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第一話 この世の垢落とし
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どれくらい経っただろうか。僕と小夜さんが夜空を見上げていると、星が流れてだんだんと僕らのところにゆっくりと降りてきた。
やがてそれは、白でもない金でも銀でもない透き通った光を放ちながら、地上に降り立って人の姿になった。
「宇宙人?」
僕が声を上げた時、
「ま、松次郎さん・・・、かぐやも・・・」
小夜さんは立ち上がって二人(くどいようだけど、正確には一人と一匹)に近づいて行く。
松次郎さん(小夜さんが呼んだ)は、かぐやさん(らしき猫)を右肩に乗せ、小夜さんを抱きしめた。
「随分とゆっくりだったじゃねぇか」
かぐやさんも小夜さんの頬をペロペロと舐めている。
「やっと、やっと・・・。会いたかった、ずっと、ずっと会いたかった・・・」
とっても不思議だった。松次郎さんに抱かれながら涙を流すたびに、というか、かぐやさんがその涙を舐めるたびに、小夜さんの丸い背中が伸びて、だんだんと若返っていく。どう見ても四十歳くらいにしか見えない。
松次郎さんは、僕の方を見て、
「たまって言ったっけかな、ありがとうよ。お前さんが小夜の心の引っ掛かりを外してくれたお陰で、小夜の魂がこの世の垢を落としてきれいに輝くことができた。これで小夜をあの世に連れて帰れる。じゃないと、このバカタレはこの世でしばらくウロウロ彷徨わなければならないところだったよ。心から礼を言うぜ」
「でも、聞いていると小夜さん、悪いこと何にもしていませんでしたよ。っていうか、良いことしかしてないと思うけど」
「たとえ悪いことをしていなくても、心の中で『ああしておけば良かった、こうすれば良かった』とウジウジと後悔を溜め込んでいたヤツは、この世での未練を断ち切ることができるようになるまで、何年も何百年もあの世への道を見つけられずに彷徨うしかないのさ。お迎えに来たくても、お互いの波長が違うからこっちも見つけられやしねぇしな。だから、通夜の席では亡くなった人を弔うために生前の話をしてこの世の垢落としをするんだけど、小夜は親しくしていた人なんていなかったから、誰も垢落とししてくれる人もいねぇ。だから、お前さんが小夜の話を聞いてくれたことで、その代わりをしてくれたんだよ」
かぐやさんも僕のほうを見て
「ありがとう」
と言った。とっても透き通ったきれいな声だった。
「小夜さん、ちっともお婆ちゃんじゃなくなっちゃった。それに、透き通ってきちゃったね」
小夜さんは松次郎さんに肩を抱かれながら、僕の方を振り返ってニッコリと笑った。
「たまちゃんのお陰ね。一番幸せな時の姿に戻れたのも、この世での想いをすっかり下ろせたのも。本当にありがとう」
「さぁ、そろそろ行くとするか。たまさんよ、本当にありがとよ。お前ぇさんもニャン格上がったから、きっとこれからのニャン生は幸せに暮らせるだろうよ。俺達もいつも見守らせてもらうぜ。じゃあな」
「たまさん、貴方なかなか個性的で素敵よ。来世では、お互い生きた姿で会いましょうね。本当にありがとう」
松次郎さんと小夜さんが微笑みながら手を振っている。かぐやさんも尻尾を振っている。僕は尻尾が短いので振ってもあまり目立たないから、代わりに
「にゃあ!」
と一声鳴いた。こういう時、ジャパニーズボブテールは尻尾で表現できないから、ちょっと悲しい。
二人と一匹は透明な光に包まれて、ゆっくりゆっくりと天に昇っていった。いつまでもいつまでも手と尻尾を振りながら・・・。
そして、夜空の星たちと同じになった。
「小夜さん、天国に行けて良かったね。松次郎さんとかぐやさんと、いつまでもお幸せにね・・・」
見えなくなった星空に向かって僕は祈った。
やがてそれは、白でもない金でも銀でもない透き通った光を放ちながら、地上に降り立って人の姿になった。
「宇宙人?」
僕が声を上げた時、
「ま、松次郎さん・・・、かぐやも・・・」
小夜さんは立ち上がって二人(くどいようだけど、正確には一人と一匹)に近づいて行く。
松次郎さん(小夜さんが呼んだ)は、かぐやさん(らしき猫)を右肩に乗せ、小夜さんを抱きしめた。
「随分とゆっくりだったじゃねぇか」
かぐやさんも小夜さんの頬をペロペロと舐めている。
「やっと、やっと・・・。会いたかった、ずっと、ずっと会いたかった・・・」
とっても不思議だった。松次郎さんに抱かれながら涙を流すたびに、というか、かぐやさんがその涙を舐めるたびに、小夜さんの丸い背中が伸びて、だんだんと若返っていく。どう見ても四十歳くらいにしか見えない。
松次郎さんは、僕の方を見て、
「たまって言ったっけかな、ありがとうよ。お前さんが小夜の心の引っ掛かりを外してくれたお陰で、小夜の魂がこの世の垢を落としてきれいに輝くことができた。これで小夜をあの世に連れて帰れる。じゃないと、このバカタレはこの世でしばらくウロウロ彷徨わなければならないところだったよ。心から礼を言うぜ」
「でも、聞いていると小夜さん、悪いこと何にもしていませんでしたよ。っていうか、良いことしかしてないと思うけど」
「たとえ悪いことをしていなくても、心の中で『ああしておけば良かった、こうすれば良かった』とウジウジと後悔を溜め込んでいたヤツは、この世での未練を断ち切ることができるようになるまで、何年も何百年もあの世への道を見つけられずに彷徨うしかないのさ。お迎えに来たくても、お互いの波長が違うからこっちも見つけられやしねぇしな。だから、通夜の席では亡くなった人を弔うために生前の話をしてこの世の垢落としをするんだけど、小夜は親しくしていた人なんていなかったから、誰も垢落とししてくれる人もいねぇ。だから、お前さんが小夜の話を聞いてくれたことで、その代わりをしてくれたんだよ」
かぐやさんも僕のほうを見て
「ありがとう」
と言った。とっても透き通ったきれいな声だった。
「小夜さん、ちっともお婆ちゃんじゃなくなっちゃった。それに、透き通ってきちゃったね」
小夜さんは松次郎さんに肩を抱かれながら、僕の方を振り返ってニッコリと笑った。
「たまちゃんのお陰ね。一番幸せな時の姿に戻れたのも、この世での想いをすっかり下ろせたのも。本当にありがとう」
「さぁ、そろそろ行くとするか。たまさんよ、本当にありがとよ。お前ぇさんもニャン格上がったから、きっとこれからのニャン生は幸せに暮らせるだろうよ。俺達もいつも見守らせてもらうぜ。じゃあな」
「たまさん、貴方なかなか個性的で素敵よ。来世では、お互い生きた姿で会いましょうね。本当にありがとう」
松次郎さんと小夜さんが微笑みながら手を振っている。かぐやさんも尻尾を振っている。僕は尻尾が短いので振ってもあまり目立たないから、代わりに
「にゃあ!」
と一声鳴いた。こういう時、ジャパニーズボブテールは尻尾で表現できないから、ちょっと悲しい。
二人と一匹は透明な光に包まれて、ゆっくりゆっくりと天に昇っていった。いつまでもいつまでも手と尻尾を振りながら・・・。
そして、夜空の星たちと同じになった。
「小夜さん、天国に行けて良かったね。松次郎さんとかぐやさんと、いつまでもお幸せにね・・・」
見えなくなった星空に向かって僕は祈った。
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