんな言葉が漏れでる。そして、三人の間に妙な沈黙が流れる。二人は目の前に座る司令官に目線を向ける。
すると、司令官は右手の人差し指を立て、小さな木製の椅子にちょこんと座る輝夜に指を向ける。
「信仰しているのは、君たち"異国人"の人間なのだよ」
そう司令官が呟いた瞬間、輝夜は背中に冷水をかけられたような鳥肌と、微量な怒りを感じるのであった。
イギリス・ロンドンの街中に数百年前に建てられたバッキンガム宮殿。その地下奥深くに作られたとある経理部の一室にて、一人の少女がそんな独り言をボソリと呟く。
「何言ってるのよ、エレナ。それよりも早く、この前やっておいてって言った書類を出してくれない? そろそろ締め切りを近いはずだと思うんだけれど」
先ほどのエレナが口にした言葉を耳に聞き、同じく古びたパソコンに淡々と文字を打ち込んでいた同期である輝夜は右手に持つティーカップに入った紅茶をゴクリと飲み干す。そして、紅茶を飲みきった後に、エレナに対してはぁ、とため息をつきながら心底苛ついていると言わんばかりの悪態を彼女はつく。
「そうはいってもさぁ、さすがに仕事多過ぎない? 特に最近は死人が増加して戦況が悪化してるから、さらに仕事の数は増えてるし……」
めんどくさそうに机に伏せながら、そんな言葉を口を尖らすように呟くと、輝夜ははぁ、と再度吐息を漏らした後にエレナに向かって言葉を投げ掛ける。
「最近"ヤツら"の襲撃が激しいらしいからね。まぁ、私たちは前線で戦っている人たちより安全なんだから、それくらい我慢しないと申し訳ないわよ」
そのような言葉を輝夜が口にすると、エレナは「まぁ、それもそうだよね……」と独り言を口から漏らす。それから少し頭を横にふるふると震わせると、彼女は机の上に置いてあった飲みかけのエナジードリンクを一気に飲み干す。
そして、エレナは仕方がないか、といったような表情をしながら再び戦費を計算する作業に戻るのであった。
あのたわいもない話を終え、作業を再開させてから数時間後。二人が早く仕事を終わらせようと黙々とキーボードに指を叩きつけている中、ガチャリと大きな音を立てながら地下室に一人の人物が入ってくる。
そんないきなり室内に響き渡ったドアの開閉音は、パソコンに釘付けであった二人の少女鼓膜をぶるり震わせた。そして、二人はその大きな音に驚いたのか、小さな肩を小刻みに振動させたのちに、視線を近くの冷たいコンクリートの一部に造られた扉の前に立つ一人の人物に動かす。
その人間は男であった。髪は年齢が高齢ということもあってか白髪であり、その人物が衰えていることを象徴しているように思えた。だが、彼の目だけは衰えを知らぬようであり、その紅き瞳は全てを見通しているかのような錯覚に彼女らは陥る。そして、男が身に纏っている上等なスーツはその冷酷さをさらに引き立てていた。
そんな少し見覚えのある風貌をした男を前にした二人は、数秒間状況がまったく理解出来ないといったような表情をして動きを停止させる。そして、ハッとしたようにエレナは直ぐ様起立を行い、男に深く礼をおこなった。そのようないきなりの同僚の行動に輝夜は一瞬唖然とするが、エレナに急かされ同様に男に向かって頭を深く下げる。
男はそんな二人の行動をジロリと見つめると深いため息を口から吐き出す。
「そんなに私相手に畏まらなくていいって言ったじゃないか……。ほら、早く顔をあげて」
「そうはいっても、書類上指揮官が私たちの上官でありますから、最低限度の礼はしなければならないと思いますので……」
そのようなコドリック指揮官の話を聞き、エレナは少し困ったような表情をしながら反論をおこなう。
「このご時世もう国とか軍隊の概念なんて崩壊してるからね……。実質私と君たちの地位は同じような物だよ」
そう一区切り付けた後に、コドリック指揮官は遠い景色を見つめるとようにぼんやりとした目を彼女らに向けながら、ボソリと言葉を口から溢す。
「それに、私たちは所詮社会から消された者。死人に階級もありせんから」
そう彼が一言呟いた瞬間、三人の男女の間に沈黙の雰囲気が流れ込む。絶望・悲しみ・不安・恐怖・そういった負の感情が混じりあった空気は、彼らの肺から吸収され身体中に分配される。そして、それらの空気は確実に彼らの表情を暗くしていき、心を不安にさせていった。
そんな雰囲気の流れに耐えきれなくなったのか、その空気を作った張本人である指揮官が言葉を二人を投げ掛ける。
