上 下
21 / 30

王太子婚約正式発表における玉突き事故(恋愛・百合含む)

しおりを挟む
 首都クエンティンの上空に初夏の透明な青がどこまでも輝いている。

 その青さに食い入るような眩しい白い塔、それが代々のクインドルガ王の住まう城。

 老マティアスに”ロマンチックなアニマ”と譬えられた、コンスタンツェ・マリー・フローレンスの起居する王女宮は、城の南東の庭に面し、日当たりも風通しも心地よい空間であった。



 その日もフロリーは、薄地のカーテン越しに朝の日射しを受けて目を覚ました。数人の侍女に見守られながら朝の湯浴みと食事をすませ、王立学院の制服に着替えると、王女宮の厩舎の方に向かった。



 自分専用の馬車バルーシュで、学院に向かうためである。

 そこにはいつものように、ジェイムズ・マシュー・ノアが待っていた。フロリーは明るい笑顔を向けて、小走りにノアに駆け寄った。



「おはよう。ノア。今日はとても爽やかな、いい天気ね」

「おはよう、フロリー」



 子犬のような可愛らしい風情で駆けてきたフロリーに、ノアは快活な笑顔を見せた。

(あら?)

 フロリーは微妙な違和感を覚えた。

 ノアはいつも、いかにも王子様らしい魅惑に溢れた甘い笑顔をフロリーに向けてくれる。その優しい笑みは、フローレンスが幼い時に学院を訪れた時から変わらない。

 フロリーはそう思い込んでいたのだ。何しろ、ノアの安定して優しく落ち着いた性格があったから、彼女は環境の激変に耐える事が出来たのだから。



「ノア……髪型変えたか、何かした?」

 フロリーは、彼女にしては妙に距離を置いた態度で身を引きながら、ノアに尋ねた。

「いや?」

 ノアは不思議そうに首を傾げた。

「何故? フロリー、俺の顔に何かついてるとか?」

「ううん。違うの。ただ……」

 ノアのまとっている空気は決して悪いものではない。

 むしろ、普段より、明るく伸びやかな感じがする。清潔感の溢れる秀麗な顔立ちは、普段と変わらないのに妙に眩しい。

(なんだろう、天気のせいかな? いつもよりもノアが……??)

 何がどう違うように感じられたのか分からず、フロリーはノアに進められるままに、馬車バルーシュに乗り込んだ。もちろんそのとき、ノアはフロリーの手を取って乗車を手伝った。



 そのとき不意に目が合って、フロリーはノアの目が深く澄んだ青色で、自分と同じ種類であることに改めて気がついた。

(……別におかしいことじゃないわよね。ドラモンド王家は、遺伝的に、深い青の瞳を持っているもの。私と、ノアが同じ色の瞳を持っていて、おかしいことなんて何もないわ。私とノアが同じ……)

 隣に座っているノアを見上げると、またしても目が合ってしまう。

 ノアは、機嫌良く笑いながら、フロリーの方を見ていた。



(……)

 フロリーは咄嗟にうつむいた。

 ノアがあんまりにも満面の笑みを浮かべながら、自分の方ばかり見ているので、どぎまぎしてしまったのだ。

(えっ……どうしたのかな。私、どうしたんだろう……ノアは、ノアよね? いつもどおり何も変わらないのに……)



「フロリー、どうしたんだ? 昨夜は、よく、眠れた?」

「うん。いつも通り、11時には寝たわ」



 他愛ない会話をしているのに、妙に心臓が高鳴る。ノアの空気が普段と違う事が、うまく言い表せない。フロリーはそういうことに関して器用な少女ではない。



(機嫌が悪いならともかく、機嫌が良い事に対して、色々言うのも何か変だし……)

「フロリー、11時まで、何していたの? やっぱり、宿題?」

「ええ、そうよ。シスター・アンジェラから出された数学について……」

 そのまま、学校の宿題の話をする優等生二人。

 御者だっているのだから、王族として完璧な振る舞いをしなければならないのだ。

 だが、その間も、フロリーは、けろっとしているノアの、妙に機嫌が良すぎる友好的な態度について、違和感をうまく表現が出来なかった。



 簡単に言うと、ノアは、浮かれていた。

 滅茶苦茶浮かれていた。

 フロリーが恩寵リードオブの姫ミディアムになった時から嬉しい予感はしていたが、今回、本格的に、婚約発表の段取りが決まったのである。



(ラッキーーーーーーーー!!!!!!!!)

