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第四十七話「願いを叶えるための戦いについて」

兵器と魔道の激突

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 直後、比乃が短筒を躊躇いなく発砲した。内包されているのはフォトン粒子をまとった弾丸。それが寸分違わずギャラルホルンと呼ばれた機体の胴体へと直進した。

 相転移装甲だろうが貫くその特殊徹甲弾は、しかし、敵機を貫くには至らなかった。その先端が装甲に触れる直前で、何か透明な膜にぶつかったように減速し、威力を減衰させてしまったのだ。それでも膜を突き抜けることに成功した弾丸は、敵の重厚な装甲に弾かれた。その装甲表面に、浅くはないが、致命傷とは呼べない傷をつけるだけに留まった。

『……なるほど、あくまで抵抗すると、そういうことですか?』

 攻撃された側は、それが有効打にならないことをわかっていたかのように、余裕の態度を崩さない。反して、比乃と心視は驚愕を隠せないでいた。

「通用しない……?」

「どういう、からくり……」

 比乃と心視は頭をフル回転させ、敵機が使った防御兵器を分析する。思い当たる節に、英国で戦ったテロリストの特殊機があった。
 あの機体も、不可視の防御膜を展開することができ、通常の実弾程度なら難なく無力化していた。だが、今、無力化されたのは、その機体を破壊したフォトンバレットだ。

 あれよりも強力な装置が搭載されている? もしそれが、攻撃面でも効果を発揮するものだとしたら……比乃と心視の脳裏に、嫌な想像が浮かんだ。そんな二人など無視して、ヘイムダルは会話を続ける。

『君たちが今、何を考えて何を浮かべたか手に取るようにわかります。この鎧を、ヒュペリオンの機体と同類だと考えたのでしょう。ですが、それは大きな間違いです。あのような醜い機械人形と、この鎧を同列に扱われると、少しだけ不愉快ですね』

「AMWが機械人形? お前の機体だって、AMWだろうに」

『いいえ、違いますよ』

「……例え違ったとしても、人の作り出したものなら、破壊できない通りはないね」

 言いながら、再度短筒を構え、今度は背中の砲塔も敵機に向ける。防御膜を抜けはするし、装甲に損傷を与えることはできるのだ。間接部を狙えば、行動不能にはできるはず。そう踏んで、攻撃の意思を見せる。それに対し、ヘイムダルは呆れたような口調になった。

『それにしても、あくまで抵抗するのですね。愚かしい……ですが、これまで、君はそうやって何度も敵に立ち向かい、生き延びてきた。その愚かさこそが、君の強さなのですね』

 蒼い鎧が、片手で中世の騎士のように剣を構え、左手で虚空を掴むように、何かを握った。不可思議な動作だ。手癖か何かか、と比乃が冷静に観察していると、それが起きた。

『言うならば、君は私にとってのロキ。打ち倒す運命なのでしょうね』

 敵の機体の数メートル前方に、光の粒。周囲に滞留しているフォトン粒子が集まったかと思うと、実体を形成したのだ。鋭い円柱、氷柱のような形状になった結晶体が五本。鋭い切っ先が、Tk-11に向けられている。
 それこそファンタジーのような現象に、Tk-11は機体の動作に困惑を写した。

『では、神話とは順序が逆になりますが、君を倒してラグナロクを始めるための笛を吹きましょう』

 告げて、蒼い鎧が左手を無造作に振った。それに連動するように、光の氷柱が、砲弾のような速度でTk-11に襲いかかって来た。物理法則も何もあったもんじゃない攻撃に、比乃は驚愕しながらも、

「どういう!」

 手品だ、と言い切るより早く、比乃は機体を横に跳躍させていた。両腕のフォトンシールドによる防御は考えない、全力の回避。その後ろを光が走り、氷柱が大理石状の床に突き刺さってから霧散する。あんなものが直撃したら、文字通り串刺しにされてしまう。

 次の氷柱が形成される。また同じ数が、こちらに向けて指向された。撃ってくる。タイミングが丸わかりなのが救いだった。回避しやすい。

「心視!」

「わかってる……」

 比乃が回避運動に専念している間に、心視がサブアームをコントロール。二門の砲塔となったそれを敵に向け、短筒のものよりも大口径のフォトンバレットを発射した。
 狙いは勿論、敵機の露出している間接部、防御も何もしてない左腕の肘だ。この口径ならば、減衰されてもダメージは入るはず。そう考えた二人だったが、

『ふっ……』

 Tk-11が発砲するのと同時に、蒼い鎧が右手の剣を宙を薙ぐように振った。二人のHMD越しに見えた光景では、その軌跡に合わせて空間がぐにゃりと歪んだように映った。

 それだけで、真っ直ぐ直進していた二発の弾頭は、宙で四散して砕け散った。剣圧だけで砲弾を叩き斬ったかのような現象に、心視は目を見開く。

 返す動作で、敵が左腕を振る。飛んできた光を、転がるように避け、反撃に移ろうとして、二人は数瞬、躊躇した。

 相手が何をしたかは、なんとなくわかる。先ほどから見るに、あの蒼い鎧は、あの扉から漏れ出し、この空間に大量に散布されたフォトン粒子に、何らかの手段で直接干渉することができるようだ。
 それを固めて飛び道具として使い、剣に乗せて衝撃波とすることで砲弾を無力化している。それはわかる、わかるが、どういう原理でそれを成しているかまで、理解が及ばない。

「とんでもない技術力だことで!」

 技術者でもない一端の操縦兵が、敵のとんでも技術を考察しても仕方が無い。なので、短筒を連射する。三発が胴体に飛んで、三発とも弾かれた。装甲は僅かに歪むが、相手は仰け反りもしていない、牽制にすらならない。
 比乃は思わず舌打ちする。飛び道具が通用しないならば、取れる手は一つだ。

「心視、しかけるよ!」

「了解……」

 三波目の氷柱の雨を前方に転ぶようにしのいで、そのまま蒼い鎧に向けて突進する。彼我距離は百メートルもない。Tk-11の爆発的な瞬発力による加速により、一瞬でクロスレンジに入る。すでに、両腕と両翼の光分子カッターは起動していた。

 この距離ならば防御膜は張れまい――相手に四連の斬撃をお見舞いしようと、四本の腕が振るわれる。だが、相手は防御の姿勢も取らなかった。直後、その意味が物理現象として表現される。

 四本の薄緑に輝く刃が、まるで刃物を鋼鉄にぶつけたかのような音をたてたのだ。装甲の上を削って、四筋の傷跡を付けただけだった。内部を破壊するには至っていない。

『この鎧に斬り傷をつけますが、流石ですね』

 その言葉に殺意は全く含まれていなかった。それでも、比乃は背筋に冷たいものが走ったのを感じ、即座に機体を後方へ跳躍させる。蒼い鎧が剣を無造作に振り、衝撃。空中で突風に見舞われたようになったTk-11が、体勢を崩して背中から落下した。
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