「まぁ、その話は置いといて……。そういえば輝夜さん、君に司令官から話があるそうだからちょっと来てくれないかい?」
そう呟くと、彼は輝夜に向かって手招きをおこなった後に、コツコツと音を立てながら地下室を後にする。そのような指揮官の様子を見て、輝夜は「はい、わかりました!」と早口で彼に言葉を投げ掛けると、急いでそちらの方に足を向けるのであった。
「そろそろ部屋に着きますので、準備をしといてくださいね」
地下室を出てから数分後、薄暗い階段を抜け、窓から見える夕日の美しさに見とれていた少女の鼓膜を低い男性の声が震わせる。
「はい、わかりました」
そんな声に無意識に輝夜は応答すると、近くにいたコドリック指揮官は目の前にある豪勢なドアを数回ノックし、ノブを回してガチャリと開ける。
そして、それと同時に指揮官は輝夜に目線を向けて、入るように促す。その目線を受けて、輝夜はゆっくりと首を縦に動かす。
「失礼します。事務官を連れて来ました」
そうコドリック指揮官が呟くと、ゆっくりと赤い絨毯の敷かれた部屋に足を踏み込んでいき、輝夜もその後に続き彼の背後を追う。
その瞬間、輝夜の瞳に部屋の内部の光景が映り込む。床に敷かれた赤いペルシャ絨毯は新品同然の真新しさを誇っており、土足で踏み込むの躊躇させている。そして、壁には有名な作品であろうと思われる絵画が飾られており、天井からぶら下げられているきらびやかなシャンデリアに怪しく照らされている。
そんな少し不気味な雰囲気が流れている部屋の奥へと歩みを進めていると、目の前に一人の軍服を着た男が現れる。
その男は胸に沢山の勲章を身に付けており、相当凄い功績を残したのだろうということを輝夜は安易に想像することができた。
そんな様子で輝夜は目の前の男をじろじろ見つめていると、目線に気づいたのか、男はゴホンと大きく咳をおこなう。
「二人とも、忙しい中集まってくれてありがとう。まあ、取り敢えず腰でも下ろしてくれ」
司令官は近くに置かれた椅子を指差し、腰を下ろすように二人を促す。
「今回、私が君たちをここに呼んだのは、とある任務を遂行して欲しいからなんだが……」
そう司令官が口に出すと、近くに立っていた秘書らしき人物が三枚程の薄い紙の束を二人に渡してくる。
「司令官、少し疑問点があるのですがお聞きして宜しいでしょうか?」
先ほど配られた書類に目を通していると、隣に座っているコドリック指揮官が男に向かって言葉を投げ掛ける。
「なんだね。あんまり時間はないのだが」
そんなコドリック指揮官の言葉に、司令官は眉を潜めながらため息をつく。
「お言葉ですが、この作戦は私達には重すぎるのではないかと……。それこそあなた方が指揮している最前線部隊にやらせた方がいいのでは?」
「ああ、私共も最初はそうしようと考えていたさ。だが、こちらも先の大戦であまり余力がないのだよ……」
司令官はコドリック指揮官のそんな言葉を聞き、困ったように吐息を吐き、瞼を閉じる。そして、数秒間経つと司令官は「それで、話は戻るが……」と先ほどの話はなかったかのように平然と話題の軌道を元に戻す。
「作戦は簡単だ。最近ロンドン市内で急速に勢力を拡大しているカルト教団に潜入して欲しい」
「カルト教団? イギリス国内に住む人はキリスト教を信仰すののが義務のはずじゃないのですか?」
そんな司令官の言葉に、輝夜は疑問を投げ掛ける。
確か、イギリス国内の主流の宗教としてカトリック派閥のキリスト教が広まっている筈だ。
崩壊前のイギリスでは宗教の自由が認められていたが、崩壊後は革命を避けるためと統一されたと聞いている。それに、彼らがそんなカルト教団にのめり込んで"特権"を剥奪されにいくとは考えにくい。
「ああ、確かに"元々"英国人であった者たちは健気に毎日祈りを捧げている」
「では誰が信仰しているのですか?」
輝夜の口からそんな言葉が漏れでる。そして、三人の間に妙な沈黙が流れる。二人は目の前に座る司令官に目線を向ける。
すると、司令官は右手の人差し指を立て、小さな木製の椅子にちょこんと座る輝夜に指を向ける。
「信仰しているのは、君たち"異国人"の人間なのだよ」
そう司令官が呟いた瞬間、輝夜は背中に冷水をかけられたような鳥肌と、微量な怒りを感じるのであった。
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