 何の飾り気もなく言えばそういうことで、ノアは、王子様らしい振る舞いをしないですむなら、城の堀に記念を祝して飛び込みたいぐらいの気持ちだったのである。



(まあ当然ですよね! フロリーとは子どもの頃から婚約が決まっていた訳で! 今までだって公然の秘密だったのに、今回いよいよ、正式発表になっただけで、何にも問題も不都合もありません!)

 誰にともなく、ノアは心の中でそういう説明発表大会を開いていた。聴衆など一人もいない。それでも良かった。何しろ、王子様らしい振る舞いをしないと、王家の威信に関わってしまうため、そういう、べらべら恋人自慢するような行動はとにかく慎まなければならないわけで、十代後半の自意識もあいまった上で、ノアは、心の中でだけべらべらべらべら喋り倒し、表面上はフロリーに対して「王子様☆ミ」しているのだ。



 フロリーだって本来、高魔力体質で敏感なんだから、そんなノアの気配に気がつかない訳がないが、そういう彼の繊細な意識に対してはとんと鈍く、何か、変だなあ……ぐらいにしか言語化出来ないでいた。





 そういう訳でフロリーは、どぎまぎしつつも鈍感力を発揮して、不思議そうにノアを見上げたり小首傾げたりうつむいたり、彼女は彼女で忙しい。



(正式発表されるということは、今までは、公然であっても秘密は秘密、自重って奴を何段重ねにもしてきたけれど、これからは、そこまで重々しくしなくてもいいってことだよなー♪ 今までが十段重ねだったとしたら、せめて六段重ねぐらいまでの自重にして、諸肌脱ぎまでいかなくても、こう、上着を……フロリーの上着をさりげに脱がすとか、それぐらいしたってバチはあたるまい。いや、諸肌脱ぎは結婚するまでまずかろう♪)

 心の音譜が今にも鼻歌になりそうな勢いで、ノアはそんなふうに0人の聴衆に喋り倒していた。

 本来なら、そういう話題を聞いてくれるのにブライアンという仲間がいたのだが、彼は何しろ一人だけ大学部。以前のように、フロリーについてのろけ倒すにはちょっとだけ距離がある。

 それに彼、容赦なく、空気圧力魔法かけてきたり刀の鞘でどついたり、相手を王子と思っていないところがあるし。(そりゃ単にグランドンの方が大事なだけなんだが)





(正式発表の儀式には何をするんだろう♪ ちゅーかな? やっぱりちゅーかな? ぶちゅっといっちゃっていいのかな?♪ 公衆の面前で! いや、公衆の面前で儀礼的な奴だと、なんかちょっとロマンチシズムが足りないし、やっぱりここは、収穫祭の盛り上がっているムードを利用して、こう、音楽なんかも、フロリーが好きそうな乙女系のにして、それからそれから……)

 鼻歌はまずいと思っているのか、流石にとどまっているが、そのかわり、”鼻の下”という重大な問題が出現しつつあった。

 隣で、妙に呼吸荒く、自分の方を満ちるノアに対して、フロリーは、困惑を隠せなくなってきた。

 王子様の甘いマスクがなんだか……妙にコワイ……。







 それが、正式発表すると決定した翌日の事であった。

 その日を境に、ノアは、今まではフロリーの保護者スタイルだったのだが、何とかして、恋人スタイルににじりよろうと地道な運動を開始した。

 妙に、身体接触が多くなってくる。

 言葉も甘く優しく、声質もとろけ気味になってくる。

 今までは遠慮してきたのか、折り目正しくカッチリしていたマナーの辺りも、ややラフでフラットになってくる。

 そしてそれを学院中が応援する。

 当たり前だ。

 正式発表する前からダダ漏れだった婚約関係。

 まして王族のそれとなれば、「王族の血統が絶えそうになったら、国が荒れる」という常識があるわけだ。

 国の争乱の元になりそうな血統書がついているフロリー、いいからさっさとノアとまとまっちまえよ、と、男女問わずにけしかける。



(コ ワ イ  ……!!)



