上 下
13 / 23
第二話 命の代償

しおりを挟む
 今思うと、何て馬鹿なことをしちゃったんだろうって、ものすごく後悔している。あの頃は、誰も信用できなくなってたし、将来のことなんて全然考えられなかったから、もう死ぬしかない、この世から消えちゃいたいって思ったし、死ぬってことをもっと軽く考えてたんだ。まさか、こんなことになるなんて夢にも思ってなんていなかったからね・・・。
 僕の家はお父さんが大学病院の内科医でお母さんは病棟の看護師をしている。叔父さんや叔母さんたちも医者をやっていて、当然のように僕も医者になるつもりでいたんだ。僕は小さな時からみんなに期待されているのがわかっていたけど、僕自身も当然と思っていたからそれがプレッシャーに感じることもなかった。
 それに、自分で言うのも何だけど、僕は小学校の頃から勉強もできたし、体育や音楽も人並みにはできていたと思う。僕は小さい時から本を読んだり問題を解いたりすることが好きだった。わかることってスッゴク楽しいことだと思ったんだ。まるで文字や数字の中を冒険しているような感じ。たぶん同級生がゲームにハマるような感覚だったんだと思う。そういう点では他人とのズレがあったのかもしれないな。
 だから、僕はゲームにも興味がなかったし、友達に誘われてやるときもあったけど面白いと思ったことは一度もなかった。キャラクターの名前言われたって、基本的なヤツしかわからなかったしね。それよりも勉強の方が楽しかったんだ。正直に言うと、相手の話に合わすのも疲れるし、何か時間の無駄だなって思っていたところもあった。だから、友だちとは表面的な付き合いしかしていなかったけど、嫌われてはいなかったと思うよ。テストの前なんか、仲の良いヤツは僕の家に来て一緒に勉強もしたし、足が速かったから、運動会なんかでは同じチームになると喜ばれたりしたからね。
 僕の家は共働きだったし、学校から帰っても誰もいないのが普通だった。お父さんもお母さんも夜勤とかもあったから、大変だねって言われることが多かったけど、小さい時からそれで生活していれば大変でも何でもない。ただ、親子の会話は他の家よりも少なかったかもしれないね。起きたらお母さんがいなかったり、寝る時にお父さんがいなかったりっていうのは、ホントしょっちゅうだったから。三人で過ごす時間はほとんどなかったかもしれない。でも、お父さんもお母さんも人の命を救う仕事をしているんだから、逆に誇らしかったくらいさ。
 いつも忙しい両親だけど、僕の健康には気をつけてくれていたと思う。だって、朝食や夕食は一人で食べることが多かったけど、お母さんの手づくりだったからね。それに、コミュニケーションボードっていうのがあって、それにお父さんもお母さんも毎日メッセージを書いてくれた。交換日記みたいな感じで。僕もそれに毎日学校での出来事を書いて知らせた。ちょっと他の家とは違って特殊かもしれないけど、僕には二人の愛情がメッセージからヒシヒシと伝わってきていたからとっても幸せだった。
 中学校に入ると町内に三つある小学校から同級生が集まってくる。だから、クラスも四クラスになって、人数も多くなった。僕の卒業した小学校は町内でいちばん大きかったけど、仲の良かった友だちの中には違うクラスになったヤツもいて、だいたい半数が知らないヤツだ。
 四月は卒業した学校の仲間でかたまっていることが多かったけれど、ゴールデンウイークの頃には気の合う仲間同士に編成されていく。僕の周りには何となく勉強のできるヤツが集まってきていたけど、逆に小学校から仲の良かった友だちとはだんだん離れていった。夏休みになる頃には、それぞれ進路がだいたい決まってくるからね。
 僕はこの地域でトップレベルの高校への進学を目指していたから、放課後は隣の市まで電車に乗って進学塾に行くようになった。家に帰るのは毎日十時頃。その後夕食を食べてお風呂に入って次の日の予習をしていたから、寝るのはだいたい一時半頃だった。朝は五時前に起きるのが普通だったから、今思えば睡眠時間が少ない気がするけど、結構楽しく過ごせていたから充実していたんだと思う。
 その頃までは僕の人生はとても順調だったし、これからもそうなんだって信じていた。本当に幸せに過ごしていたんだ。
でも、夏休みが終わった頃から、少しずつ周りの雰囲気が変りはじめた。
 僕は相変わらず問題を解いたり、いろんな知識を探求したりすることが楽しかったから、成績なんてあまり気にしなかったけれど、両親や親戚、先生や友だちが気にするようになった。今までは、
「へぇ、そうやって計算すれば簡単に解けるんだ」
とか
「主人公の気持ち、そういう風にも読み取れるんだね」
と、返ってきた答案を見せ合いながら、知識を深め合っていたけれど、だんだん見せ合う相手がいなくなって、相手の点数を意識し合って『勝った』『負けた』の言葉が日常的になった。塾の先生たちも
「自分以外はみんなライバルだ!受験のサバイバルに生き残るために、仲良しこよしみたいな甘い考えでいるヤツは生き残れないぞ!一人でも多くのヤツを蹴落としてでも合格を勝ち取るんだ!」
と、みんなを鼓舞している。
「本当にそうかな?」
と思っていても、何回も繰り返して言われ続けていれば本当のように思えてくるから不思議だ。だけど、あれだけわかることが楽しくてたまらなかった勉強が、そうやっていくうちに義務になってしまって、だんだんつまらないものになってしまった。
 でもね、それを口に出して言うことができない雰囲気が周りにスッゴク漂っていて、逆らうとその雰囲気に押しつぶされちゃいそうで、とっても逆らうことなんてできないんだ。周りの僕に対する期待もわかっていから頑張ってはいたけれど、どんどん体力や精神力が消耗してしまって、二学期の中間テストの頃には、もう疲れ果てていて、勉強はほとんど惰性っていう感じだった。
 そんな感じで勉強していたから成績は伸びるはずがないよ。どんなに頑張っても身が入っていないんだから、現状維持が精一杯だった。それでも中学校の成績は学年トップだったけどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

