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「意外。リヴィってそんなにフロリーの事が好きだったんだね」

「好きって? そう見える?」



 メルはぽかんと口を開けた。

 さっきの啖呵はなんなんだ。



 リヴィは自室に戻って、メルが来た時のための猫足の丸テーブルにつき、優雅に紅茶のカップを傾けながら、ピートから借りた本を見ていた。



「好きも嫌いもないでしょ。相手は、吸血鬼もヒいちゃうようなお姫様なんだから」

「……って、お前」

 メルは、紅茶を噴きそうになりながら、リヴィの顔をまじまじと見た。



「ふわふわして可愛いって言っていなかったっけ?」

「それは確かに悪い事じゃないよ」

 リヴィは、真面目な顔で、本のページを読み進めながら答えた。



「じゃあ、良い事なんじゃないの?」

「……可愛いし、ふわふわしてるし、善意で出来たお人形さんなのは、知ってるわよ。そして、善意だから、相手の状態も、好き嫌いも分からないで、蚕投げつけて叫ばれても、なんで? って顔してられるんでしょ」



 面倒そうにリヴィは言った。



「あのときに、フロリーは確かに謝っていたけれど、怪訝そうだったし、結局、それで、メルが悪者になって立場が悪くなるように振る舞っていたよ。天然なのか、計算なのか、私は興味ないから、スルーしたけれど」



「ああ……」



「そっから、ステータスageと努力で巻き返して、実績作ったのはメルだよね。そしてメルの協力者。そういうのを聖女とか悪役令嬢って言うのかどうか、私は知らない。どうでもいいから」



 そうなのかもな、と、メルは天井を仰いだ。

 それが、恐らく、ミファレベルになると分かるのだろう。だから、ミファは参謀格でありながら、ぶつかってくるふりをして、サポートしたりするのだろう。



「多分、王族クラスになるとさ、ミファだって誰だって切り捨て要員だよ。いつだって、自分達が、いい顔をしていられるなら、切り捨てるから。それは、リヴィの大事なお兄ちゃんの、ブライアンだって、おんなじよ。だって、そういうものでしょ」



「そうだね。だから、私は、農園の方が好きなんだ。農園には農園の苦労があるんだろうし、そういうネタは世間のどこいっても、尽きないだろうけど。せめて、自分が本当に好きで、愛してて、向いているっていう事のために、そういうネタを浴びたいわね」



 自分が、王族である以上、喰わせてやるのも自分、敵を作ってやるのも自分、掌で踊らせてやってるのも自分、飽きた人形は壊してポイ捨てにするのも自分……そういう教育を施されているのだろう。



 そして似たようなところは公爵家やその一族にだってある。だからこそ、このゲームは悪役令嬢と名付けられているのだな、と、リヴィは身に染みていた。



「元祖のオリヴィアは、ゲーム内で用意された色事を忠実に食べちゃって、それで評価がダダ下がりしていったんだよね。そういう、色事を、オリヴィアを操りながら、嵌めていったのは、誰だったのかな……。お色気イベントを、忠実に、食べていたらいけないんだよ。当たり前だけど。そういう罠を引っかけてくる相手には、用心しないとね」

 メルは遠回しに、リヴィに釘を刺した。

 リヴィが、ピートに懐いているのは分かっているが、これ以上、リヴィとピートが接近するのは危険だ。



 話を聞きながら、リヴィは参考書を見て、ざっとレジュメをまとめていた。

 基礎理論の方だけなら、なんとか、ついていけそうだった。



「ありがたいわ」

 リヴィは微笑み、紅茶を飲み干すと、参考書を持って立ち上がった。

 メルは続いて立ち上がり、別の参考書を大事に腰に抱えた。







 当たり前の話だが、リヴィとメルは、王室が立てている「魔力における臓器移植」の話は聞いていなかった。

 王室シンクタンクに魔族故に入れない、ピートが独自で推測している話を聞いて、自分達なりに行動を起こしたというだけの話である。



 そしてピートの推論が、「霊素と魔力の相関関係と飽和状態」ならば、学生の身分であるリヴィ達が、それしかないと思ったところで、何の不思議もないわけだった。確かに、メルはステータスageの怪人ではあるが、霊素については、大学部でも一部マニアックな学科でしか取り扱ってない事もあり、聞き覚えがなかった。