 一週間も経つと、フロリーは涙目になってきた。

 それまで、十年近く、ずっと、リヴィにとってのブライアンみたいなもんで、優しく善良なお兄ちゃんやってきたノアが、いきなり宗旨替えしたのである。

 絶対安全パイだと思っていたケークサレの中から、突然、フォーチュンクッキーが飛び出て来て、そのフォーチュンクッキーの中の紙が、何故か宝くじで3億円当たったようなものだろうか。

 うっかり忘れていたフロリーだった。

「将来の王妃になるために、清く正しく真面目に生きなければならないのよね」と、王妃アイラの薫陶は受けていたものの、王妃になるということは、ノアと恋愛して、恋愛技術も実行しなきゃいけないということだったのだ。



 無論、相手にとって否やはない。

 だって、クインドルガでは現在、同性婚は禁じられている上に、フロリーは(うっかり忘れていたが)、将来的にノアの子どもを産んで王家の血統を繋がなければならないのである。

 それに、ノアが、顔も頭も体格もよければ、優しく善良で絵に描いたような王子様である以上、どこにも文句のつけようがなかった。



 逆に、文句つけられるのはフロリーだろう。フロリーストームだの、王太后ジェシカを追い込んだ背景だの、さらに言うなら何故か、蚕ぶつけたメルに惚れるだの、控えめに言って三重苦である。



 ノアにぺたぺたと肩を触られたり、コートを脱がしてもらったりするのは、そんなに嫌ではないんだが、それを見守る周囲の視線の圧という問題があって、余計に怖かった。



 しかし、フロリーも、自分が文句言えた立場じゃないことは自覚していた。

 事情を知っていた王妃アイラが、ジェシカの心中を知っていた上で、王室に招き入れる程度に出来た娘だった。



 故に、フロリーはコワイなんて一言も言わなかったし、にこにこしながらノアにつきあい、王女宮の自分の部屋に帰ってから、鍵付きのダイアリーにポエムをつづって悩みを吐露するという乙女技に走った。



 だがしかし、そんなことしたって何の解決にもならないのは当たり前。



 出来た娘は出来た娘として、自分の長年の想いに決着をつけることにした。

 要するに、一週間も経つと、ノアと周囲の圧に対して諦め……



「アメリア、私……告白します。天の楽園のマリーベル様……どうか、私に勇気をお与え下さい……たとえ失恋すると分かっていても……この気持ちを相手に伝えずに終わらせる訳にはいきません……」

 そして恋に関する聖句を丸文字で書いたぐらいにして、フローレンス姫は決意を固めたのである。アーメン。







 一方、オリヴィアとアメリア--リヴィとメルの方は、それどころではなかった。

 普段からして、乙女ゲームのギロチンラストを回避するために、ステータスageできゅうきゅう言ってるところに、リヴィの方には農園カフェ、メルの方には悪役令嬢小説家という、それぞれ、グランドン家の娘としてぶっ飛んだ夢があり、そっちに経験値積むのも苦にならない性格のため、結果的に、常にスケ管はパンク状態。

 そこに、フローレンス姫本人のクッション問題という、やはりクインドルガ五公爵筆頭の娘としては見逃せない事情が出来てしまい、スケ管はパンクどころか、秒刻みで爆発していた。



 メルの方に至っては、リヴィとともに行動するために、男爵家から公爵家に移動して、一緒に寝泊まりしながら学校のステータスageと、霊素呪文の置換問題に取り組んでいる始末であった。

 そして、メルに釣られてリヴィも朝の三時半に起きて農作業に励む事になり、もう二人とも、心身共に限界寸前に追い込まれていた。



 そして更に、恐るべきは、リヴィにしろ、メルにしろ、学院では、「ごきげんよう、今日は皆様にジャム入りのマフィンをお持ちしましたわ。ジャムの中身はランダムですのよ、どうぞご賞味下さいましな。ホホホホホ」と孔雀の扇子持って言ってそうな雰囲気を保たなければならないということだ。なんだろう。バカか?