涙が呼び込む神様の小径

景綱
キャラ文芸
 ある日突然、親友の智也が亡くなってしまう。しかも康成の身代わりになって逝ってしまった。子供の頃からの友だったのに……。  康成は自分を責め引きこもってしまう。康成はどうなってしまうのか。  そして、亡き親友には妹がいる。その妹は……。  康成は、こころは……。  はたして幸せは訪れるのだろうか。  そして、どこかに不思議なアパートがあるという話が……。   子狼、子龍、子天狗、子烏天狗もいるとかいないとか。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

人形学級

杏樹まじゅ
キャラ文芸
灰島月子は都内の教育実習生で、同性愛者であり、小児性愛者である。小学五年生の頃のある少女との出会いが、彼女の人生を歪にした。そしてたどり着いたのは、屋上からの飛び降り自殺という結末。終わったかに思えた人生。ところが、彼女は目が覚めると小学校のクラスに教育実習生として立っていた。そして見知らぬ四人の少女達は言った。 「世界で一番優しくて世界で一番平和な学級、『人形学級』へようこそ」

蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜
キャラ文芸
願いを一つ叶える代わりに人間の寿命をいただきながら生きている神と呼ばれる存在たち。その一人の蛇神、蛇珀(じゃはく)は大の人間嫌いで毎度必要以上に寿命を取り立てていた。今日も標的を決め人間界に降り立つ蛇珀だったが、今回の相手はいつもと少し違っていて…? 神と人との理に抗いながら求め合う二人の行く末は? 人間嫌いであった蛇神が一人の少女に恋をし、上流神(じょうりゅうしん)となるまでの物語。

処理中です...