 そういう訳で、まずは、基礎理論をどの程度理解出来たか、自分達で、確認してみようと言う話になった。



「ていうか、生命体なら、大体、霊素を持っているっていうこと、これ?」

 リヴィが何度も霊素の基礎についてのテキストを読み返しながらそう言った。



「ん、難解……だけど、そういうことになるね。一部、自然界の石とかそういうので、信仰されているようなものは、霊素持ってるって、書いてあるけど。んで、生命体は本来魔力の器でアルカラニシテ、霊素ヲ含有セネバ危険デアリ、ソノ霊素ガ生命ノ増幅スル、なんだこれ古語? 魔法関係の単語でも、聞いた事ないぞ」

 メルが、勝手にリヴィの古語辞典を引っ張り出して調べ始め、その脇で、リヴィが他の参考書をめくっては、関連事項をノートに書き出して行く。



「なんかよくわからんけど、その霊素っていうのが、どういうものなのか、ちょっと、確かめにいかない? この参考書とかに載っているのが、どれぐらい、当たっているのか、見て見ようよ」

「そうだね。なんか、このまんまじゃ机上の空論に終わっちゃうわ。霊素って、どういう性質なのか、ちょっと実験してみよう」



 散々、参考書を調べた後に、二人はそう結論づけた。

 本来、行動派の二人なのである。



「人体実験する?」

「まさか。そんなんやらかす必要ないでしょ。とりあえず、庭に出ましょ」



 リヴィがそう言った。

 グランドン姉妹は、公爵家の広大な庭に出た。



 かなり離れた場所に、リヴィが精魂込めて作り上げた畑や、ビニールハウスが見えた。だが、二人とも、今夢中になっているのは霊素についての一件だった。





 ノートの方に、古語辞典をなんとか使いながら、ようやく作り上げた魔法の呪文がある。心理学や宗教が混じってはいないので、ここにあるのは魔道ではなかった。



 二人で作った呪文を、指さし確認した後に、リヴィが、メルの顔を見た。



「まあ、言い出しっぺは私なんだし、この呪文、私が唱えて発動させるわ。メルは、ちょっと離れててよ」



「え、いいの?」



「よくわかんないけど」

 リヴィは前置きをした。

「だってさあ、霊素って、生命とかに関わるナンカなんでしょ? 一応、庭の雑草に向けてやってみるけど、もし万が一、メルの体に何かあったら、申し訳ないもの」



「そ、そう?」

 メルは流石にそこで、自分がやるとは言わなかった。



「離れて見ていてよ。まずはやってみるから」



 リヴィは、軽く唇を噛みしめた後、まずは、利き手を天空に向けて上げ、それから祈りのサインを書いた後、さらに、地上に下げて、五指を全て広げ、太古より伝わる大地の神霊に誓願を立てるサインを書いた。



 いずれにせよ、公爵令嬢として教育されてきた成果ではある。メルの鉄拳制裁も決して無駄ではなかったということだろう。



 そのままリヴィは、古語を不器用ながらも使いこなしながら、呪文を詠唱し始めた。



「祈念し奉る、忘れ果てた世界の人々よ、時の怒濤に身をさらし、その霊なる声に耳を澄ませば、その怨念も無残さも我が身なり、時は無残なり、時は愛なり、その悲しき秘話に耳を澄まして、顔を澄まして、我が霊素と、自然なる霊素を繋ぎて、まことの言葉を紡がん」



