種の期限

ながい としゆき

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四日目

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 まさしく状況は国家的危機という状態だ。首相官邸に神武天皇と名乗る男が現れてから二週間が過ぎたが、その二週間の間に絶望して自ら命を絶つ者、ヤケになって盗みや暴行をはたらく者が昨年の人数の二倍を軽く超えてしまった。政府が何を言っても国民には届かない。報道機関やマスコミは国の指導力のなさを指摘し、責任を擦り付けている。
「打つ手があったら教えてほしいよ・・・」
閣僚達も頭を抱えている。
「全員が犠牲になっても我が国に影響のない民族や人種はどこか答えは出たのか?」
総務大臣が困惑した表情で答える。
「まだはっきりとはしませんが、アメリカとの安保条約や今後の関係維持の重要性を考えると、我が国というよりアメリカの敵対国に絞って選択しても良いのかと思いますが」
「それは総務省としての見解か?」
「い、いえ・・・。概ねそのような方向性で考えていくのが良いかとの意見が多くなってきている段階で、まだはっきりとそう固まってはいないのが現状で・・・」
「環境の改善を第一に考えるなら、二酸化炭素の排出量などから考えても良いのではありませんか?」
環境大臣が口を挟む。
「中国、アメリカ、インド、ロシア、日本が上位五か国だぞ。黙っているヤツラではないし、一筋縄ではいかない相手ばかりだ。我が国に矛先が向く可能性も大きい。その後のことも考えていかなければならないし・・・」
総理の顔が一層険しくなる。
「それにだ。途上国などに多い人種を選択してみろ。それこそ人道的じゃないだの血も涙もないだのと反体制派のやり玉に挙がってしまう。こっちは人種選びよりも雹の被害対策を民間と協力しながら進めていきたいのに、みんな上の空だ」
 官房長官が疑問を投げかける。
「我が国が選んだ国がどこかを公表しなければならないんでしょうか?我々が神に直接伝えるのだから、別に知られる心配はないんじゃないですか?」
「この件が本当に神の意思だった場合はそうですね・・・。もし違っていたら、防衛大臣の言うようにロシアや中国の軍事作戦だったとしたら、我が国存亡の危機にもなりかねん。それこそ大変なことになってしまいます・・・」
防衛大臣が慎重に答える。
「それよりも国民の意識が災害に向いていないことが問題ですよ。先の雹被害では、道路をはじめとした交通網や停電などのライフラインは復旧の目途が立ちましたが、補償の問題や被災対策などはまだまだ不十分な段階だというのに、来週頭には大雨の予報なんですからね。心配や恐怖で自分達の生活がおろそかになってはいけません」
防災担当大臣も不安な表情を浮かべている。
「そうだな・・・。毎日のぶら下がり会見でも防災意識が高まるように呼びかけることにしよう」
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