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第二話 命の代償
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今思うと、何て馬鹿なことをしちゃったんだろうって、ものすごく後悔している。あの頃は、誰も信用できなくなってたし、将来のことなんて全然考えられなかったから、もう死ぬしかない、この世から消えちゃいたいって思ったし、死ぬってことをもっと軽く考えてたんだ。まさか、こんなことになるなんて夢にも思ってなんていなかったからね・・・。
僕の家はお父さんが大学病院の内科医でお母さんは病棟の看護師をしている。叔父さんや叔母さんたちも医者をやっていて、当然のように僕も医者になるつもりでいたんだ。僕は小さな時からみんなに期待されているのがわかっていたけど、僕自身も当然と思っていたからそれがプレッシャーに感じることもなかった。
それに、自分で言うのも何だけど、僕は小学校の頃から勉強もできたし、体育や音楽も人並みにはできていたと思う。僕は小さい時から本を読んだり問題を解いたりすることが好きだった。わかることってスッゴク楽しいことだと思ったんだ。まるで文字や数字の中を冒険しているような感じ。たぶん同級生がゲームにハマるような感覚だったんだと思う。そういう点では他人とのズレがあったのかもしれないな。
だから、僕はゲームにも興味がなかったし、友達に誘われてやるときもあったけど面白いと思ったことは一度もなかった。キャラクターの名前言われたって、基本的なヤツしかわからなかったしね。それよりも勉強の方が楽しかったんだ。正直に言うと、相手の話に合わすのも疲れるし、何か時間の無駄だなって思っていたところもあった。だから、友だちとは表面的な付き合いしかしていなかったけど、嫌われてはいなかったと思うよ。テストの前なんか、仲の良いヤツは僕の家に来て一緒に勉強もしたし、足が速かったから、運動会なんかでは同じチームになると喜ばれたりしたからね。
僕の家は共働きだったし、学校から帰っても誰もいないのが普通だった。お父さんもお母さんも夜勤とかもあったから、大変だねって言われることが多かったけど、小さい時からそれで生活していれば大変でも何でもない。ただ、親子の会話は他の家よりも少なかったかもしれないね。起きたらお母さんがいなかったり、寝る時にお父さんがいなかったりっていうのは、ホントしょっちゅうだったから。三人で過ごす時間はほとんどなかったかもしれない。でも、お父さんもお母さんも人の命を救う仕事をしているんだから、逆に誇らしかったくらいさ。
いつも忙しい両親だけど、僕の健康には気をつけてくれていたと思う。だって、朝食や夕食は一人で食べることが多かったけど、お母さんの手づくりだったからね。それに、コミュニケーションボードっていうのがあって、それにお父さんもお母さんも毎日メッセージを書いてくれた。交換日記みたいな感じで。僕もそれに毎日学校での出来事を書いて知らせた。ちょっと他の家とは違って特殊かもしれないけど、僕には二人の愛情がメッセージからヒシヒシと伝わってきていたからとっても幸せだった。
中学校に入ると町内に三つある小学校から同級生が集まってくる。だから、クラスも四クラスになって、人数も多くなった。僕の卒業した小学校は町内でいちばん大きかったけど、仲の良かった友だちの中には違うクラスになったヤツもいて、だいたい半数が知らないヤツだ。
四月は卒業した学校の仲間でかたまっていることが多かったけれど、ゴールデンウイークの頃には気の合う仲間同士に編成されていく。僕の周りには何となく勉強のできるヤツが集まってきていたけど、逆に小学校から仲の良かった友だちとはだんだん離れていった。夏休みになる頃には、それぞれ進路がだいたい決まってくるからね。
僕はこの地域でトップレベルの高校への進学を目指していたから、放課後は隣の市まで電車に乗って進学塾に行くようになった。家に帰るのは毎日十時頃。その後夕食を食べてお風呂に入って次の日の予習をしていたから、寝るのはだいたい一時半頃だった。朝は五時前に起きるのが普通だったから、今思えば睡眠時間が少ない気がするけど、結構楽しく過ごせていたから充実していたんだと思う。
その頃までは僕の人生はとても順調だったし、これからもそうなんだって信じていた。本当に幸せに過ごしていたんだ。
でも、夏休みが終わった頃から、少しずつ周りの雰囲気が変りはじめた。
僕は相変わらず問題を解いたり、いろんな知識を探求したりすることが楽しかったから、成績なんてあまり気にしなかったけれど、両親や親戚、先生や友だちが気にするようになった。今までは、
「へぇ、そうやって計算すれば簡単に解けるんだ」
とか
「主人公の気持ち、そういう風にも読み取れるんだね」
と、返ってきた答案を見せ合いながら、知識を深め合っていたけれど、だんだん見せ合う相手がいなくなって、相手の点数を意識し合って『勝った』『負けた』の言葉が日常的になった。塾の先生たちも
「自分以外はみんなライバルだ!受験のサバイバルに生き残るために、仲良しこよしみたいな甘い考えでいるヤツは生き残れないぞ!一人でも多くのヤツを蹴落としてでも合格を勝ち取るんだ!」
と、みんなを鼓舞している。
「本当にそうかな?」
と思っていても、何回も繰り返して言われ続けていれば本当のように思えてくるから不思議だ。だけど、あれだけわかることが楽しくてたまらなかった勉強が、そうやっていくうちに義務になってしまって、だんだんつまらないものになってしまった。
でもね、それを口に出して言うことができない雰囲気が周りにスッゴク漂っていて、逆らうとその雰囲気に押しつぶされちゃいそうで、とっても逆らうことなんてできないんだ。周りの僕に対する期待もわかっていから頑張ってはいたけれど、どんどん体力や精神力が消耗してしまって、二学期の中間テストの頃には、もう疲れ果てていて、勉強はほとんど惰性っていう感じだった。