 古語など、リヴィのような人間には知った事ではない。

 だが、霊素という知らなかった基本事項についてだ。フロリーを助けなければいけない件もあり、リヴィはつっかえつっかえながらも、呪文を唱えた。



「見知らぬ世界の精霊よ、その怨念を開きて、闇の彼方より、道しるべをすませよ……」



 そうして、自分の体にあるという、魔力の封印をとくために、パチンと指を鳴らした。

 途端に、体が前方に突き飛ばされるような衝撃があった。

 まるで、誰かが後ろから追突してきたようだった。



「??」



 そのため、バランスを取るために、リヴィは両手足を使って踏みとどまった。



「はりゃ?」



 霊素発動中に、それがどうも、よくなかったらしい。

 一体何が、リヴィを突き飛ばしたのかは知らない。過去の怨念なのか、現在の怨念なのか。いずれにせよ、恩愛の感情ならば、人を突き飛ばすような事はしないのだが--。



 せいぜい、庭の雑草でやろうとした、霊素実験超基本。



 それこそ怒濤の勢いでリヴィの手から放たれて、ぶっ飛ばしたのは、畑とビニールハウスであった。



「どぎゃんしたこつほげるぴれれうんぎゃらぱああああッ!?」

 勿論、そんな古語もなければ、呪文もない。

 顔をすますもおめかしもあったもんじゃなくなった、リヴィの言語崩壊は、こうであった。









 簡単に言うと、魔力の霊素封印を解いた方向が、畑とビニールハウスになってしまったのである。

 何か怨念的なものに突き飛ばされて、バランス取るために手足を動かしたため。



 そして、生命体についている霊素を解いて、魔力を放出させようにも、普通の野菜に魔力はない。

 するとどうなるかというと、生命体が霊素封印から出て行って、放出される。



 それは、わかりやすい現代の言葉でいうと、どういうことかというと。







 枯れ散る。



 と、言う事に、なるわけだ。



「農民! しっかりしろ、農民! 大丈夫か!? 応答しろ、応答しろ!?」

 メルの方だって、そんな、とんでもねえ誤爆を見てしまったら、言語崩壊を起こしてしまう。

 自分の手で丹精こめて、正に生きがいを越えたレベルで愛してきた畑もビニールハウスも、全て、枯れ散り~。



 自分の手でそんなことになっちゃったら、人間誰しも、顔面も崩壊すれば言語も崩壊してしまう。



 そんな人間を間近で見ちゃった従妹の方だって、顔面崩壊しかけの言語崩壊しかけで、リヴィのエクトプラズムが見えてきそうな顔を見つめながら肩を掴んで振り回してしまった……。







 悪役令嬢が二人そろってそんな奇行と奇声に走ると、続けてどんな誤爆が起こるだろうか。



「お前ら、何やってんあだぁああああああッッ!!!!」



 魔族さんの登場である。

 名無しさんは上機嫌であった。そりゃもう上機嫌であった。怒髪天を越して、逆に、すっかり上機嫌がブーメランしてねじれていた。



「はははははははは、景気よくやってくれたなぁああああ、どういうことだこりゃ、人に散々、手伝わせておいて!!!!」



「ち、違います、違います、聞いて、あのね、そうじゃなくってね、これはどうしても必要な事であって!!」



 言語崩壊が鉄板焼きとでもいうようなリヴィは背中に隠して、メルが決死の覚悟で説明責任を果たそうとした。



「んんんんんんん~? なんだい、お嬢ちゃん。おじさんは、優しいからな。そりゃあね、毎日毎日野良作業に精出して、野菜に触れているとねえ、人間、原始にかえって、そらもう優しくなるんだよ……え、何? 体で返したい? そっか~そっか~」



「はぅあッ!? 何の話ですか!?」



「大丈夫大丈夫。俺ら超絶優しいから。優しくしてあげるから、ちょっとこっちおいで。ちょっとだけ、こっちおいで、な? な?」



 そう言って、メルは愚か、リヴィまで「木陰」に連れて行こうとする、魔族。



「や、やめっ、それはないでしょ~、それだけは、それだけは~っ!!」

 まるで悪代官に連行される村娘のような発言をしてしまう言語崩壊2号。

 ちなみに1号が言っている事は、既に人知を越えた神の言葉になっていた。



「フロリーが、フロリーがぁっ!!!」

 メルは最早涙目になって魔族に言い訳しようとするが、十年以上、畑仕事をさせられてきた魔族がこの結末に文句を言わない訳がない。



「体で返せや!!!!!!」

 そういう発想になるのも、無理もなかった。

 そして神の言葉を発生しながら、霊素、霊素と訳の分からない事言ってるリヴィ。





「は、畑……私の畑……霊素……、メ、メルが怪我してないけど……メル……」

 最終的に、「畑」と「メル」を繰り返したと思ったら、エクトプラズムふきながら、何か言った。

「ピート先生、信じてたのに」



 しかしピートの方だって、何も、霊素実験すぐしていいとか、畑壊していいとか、言った覚えはどこにもない。若い二人の独自の暴走で、そこまで責任追及される筋合いはないのであった。