 違う。公爵令嬢としての見栄と体面を保てなければ、ステータスがageられるどころかsageられてしまうからだ。

 最早、リヴィとメルは凡人としての限界突破寸前の勢い。

 本当に孔雀の羽で顔を隠した方がいいんじゃないかと、そんなお肌の調子になっていたが、そこは若さの気力と 化 粧 でカバーした。



 朝の限られた時間で、極限のメイクアップする技術だけなら、最早、認めたくはないがプロのお姐さんにすら負けないぐらいに上達してしまった。メルは、リヴィのゲーム内設定を考えたら本末転倒な気もしたが、



(そんな気がするだけよね!)



 ということで、スルーした。







 そういう訳で、二人とも、コルセット締めてないのに舞踏会でコルセット締めてたっぷり踊り狂ったような辛さを毎日感じつつも、見目形だけは「ごきげんよう、皆様、今日はお庭でとれたかすみ草をお持ちしましたわ(メイクアーップ☆)」としていたわけで。





 誰もが、「まあ、グランドン姉妹ったら今日も、たいそうにスノッブに輝いてらして、お見事ですこと」という評価を揺らがせはしなかった。



 そういう訳だから、高魔力霊素異常フロリーも、脳内が鼻の下に筒抜けになっているノアならばいざしらず、リヴィとメルの化粧の化けの皮を剥ぐ事は出来なかったのであった。恐るべし、十代の女の見栄。





 その日もメルは、限界ギリギリのスケ管の中で、どうにか焼いたチョコチップ入りバナナスコーンを学院に持って来て、仲の良い友達(自分と同じおとりまき属性)にふるまった。



 その中には、勿論、同じクラスのフローレンス姫もいた。

 フロリーは、メルのスコーンは大好きだったので、素直に喜んだ。

 その上で、「お返し」と言って、自分が焼いたクッキーの包みを渡した。



「?」

 敏感なアメリアはすぐに気がついた。

 仲間と離れたところで、クッキーの包みを開くと、そこには香りをつけたスミレの押し花と、「放課後に図書館裏で」という丸文字が書かれていた。



「……????」

 ちなみに、メルには、フロリーの気持ちはまるで通じていない。



 本人が、トラウマ背負わされたショックで、自分から進んでコミュニケーションを取ろうとはしてこなかったのだ。

 それは勿論、グランドン一族に生まれた以上は、王家のサポートはしなければならない。その上、メルはここが乙女ゲーム”憧れのクインドルガ”で、自分そのゲーム内では悪役令嬢オリヴィアのおとりまき(血縁)だという自覚もある。



(前は、リヴィを使ってうまいこと、フロリーを押しのけるか、完全回避しようと思っていたけれど、そうもいかないし。今は、フロリーストームを私達の手で解決して、最終評価を上げて、ギロチンラストを回避することに決めたし。それなら、フロリーと友好関係を築いて、ついでにクッション問題の手がかりがないかつかむいい機会。二人だけで話す事なんてそんなにないもんね)



 メルはそういうことを考えた。

 将来の王妃が抱えている霊素障害(霊素異常)という問題を、悪役令嬢である自分とリヴィが解決してしまえば、周囲から見てのステータスはどうなるだろう。流石に、救国の英雄とまではいかないだろうが、フロリーを始めとする王室自体に、大きな貸しを作れる事には間違いないだろう。

 今現在のメルの目的はそれだった。

 虫が大嫌いなメルだったが、その究極の目的のためだったら、過去のトラウマの事など流していいと思えた。



(フロリーがどれぐらいクッション問題について把握してるのか、知りたかったし、ちょうどいいわ。だけど、一体、なんだろ……人間関係とかで、悩んでいるようにも見えないんだけどなあ)



 そんな程度の認識で、メルは、その日の授業もまた完璧に受けた。



 ちなみに、メルは自分とリヴィのステータスageとなったら容赦がない。今日もまた、朝の三時半に起きてジョギングしてヒンズースクワットしてという例のコースを余念なくやりきったし、そのため連日の睡眠不足が祟ってグロッキー寸前だった。



 コルセット締めてダンスパーティで踊り狂った後、栄養ドリンクをバカのように連打したような状態で、顔の色艶はメイクで誤魔化し、その「私今お肌をメイクで誤魔化している」という事をバレないようにという一線で正気を保って授業を受けていた。



 どういうことかというと、ナチュラルメイクを装いつつフルメイクした顔面で、机に寝落ちしたどうなるか。ノートにべったり粉がつく→その粉を隣の席とかに見られる→女子間を中心にメイク技術の事がバレる→何言われるか分からない!→女の見栄と腹の探り合いフル回転→意地でも寝てやるもんか!!