そんな感じで勉強していたから成績は伸びるはずがないよ。どんなに頑張っても身が入っていないんだから、現状維持が精一杯だった。それでも中学校の成績は学年トップだったけどね。
僕の家はお父さんが大学病院の内科医でお母さんは病棟の看護師をしている。叔父さんや叔母さんたちも医者をやっていて、当然のように僕も医者になるつもりでいたんだ。僕は小さな時からみんなに期待されているのがわかっていたけど、僕自身も当然と思っていたからそれがプレッシャーに感じることもなかった。
それに、自分で言うのも何だけど、僕は小学校の頃から勉強もできたし、体育や音楽も人並みにはできていたと思う。僕は小さい時から本を読んだり問題を解いたりすることが好きだった。わかることってスッゴク楽しいことだと思ったんだ。まるで文字や数字の中を冒険しているような感じ。たぶん同級生がゲームにハマるような感覚だったんだと思う。そういう点では他人とのズレがあったのかもしれないな。
だから、僕はゲームにも興味がなかったし、友達に誘われてやるときもあったけど面白いと思ったことは一度もなかった。キャラクターの名前言われたって、基本的なヤツしかわからなかったしね。それよりも勉強の方が楽しかったんだ。正直に言うと、相手の話に合わすのも疲れるし、何か時間の無駄だなって思っていたところもあった。だから、友だちとは表面的な付き合いしかしていなかったけど、嫌われてはいなかったと思うよ。テストの前なんか、仲の良いヤツは僕の家に来て一緒に勉強もしたし、足が速かったから、運動会なんかでは同じチームになると喜ばれたりしたからね。
僕の家は共働きだったし、学校から帰っても誰もいないのが普通だった。お父さんもお母さんも夜勤とかもあったから、大変だねって言われることが多かったけど、小さい時からそれで生活していれば大変でも何でもない。ただ、親子の会話は他の家よりも少なかったかもしれないね。起きたらお母さんがいなかったり、寝る時にお父さんがいなかったりっていうのは、ホントしょっちゅうだったから。三人で過ごす時間はほとんどなかったかもしれない。でも、お父さんもお母さんも人の命を救う仕事をしているんだから、逆に誇らしかったくらいさ。
いつも忙しい両親だけど、僕の健康には気をつけてくれていたと思う。だって、朝食や夕食は一人で食べることが多かったけど、お母さんの手づくりだったからね。それに、コミュニケーションボードっていうのがあって、それにお父さんもお母さんも毎日メッセージを書いてくれた。交換日記みたいな感じで。僕もそれに毎日学校での出来事を書いて知らせた。ちょっと他の家とは違って特殊かもしれないけど、僕には二人の愛情がメッセージからヒシヒシと伝わってきていたからとっても幸せだった。
中学校に入ると町内に三つある小学校から同級生が集まってくる。だから、クラスも四クラスになって、人数も多くなった。僕の卒業した小学校は町内でいちばん大きかったけど、仲の良かった友だちの中には違うクラスになったヤツもいて、だいたい半数が知らないヤツだ。
四月は卒業した学校の仲間でかたまっていることが多かったけれど、ゴールデンウイークの頃には気の合う仲間同士に編成されていく。僕の周りには何となく勉強のできるヤツが集まってきていたけど、逆に小学校から仲の良かった友だちとはだんだん離れていった。夏休みになる頃には、それぞれ進路がだいたい決まってくるからね。
僕はこの地域でトップレベルの高校への進学を目指していたから、放課後は隣の市まで電車に乗って進学塾に行くようになった。家に帰るのは毎日十時頃。その後夕食を食べてお風呂に入って次の日の予習をしていたから、寝るのはだいたい一時半頃だった。朝は五時前に起きるのが普通だったから、今思えば睡眠時間が少ない気がするけど、結構楽しく過ごせていたから充実していたんだと思う。
その頃までは僕の人生はとても順調だったし、これからもそうなんだって信じていた。本当に幸せに過ごしていたんだ。
でも、夏休みが終わった頃から、少しずつ周りの雰囲気が変りはじめた。
僕は相変わらず問題を解いたり、いろんな知識を探求したりすることが楽しかったから、成績なんてあまり気にしなかったけれど、両親や親戚、先生や友だちが気にするようになった。今までは、
「へぇ、そうやって計算すれば簡単に解けるんだ」
とか
「主人公の気持ち、そういう風にも読み取れるんだね」
と、返ってきた答案を見せ合いながら、知識を深め合っていたけれど、だんだん見せ合う相手がいなくなって、相手の点数を意識し合って『勝った』『負けた』の言葉が日常的になった。塾の先生たちも
「自分以外はみんなライバルだ!受験のサバイバルに生き残るために、仲良しこよしみたいな甘い考えでいるヤツは生き残れないぞ!一人でも多くのヤツを蹴落としてでも合格を勝ち取るんだ!」
と、みんなを鼓舞している。
「本当にそうかな?」
と思っていても、何回も繰り返して言われ続けていれば本当のように思えてくるから不思議だ。だけど、あれだけわかることが楽しくてたまらなかった勉強が、そうやっていくうちに義務になってしまって、だんだんつまらないものになってしまった。
でもね、それを口に出して言うことができない雰囲気が周りにスッゴク漂っていて、逆らうとその雰囲気に押しつぶされちゃいそうで、とっても逆らうことなんてできないんだ。周りの僕に対する期待もわかっていから頑張ってはいたけれど、どんどん体力や精神力が消耗してしまって、二学期の中間テストの頃には、もう疲れ果てていて、勉強はほとんど惰性っていう感じだった。
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