 行動力とは、両刃の剣という意味かもしれない。





「--やめろ」

 そこで、涼しそうな大樹の木陰にリヴィとメルを連行していく魔族に、背筋にアイスノンを百枚ぐらいぶつけそうな声が当たった。



「--殺すぞ?」



 兄属性発動中のブライアンであった。



 そこで、ぴたっとリヴィが吼えるのをやめた。

 小動物的な眼差しを兄に向け、メルの腕を掴んで、すすすすっとブライアンの方に近づいて行く。

 それこそ本能的というか動物的な振る舞いであった。

 とりあえず、魔法も洗脳も使わなくても、魔族にアイスノン張り付け、妹に精神安定剤を湿布貼りすることが出来るのが、兄の威厳なのか公爵家嫡男の専門スキルなのか??



 リヴィが叫ぶのをやめれば、メルも自動的に正気に戻り、そのまんま、ブライアンの方に近づいて行った。

 体で返せって、何をされるの!? と、悪役令嬢マニアはそっち方面の危ない方に発想が飛んでいたらしい。





 妹と従妹がこっちに寄ってきたのを目視すると、ブライアンは背中に隠していた魔法剣を引き抜いた。

 無言で、その切っ先を魔族の首筋の方へと向けていく。



 急所からかききってやるぞテメエ、と、行動で発言してくる器用な男。



 それに対して、魔族は、面倒そうに顔をしかめて何も言わなかった。



 魔族に、王族の常識や礼儀は通じない。

 王族においても、魔族に同上、という事である。

 ちなみにブライアンは、公爵家。

 世界で一番大事なものはグランドン家。

 どっちに転ぶか、誰にも分からない状態であった。





 恐ろしく険悪なムードが周囲に流れる。

 兄を信じきっているリヴィはともかく、メルの方は、ある程度、ブライアンの腹の内を知っている事もあって、仕方ないので静観した。



「人間ごときが、俺を殺せるとでも?」

「……過信だな」



 ブライアンはそれ以上は口を噤んで、真っ直ぐに、剣術の構えを取った。



「生き急ぐなよ。命を惜しまねえと、かっこつけることも出来なくなるぞ」



 ブライアンは集中のためにすっと目を細めると、「突き」の状態に足を伸ばした。



 そこで、メルが、とびきり間抜けな声でこう言った。



「喧嘩をやめてぇ~、二人を止めてぇ~、私のためにぃ~、争わないでぇえ~~ッ!!」







 魔族は膝から力が抜けて前につんのめって立てなくなった。

 ブライアンは、剣を鞘におさめると、そろそろ沈みかけた夕陽の方を見て、何も言わなかったのだった。



「はいっ、あんたのターンよッ!!」

 メルは、もうその頃にはすっかり、ぐずぐずと鼻をすする方に専念しているリヴィを、二人の方へと突き飛ばした。





「ご、ごめんなぁいっ……フロリー……王室の、フローレンス姫のために、よかれとおもって……やったの……自分だけじゃなくて、ピート先生や、メルにも手伝ってもらって……、自分で責任取れるからいいと思ったのに……な、なんか、変な方に、誤爆っ……」

 顔面崩壊&言語崩壊からの、妹属性キューティクル発動涙目泣きじゃくりである。

 まあ、泣く事。泣く事。





「もう、いいから。何も言うな?」

 ブライアンがそう言って、優しく妹を抱き寄せた。



 魔族の方は、自分で自分の背中をかいていた。

(王室か……面倒くせぇええ……)







「もう、ブライアンは、すぐに妹を甘やかすッ!!」

 そこでブチっと逝ったのが、メルだった。



「お前がターンを寄越したんだろww」

 そこで草を生やし生やし、魔族が突っ込んだのだった。



「うるさい、魔族、散れ!!」

 ちなみにメルの方も、認識は、決してよくない。

 魔族との変な評判で苦労しているのはメルも同じだからだ。

 ちなみにリヴィの方はというと、ピートともさることながら、魔族を公爵家内に引き入れている身な訳で、ゲーム補正があると、どうなるかというと……言わずもがな。





 先程、言語崩壊を起こしたところにブライアンの乱入、さらにリヴィのギャン泣きで、いい感じにメルのテンションが上がった。そりゃもう上がった。太陽よりも高い位置まで上がる勢いであった。