 ということである。



 リヴィの方は、居眠りするときは寝ちゃうというか、それこそ試験の最中でも寝落ちする太い根性を持っているが、メルの方は、根性は太いが神経が別の意味で繊細であるため、その状態で一睡もせずに授業を受け、ノートはPerfectに取り終えた。

 お前は一体何と戦っているのかと、問われたら、「己と!」と答えそうな勢いである。





 要するに、放課後、図書館裏の待ち合わせに向かうまで、メルは睡魔と疲労と闘いながらも、全く気を抜かず、休憩一つ取っていなかったのである。休憩取ったら、そのまま爆睡する可能性があったという事もある。



 そんなこんなで図書館裏。



 王立学院の中でもマイナーなスポットで、人の気配はない。ポプラの木々が茂っているだけで、全体的に暗く静けさに満ちていた。



 メルがそのポプラの木に向かった時には、既にフロリーは、何故か両手にロザリオをかけて胸の前に組み合わせて立っていた。



(ロザリオ?)



 なんでそこで、宗教?

 その時点で嫌な予感はビシバシ来たが、メルは、目的を忘れはしなかった。

 今はとにかく、フロリーと友好ポイントを稼いで、彼女から、王室の機密になってるかもしれないが、霊素クッションについて何か把握してる? と、そこまで聞き出すのだ。

 それが出来ると出来ないで、ゲームシナリオ展開は、80%ぐらいは変わってくるだろう。





 メルは嫌な予感は押し殺し、にっこり笑って「ごきげんよう」と挨拶した。



 すると、やや緊張に青ざめていたフロリーはぽっと頬を赤らめて、同じく「ごきげんよう」と挨拶を返してくれた。



「今日は、風がやんでいるかと思ったけれど、ここは涼しくていいわね。フロリーは、元々、図書館や植物は好きだったかしら?」

「ええ。……本は好きよ。それに、背の高い木も好き」



 気さくに打ち解けて話しかけるメルに対して、フロリーは、やや高く上ずった声でそう返答した。



「私も図書館はよく利用するのよ。課題図書だけじゃなくて、大河ロマンの小説なんか好きなんだけど」

 とにかく相手との共通点を探らなければと、やたら曲がりくねった会話をしようとするメル。

 それに対してフロリーは、ロザリオを両手に握り締め、指先を細かく震えさせ始めた。



「?」

 嫌な予感はするものの、メルは、恋愛に関しては「男ですか……? ハッ(鼻で笑う)」というステータスage対象。異性愛の人間でありながら、異性ですらそうなんだから、同性に関しても、恋愛対象というよりも、「ライバルか/味方か/王室か」ぐらいの三択でしかない。そして、フロリーは、「王室」のトップクラス。つまり、扱いが一番微妙なところで、恋愛対象になりえないのである。



 だから当然、図書館裏に呼び出されてロザリオを胸の前で握り締められプルプル小刻みに震えられても、何のこったかわかりようがないのであった。



 お前が、リヴィの、消防脳を笑えるのかと、全世界がツッコミを入れるだろう。



「えっと……フロリー? さっき貰ったクッキー、なかなかおいしか……ったわよ?」

 フロリーのプルプル度がエライ勢いで上がっていく中、メルは嫌な予感を押し殺すためにあえて陽気な声を立てた。



「アメリア!!」

 途端に、ついにこらえきれなくなったフロリーが、上ずった声で彼女のファーストネームを叫んだ。



「は、はい?」



「好きです!!」

 単刀直入、当たって砕けろとばかりにフロリーがまた、叫んだ。ロザリオ握り締めて天高く掲げながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...