「今日と言う今日はキレたわよ! 何よ、体で返すって、冗談でも言えた立場かーッ!!」



 ゲーム補正の悪評と日々戦っているメルとしては、今日の顛末は何がなんでも許しがたいところであった。



「リヴィが、農園やりたいのは知ってるわよ。分かってるわよ。前世からの夢だもんね?? そりゃ、叶えたいよね!! 私だって、小説家になりたかったわよ。ていうか、なるわよ。小説家になるのに、ステータスageといて、損なことないもの。だから、頑張っていたわよ、それでもね、やってもやっても、追いつかないの!!」



 最早、メルは、プッツンした女の基本スキル、「怒り泣き」の方に走っていた。

 こうなると、ステータスもへったくれもあったもんじゃない。

 ただの普通の、ヒスった普通の女の子である。



「リヴィと、ゲームの作ったオリヴィアは別人なんだよ! 私が、ゲーム内おとりまきのアメリアじゃないように!! ゲームが作った偶像相手に、変な邪推でつっかかってくる奴らが多いところにさ、なんで、リヴィときたら、ゲームのお約束スルーして!!! ピート先生とか魔族とか、色気のない方に進むわけ!?」



「ほえー?」



 今度は、リヴィが間抜けそのものの声を出した。



「ちょっと待って? 私、モブとか悪役食べなきゃいけないところじゃないの……?」



「だったら最初から喰うなーッ!!!!!!」



 メルは全力で突っ込んだ。



「ちなみに仲良くしてるだけ、別に食べた覚えないよ? 食べろみたいなイベントがきても、ちゃんと、色よい事言うだけで、スルーしてるし」



 メルはレジュメを、今度は、全力で「突き」の形に持っていって、相手の口の中に突っ込んだ。



「だったら、これ、食べてよね!」



「メル、そこまでやったら、いじめだぞ?」

 ブライアンは流石に庇ったが、最早、怒り泣きMAXのメルには聞こえていなかった。



「あのねえ、”憧れのクインドルガ”に、どれだけ、美味しい野郎キャラがいたと思ってるのよ! 総勢10名は越えているんだけどね!?」



「え、そうだっけ?」



「最初に説明してるわよ!」



「でも、出てこないじゃん」



「お前が、農園に夢中で、全てのフラグを回避して歩いたんじゃああああああッ! 出て来たのは、第1話の必須キャラのノアだけってどういうこと!?」





「あ、そうなんだ」





 ちなみに、魔族とブライアンは黙っている。

 怒り泣きMAXのメルにあまり関わりたくないのと同時に、憧れのクインドルガとか言い出したもので、すっかり聞く気を無くしたのであった。何それ?



「高等部までに、ステータスageとゲームにも出てこなかった、農園ゲームだけちまちまちまちまやりこんで、あんたの評価をゲーム画面で見られたら、一体どうなっているのか、私にも分からないわよ!」



「メルにわかんないことは、私にもわかんないよ?」

 レジュメを吐き出して確認しながら、リヴィが答えた。



「あんたがやらなきゃいけなかったのはね! そこらの雑魚のフラグを建てたあとに有効状態を保持しつつ、パラメータを「友達」で止めておいて、それを、ノアの方に持っていってな、フロリーを「蹴散らす」か、二人を「成就させる」か、どっちかしかなかったの! ちなみに、ゲーム内の方にはフロリーストームなんてなかったんだけど、なんでこうなっちゃったの!?」



「メルにわかんないことは、私にもわかんないよ?」

「大切な事なら一回だけにすましなさい。何度も言ったって仕方ないから」

 ブライアンが突っ込んでるのか、なだめているのか、分からない事を言った。



「そこで私は気がついたのよ!」



「はあ」

 燃え上がるメルに対して、リヴィはどこまでも気が抜けた声を立てた。

 メルが燃えれば燃えるほど、リヴィのやる気はダダ下がり。いつもと同じ現象である。



「フロリーストームは、今回のゲームバージョンの、ギロチンラストの回避手段だと!」



「メル、日本語で話して」

「ここ、クインドルガなんだけど?」

「私にわかりゃ、それでいいから」



 しかしそこは親切なのか、メルはクインドルガ語でメル語を喋り始めた。



「フロリーストームを無事に解決すれば、私達の評価は一発逆転で天井を破るって!!」



「ホームラン的な何か……?」

 どこまでもゲームに縁がないリヴィは、謎な解釈をしているが、あってるのかあってないのかは、誰にも分からない。



「評価がMAXを越えたどっかいっちゃったら、後は、ノアをどうしようがフロリーをどうしようが構わないでしょ!」

「ゲームってそういう世界なんだ」

 謎解釈はどこまでも続いた。



「必要なのは、評価! まともな評価なの! リヴィが、農園作業を理解してくれて構ってくれる人物が好きなだけで、別に野郎に興味がないように、今回のゲームにお色気イベントは本当は必要ないもんなの! だから、評価が下がりそうな、魔族系列にばっかりいっちゃダメなんだってば!!」



「野郎に興味がないっていうのには語弊あるかな。私だって、女子だもの。そういう浮いた話が自然POPするなら、それでいいかあっては思うよ」



「だから、なんでその自然POPを避けて、魔族系列の方にばっか行くの!?」



 メルは、自覚していなかった。というか、自覚していることを忘れていた。

 自分が、その自然POPを、中等部までに全て刈り取っていたということに。

 刈るだけ刈って、高等部ぐらいから、そろそろいいぞ~って、やったところ、リヴィの頭が消防で止まっていて、「なんか気になる人とおしゃべりできてなかよくできたらそれでいいです」以上に全く進まなくなってしまっていたことを。



 悪名高い都○例のどこが悪いのかというと、具体例はこのへんになる。

 子どもの発育に必要最低限のものまで排除しておくと、必要な年頃になった際に、必要な事も出来なくなるのだ。

 恐らく、リヴィは、消防脳→パス→結婚生活、しか出来ないぐらいに情報が削減されていた。





 しかし、メルはそのへんを脳内から華麗にスルーし、自分の都合を叫んだ。



「お前、いいから、フロリーストームを叩きつぶして、ついでに、ノアをいてこましてこいよ!!」











 リヴィはしばらく考えた。

 本当の本気で考えた末に言った。



「フロリーストームはともかくさ、ノアをいてこますと、何かいいことあんの?」





「あ……」

 メルは、実に乙女ゲーム……を通り越して、少女漫画がそのままアニメ化されたような動きでフラっといって、クラっときて、どこからか電波を受信した。



 そして、天界と大地にそれぞれ誓願を立てて、霊素呪文を発動させた。

 レジュメは既に取り戻していた。



「砲!!!」



 人間の生命体からそのまま霊素を抜いたらどうなるかというと、恐らく、魔力がよっぽど高くなければ死ぬだろう。それを分かってやっている。







「おいおいおい!!」

 魔族が慌てて魔力シールドを張る。ちなみにこちらも、ノア同様に、0秒発動である。

 ブライアンの方もほぼ同時に、妹の周辺に魔方陣を浮上させて、霊素魔道を防いだ。





 リヴィの方はというと、メルが切れているのは理解していたが、何をそんなに熱くなっているのかまでは、分からなかったのだった。



 もっと自然POPを大事にしてよと、メル本人は言うけれど、そのメルが常に先回りして、あれもだれこれやれ、あっちはだめこっちにしろと、やっていたのではなかったか?

 それでいちいち逆らうと、鉄拳制裁が待っているため、本当に自分が譲れない事以外は何もしないようになったのだ。



 言うなれば、焼き肉を食べにいったり串カツを食べにいった際に、せっせと具材を焼きながら、「あれ喰え、これ喰え、こっち喰うな、なんでマナーを守らない!!」と関西人に怒鳴られまくって、串カツは美味しいけれど別に食べたいと思わない、となるようなものである。



 本人にしてみれば、「これ美味しいからちょっと食べて見て」ぐらいな気持ちなんだろうが、やってることは、頑固親父がラーメンの丼に指をツッコみながら「うちのラーメンの食べ方は!!」と大音声を張るのと同レベルだ。

 しかもそういう本人に限って、「客の声がうるさくてかなわない」と言うのである。



 ちなみに、リヴィはそういうことをメルに直接言うのはもうやめている。向こうの方が口が達者で顔は可愛いので、言っても無駄だと学習したのだ。



「お兄ちゃん、そろそろ屋敷に帰ろうか?」

 リヴィはそうとだけ言って、コメントは差し控えた。



「リヴィ、リヴィ、あんたね、人は鏡って言ってね……」

 メルは何か言っていたが、リヴィはメル語だなあと思って聞いていた。
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